島村卯月冒険譚~この世界で平和を取り戻す~   作:アカツキ=ニュー

13 / 45
行き違い

「それでは、移動しましょう」

 

彼女に理由を問う者はいない、それだけ信頼されている。

奏は自らが請け負う訓練生一同を連れて村を発つ、漏れが無いように名前を挙げながら。

――しかし、その名簿の中に、居るはずの名前が無い。

 

(特別な力を与える道具……本当に、そんなものがあるのかしら)

 

 

『今の所は、力を巡った争いもごく一部の知っている人物だけで行われているようですが

彼女のような……悪意を持って拡散しようとしている者が居ると分かった以上、

これからは様々な、想像を超えた力が台頭するでしょう』

 

 

(もしも存在するとして、だったら――)

 

少なくとも、実力も立場もある程度は兼ね揃えた人材だと自負している、

だというにも関わらずそれらの道具や超常現象に、奏自身まるで心当たりが無く

 

「私も調べる必要があるのかしら……あの“二人”みたいに」

 

実際に目の当たりにしてしまった驚異的な力、

それらの対策を練る猶予が与えられたのは幸運だろうか。

 

 

 

 

 

動き出したのは奏だけではない、彼女と同じく目の前で力を目の当たりにした人物もまた

「…………」

ただ一人で森の中の道を歩む人影は

自身を思ってくれていた友人に放たれていた言葉を思い出し、苦い表情を浮かべていた。

 

『半分当たりかも?』

 

 

「――だけかよ。半分、だけなのかよっ!」

 

本来矛先を向けるべき相手が居ない怒りは、たまたま近くにあった大木へ振るわれる。

暴走させられ強引に発動した氷の魔術は使えないが、本来持っている彼女、奈緒の力量は

上乗せされた怒りも相まって容易く幹を薙ぎ倒す。

 

「加蓮も私もあの、夕美……さんが原因だと思った、でもあの人は半分って言ったんだ!

それってつまり……残りの半分は、あたしの力不足が原因って言いたいんだろ!?」

(偶然手に入れさせられた力を操れなかったから、あたしのせいなのか!?

そんなわけない、あたしもたまたま助かっただけだ、下手すると――)

 

 

自分以外の人物も、大勢巻き込んでいた。

 

 

(……くっ!)

 

奈緒は自身の窮地のあの場においても周りの人物に離れろと告げ、

実際に加蓮を部屋の外へと脱出させ、卯月達の接近も言葉で中止させようとしていた。

そう、彼女は正義感がある。ゆえに今、大きな決断を済ませて“一人で”目標を定め、

達成の為に歩き出そうとしていたのだ。

 

「このまま知らない顔して、少しづつ力をつけるのか?……そんな事してる間に」

 

――自分と同じ窮地に陥るやもしれない人物が現れる可能性がある、

偶然助かる奇跡はそうそう起きない、助ける方法も理解できていない。

 

「だったら……あの人を、止めるしかない……それが、あたしのやるべき事だろっ……!」

 

いくつもの順序を吹っ飛ばした結論だが、この考え方こそ奈緒らしさ。

出来るはずがない、出来ないに決まっている、元はマイナス思考が強い彼女だが

影響が“自分以外”に及ぶ場合の行動力は反動で凄まじい真逆ベクトルの思考を発揮し、

一切の自身を省みない、目的達成の為に直進を続ける。

 

「こんなあたしの自分勝手に、巻き込めないよな……加蓮、ここでお別れだ」

 

そして、一人で道を進む理由も同じく、だ。

 

 

 

 

 

「ねぇ、奈緒……私をパートナーにしてくれてから……一緒が多かったよね」

 

残された者――いや、残したはずの者は、やはり同じ思考へ至っていた。

隣にいるべき者の不在と、それにより改めて対面する自身の考え方。

さらに、示し合わせたように結論も同じ。

 

「私の方が実力も体力も、ほとんどが低かったのに一緒……どうしてだと思う?」

(……それはね、私を守るようになって奈緒が本来の力を出せていなかったからだよ)

 

知らず知らずのうち、奈緒は彼女に合わせていた。

加蓮は弱くは無い、しかし比べてしまえば差は大きい、

そんな彼女を守って、そして仲間であるからこそ極端な実力差は出し控えて、

気が付けば加蓮は奈緒に枷をつけていた。

 

「だからこうして、少し離れようと思うの」

 

今回の一件で踏ん切りがついた。

こうも堂々と、過程はどうあれ奈緒の中に眠る素質を見せつけられては、

同じ道具を手にする資格も無いと言い放たれては、情けなさで苦しい――

 

「でも安心して、ずっとお別れじゃない……次に会う時は、きっと強くなって帰って来る」

 

別れる決心をしたのは、自分の実力が劣っていると明確に感じたから、だけではない。

その一方で、加蓮は見てしまった、聞いてしまったのだ。

 

「奈緒みたいに才能が無くても、強くなれる方法……

ふふ……ごめんね、奈緒。これを話すと、絶対に私を止めるでしょ?」

 

 

(ここからあたしは)

(だから私は)

 

 

一人で行く――――

 

 

 

 

 

「心配?」

「……はい」

「でもしまむー、奈緒ちゃんも加蓮ちゃんも何で出て行ったかは分かんないんだよ?」

 

もしかしたら危険を感じて安全な場所まで帰ったのかも、とは意見した未央だが

実のところそうではないと薄々感じてはいる。

 

(昨日、愛梨さんが説明した……種子とは言わなかったけど、

それでも夕美さんが使ったあの力、それに効果は……ほとんど同じだった)

 

現在の世界における勢力図は、当然ながら力の強いものが大きな勢力となっている、

しかしこの強さの基準がこれらの異能によって崩壊してしまえばどうなるか。

そして今後その可能性があると、目の前で実際に力を見て知ってしまえば、どう動くか。

 

「なぁ、あいつ等って、その力を探しに行ったのか?」

「……だとしても、難しいだろうねぇ」

「見つかるはずない……けど」

「けど?」

 

経典のような手がかりがあれば、それでもこうして困難な旅路だというのに

手ぶらで手がかりも無い捜査は大海原で海底の宝を探すようなもの、不可能に近い。

が、お宝ではなく危険に遭遇する確率は、大幅に高まってしまう。

 

(他に同じように、種子の力を知っている人物が……二人を狙うかもしれない!)

 

種子は集めれば集めるだけ力になる、そして情報を知る人物は少ない、

必然既に種子を持っている人物は、同じく既に種子を持っている人物から強奪する作戦を取る。

もしも奈緒と加蓮が欲に駆られて種子の捜索に手を出したならば――

 

(それでも承知で、何かをしようと……)

 

 

「……しまむー、二人は心配だけど……私達も行かなきゃ」

「うん……分かってます、けれど……」

「だから行かなきゃ。何かが起きる前に、私達で止めるの」

 

しっかりと目を合わせ、肩を両手で掴む。

強く芯のブレない瞳の視線は、迷いの生じている卯月の目を導き、正す。

 

「……はい!」

 

最善の選択が分からないなら、仲間を信じて進む。

自覚しなければならない、まだ自分達は冒険の初心者であり

全てを拾う事は出来ないと、つい最近言ったばかりではないか。

 

「見える所で起きた問題は拾って行こう、でも……去る人をこっちから追うのは、

今の私達じゃあ、まだまだ早い」

「そのためにも早く立派にならなきゃね!しまむー!」

「凛ちゃん、未央ちゃん……くよくよしてちゃ、駄目ですね」

 

 

(奈緒ちゃん、加蓮ちゃん、何か考えがあって……行っちゃったんですよね?)

 

 

その考えが……もしも、悪い事なら――――

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。