島村卯月冒険譚~この世界で平和を取り戻す~ 作:アカツキ=ニュー
「卯月ちゃん、少しお時間をください」
「あれ? 愛梨さん?」
「緊急の時以外は出てこないって言ってたんじゃ……」
「どうしても確認しておきたいことがあって」
自身の力の大部分を割いた補助を経典に施している愛梨は、戦闘に極力参加しない、
こうして姿を見せたのも麗奈を完全に制圧できたからであり
一行が多少不利なくらいでは助言も助力も行わない。
もちろん、彼女達の成長と潜在能力を見定めたからの決定だ。
「麗奈ちゃん、ですか?」
「は? 誰よアンタ……どっから出てきたの?」
いきなり現れた相手にも態度を崩さない麗奈だが、
もはや囚われの身ではどうすることも出来ない。
それに彼女も理由など深く知らない、降って湧いて出た偶然の産物なのだ、
自身の持つ力の大きさ、そもそも事の重大さなども知る由は無く
様々な質問を前に分からないだの知らないだの、期待する情報は何一つ得られない。
「この力を、誰からどうやって受け取りましたか?」
「誰って……知らないわよ、名前なんて聞いてないわ。
それに力を受け取った方法も分かんないわよ、ただ“花”を持ってって言われただけ――」
「花ですか……ありがとうございます」
しかし、幾度目かの質問で僅かな情報を得られたようだ。
卯月達からすれば今までと変わらない、ほぼ分からないと同義の返答であったが
事前に夕美と対峙し、彼女の発言や実際に目の当たりにした愛梨にとっては大きな情報、
間違いなく自身が見た“それ”と、今、麗奈から聞いた“それ”が、違う。
(あの時、私が見たのは“種”だったはずです……
種子は誰かを苗床に花を咲かせる、なのに……触れる前から“咲いていた”……?)
夕美が凛と奈緒に植え付けた種子、そして植木鉢にあったはずの、いずれも“種”だが
麗奈は彼女から授けられた能力を“花”と言った。
ここに新たなズレが発生、そこから推測される今回の襲撃に使われた種子とは――
「それじゃあ、早く回収しちゃおうよ! 私が抑えてるからしまむー、ゴー!」
「は、はいっ!」
「いえ、その必要はありません」
経典による手を下す必要すらない、つまり破壊の必要が無い――
放置していても安全という結論だろうか?
実際は、もっと単純明快で分かりやすい理由。
「私達の足止めの為に、かなりの粗悪品を使ったようですね。
この種子は、既に枯れています。宿主の麗奈ちゃんが精神的に追い込まれたストレスで」
「か、枯れている……? それって、どういう事ですか!?」
「私も信じられない事なのですが……そう思うしかないんです」
必要が無いのではなく既に壊れているのだ。
植物の花は普通、枯れる前に新たな種を作って次の世代を産み出す。
十大秘宝に分類される異能の種子も例外ではなく、植物を参考にしているだけあって
花が咲いた後には種を産み出す。ただしその産まれる種は新しいものではなく
枯れるのを待つ状態になった場合、自力で種の状態に返る作用を持っているのだ。
「つまり本来の種子は、花を枯らしても再び種に戻り何度も成長する……
それに比べて麗奈ちゃんの持っていた花は一度枯れればそれまで、次の花は咲かせられない」
「……植物として考えると、あり得ないね」
「そう、だから……不完全な種と言えます」
異能の種子が自身を保護するための作用を、この“もどき”は持っていない、
ここで確定するのは夕美が所持している種子は、本来の種子ではないという事、
愛梨の言葉を借りるならば『不完全な種子』である。
「ですが不完全とはいえ“異能の種子”に近いものを相葉夕美は所有していて、
こうして気軽にばら撒けるほどに数を持っている……
もしも、これらが広く大々的に拡散されてしまえば――」
(そして、本来は種子の能力発現に耐えられるだけの素質を持った者のみ
種子が反応して発芽する……奈緒ちゃんのような事態を引き起こさない安全装置。
それを強引に無視して種子を植え付けたり、苗床無しで発芽させる彼女は一体……?)
(よく分かんないけど、勝手に話が進んで勝手にガッカリしてるわ!
今なら脱出装置を使って少しでも距離を離せば地雷で逃げ切れるはずよ!)
と、一同が深刻な話をしている横で一人悪巧みに耽るのが
途中から存在を忘れられていた麗奈である。
こそりと静かに去ればいいものを、わざわざ道具で派手な逃走劇と自己主張をしたがるのは
彼女の長所でも短所でもあるようだ。この完璧な作戦を遂行しようと
まずは死角に回した手に脱出装置を作り出そうとして
「……あ、あれ?」
「どうしました? ……あっ! まさかどこか怪我してるんですか!?」
「違うわよ! っていうか、もう! アンタはアタシの敵でしょ!」
「もう終わった勝負だからいいじゃん麗奈ちゃん、で? 何があった感じ?」
違和感を思わず口にした結果、気付かれずに脱出してみせると意気込んだ作戦は
冒頭から破綻してしまった、が、それよりも麗奈を驚かせたのは
(で、出ない!? なんで!? さっきまでアタシが念じたら勝手に出てきたじゃない!?)
頼りの道具の数々が、何を想像し念じても一向に彼女を助けに来ない。
――それもそのはず今の麗奈はただの何の能力も持たない子供、
力を授けた不完全な種子は、戦いに敗れた影響で効力を失い破壊されてしまっていたから。
だが、これで諦める麗奈ではない。直ぐに別の作戦を思いつき、実行に移す。
「……あ、アーッハッハッハッ! 話に夢中でアタシを野放しにしたのが間違いね!」
「あっ」
作戦と呼べるほどのものではない、ただ単に麗奈へのマークが薄い今、
地力の体力でここから走って逃げだそうという算段だ。
ちなみに麗奈が完全な無拘束で放置されていたのは種子の危険が無くなったために
捉えておく必要がなくなっただけで、迂闊な油断などではない、本人は知る由も無いが。
「今度会った時は覚えてなさい! 今度こそ一網打尽にしてやるんだから!」
タッタッタッ
「行っちゃった……」
「構いません、もう能力を持たない普通の悪戯っ子ですから」
草木をかき分ける音と、咳混じりの高笑いが徐々に遠く消えていく、
元々接点の無かった一行と彼女は次に遭遇する機会があるかどうかも分からないが
リベンジを誓った少女の執念は燃え上がる一方だったそうな。
「…………!」
同時刻――卯月達とは相当に離れた、別の道を歩んでいる人物は何かを察知していた。
ピタリと足を留め、何でも無いような方角へ視線を向けながら。
(消えた……私のお花が、一つ。ってことは、ダメだったかな)
本能か、それともそういった仕組みに作っていたのか、
どちらにせよ相葉夕美は自身が放った刺客である種子の力が失われ、制圧されたことを知る。
「子供相手に本気でやらないだろうなぁなんて思ってたけど、違うんだ……ふーん。
でも……こっちだって順調だよ? もっともっと、増やしてあげるから。
……生存競争、競い合う仲が現れたら、自然とお互いが強く洗練されていくんだよ?」
これで負けたわけではない、むしろ戦ってもいない上に痛手も負っていない、
やはり夕美を完全な敗北へと追い込むには彼女を確保する他ないのだろうか?
そして、その確保すら困難を極める現状――まだまだ、先は長い。