島村卯月冒険譚~この世界で平和を取り戻す~   作:アカツキ=ニュー

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「まだ断定するのは早いです」

「能力じゃない可能性もあるって事か……なんでそんなことをするんだ?」

「簡単だよ」

 

能力の本質を誤解させれば、相手の思い込みを利用した戦い方が出来る。

凛は自身の目で捉えた沙紀の動き、それが彼女の能力ではないかと予想したのだが

ただ姿を消して移動するだけならば手間や技術は必要だが魔術で代替が可能、

ここまで大層に塗料を注視させておいて、たったそれだけの力とは考えにくい。

 

「とにかく、何か分かるまでは触らない方が吉だよ」

「念には念を、だね。近づかないなら、凛ちゃんよりも私の方が!」

「またあの大砲みたいなのぶっ放すのか……」

 

幸い、卯月が沙紀の射程外から攻撃可能な手段を得意としている、

派手で目立つ魔力の大砲は今回の戦闘にデメリットとはならないため

思う存分効果を発揮できるだろう。

 

「さっき一発撃ったばかりでしょ? 次のぶん、早く用意した方がいいよ」

「はい、今のうちに魔力を溜めて――」

「それはダメっすよ」

 

 

バシャアッ!!

 

 

「なっ……上!!」

「一色に染まるっすよ!!」

 

先手を打たれてさえいなければの話だ。

強大な魔力を即座に何度も放てるほどに卓越した技術は持っていない、

有り余ったエネルギーを発射するだけでも予備動作というものは必要なのだ、

その隙を突かれて接近されてしまえば、卯月は回避に専念する他ない。

 

(まさか上からなんて……とりあえず、避けなきゃ!)

「うおぉっ! これ、避けた方がいいんだよな!?」

「当然っ!」

 

バラバラに散って、降り注ぐペンキの雨を全力で避ける。

なんとか飛沫を体に浴びる事だけは避けたものの、ここまで接近されてしまえば

攻撃を続けられる可能性が高い――ならば、と

 

「お?」

「近づいたなら、私がやる!」

 

ギィンッ!!

 

「そんな姿勢からでも反撃してくるんすか」

「勿論……! はあっ!!」

「わ、っと」

 

沙紀が軽くいなしているわけではない、凛の攻撃の手が緩いのだ。

塗料が付着していない地面を選び、そこからギリギリ繰り出せる攻撃を放つ、

全力は出せないうえに沙紀の攻撃の回避も困難な状況。

 

「アタシも接近戦、得意なんすよ……そらっ!」

「く……!」

(こんな足場じゃ、不安定すぎる!)

 

しかし、そこは卓越した凛の観察眼、

沙紀の攻撃の合間を縫って反撃のタイミングを伺い続けていると

 

「……そこッ!!」

 

見えた一本のルート、ちょうど踏み込める位置の足場と防御の隙間、

好機とばかりに素早く足をねじ込んで、強く攻撃をいなしたその時だった

 

「よっと」

(っ!? 嫌なタイミングで……!)

 

攻撃を受け流し、いざこちらの番と体を前方へ走らせた瞬間、

刷毛の先端から軌道上に飛び散る塗料。束の間の隙は凛に対しての誘導だったようで

思わず急ブレーキ、なんとか飛沫を躱したものの崩れた姿勢では次の始動が当然遅れ

 

「そらッ!!」

「ぐッ!?」

 

突き上げる膝蹴りが、腹部に真っすぐ命中する。

回避を主とする凛の装甲は薄い、特にカウンター気味で受けたこのダメージは大きく

一時的に肺の機能が停止したような錯覚、回避の足が動かないまま

 

「案外、脆いっすね? それじゃ、お疲れ様っす」

(もう一発……避け……れない……!)

 

 

ドガッ!!

 

 

 

 

「ぐうッ……!」

「凛ちゃん!」

 

沙紀の振り下ろした足に対して、尻餅をついて倒れる凛。

攻撃は命中していない、踵が頭上に落下する直前に、横槍が入ったのだ。

 

「間に合ったッ!」

「邪魔っすよ小さいの!」

「なんだとおッ!?」

 

ギリギリで飛び込み、やや強引だが凛を突き飛ばして攻撃を回避させた美玲、

瞬時のファインプレーで生み出した本当の隙を、今度こそ見逃さず攻め手に回る。

 

「美玲ちゃん! 避けて!!」

「へ? うおぉっ!?」

「やっば……!」

 

 

ゴォッ!!

 

 

再びの魔力放出。充填は完璧ではないものの沙紀を二人の元から退散させるのが先決、

それでも十分な威力を伴って地面を抉りつつ突き進む魔力の塊に、再び沙紀は姿を消す。

今度は頭上も警戒し、建物から離れた道の中央へ三人が固まって周囲を見張る。

すぐさま襲撃は来ないようで、ようやく落ち着いて状況確認をしようとしたところで

 

「美玲ちゃん、それ!」

「ん? あっ!」

 

美玲の変化、派手派手しいピンク色の衣服が記憶と違っていることに気付く。

本人も指摘されてようやく気付いたようで

 

「すごい緑色になっちゃった……ぐぎぎ、あのペンキのせいかッ!」

 

沙紀が三人の頭上から撒いたペンキは緑色、

地面にばら撒かれてからは雑草と混ざって目立っていなかったが

凛を突き飛ばした美玲が地面へそのまま倒れ込んだ際、体に付着してしまっていたようだ。

衣服の見てくれが悪くなったことを嘆いている美玲だが、大事なのはそこではなく

 

「何にもないの?」

「ん? ……何がだ? あいつのペンキでウチの服が汚れて……うん?」

 

 

「……何も起きてないぞ? ペンキ、ついちゃったケド」

 

そう、あれだけ警戒して回避に専念した沙紀のばら撒く塗料が付着した美玲の衣服、

かなりの大部分が緑色に染まった彼女の装いは“色を付ける”という目的である

沙紀の狙いを十分に達成できているはず――

 

「…………油断させるため、かな」

「ど、どうする? コレ、脱ぐか?」

 

美玲の意見は分かる、得体の知れない能力の欠片を身に抱いたまま戦闘は御免だろう。

しかし、警戒を解かない凛と美玲に対して、卯月が全く異なる視点、

これまでの戦いの根底を覆してしまいそうな発想――予感に思考が辿り着く。

 

「このペンキ……もしかして、ですけど……」

 

 

 

 

 

「ふぅ……」

 

一方、家屋の影に身を隠していた沙紀。

新たなペンキ缶を片手に、再び不意を突くためのルートを模索中、

一度頭上は警戒されて大通りの中央へ身を移されたものの、まだまだ方法はある。

 

(そのために準備したんす……絶対、逃がさないっすよ……!)

 

乾いた刷毛の先端に鮮やかな赤を染み込ませ、振るう。

飛沫が付着する廃屋の壁、暗がりでは物騒な模様に見えるだろう、

とはいえこれだけでは何の意味も無いのだ。

 

「アタシのアートの意味……簡単に看破できると思わないで下さいよ……!」

 

 

 

 

 

「ペンキ自体には、何も意味がないと思うんです」

「……は? じゃ、じゃあ……ウチのこれ、何だ? 服が汚れただけなのか!?」

 

思いもよらない予想、卯月の出した答えは“無害”であった。

言われて思い返せば沙紀があれほど撒き散らかしら塗料が何か効果を発揮した形跡がない、

少なくとも予想外の攻撃と言ったものは飛んできておらず、

“異能”と呼ぶにはいささか強みが感じられない。

 

「だから……攻撃に使うためのペンキ、じゃあないと思うんです」

「でも、最初の絶好の隙を……沙紀は私にペンキを浴びせることだけに使った。

 絶対に何かがある、じゃなきゃあんな行動は――」

「あの刷毛です」

 

刷毛――沙紀が、攻守に置いて手から離さずに握り続けていた道具。

武器ではない、およそ攻撃には向いていない絵画道具だ。

そんなものを戦闘中に肌身離さず持ち歩いているのは理由があるはず――

辿り着いた答えが、先の結論だった。

 

「ペンキには意味がない……意味があるのはペンキそのものじゃない……」

「だったら何でこんなにしつこくばら撒いてるんだ?」

「……本命を、隠すためだと思います」

「本命…………!」

 

凛の中で卯月の考えがハッキリと分かった。ばら撒いたペンキ、そして本命は、刷毛。

ペンキ自体には意味がない、しかし“意味のあるもの”もあるはず――

では、ペンキを撒いた意図とは? 簡単だ、本命である“意味のあるもの”を隠すため。

 

(そういえば、卯月の攻撃を躱した時も……刷毛で何かを“描いた”からなの?)

 

「きっと……刷毛を使って塗り付けたものや、描いたものに能力が発動するんです」

「……なるほどね。ペンキの上から何かを描けば、確かに何を描いたかなんて分かんない」

「この広場にたくさん描かれていたマークが、私達とここで戦う為に仕掛けてたとしたら……」

「つまり……?」

「……適当にばら撒いてるペンキは、フェイク……!?」

 

 

 

「さぁ、行くっすよ島村卯月ご一行様……アタシの“本命”が、何か分かるっすか?」

 

 

 

「あの人の“本命”は、刷毛を使った能力で、間違いありません……!」

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