島村卯月冒険譚~この世界で平和を取り戻す~   作:アカツキ=ニュー

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狩猟者

「分かんないっすね」

 

共に愚痴をこぼす両名が並んで暗がりを歩く、

その矛先はお互いに別の者に向いており、一人は戦闘を終えて敗北した相手、

もう一人の方は今まさに並んで歩いているもう一人へと向けた不満の声。

 

「普通なら……ま、アタシも言えた義理じゃないっすけど

 人を襲って、その本人から何もされず解放されるって、まず無いっすよ」

「そっちは良いかもしれないけど、アタシは困ってるの!」

 

吉岡沙紀と喜多見柚、共通事項は二人とも卯月一行に遭遇し、戦いを挑み敗北した者。

異能の種子という能力を宿す道具を奪取、取得を目的とした勝負は

成就することなく、しかし壊滅的なダメージを受けることなく――

いや、柚はそう思っていないようだ。

 

「しかし不思議っすね……そっちの話じゃ、種ってのは無理矢理奪うモノっすよね?

 じゃあなんで柚ちゃんが最初から持ってた“能力”……今は無くなってるんすか?」

「……分かんないけど、何かされたから無くなった!」

「その何かが分かんないと迷宮入りっすね」

 

柚の、糸を媒体とする“能力”は、数時間前の未央との激戦で自由自在に発動していた、

だが今はどうだ、二人は知る由も無いが“灰姫の経典”を所持していた卯月と接触したことで

いくら腕を振りかざそうが、気合を込めて翳そうが全くの無反応なのだ。

能力の剥奪、正確には動力源である異能の種子を抜き取られた状態、発動するはずがない。

 

このような状態で柚を含む二人を解放したのは

卯月達の目的が“強奪”ではなく“回収”であり、用さえ済めば当人に敵意が無い限り無関係、

関わりを断って以後の危険な戦いへ巻き込まれないよう警告した。

が、一度手にした力を金輪際忘れて、とは簡単に行かないのは、ある意味で仕方がないだろう。

 

「幸い、もう一度どうにかして手に入れれば……!」

「アタシはソレが出来なかったから苦労してんすけどね。

 そもそもどーやって探すんすか、経験者なら教えてくださいよ」

「うーん……でも実は、アタシも能力チラつかせて歩いてただけだから」

「誘い受けっすか」

「言い方が悪いっ。でも未央チャンたちが言ってたケド、ちょっとづつ増えてるそうだし……

 ひょっとして普通に歩いてるだけでぶつかるかも?」

 

普通は有り得ない、偶然歩いていたら偶然他の人と接触し、

その接触した者同士が偶然にも夕美の手によって力を与えられた人物――

確率は限りなく低く、考えるに値しない数値だろう。

 

だが、仮に偶然、この近くを通った人物が

“種子を目的として行動”している者で、かつ“今の会話を聞いていた”ならばどうか?

たった一つの偶然だけで、残りの低確率を全てパスし、戦闘は免れない。

――戦闘は免れないのだが、ここに一つの不幸な偶然が重なってしまうと

 

「なーんて、あり得ないケド…………お――」

 

 

 

ザンッッ!!

 

「沙紀チャ――っぐうぅ?!」

 

返事のない沙紀に反応を求めようと振り返っただけの柚は二つの衝撃を受けた。

まず一つ目、視界に飛び込んだ光景、つい数秒前まで共に歩いていた沙紀が、

ちょうど声一つ上げられぬほど瞬間的な攻撃を受け、倒れる途中であったこと。

二つ目、恐らくは沙紀を襲ったのと同一人物による攻撃が、自身にも及んでいたこと。

 

(攻撃!? どこから……っていうか、これ……“変”……!)

 

攻撃を受ける寸前まで知覚できなかったのは、この際仕方がない、

なぜなら戦闘という雰囲気は皆無の状態で不意打ちに近い襲撃を受けたため。

だが、それでも妙な点は存在していて柚が受けた攻撃、

刃物で切り裂かれたように平行な線が刻まれ、なかなかにダメージが大きいのも去る事ながら

 

(なんで……“正面”を斬られたの?!)

「ぐッ!」

 

倒れる寸前、なんとか柚の足を踏み止まらせたのは気力ではなく疑問。

なぜ、この攻撃は突然沸いたように柚を切り裂けたのか?

 

「はぁ……はぁ……生きてるっすか?」

「沙紀チャン!? 大丈夫なの!?」

「今は……でも、ちょっと……これ無理だと思うんすよ」

 

弱音と言われればそうかもしれない、しかし沙紀は状況を見る目はある方だ、

その己が今の状況をマズいと、警告を発している。

 

「アタシ、絶対正面を見てたはずなんすけど……ほんとうに、完全に“突然”斬られたっす、

 こんなの……絶対、例のアレじゃないすか」

「そりゃそうだろう、ねっ……」

 

望んでいたモノ、沙紀が虚構の能力を騙ってまで炙り出し欲していた本物が

二人のすぐ近くで、あろうことは二人を狙っている。

もしも、このファーストコンタクトが今よりも穏やかなものであったならば

友好的に能力を得るための相談や情報を聞けたかもしれない。

 

「絶対、会話とかまともに出来る相手……じゃないと思うんすよね」

「へへっ……アタシがやってた事と一緒……問答無用で、持ってそうな子を狙う奴だねー……」

「勘弁してくださいよ……アタシを巻き込まないでくださいっす」

 

だが、残念ながら第一印象――いや、遭遇すらしていない相手に対するイメージは最悪、

完璧な先手を打たれながらも“能力”の欠片すら見えていない、状況はすこぶる悪い。

 

「ま、でも……こうなったら足掻くしかないっすよね……っと」

「そうそう、考えようによっちゃあ……チャンスっしょー?」

(来ると分かってたら、反応できるはず……!)

(斬ってきたなら、近づかなきゃ攻撃できないはずっす……今度は見逃しませんよっと)

 

――ザッ

 

「正面!!」

「分かってる!」

(見逃さない、今度はこっちが見破る番!)

 

幸運にも姿を補足できた、そして今度こそ不意を打たれないように全力で注視する。

――その発想が、既に罠だとは気づかず。

 

二人は考えるべきだったのだ。

なぜ、能力者と確信している相手が手の内を明かしていない状態で

しかも姿を見せる必要もなく二人を襲撃できていたのに、簡単に現れたのか。

少しでも考えていたならば、相手の目論見に僅かでも勘付けた、かもしれなかった。

前進する敵と、慎重に間合いを取る二人、この関係性を先に動かしたのは

 

「……“そこ”、ダメだよ?」

「?」

 

 

 

――ザリュッ!!

 

「がッ!?」

「っぐぅっ!!」

 

二人は、まだどこか“異能の種子”が授ける能力に常識があると思っていたのが敗因だろう。

たとえ全力で警戒していても、そんなものは無関係に突拍子もない攻撃が行使できる、

異能の種子とはそういうものなのだ。

 

今度こそ堪えられない、背後を再び強烈な斬撃が襲った二人は前のめりに地面へ伏した。

そして、まったく攻撃を行う所作すら見せなかった正面の人影――いや、獣人だろうか、

近くでそのシルエットが鮮明になるにつれ、特徴的かつ目立つ猫耳が露わになった姿――

 

「あーあ、わざわざみくが“そこ”って言ってあげたのに……忠告は聞くもの、にゃ」

 

 

 

「ほら、さっさと起きるにゃ」

「ぐうぅ……」

 

自身の名前を一人称としている人物は、重傷の柚たちを引っ掴み、無理矢理引き起こす。

密着するほど接近されても、射程内どころか目の前に攻撃主が居ても腕すら動かない、

されるがままの状態。

 

「まだ気は失ってないよね? 初めまして、かにゃ?」

「……要件、なんて聞くだけ野暮、カナ?」

「そりゃそうにゃ。それじゃ単刀直入に……種子を奪う方法、知ってる?」

 

予想通りといえば、その通り。

なぜ自分達が襲われたか、理由は種子の話をしていたからに他ならない、

そして先制攻撃どころか形勢逆転すら不可能なまでに追い込まれると、

次に待っているのはみくが言った通り、強奪。

 

グイッ

 

「んッ!」

「こーやって徐々に……体力を消耗させていけば、そのうち種子を体に留めておけなくなって

 ポロッ、と出てくるんだよ? 知ってたかにゃ?」

「……知らなかった、ケド……近い事は、してたかなぁ」

「なら覚悟するにゃ」

 

徐々に傷口を締める動きに、このままゆっくりと追い込まれる――

 

 

ザシュ グシャッ!!

 

 

「んぎッ!! あ、ぐうぅぅあぁあッ!!」

「~♪」

 

(斬られてッ……なんで!? こいつの両手は、アタシの体を抑えてるのに!)

(どうなってんすか……何もない空間なのに、柚ちゃんが“斬られて”いく……!)

 

「が、げほっ……!」

「あれ? ちょっと、まだ出てないケド……もしかして、終わり?」

 

腕を抑える腕、左右共にみくの手は柚の体に触れている、間違いない、

ではいったいこの攻撃はどこから、何をきっかけに発動しているのか。

背後に立つみくを尻目に、堂々と正面から“何か”が柚の体を切り裂く、

その正体も掴めぬまま、斬撃は柚の体を嬲り続け、やがて意識を手放すまで続いた。

 

「なーんだ、無駄足にゃ……気絶するまで何も出さなかったって事は

持ってないって考えても問題なし……ってコトで」

 

逃げる隙間、気力、そんなものがあればとうの昔に退散している、

しかし地面に伏す沙紀はどうすることも出来ないまま

 

「そっちのあんたは、持ってるのかにゃ?」

 

暗く光の無い瞳をしている少女と相対するしかなかった。

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