島村卯月冒険譚~この世界で平和を取り戻す~ 作:アカツキ=ニュー
「居た! ……けど、あれ?」
「どうしたの? 仲間じゃないの?」
柚を背負った未央が、ほとぼりが冷めた様子を見て姿を現し周囲を探索する事数分、
特に苦労する事も無く、期待通りに“騒ぎを聞きつけた卯月たち”を発見した。
発見、したところまでは良かったのだが
(……誰か、戦ってる?)
加減されていた、でなければ彼女の構えていた膨大な魔力を受けた体は
この程度で効かない痛手を負っていただろう。
それでも仰向けの体を起き上がらせられない程には多大なダメージを受けた。
「っ……ぐ……」
「はぁ、はぁ……」
「卯月!」
「おいッ! 大丈夫なのか!?」
返事は無いが様子を見れば明らか、卯月は立ち、沙紀は倒れていた。
息は荒くとも身体に大した傷は無く、派手なペンキが服を汚しているのみ、
沙紀が撒いた――終わってみれば、何の効力も発揮しなかった攻撃、
それも当然、このペンキには能力など、無かったから。
「ペンキは全部、ただの塗料……能力の事を知っている私達に、
これが能力だと言い張って戦えば……なんでもないペンキでも警戒する……」
つまるところ、沙紀の戦闘は己の体術とハッタリ、
それだけで三人と対抗していた点は素晴らしいものがあるが
色々と戦いの顛末には疑問符が互いに残る。
「…………いつから、気付きました?」
「ヒントは、最初からあったんです」
沙紀が抱く疑問は当然、なぜ自身の嘘が暴かれてしまったのか、これに尽きる。
能力を見せてはいなくとも、持っていると誤認させる立ち回りは完璧、
だが――能力を確実に消滅させる力を持つ道具、そして卯月の経験を彼女は計算から
除外してしまっていたのが原因だ。
「途中、沙紀ちゃんはペンキじゃなく刷毛そのものが能力だと言いました……
今思えば、私達が能力を疑い始めたので……言い訳だったんですね」
あのまま戦闘が続けば、攻撃の主軸にもかかわらず大した効果を発揮しないペンキに対して
“何か発動してもいいから攻めよう”と、大胆な行動に出られる可能性も大いにあった、
沙紀はこれを種明かしとして別の道具に注目を寄せる。
「ペンキに効果がないと疑い始めた私達に、刷毛の方が能力だと言ったんです」
こう言えばペンキに何も効果が現れない理由にも納得がいく、
なぜなら本命は別にあったと思わせ、新たな警戒網を張らせることを促した、
実際はそんなものを張るだけ無駄だとしてもフェイクならば成功だ。
「……それで? アタシの刷毛の方、なんでそっちも嘘だと思ったんすか?」
「能力で具現化した道具に……名前が書いてあるのは、ちょっと変じゃないですか?」
名前――と言われて、はっと気づいたのは凛の方だった。
彼女、吉岡沙紀の名前を特定したのは自身、それも沙紀が武器として用いていた道具から。
「道具に名前は普通ですけど、これは……沙紀ちゃんにとって武器のはずの道具、
わざわざ武器に名前なんて書かないですよね……いえ、書いていたとしてもですよ?
これは……能力を持った武器のはずなんです。そこに名前なんて――」
「アタシの趣味の道具っすよ」
ここでようやく沙紀が起き上がる、しかし反撃を繰り出そうという気は更々無い、
もはや看破されたブラフを再び武器に使うはずもない。
いや、今となっては彼女の武器は武器でもない、彼女自身の口からそれは証明された。
「確かに、アタシがコレを能力でイメージして作ってたとしたら、名前は書かないっすよね」
「そういうこと、です」
(言われてみればだけど……こんな戦いの途中、そんなことを考えてる余裕なんて……)
「ウチもツメとかに名前は書かないぞ」
「それは当然だよ……」
「…………でもそれだけじゃ、確信じゃないっすよね?」
疑念は晴れない、確かに『もしかして能力ではないのかもしれない』と疑う事は出来る、
そして疑いを確信に近づける材料足り得る指摘でもある、が、あくまで近づくだけで
可能性が百に到達する材料ではない。
「はい、だから……最後の仕掛けを打ったんです」
「私が沙紀ちゃんを追いつめた時、壁の紋様から逃げて行きました」
卯月が沙紀を追いつめようと追いかけ、家屋間の通路、行き止まりへと追い込んだものの
何度も見た光景、そして沙紀が己の能力と言い張った紋様、それを使った瞬間移動。
「……そうっすよ。でも普通、それならむしろ警戒するでしょ?
刷毛が怪しいと思ってるならなおさら、アタシが事前に描いた紋様かも――」
「アレはウチが描いたんだ」
「……は?」
「私が美玲ちゃんに頼んだんです、途中から戦いには参加してもらわず……
少し離れた場所の紋様、こっそりと作業してもバレないような場所を選んで、
いったん紋様を消して……ただのペンキだけでもう一度美玲ちゃんが同じマークを!」
「……ッ!」
「へへ……もうこの服、汚れた後だからな。
ちょっとくらいペンキの染みが増えてもパッと見ただけじゃ分かんないよなッ!」
「……マジすか」
描いた紋様を利用しての移動、沙紀は確かにそう言った、
ならば能力の宿る刷毛ではなく、ましてや本人が描いたものですらない紋様を使って
沙紀が移動できたのは、明らかな矛盾。
卯月が勘付いたのは能力を沙紀が明かした際、彼女が消えた紋様を実際に触れた時。
ペンキは乾いていた、つまり沙紀が描いた紋様は“描いた”ように見えて
あらかじめ“描かれていた”紋様だったのだ。
「紋様は、能力の発動条件でもなんでもなく……ただ、魔術による移動!
……これを“移動式”と呼びます。知識は必要ですが、ごく一般の……魔法です」
移動自体は魔術で再現可能とは先述した通り、
しかし沙紀は魅せ方を工夫し、そうとは思わせないことに成功していた。
ただの魔術を、必要以上に警戒が必要なカードとして偽装してみせたのだ。
「うまく騙せたと思ったんすけどね……バレちゃいましたか」
沙紀は紋様を目印に、目立たぬよう数多くの“移動式”の陣を各所に仕込んでおいた。
術式を組み立てるには技術が必要でも、組み立てられた陣を行使するのに特殊な才能は不要、
お世辞にも魔術の練度が高くは無い沙紀は道具を最大限、活用して戦っていた。
「どうしてこんなことをしたんですか?」
「何って、能力が欲しいからっすよ。特別な力があれば、いろいろと便利ですからね」
「でもアタシは普通の人っす、情報をちょっと仕入れただけのね。
だったら……奪えるモノらしいですから、持ってそうな人から拝借するしかないっすよね」
「なんで私達が持ってると思ってたの?」
「……偶然見ちゃったんすよアタシ、怪しそうなお話をしてる人を」
『あなたにあげたのは、特別な能力を与えるお花!
私は他の子にも色々と配ってるんだよ、それでね……お互い、強くなってほしいの。
あの“五人組”が持ってる道具を奪い返せるように!』
『能力は、同じ能力者同士が戦い、奪い合うほどに強くなっていく!
そうして……どんどん強くなったら私の所に戻ってきて♪
もっともっと、あなたの力を強く、理想に近づけてあげるから……♪』
「……ま、アタシは話しかける勇気とか無かったんすよ、だから五人組って情報を頼りに
数人で徒党を組んでるグループを探して、それっぽく接触して――」
「反応があったのが、ウチらってことだったのか……」
盗み聞きした発言の主が誰かは聞くまでも無い、
そもそも沙紀が知らない可能性も高いが間違いなく夕美だろう。
麗奈のようなピンポイントで刺客を送り込むことを止め、
数を打てばいずれかが上手く行く、そういった考えに変更したのだろう。
「……奈緒ちゃんは」
「ん?」
「奈緒ちゃんは、まったく関係ないのに巻き込まれて被害者になりました」
相葉夕美と種子、彼女が巻き起こした問題は今のところ規模が小さいが
たいした間も置かず甚大な被害を巻き起こすだろう、目に見えている。
国家が奪い合うのは従来の本物の種子と扱いは変わらない、
問題は個人が比較的容易に確保できてしまう点。
「麗奈ちゃんは同じように巻き込まれて、加害者の方にさせられて……
他にも沙紀ちゃんみたいに、巻き込まれに来る人も居ます」
「……早く何とかしないと、本当に大変なことになるよ」
「こんな力が、気軽に強くなれる道具が広まると……どこで何が起きるか……」
――ザッ
「それを私達が止めるんでしょ? しまむー!」
「未央ちゃん!? そ、その人は?」
ようやく、姿を見せる機会を失っていた未央が合流する。
小脇に抱えた柚は三人にとって初対面、
しかしお互いが負っている傷を見て一瞬で全てを察した。
「負けちゃった……生きてるけどね……」
「……未央を襲ったの?」
「やめてよしぶりん、そんな不埒な言い方。それに私の中では解決したの!」
またしても不安ばかりで未来を見据える卯月たちに、たまらず飛び出した未央は
負傷も厭わず明るく話す、そして柚も和解――とまでは行かなくとも、既に戦意は無い。
そんな状態の彼女を連れて来ていたのは他の能力者に狙われないようにでもあるが
「情報を聞ける人を用意するのは大事だと思うし……お互い、言いたい事もあるよね?」
「アタシは別に……」
「そっちになくともこっちにはあるの! いいでしょ? 減るものじゃないし!」
「うー……」
柚も反抗はしない、未央の言う通りデメリットは無い、
ただ自身の知っていることを話せば解放するのだ。
もちろん、卯月と経典に触れられてからだが、触れられることが能力消失と柚は知らない。
「……まずは、会議ですね」
「こっちとそっちで、何があったか話さないとね」