島村卯月冒険譚~この世界で平和を取り戻す~   作:アカツキ=ニュー

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ここからは

魔力の適性は無かった。正直、残念だった。

女の子として前線で暴力的な戦い方は違和感を抱いており、好きではない、

しかし自身の思いとは裏腹に彼女はそちらの才能には秀でていた。

特に、そちらの適性を本腰入れて伸ばそうと決意したのは

かつて望んだ魔力適性を持った友人、加蓮と出会ってから、彼女を守りたいと思ったから。

とはいえゼロではない可能性、いつか初級魔術でも扱えたらいいな――

 

 

そして今、かつての願望を無理矢理叶えられた奈緒の体は

 

「うおおぁっ!!」

「来ます!」

 

 

ガギィンッ!

 

 

「ひゃっ!」

「きちんと私の後ろに……そろそろ、逸らしきれないかもしれないわ」

 

飛来する氷のツララ、奏は卯月たちの前に立ち

偶然にも彼女が同じく適正とする属性、奏の武器である氷柱の剣で防いでいた。

しかし美しい刀身は、初級魔術も扱えないはずの奈緒が繰り出す

更なる硬度と速度で襲い掛かって来る同じ材質により、

一発を受け流すごとに新たな剣を生成しなければならない程の傷を与えられる。

 

「なぁ未央ッ!あのねーちゃんって強いんだろ!?

だったら奈緒の氷とあいつの氷!どうしてこっちの方が負けそうなんだよ!」

「分かんないよ!けど……」

(これが種子の力だとして、こんなに実力差をすぐに引っ繰り返せるほどの力なの!?)

「まだ負けてないわよ」

 

 

「一気に奈緒ちゃんの所まで行けませんか?」

「あまり選びたくない手段ね」

 

立ち止まって、ツララを氷の剣で逸らすように受けている今でもヒビが入る刀身、

距離を詰めて接近しながら受けてしまうとツララの硬度に負けてしまう可能性があるのだ。

 

「ごめんなさい、立場上“安全”を第一に考える人間なの」

「いえ、ここまで手伝っていただけるだけでも十分です」

 

これ以上の無茶は頼めない、となると卯月が安全に近づく為に協力できる人物は

同じく奏の背後で今は身を隠すだけの凛のみ。

 

(奏は、これ以上は難しい……でも私なら!)

 

持ち前の反射神経、奏でも全神経を注いでようやく往なしていたところ、

実は凛ならば余裕を持って見切る事は可能、しかし美玲が相手だった時とは事情が異なるのだ。

 

(私のブーツじゃ、見切って受ける事は出来ても“魔力の衝撃”は消せない……!)

 

物理と魔術では勝手が違う、衝撃の質が異なるために卯月ではツララの物理防御が、

凛ではツララの内に込められた魔力を堪えきれない。

そういった意味では両方を兼ね揃えている奏が居たことは大きく助かっている。

 

「……まだ策はあるかしら?」

「もう、難しいですか?」

「これ以上前に進むと危険の方が高くなる……避けるべきね」

 

だが、頼みの奏も前進を止める距離間。

ここから思い切り走ったとしても最速で三秒、無防備な隙を晒す羽目になる。

 

(……まだ遠い!)

 

 

「分かりました、ここで大丈夫です!」

「卯月!?」

「奏さんは、次に飛んできたツララを何とか堪えてください!」

 

その隙にと大事な経典を小脇に、万が一でも傷をつけるわけには行かないそれを抱えて

奈緒が蹲る数メートル先まで――駆ける。

 

「……それが最善?」

「一度ツララが飛んできてから、すぐに撃たれる事はないはずです!

どれだけ初級の魔術でも間隔は開きますから!」

「なるほどね……じゃあ、早速実行かし――」

 

 

ヒュオッ!!

 

ギィンッ!

 

 

「らっ!……と」

「うわっ!折れたぞ!?」

 

奏の見立て通り、この距離間が安全に接近する限界点だったようだ。

氷の刃が氷の弾丸に打ち負ける間合い、この一回に作戦を立てておかなければ

ずるずると撤退する羽目になっていただろう。

 

「凛ちゃん!行きます!」

「分かってる!」

 

――だが、急遽飛び出さなければならないタイミングで発射された氷に

“それだけ”しか見ていなかった卯月が

 

 

ツルッ

 

 

「ふぇ?!」

 

薄く地面を覆う氷の膜、気温が下がった部屋をよく見渡せば

あちらこちらに見かけられるそれは、前のみに視線を向けていた卯月の足を搦め取る。

 

「うづっ――」

「凛!」

 

加蓮の叫びでハッと前を向けば、作戦の大前提であったはずの奈緒が魔術を放つ間隔、

一度放てばしばらくは大丈夫という見立ては

 

「卯月ッ!危ない!」

「しまむー!このっ、よりによって飛び出したタイミングで!」

「なんで、もう飛んできて……!」

 

 

パキィッ……

 

 

「ぐうッ!り、凛……避け……!」

(奈緒がダメージを?そうか、強引に無理矢理撃たされているんだ!)

 

自身の裁量で奈緒は魔術を操れていない、

つまり魔力だけを搾り取られて強制的に行使されられている魔術、

己の身に負担をかけないよう唱える常識など、今の彼女には通用せず

あり得ない間隔でも多少の無茶が通ってしまう。

そして、二重の想定外によって窮地に陥った二人は

 

(奏さんの応援は間に合わない!それに氷は卯月も狙ってる!)

「だったら、なんとか初撃だけは避けなきゃ、卯月!」

 

高速といえども、直進に飛んでくる物体を左右に避けるだけなら

卯月の機動力があれば可能な芸当のはず、受け止める方が危険――

 

「しぶりん!!足っ!!」

 

 

「え、っ!?」

「しまむーは動けないよ!」

 

未央の叫びから、視線を卯月に移せばなんと

氷にとられた足元が、地面と靴を氷の膜で連結し、素早い回避をさせなくしていたのだ。

 

「な……!?」

「だ、大丈夫です、これなら剥がせます!」

 

ここから一瞬で足を地面から剥がし、立ち上がり、

左右どちらでもいいから飛来する攻撃を躱す――

 

(卯月の回避が間に合わない!)

 

 

ダンッ!

 

 

結論が出てからの決意と行動は、迅速だった。

 

「はああぁっ!!」

 

強い踏み込みで体全体を飛び込ませた、目標は卯月の前方、

コンマ数秒で飛来する氷柱の軌道上に割り込んで

 

 

ガスッッ!!

 

 

「ぐうッッ!!」

「り、凛ちゃ――」

 

装甲で覆われた脚部を利用して、卯月へ直撃する氷柱の軌道を捻じ曲げる。

無論、先に言った通り衝撃の全てを受け流す事は出来ずに大きなダメージを伴うが

 

「早く!今の内に!!」

「っ!は、はい!」

 

身を挺して庇われた卯月がここで歩みを止めるわけには行かない、

凛から受け取った隙を活かす為に今度こそ奈緒の元へ駆け出す。

幸い、凛は衝撃のダメージだけで大きな傷は負っていない、

さらに素早く奏が彼女の元へ駆けつけて、安全な位置まで運び出そうとしている姿も見え

 

(大丈夫、あとは私だけ……私が奈緒ちゃんの所に行くだけ!)

 

 

「しぶりん!」

「傷は浅いわ、頑丈な靴ね」

「武器、だからね……痛ッ!」

「無茶しちゃ駄目、体が武器の子は特にね」

 

扉の外側まで退避できた奏と凛、

そして今にも一瞬の勝負として駆け出さんとする卯月を見て未央と美玲が

 

「にしても、奈緒ちゃんはそんな事考えてないと思うけどさ……」

「ん?どーしたんだ?」

「何て言うか、その……あの氷が、なんとなく――」

 

 

(奈緒ちゃんの“異能”が、私達の接近を拒んでいる!)

 

度重なる偶然、と片付けるには上手く行きすぎている。

攻め込もうとすれば隙を突かれ、攻撃方法は卯月にも凛にも単独で対処できないもの、

そして何よりも経典を持つ卯月が簡単に接近できないよう妨害が続く。

ほんの一瞬の思考時間であったが、さすがの卯月も一つの結論に達する。

 

「てことは、やっぱり私が近づくのは……正解なんですね!」

 

もはや“異能”が何を引き起こしても不思議ではない、

異能そのものが意思を持っているかのように、この暴走を鎮められないように

抵抗している可能性も、ゼロとは言い切れない現状。

奈緒の体を使い自身――種子を守っていると考えるとこの攻撃は卯月の行動を嫌った結果、

そう思うべきであり、それを実行し続けること、すなわち

 

「奈緒ちゃん、今行きます!!」

 

 

パキッ……

 

 

「ぐ、ぅ……!」

(なんだ、今までの氷を撃たされた痛みより、ずっと重い……?!)

 

感じ取れたのは、魔力を行使され続けている張本人である奈緒のみ。

地面を覆った氷の膜が盛り上がり、分厚くなったかと思いきや

 

 

ビキィッ……!!

 

 

「わ!?」

「なんだッ?!」

 

隠す気もないほど強引に卯月と接触を拒む、文字通りの障害物。

 

「ここに来てまだ新しい手段を……」

「氷の、壁だッ!」

(しまった……!卯月じゃ、物理攻撃が出来ない!あそこに私が居なきゃ、駄目だった!)

 

 

「氷の壁、ですね……それは攻撃じゃなくて“盾”です!だったら!」

 

心配する凛を他所に、卯月はこんなもの関係ないとばかりに壁へ前進を続け

いよいよ目の前に迫ったところ、経典を抱えていない空いた手を突き出し

 

「私、魔力には自信があります」

「卯月は何をするつもりなんだッ?!」

「しまむー!そんな厚い氷の壁、片手じゃ無理――」

「はああっ!!」

 

 

ビシィッ!!バキィッ!

 

 

「く、砕いた?!」

「えええ!?よ、よっしゃー!行けー!しまむーっ!」

 

たった片腕一本で障害を取り払ってみせた。

腕に力を込めた形跡は無く、本当に触れただけで崩壊したかのようだが実際は当然異なる。

 

(……そうか!)

 

すぐさま彼女の行動に凛が答えを導けた、

あの氷の壁は運動の無い静止した物体、つまり衝撃をこちらに加えられることは無い。

となると腕が振れてもダメージはなく一方的に卯月が氷に衝撃を与える側、

そして、彼女は衝撃与えた、自身が最も得意とする分野の力で。

 

(触れたら怪我するツララは無理でも、触れられる壁なら、卯月が魔力で負けるはず……ない!)

 

恐らくは種子の力で増大された魔力をも上回り、押し潰す。

何も外部の力を借りず、己の身だけで異能に立ち向かえる資格を持った少女達――

 

「行って、卯月!」

「もちろん、です!!」

 

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