島村卯月冒険譚~この世界で平和を取り戻す~   作:アカツキ=ニュー

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悪戯道具

時は遡り、およそ一時間ほど前。

静かな森の中でせっせと仕掛けを構築する少女が居た。

 

「フフフ、ここなら誰かに見つかることもないし、絶好のポイントよ!」

 

パンパンと叩く地面、目を凝らせば深く掘り返した跡として色が変わっているが

村と村の長距離移動が行われる道中、特に何もないこのポイントの地面を注視する事は無い。

彼女、小関麗奈が落とし穴を仕掛けたのは、そんな場所である。

そして長い待機を経て、一人の人物が彼女の罠へと足を踏み入れたのだ。

 

「……アハッ!」

 

物陰から身を潜めて見つからないように逃げる、が当初の計画なのだが

道を歩いていた人物が自らの仕掛けた落とし穴へ見事引っかかる様子を見て、

思わず成功のガッツポーズを高台で披露してしまう。

 

「ほぼ一時間待った甲斐があったわ! アーッハッハッハ……ゲホッ、ゴホッ!」

 

手柄の証明は勢い余った高笑いの反動で締まらない結末となったが

きっと穴の底に自己の存在は伝わっただろう、となると次に見てみたくなるのは

罠に引っかかった人物が、どのような悔しい表情を浮かべているか、である。

 

そのまま逃げていればいいものを興味が先行して歩を進め、

もうすぐ麗奈が穴を覗き込める――そんな位置に辿り着いた時であった。

 

「面白ーい♪」

「……えっ?」

 

「初めまして、私は相葉夕美。あなたの名前は?」

(あれ? アタシ、コイツが落ちたの見たわよね? なんで……後ろにいるの?)

「……あ、やっぱり名前はいいや、別に。それにしても……“私”は衝撃に弱くて、

こんなところで一つぶん使っちゃうなんて、弱っちゃったなぁ」

「ひ、一つ? 何の話よ!」

「あー……そっか、分かんないよね」

 

この時、麗奈が穴の底を確認しなかった――する暇がなかったのは、ある意味で幸運だろう。

一メートルほど下を覗き込めば彼女の真後ろに佇んでいる夕美と全く同じ姿、

それでいて各部位が損傷している“もう一つの夕美”の凄惨な光景を見てしまっていたから。

 

「……ねぇ、代わりに手伝ってくれない?」

「ひっ」

「あ、逃げちゃダメだってば」

 

添えられているだけのはずの手を振り払うことが出来ない。

まるで張り付いたように剥がせない、そして夕美の視線から目を逸らすことも出来ない。

 

「何も難しい事じゃないよ? それに、道具なら貸してあげる」

「な、何よ! アタシは自前のが――」

「そうじゃないそうじゃない、それに……そういう主義があるなら、余計に好都合かも?」

 

何が何だかといった麗奈に夕美は淡々と話を進め、

彼女の眼前にしっかりと見える様、例の“花”を差し出す。

卯月達が正体を見極めようとしている物が、あっさりと。

 

「“これ”を使えば向こうも戦わざるを得ない、

 あなたは私の代わりに……もうすぐここを通る四人組を倒してもらおうかな」

「ちょっと! 話を勝手に進めるんじゃないわよ!? アンタ何者なの!?」

「うーん……言ってもいいけど、知らない方がいいと思うよ? だから……

誰か分からない人に脅されてやったって言えば、たぶん許してくれるって」

「っ……た、倒すって……」

 

倒すとは、つまり何をするか――しかしこの場で即刻、夕美の命令とも言える誘いを

拒否する勇気は湧いてこない、仕方のない事である。

だが、いざ夕美から差し出された“花”を言われるがまま手に取り、

譲り受けた“力”を手にすれば、麗奈の中に残っていた僅かな後ろめたさや

理解が間に合わない展開の急さなど、些細な事は全て放り出されてしまい

 

(……これ、使ってみたい!)

 

 

 

 

 

「思っていたより凄いじゃない……! アイツがなんだったのか分からないけど

 貰えるものは貰っておくわ! この力があればあの――」

「あそこです!」

「ん? チッ、まだくたばってなかったのね!」

 

そして今、麗奈は新たな道具を手に入れた。

言い訳も用意され、さらに自分自身の興味を抑えきれない彼女が

迂闊に凶行へ走ったのは夕美の理想通りだろう。

 

「どうして私達を狙うんですか!?」

「新しい道具が完成したら試したくなるのが普通でしょ?

 それがたまたまアンタ達だっただけ! それに……ついでよ、ついで!」

 

夕美は力を与える相手が誰でもよかったわけではない、

遭遇こそ偶然であっても麗奈は夕美が観察した限りで非常に良い条件が揃っていた。

不特定多数、無差別に悪戯を仕掛けるような性格で、その成功を楽しんでいたり

そのまま逃げてしまえばいいものを、罠に嵌った相手へ自らを晒すなど、

一見詰めが甘いようで、自己主張の激しい性質であるとも言えるだろう。

そして、程度や加減の分からない未熟な子供――理想通りに動くのは目に見えていた。

 

「あんなのぶっ放しちゃ危ないって分かんないかなぁー!?」

「早く止めさせないと! 私達も危険です!」

「そんなの分かってるけど、どうやってアイツに近づくんだ!?」

 

麗奈に遠慮は無い、卯月達が抵抗こそすれ報復に痛めつけてくるような立場の人物ではないと

夕美から事前の情報として伝えられていた、攻撃が緩む理由がない、

今の麗奈は新しい玩具で遊ぶ子供そのもの。

 

「私があの子を止める、だから……私が近づく隙を作って」

「それしかない、かなぁ……よし、だったら!」

 

平和解決が困難と分かれば、強硬手段を取るしかない。

とはいえ夕美の予想通り、卯月達は麗奈を仕留めるではなく落ち着かせる、

無力化させるといった想定で動き、そのためには接近する事が大前提、

遠距離攻撃は魔力の関係で卯月が実行すると大怪我をさせかねない。

 

「かかってこい! 未央ちゃんはここにいるぞっ!」

「ようやく隠れるのを止めたわね! 望み通り、レイナサマバズーカの餌食にしてやるわッ!」

 

「今です!」

「分かった!」

「あん? 二手に分かれてたの!? ちょっと待って、そっちは……!」

 

囮となって注意を逸らさせる未央、その隙を突いて動いたのは凛。

木の枝を足場に高所から狙いを定める麗奈が標準を合わせにくいと思われる

低い木々の隙間を走り、一気に接近してしまおうという算段だ。

 

(狙いをつけるまで時間がかかるはず、その隙に私が――)

 

カチリ

 

「え――ッ?!」

「そっちは……地雷原よッ!」

 

パァンッ!!

 

 

 

「り、凛ちゃん!?」

「しぶりんっ!?」

「アーッハッハッハッ! いつアタシがバズーカ砲だけしか作ってないって言った?

 レイナサマ印のスペシャルな道具は一種類じゃないのよ! 踏んだ奴は即、吹っ飛ぶ地雷よ!」

「お、おい! まさかッ……」

「そんな、凛ちゃん!!」

 

煙が徐々に晴れる。激しい爆発音は周囲の木々を傾かせるほどの衝撃を巻き起こした。

爆心地に現れた影、服装に損傷は見られるものの咄嗟に防御した顔はダメージが薄い、

何よりも麗奈が言うような即死に近い被害は辛うじて受けていない凛の姿があった。

 

「……ッ……!」

「凛ちゃん!」

「運がいい奴ね、でも分かったでしょ? まだまだたくさんそこらに仕掛けてあるわ!

 手足が吹っ飛んでいい覚悟が無いなら、大人しくバズーカで丸ごと吹っ飛ばされなさい!」

 

隙を突いた接近作戦は、既に張り巡らされていた麗奈の策略に引っかかり不発となった。

そして判明する、思っていた以上に厄介な相手と戦法。

 

(言うほどのダメージはない、けど……仕掛けてある場所が分からない!)

 

この地雷は、どうも攻撃能力が高いわけでは無いらしい、

麗奈曰く極大の威力を誇るようだが彼女が夕美から与えられた力の把握が出来ていないのか

はたまた麗奈本人の実力不足か、どちらにせよ踏んでしまったから即座にゲームオーバー、

そのような可能性は低い。

 

(だけど、こんなに激しく爆発されちゃあ隠れて行っても目立って撃たれて……)

 

それでも近づくしか戦略は練られていない。

凛は自身の目と注意力があれば、徐々にでも麗奈の元へ近づいて確保が可能――

 

「っと、そろそろ移動しようかしら」

 

呆気なく言い放つ麗奈が取り出した小さなスイッチ、

何のためらいもなく指に力を込めてそれを押すと

 

――ドンッ!!

 

「え……!?」

「ケホッ、ゲホッ……! あいたたた……何よコレ、激しい……ゲホッ!」

 

確かに凛は見ていた、まだ距離は開いていたが木の上に佇んでいた麗奈の姿を。

しかし、彼女がスイッチを押した瞬間、はるか後方から爆発音と共に麗奈の声が聞こえた。

思わず振り返ると、やや黒ずんだ服の端、焦げたような跡を残した麗奈が別の木へと登る姿。

 

(い、いつの間に……!? 私が、見逃すなんてまさか……)

「何も攻撃の道具だけじゃないわ! こうしてどんな場所にも瞬間移動!

 見つからずに……は、今回は失敗したけど、アンタが近づこうとしても無駄よ!」

「そんなものまであるなんて……無茶苦茶だね」

 

攻撃、妨害、そして逃走。

麗奈が繰り出す数々の道具によって引き起こされる規格外の現象と攻撃、

奈緒の時とは違う明確な牙を剥き襲い掛かって来る“種子”に準ずる力。

 

「どうする……どうしようしまむー! しぶりんだけに任せるのも……」

「何か、きっと弱点があるはずです……それを探して――」

「そんなものはないわッ! アタシの望み通りのモノを作れるこの力に、

 恐れおののいてくだばりなさいッ!!」

 

まだ、光明は見えない。

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