島村卯月冒険譚~この世界で平和を取り戻す~   作:アカツキ=ニュー

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北条加蓮の序章

「これであなたも、素敵な異能生命体」

 

商品のキャッチコピーのように軽やかな言い回し、

しかし含まれる意味は通常のそれを大きく逸脱する。

 

「もうそろそろ、けっこうな数になってきたし……誰か一人くらいは“討伐”されてるかな?」

 

掌に転がる小さな粒が音を立てる、つい数日前まで掌に収まる数ではない量を保有していたが

徐々に使用、そして譲渡を繰り返し、現在の数に至った。

“それ”が何かは今更言うまでもない、相葉夕美が所有している特別な道具といえば

間違いなく“不完全な種子”以外あり得ない。

 

「別にまだでも問題ないしね、それだけ“洗練”された子が卯月ちゃん達に遭遇するわけで」

 

未央と対峙した柚が言っていた、種子は集うほどに強力になる、

ゆえに夕美が次々とあらゆる人物に種子をばら撒いて行けば、適当に数を打つだけで

弱者は淘汰されて、より強力な能力者が現れる。

 

「そうだ、さっきの人に言い忘れちゃった!

 卯月ちゃん達の事を言っておかないと、狙いに行ってくれないからね」

 

種子を多く持っている人物として卯月達の名を先に教えておけば

標的として選ばれる可能性も高くなる、その肝心な情報を先程新たに種子を渡した人物へ

伝え忘れていた夕美は、時間もあまり経過しておらず追いかければもう一度遭遇できるとして

来た道へ方向転換、数秒もかからぬうちに到着する――

 

「ごめんね、ちょっと補足なんだけ――ど?」

 

 

 

――ブシュッ

 

「久しぶりだね」

「うん? ……?」

 

時間にしておよそ一分もかかっていない、種子を渡したはずのその人物が、

今は壁にもたれ掛かったまま物言わぬ屍と化している。

その物体の目の前に佇んていた人物は、夕美の記憶に居た人物だ、

しかし記憶の中の彼女は、このような蛮行をするほどの――する度胸は無かったはずだ。

 

「ずいぶん……見違えた?」

「おかげさまで、決意を固めたんだよ」

「えーっと、私に何か用事かなぁ、確か……加蓮ちゃん?」

「用事はあるよ、相葉夕美さん」

 

武器――そもそも魔術を得手とし、そのようなものは持っていなかったはず、

加蓮が短刀一本で、身に付けたばかりとは言え少なくとも種子を与えられた人物を

ものの数秒で仕留めて何事も無かったかのように佇んでいる姿、

明らかに何か大きな変化があったのだろう、それも極めて異質な。

 

「後でいい?」

「だめ」

「そういうことで、じゃあ――」

 

返答の是非に関わらず夕美は場を去ろうとしていた、当然だ、

自身を追いかけて来る者など、ろくな目的ではないと分かり切っているから。

だが、逃走の目論見はいとも簡単に

 

 

がくん

 

 

「お、っ……」

 

夕美が突如、膝を折って地面に手を突く。転んだわけでは無い、地面は平坦だ。

そして何よりも、起き上がろうとして手は動く、体も逸らすことが出来る。

 

(足……動かない?)

 

「悪い話じゃないと思うよ、聞くだけでも聞いてほしいの」

「……その前に、こっちも質問していい?」

「足の事?」

「違う」

 

足の異常を加蓮が把握している、となれば“原因”を探る必要は無い、

間違いなく彼女の仕業であり、どのようなメカニズムで発生させたのかも想像に容易い、

そもそも目の前で繰り広げられている光景が物語っている。

 

「いくつ集めたの? ……私が、いろんな人に配ったはずの“種子”をさ」

「答えられない」

 

 

「十を超えたあたりで……数えるの、やめちゃったから」

 

 

「……あははっ、面白いね」

 

北条加蓮は変わっていた、奈緒が種子の根絶に頭を悩ませていた裏で、

彼女は逆に、破竹の勢いを持って数え切れぬほどの種子を強奪、

そして自身の力として身に付け――まだ夕美にとっては未知の能力だが

少なくとも夕美を簡単に足止めできるほどの実力を有する程になっていた。

 

「それで? 私からお花を持って行こうと追いかけてたのかな?

 でもそれは反則、ちゃんと持ってる人同士で争ってくれないと、あげない」

「……ふーん、そうなんだ……でも違うの」

 

強制的に夕美を足止めする程の用件、

てっきり種子の総取りが目的かと思いきやそうではないと加蓮は言う。

 

「夕美さん、私は……この“能力”が、とても似合っていると思う」

「気に入ってくれたら私としては頑張った甲斐があるかもね」

「私がもっとこの力をあの段階で……いや、もっと早くに見つけていたら……」

 

ここで加蓮の意図を察する。

どちらかと言えば非力で、奈緒の陰に隠れがちだった少女が

急に表立って動き出した理由、その動機。

 

(あの時の奈緒ちゃんは私のせいだと思うんだけどね)

「でも言った通り、私は加蓮ちゃんに贔屓して強くさせてあげようとなんて、しないよ?」

 

彼女は、力を手に入れたい。それには間違いがないはず。

今までの全ては自身の非力が招いた失態だと重く受け止めてしまい、

解決のため実力を高める手段として最短ルートである種子の力を得ようとし、そして得た。

だがもう一度振り返る、彼女は種子を狙って接近したわけでは無いと言っているが――

 

「種を譲ってほしいんじゃない、私の提案は……私を、夕美さんの仲間に入れて欲しい」

 

 

 

「それはまた……面白い話だね。私に仲間なんて、いると思うの?」

「居るよ。だって……こんな大きな力を持って、私みたいな人が寄り付かないはずがない」

 

加蓮の欲していた力は、単純に自身一人だけの実力のみではなかった。

一人では解決できない権力とも戦う、万能の“力”を確保するため、

おそらくは夕美のバックに居るであろう、居るはずと確信した“群”に取り入ろうとしている。

しかしその提案は当然のように却下、いや、夕美は自身を孤立した存在と言い張る。

 

「断るの?」

 

だったらどうするの? と、軽口を叩いてみるつもりだった。

たとえ足が動かなくとも夕美は自身の優位を疑わない、

今は『面白そうだから』と適当に相槌を打って話を聞いているが

その気になれば即座、物理的に会話すらできない状況へと追い込むことも可能――

 

 

――――

 

 

「っ……あ、あアアッ!? な、うぅ……!?」

「断るなら……不安の種は……摘まなきゃいけなくなっちゃう」

 

加蓮は、手を夕美の肩に置いているだけだ。

 

「ひぎぃッ……!! うあァッ……!!」

(これは加蓮ちゃんの“能力”?! でも、足が動かないのと……この、

 私の体が枯れていくような感覚は……なに!?)

 

余裕のあった声色とは一転、演技には到底思えない窮する悲鳴、

足だけが動かなかった体は急激な“渇き”を持って、激痛を伴い始めた。

植物と同化しているに等しい自身の体が枯れると形容した夕美のダメージは計り知れず

そもそも夕美は何をされているのかが全く把握できない。

 

「……返事を聞きたいんだけど」

(ダメ! この子は、本気で私を……首を縦に振らないなら“壊す”気……!

 それはダメ、まだ……それはまずい、よ……!)

「わ、分かったッ……だからっ、やめて……ッ……!!」

 

悶え倒れていた夕美の体から手を離す加蓮、

ほぼ同時に、全身を襲っていた酷く焼けるような痛みは回復こそしないものの

悪化する事はなくなった、やはり加蓮が彼女へ何かを行使していたのだ。

 

解除されてからも身動きが取れない夕美に、

加蓮は腰の荷物から水筒を取り出して乱暴に彼女の体へぶちまける。

『これでいいんだよね』と、大した措置も取らずに言い切る所を見ると

夕美の身体に関する情報もきちんと仕入れていたのだろう、

中身は何の変哲もない水、しかし全身が“乾いていた”夕美は必死で求めていたものだ。

 

「ぷはっ!! ハァッ……ハァッ……!」

「噓じゃないよね?」

「もちろん……もう味わいたくない感覚だもん……」

 

強引に引きずり出された口約束でも夕美は反故にしない、

今までは彼女の事など、別段どうでもいいと思っていたが事情が変わった、

ここまで急激に力を身に付けた人物を、もう少し観察していたくなったのだ。

 

「それじゃあ、招待しなきゃね。少し遠いけど、いい?」

「どこに向かうの? それに、仲間がいるなら連絡を取らないと――」

「連絡は要らない、居るか居ないかは分からないし……でも、そこには一番多く仲間が居る」

 

「私達の“国家”に、紹介しないとね」

 

「国……? まさか、そんなはず……だって」

「だって、私達みたいな危険で強大な力を持った国があるはずない……って?」

 

にわかには信じがたい。ある程度平和平穏に収まった世界で、

これほどまで特異かつ狂気の片鱗も伺えず人物、道具を抱え込んだままの国があるはずがない。

それに、国と言えば知名度がどうしても大きくなって、構成員は特に名が挙がるだろう、

だというのに加蓮は少なくとも、相葉夕美という名前を国家幹部として聞いた覚えは、無い。

 

「それがあるんだよねぇ、しかも……ちょっと有名なの」

 

さらに耳を疑う言葉が続く。有名ならば知らないはずが――と、反論しようとした刹那、

思いもしなかった“ある国家”の名前が加蓮の脳裏に浮かぶ。

その国は有名だ、だが有名なのは名前だけ、それ以外の全ての情報はまるで把握できない、

しかも侵攻国家ではなく、ただそこに存在するだけの謎多き地域――

 

「…………まさか、ね」

 

夕美の後を、今は黙って追従するしかない加蓮であった。

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