島村卯月冒険譚~この世界で平和を取り戻す~   作:アカツキ=ニュー

25 / 45
第六幕 - それぞれの序章 -
神谷奈緒の序章


卯月達の戦いに決着がついた頃、遠く離れた別の地では

まるでジャンルの異なる戦いが起きており、そちらも決着したところだった。

 

 

 

「これだ!! ……あっ、す、すいません」

 

静寂な空間に響き渡らせてしまった歓喜の声を自粛しながらも内心で、

ようやく見つけたその分厚い書物を駆け足で運ぶ。

行き先は閲覧スペース、この巨大図書館を利用する人物は自由に使用してもよい場所だ。

 

自身を襲った不可解な現象、思えばロクな手掛かりも情報も得ないまま村を飛び出した奈緒、

考えるより行動、その精神は立派だが行動の指標となるものが無さ過ぎた。

おかげで記憶の微かな断片をかき集め、さらにその断片を頼りに奈緒の苦手分野、

圧倒的な資料を前に調べものという途方もない作業に追われていたが

 

「花と変な能力が関係してる、ってだけでここまで辿り着くのに、凄い時間がかかったよ……

 でも、花が“種”だとしたら……これで間違いがないはずだ、十大秘宝!」

 

知識の代わりに時間をつぎ込んだ調査は、見事正解を撃ち抜く。

しかし苦労して辿り着いた正解のモノに関して、文献に書かれていた内容は

奈緒の想像よりも遥かに期待量を下回る情報で

 

「違う、違う! 確かに力を与えるとは書いてるけど……あたしが知りたいのはそうじゃない!」

 

やれ不思議な花を咲かせるだの、不思議な力を与えるだの、

そんなものは身を持って体感した奈緒にとって不要な情報だ。

彼女が知りたいもの、それは素晴らしく魅力的で、優れた道具であるこれら秘宝を

 

「この……異能の種子? ってのを……ぶっ壊す方法が知りたいんだ!」

 

奈緒は己の身に起きた体験、最終的に助かったものの、もしもあの時

卯月たちと知り合っていなかったら――夕美から受け取った苗により能力を開花、

そして同様に暴走したとして、奈緒を助けられる人物が居ただろうか?

要するに、種子の力は“手段を持ち得る者”しか止められない、そう奈緒は結論付けていた。

 

実際、暴走を食い止められたのは“手段”である経典を持っていた卯月たちだけ、

この辺りの正確な関係を奈緒が知る事は現状出来ないが、とにかく今の奈緒が出した答えは

 

「異能の種子……そうだ、種だ、争いの種だよ。

 こんなものがあるから酷い目に遭う奴が出てくる……あたしは、それを根元から切ってやる」

 

回収ではない、根絶。

争いの原因を互いに持ったり強者のみが独占したりと、抑止力として働かせる考えもある、

しかし奈緒の結論は違う、既に広まって国力にもなっている部分も存在する種子を、

機能しない状態へ追いやることを目標としていた。

 

 

パラララ……

 

 

「問題は、秘宝とまで言われてるモノをどうやって壊すか――うん?」

 

分厚い書物は自重でページが勝手に進んでしまう事も多いが

数枚先まで捲られてしまったところで奈緒が押さえつけたそのページは

運命の悪戯か、今まさに彼女が探し求めていたモノが書かれている項目である。

 

「……そうだ、秘宝クラスのモノを壊すには……同じ秘宝だ!」

 

手に入れるための労力は後に考える、問題はそれらを使えば奈緒の考えていることが

可能となるか、そうでないか、そちらの方が大事。そして、その希望は当たっている。

一覧を見れば分かる、奈緒が“秘宝の本来の役割”を知る事などたかが文献では不可能だが

結果的に似たような事が可能な、表向きの能力を持った秘宝もあるのだ。

 

「これか……『必殺の匕首』……」

 

原点に返る。十大秘宝とは、現在の技術では理解できないような理論、技術を持つ道具である。

奈緒が見つけた“必殺の匕首”と呼ばれる道具にも独特な効果が付与されており

見た目こそ一振りの短刀――だが、ただの武器では留まらない文字通り必殺の威力があった。

 

「この刀身によって付けられた傷は……“治る”ことがない……

 治療が出来ない傷を作る武器……いや、兵器……」

 

どんなに小さな傷でも、血が流れる損傷を負ってしまえば未来永劫留まらぬ風穴となり

交換の効かぬ人体にとっては驚異的、そして生物以外にも同様の効果を発揮するのだ。

 

「……種子本体を、これで壊せば……なんとかなる、だろ?」

 

道具があると分かれば話が早い、そして都合の良い事にこの道具は所在が判明しているらしく

歴代“とある組織”が、そのリーダーに受け継がれる武器であることも書かれており

入手難度はともかく捜索難度は非常に易しかったのだ。

 

「よし……」

 

 

 

後に、この時の奈緒は自身が冷静でなかったことを思い返しただろう、

訓練生上がりでしかない実力、大きすぎる目標、策も仲間も無いまま進む道ではない。

だからこそ、この時に“感じた”のは幸運以外の何物でもなかった。

 

 

――スッ

 

 

「!」

 

特別、何かアクションがあったわけではない、ただ視界の端で誰かが静かに去っていった。

ただそれだけなら奈緒も気にも留めなかっただろう。

 

(なんだ……? あたしを見ていた?)

 

この広大な図書館で目当ての物を見つけた直後、興奮冷めやらぬ間、

ごく僅かな見落としも防ごうと神経を尖らせていたからこそ気付けた視線、そして直感。

何かがあるかもしれない――そんな気で、何とはなく姿を消した影を奈緒は追った。

 

 

 

「あれ? 行き止まり……?」

 

が、その尾行はあっさりと終了、進んだ先の方向は間違いなく合っているはず、

しかし通路の枝分かれも無いテラスへ向かった先の行き止まりまで

誰ともすれ違うことなく奈緒は歩き詰めてしまった。

 

「……まさか、もうあたしを狙うような刺客が? ……いや、無い無い」

 

奈緒の勘が働いたのはここまで、冗談のように弛緩したリラックス状態では

逆に接近されていた“影”の姿を捉えられるはずもなく

 

「あなたは――」

「!?」

 

周りに人が居ない空間、余計に“突然の声”に驚いた、

しかし謎の人物が続けた言葉を聞き、そんな疑問は二の次になる。

 

「“異能の種子”について、調べていましたね」

 

 

 

まさか種子を狙った人物か――思わず臨戦態勢、構える。

だが目の前の全身ローブ、明らかに素性を隠すための装いの人物から敵意は感じない、

代わりに怪しさは抜群の恰好となっており、やはり警戒は解けず

 

「あたしは持ってないぞ!」

「……ですが本人は種子を持っておらず、そして……どうも、能力への欲も無さそうです」

「何の話なんだ? なんでそんな事を……」

「思ったことをすぐ口に出すのは真面目だったり素直な証です、

 質問ですが……なぜ“異能の種子”を調べていたのでしょうか?」

 

不思議と質問に答えてしまう、とはいえ敵意のない人物に対して、

別にやましい思いで活動をしているわけではない奈緒は隠し事をする必要なども無い。

 

「……種子を、能力を壊す方法を探していたんだ」

「それは……」

「なぜかなんて聞かないでくれよ!? あたしだって色々考えてそれが一番――」

「素晴らしいですね」

「へ?」

 

「以前から世界の均衡を崩す可能性のあった道具……最近は特に顕著です、

 そろそろ回収もしくは破壊を行わなければならないところでした」

 

フードの陰に隠れた顔が笑ったように見え、パチパチと拍手を送られる。

図らずも奈緒の回答は謎の人物の好意を得られたようで、

一方的な賞賛を前に余計な不気味さが加速し警戒の手を緩めない奈緒だが

 

「お前……何者なんだよ……」

「なるほど、その破壊の“手段”を探しに、ここを訪れたんですね。

 でもその様子だと成果は無かったのでしょう」

「う……だ、だったら何だよ!」

 

「……これを使ってください」

「は?」

 

差し出されるままに受け取った小さな袋、いや、形状から察するとお守りだろうか。

掌に十分収まるサイズのモノは中身に小さな破片があるように感じる、重さは無い。

 

「なん……え? 何だコレ? っていうかお前は誰なんだよ!?」

「私ですか? いえ、お気になさらず、あまり堂々と活動する人じゃないですから。

 それよりも……大事にしてくださいね、きっとあなたの活動に役立ちますから」

 

一方的、言いたい事だけを言う為に奈緒の動向を観察し、姿を見せ、

満足の行く人物像だったから謎のアイテムを手渡しに来たのだろうか?

だとすると、不合理な点が多すぎる、目的も何が何やら分からぬまま道を戻る影に

 

「怪しいぞお前! もしかして手配中の奴だったり――あ、あれ?」

 

館内への道、角を曲がった影がほんの数秒だけ奈緒の視界から逃れた刹那、姿は消えた。

残ったものは、この対話が夢や幻ではなく現実にあったと証明できる小さなお守り。

 

「居ない……? っていうか、ホントに何なんだよ!

この中身も……お守りって開けちゃダメだっけ……でも、ヘンなのが入ってたら嫌だし

開けていいよな……えーい、開けるぞ! いいんだな!」

 

テラス際とはいえ館内、通りすがりの施設職員に大声を注意されつつ、

静かに結び目を解いて袋の内に視線をそっと忍ばせる。

 

「……うん? なんだ、これ……本当に何だ?」

 

入っていたのは、手触りで感じていたサイズとほぼ変わらない、板。

鉄製、顔が反射する程に綺麗な銀色で、非常に軽い材質ではあるが特に何も妙な点は無い、

だとすると何故、ここまで大仰なやり取りの後、奈緒にコレを手渡したのか。

 

 

『きっとあなたの活動に役立ちますから』

 

 

「……あたしの活動、種子の破壊……か?」

 

どう見ても破壊や損傷を与えるような欠片には見えない、奈緒が望む道具には程遠い形状だが

かといって即座に捨ててしまうのも、善意を踏みにじるようで気分が良くない、

たとえ悪意がある譲渡だったとしても、その悪意の動機も分からない。

 

「なんであたしに……罠、だったとしても、意味ないよなぁ」

 

結局、手放さないとなると“善意の可能性”を信じ、持ち続ける方が良い、奈緒の結論だ。

もしも罠だとして、種子を横から強奪する目的で持たせた道具ならば望むところ、

再度奪い返してしまえばよいのだ。

 

「……よし、悩むの終わり! 今からは目標も一応立てたし、次のステップだ!

 あたし自身が、きちんと強くならないと駄目だもんな」

 

まだ、彼女の旅路は地図を見つけた段階でしかない。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。