島村卯月冒険譚~この世界で平和を取り戻す~   作:アカツキ=ニュー

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怪力

「……あれ?」

「どうしたの? 卯月」

「今、なんだか……揺れました?」

「揺れ? ……いや、私は分からなかった」

 

 

 

「がッ……?!」

 

能力、未央の四肢を引き延ばさせた糸。

どんなに力を込めても切断は不可能、そんな糸により無防備に晒させられた腹部へ

ゆったりと、しかし確実に力を込めた一発が振るわれた。

 

「……あれ?」

 

――はずだった。少なくとも、今まで敵対してきた相手には全て通用した戦法。

だが、未央は“今までの相手”と大きく違う要素を持っていたのだ。

 

「キャッチ……!」

「えっ? ウソっ?! だってさっき腕は家の屋根と繋げて――」

「なるほどね……その糸は“何かと何かを繋ぐ”能力なんだね? ……ふんッッ!!」

 

ガスッッ!!

 

「ぎゃう!?」

 

頭上で固定されていたはずの未央の腕は、

いつの間にやら腹部に放たれる拳を受け止められる位置にまで下がっていた。

当然、スローモーな攻撃など、普段から見ている凛の超速に比べれば防御は容易く、

面食らっている少女に頭突きのカウンターを喰らわせるまでには余裕もあった。

 

「ふぅっ…………せいっ!!」

 

メギィッ!!

 

可動域の広くなっていた両拳へ、さらに力を込めて振り下ろす。

すると、この狭い路地を構築している両脇の家屋の屋根がメキメキと音を立てて剥がれてゆく、

確かに糸は千切れない、が、重しとして繋げた先の物体ごと引きはがせば問題はないのだ。

 

「む、無茶苦茶だぁ……!」

「無茶で結構っ! 私はしまむーみたいに魔力も無いし、

しぶりんみたいにスピードも無いけど……パワーだけは自慢の力持ち未央ちゃんだ!」

「だからって、家の屋根引っぺがす……? あわわ、こりゃヤバいって……」

 

無論、全ての人間が出来る芸当ではない。しかし未央には出来た、それだけだ。

旅を始めてから活躍の場に恵まれなかった未央だが、ここにまさかの単独での勝負、

完全に誰の助力も得られない一本道で始まる死闘。

 

「こっちも名乗った……っていうか知ってたんだっけ? まぁいいや。

 そろそろそっちが名乗ってくれてもいいんじゃないの?」

「……しょうがないなー、アタシの名前、柚。喜多見柚だよ」

「柚ちゃんかー、うんうん、良い名前だね」

 

「じゃあ、大人しくノックアウトされてくれない?」

「……やだっ!」

(逃げるつもりは無いっぽい……あくまで仕留める気だね、私を!)

 

柚と名乗った彼女は未央のパワーを見ても退散する気配がない、

一直線に接近し、再び渾身の一打を浴びせようとしているのだろう、

とはいえ先程とは未央の状況が大きく変わっている、

同じように攻めては手痛い反撃を受けること確実だ。

 

「もう両手は自由だよ! どこから来ても――」

「ほいっと」

 

ヒュンッ

 

「っぶな! なるほどなるほど、でもそんな攻撃当たらないよ?」

 

片手で持ち上げられるサイズの石、なかなかの重量のものを投げつけた柚、

当たればそれなりに大きなダメージがあり、腕は自由でも足は未だ家屋に連結されたままで

移動に制限のかかっている未央に厳しいものがあったが、なんとか避ける。

この隙に接近してくるに違いない、素早く正面に向きを戻し――

 

(……待てよ? 確か“糸”が能力だったよね?)

 

直前、脳裏に過った予感、糸で繋げる事が可能となれば幅広い応用が可能。

未央が想像しただけでも数多くの戦法が思いつくこの攻撃補助能力は、投石にも応用が利く。

 

ギュンッ!

 

(やっぱり!! 戻ってきてる!!)

 

チラりと視線で振り返った背後、通り過ぎたはずの石が進行方向を逆走し、

再び未央の顔面を捕らえようと飛来しているではないか。

なんとかギリギリで気付き、上体を屈ませ射線上から逃れることが出来たのだが

 

「ひえぇっ……ギリギリセー」

「アウトーっ!」

 

ドゴッッ!!

 

「ぐぇ……ッ!?」

「今度こそ入ったよ一発、貰っといてね」

 

気を取られ過ぎた、いや、元より投石が誘導だったのだろう、

防御する暇もない鋭い蹴りが未央の腹部を捉える。

苦し紛れに反撃を試みるも、既に身を引いていた柚に拳が掠ることもなく

完璧なヒットアンドアウェイ、近接主体の未央には厳しい展開が続く。

 

「やっぱり、こういう系の人の相手は楽だねー」

「へへ……どういう意味かな柚ちゃん」

「ん? だって、近づかなければいいから。アタシはそれが出来る、絶対近づかせない」

 

糸に繋ぎ留められた体は柚に接近はおろか、ここから一時撤退も不可能、

あるのは射程外からの一方的な蹂躙、武器はなんでもいい、そもそも反撃が来ないのだ。

もはや詰み、柚も余裕綽々で勝ち誇っているのが何よりの証拠――だが

 

「ふーん……そうだ、さっき私に質問してたよね?」

「してたっけ? でも別にいいよ、もう勝負は決まったようなものだし。

 いくら怪力でも踏ん張れない片足でさっきの屋根みたいに家の土台、引っ張れる?」

「そうそう、その質問……片足で家を引っ張った経験、だっけ?」

 

「……まさか、冗談――」

「ない!」

「……ぷっ! だよねー、そんなわけないよねー、あははっ」

 

「でも……家を“壊した”経験は、ある」

「あははは……はい?」

 

準備運動、ぐるぐると回した肩と気合を込める拳。

そんなわけがない、まさか手甲があるとはいえ素手で家屋の破壊など――

 

「私の武器は拳だけど、拳だけじゃない!」

 

キィンッ!

 

「っ!?」

(何? 今、一瞬だけ……あのグローブ、光った?)

「これが未央ちゃん本気のパワーだッ!!」

 

 

ドゴォオンッッ!!!!

 

 

「わああぁ!?」

 

激しい轟音と共に、二人を直線に対峙させていた両脇の家屋のうち、

未央の拳がねじ込まれた側の家屋が大きな風穴を開け、徐々に傾いていく。

やがて、主要な柱がメキメキと音を立てて、建物は瓦礫へと還った。

 

「……ふうっ」

「ちょっとちょっと……無茶苦茶じゃん」

「無茶じゃないよ、私に言わせてもらえば魔法と反射神経のが無茶苦茶だもん」

「誰の話か分かんないケド……!」

 

(どうする? 建物も壊されるなら、アタシの糸は結ぶところも無くなっちゃうし……

 そもそも、ここまで大きい音をたてられちゃ人がいっぱい……あんまり見られたくないなぁ)

「こないなら、こっちから行くよ!!」

 

瓦礫の中から巨大な木片を掘り出し、お返しとばかりに投げつける。

柚の身体能力は察している、先の攻撃はそれほど重くなく

完璧に捕らえた相手を攻撃する戦法を取っている以上、堂々と殴り合うのは苦手なようで

 

「うわっち!?」

 

木片の回避もたどたどしい。大袈裟に頭を下げ、遥か後方に着弾した木片、

その投擲力に驚きつつも視線を未央の居た方向へ戻す――前に、当人が視界に飛び込む、

ただし、柚が捉えたのは眼前いっぱいに広がる、彼女の拳だけ。

 

「うりゃぁッ!!」

「がッ――!?」

 

 

 

「おい二人ともッ!」

「美玲ちゃん? どうしたんですか?」

「外で騒ぎが起きてるんだ! もしかしたら――あれ? 未央は?」

「……まだ、帰ってきてない。……行こう!」

 

 

 

頭が、ぐわんぐわんと響き、視界が歪んでいる。

無理もない、完全に防御が間に合わない距離で放たれた拳を受けたのだ、

しかもその拳は素手で家屋を倒壊させるほどの腕力を持って、振るわれている。

 

(あー……アタシ、死んでない?)

「加減してるよ。ま、しばらくは立てないと思うけど……むしろ、大丈夫だったかな?」

 

仰向けに指一本動かせず天を仰いでいる柚の心中を察するように語りかけた未央、

たった一発のノックアウト、聞こえは悪いが未央のパワーをもってすれば容易なもので

完璧に一切の手心なく拳を撃ち抜いていたら、視界の揺らぎ程度では済まなかっただろう。

 

「ねぇ、聞きたい事があるんだけど」

「……何?」

「その力、誰から貰ったの? 名前とか、見た目とか……」

「名前……分かんない。見た目は、黄色っぽい髪の女の人」

(……やっぱり、あの人だね)

 

脳裏に浮かぶは満面の笑み、今はその表情も薄気味悪いが。

――やがて、さすがに騒ぎを大きくしてしまったのか、

家屋の倒壊までもやらかしてしまえば人だかりが徐々に集まって来る。

あまり目立つのは得策ではない、未央自身の都合も含まれているが

何より、まだ周囲に似たような人物が居ないとも限らない。

 

「よし、移動しよう……ちょっと痛いけど我慢してね」

「……アタシも連れてくの? なんで?」

「なんでもっ、とにかく行くよ」

(ここで放っておいたら、まだ種子を持ったままの柚ちゃんが狙われるかも……)

 

自身を襲った敵、とはいえ、そこは卯月と同行している未央だ。

考え方は同じ、もしも身動き取れない程に負傷した彼女を放置して

誰かの餌食になってしまったら――そう思うと、捨ておくことは出来なかった。

 

結果的に未央の判断は正解、少なくとも不完全でも種子を宿している柚が襲撃され

別の誰かの手に渡り、今後襲い来る新たな敵の能力が強化されてしまったら。

しかし、経典が手元にない未央は即座に回収が出来ない、

では残された選択肢は自ら背負って別の場所に移動、である。

 

 

ざわざわ――

 

 

「うわー、派手に壊れてるっすね。すいません、ここで何があったんすか?」

 

ほぼ入れ替わり、未央と柚が交戦し決着後、去った空間。

ただの瓦礫の山だけが残された一角に訪れた人物は、聞き込みを続けながらも

この場で何が起きていたのか、ある程度の予測がついていた。

 

(誰に聞いても答えが一緒、何が起きたかよく分かってない……すか。

 要するに、一目見ただけじゃ分からないような何かが起きてた……つまり、っすね)

 

ありがとうございましたと一礼の後、その女性は確信を持って歩み出す。

道は前後の二方向、中心へ向かう方角には野次馬が多く、ここで事を起こしていた人物が

逃げる方向としては選びにくいはず。ならば残されたのは外れに向かう一本道のみ。

 

「漁夫の利に、なればいいっすけど」

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