島村卯月冒険譚~この世界で平和を取り戻す~   作:アカツキ=ニュー

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第七幕 - 新勢力 -
色眼鏡


幸いにも以後、新たな敵と遭遇する事は無く旅路は順調に進む。

一行はついに現状の目的地――に到着するまでの最も大きなポイントへ辿り着く、が

 

「通れない?」

 

巨大国家、名を『ウィアルソ』と記されたこの国は

普段、このような厳戒態勢を引いてはいない、入国はフリーパスのはずだ。

しかし現に一行は境界に敷かれた仮の門に阻まれ歩みを止められている、

まるで危機的災害、戦争でも起きているかの警備体制だがそうではないようで

 

「いえいえ、多少の入国審査がある程度で、よほどの事が無い限りはお通り頂けますよ」

「審査って何するんだ?」

 

門前払いを受けるわけでは無い、ひとまず安心するものの次の疑問が湧く、

この国境沿いに警備を敷いてまで交通を規制している現状、

どういった風の吹き回しでこの体制になったのかは返答を求めても答えられないの一点。

 

「お手間は取らせませんから」

「……らしいけど」

「別にいいんじゃないかな、私達別に怪しいものじゃないし……」

「うーん、そうですね。分かりました、それでどうすればいいんですか?」

「少し待っていてください、すぐに案内しますよ」

 

急ぐ旅路ではあるが一刻を争うほどではない、

むしろ余計に騒ぎ立てると得は無い、何しろ今までの村と違って大国なのだ、

目立って良い事など一つもない、卯月達は常に平穏を目指して動くべき立場でもある。

要するに大人しく待つ、そうすれば解決する話なのだ。

と、ただの待機時間で済むはずだったところ、

卯月が何やらそわそわと落ち着きなく視線を巡らせていた。

 

「あの受付の人……」

「どうしたの? しまむー」

 

気付いた未央の問いかけにも『うーん……』と首を傾げるばかり、

何かを思い出せそうで思い出せない、そんな悩み方であった。

 

「どこかで見た事があるんですけど……なんでしたっけ……」

「受付の人が? んー……しまむーが知ってるような人だったら有名な人?」

「でも受付だよ? どうしてこんな国境の端で、有名な人が受付なんてしてるの?」

「……ですよね、気のせいかも」

 

気のせいと打ち切った疑問解消だが、やはり気になる、

そして『聞いてみても損は無いんじゃない?』との未央の後押しもあり、

再度受付の人物が一行の前に戻ってきたと同時に、思い切って質問を投げかける事に。

 

「お待たせしました、ではあちらの通路からどうぞ!」

「えっと、突然すいませんけど……あの、お名前は――」

 

 

――ドォンッ!!

 

 

「うわっと!? な、何!?」

 

轟音の方角、建物を挟んで通路の反対側――近い位置だ。

そこから立ち上る煙、明らかに何かがあったのだろう、

この検問地帯で騒ぎを起こす理由など、事故以外ならば強行突破以外の何物でもない。

が、卯月達には“別の可能性”も考えられる。

 

「卯月! もしかして――」

「もしかして、例の“種”が現れましたか?!」

 

 

 

(っ!? え……?)

 

既に種子が大国にも伝染して広がっていて、恐らく既に能力を得た者たちが集まりそうな大国。

沙紀のように新たに能力を得ようとする者や柚のように自己強化に励む者、

いずれもこれらの動機を満たす可能性は高い――という予想は

卯月達だけが知り得るはずだった。

 

(どうして、国の人が種……“種子”の話を既に警戒しているの?!)

 

可能性は二つ。

一つはこちらの勘違い、偶然にも“検問”をしている理由となる要因の略称が

誤解を招きやすい“種”という名で呼ばれているだけというパターン。

そしてもう一つのパターン、これは原因に大なり小なりがあれども

既に“異能の種子”関係のトラブルが国家内で起きている、という場合。

 

「反応はナシ、ですか! 了解です、一応すぐに向かいますよ!」

「あ、っ! 待ってください! そっちは危険です!」

 

どちらにせよ、能力者が相手ならば国の兵隊が束になっても危うい、

特に検問などを任されている人物が実力者とは考えにくかった卯月は

報を受けて駆け出していった受付の人物を呼び止める、が

 

「まったく、この国に厄介事が集まってくるのは遠慮したいのですが、

 もしも面倒事が混ざった時に仕事をするのが私です!」

 

――バッ!

 

「え……?」

 

統一された制服、国家で働く人物である証のローブを脱ぎ捨て、

その下からは軽装とはいえしっかりと装備品である鎧、鞘に納まった剣、

明らかに“ただの受付事務員”ではない格好となった彼女が高らかに叫ぶ。

 

「私のこの目が黒いうち、いや……この眼鏡がある限り私は!」

 

 

 

取り出したるは腰に携えた剣――ではなく、袖口から滑り降りてきた眼鏡、

一見何の変哲もないそれを、既に眼鏡をかけている彼女の目元、

ほぼ二重になるような位置へと持っていくと

 

ビシュゥンッ!!

 

「わあっ!!」

 

――ズゥゥン……

 

「ふふふ、さすがの威力! ……とはいえ一回が限界ですか、改良の必要がありますねぇ」

 

眩い一閃、強烈な光に思わず目を閉じた卯月が視力を取り戻した時、

目の前に建ち並んでいた建物の壁に、薙ぎ払ったような黒い焦げ跡が残っていた。

何から何まで理解が追い付かない、何が起きたのかも分からない卯月に追いついた美玲が

 

「な、なんだアイツ……目からビームが出たぞ……」

 

目の当たりにした異様な光景を思わず口に出した時、卯月は全て合点がいった。

続々と凛、未央も合流して凄まじい状況を目視し同様の疑問を持ったところで

 

「違います……あれは、あの人の目から発射されたんじゃないです」

 

知っているの? という未央の問いかけに頷く、正確には“思い出した”だ。

――“付与魔術”と呼ばれる術式がある。

補助魔法の一つで物体、主に武器へ魔術を宿らせる高等技術、

強力な媒体と術者が合わされば炎熱を発する槍、風切り刃を飛ばす剣なども作れる。

が、世界広しと言えど決して普段から武器としてはとうてい成り立たない“眼鏡”に

強引ながら強烈という他ならない付与効果を宿らせる人物は一人しか居ない。

 

「ああ、すいません、ご案内の途中でしたね……失礼しました失礼しました」

「え、あ……うん……えっと、大丈夫……なの?」

「心配無用です、私の眼鏡にかかればあれくらい造作もない事ですよ!」

「そうじゃなくて……二つも眼鏡してたら見えにくくないかな……」

「バッチリです! ほら、こうしてあなたの手を取る事も出来ますよ?

 ところでずいぶんとガッシリとして鋼鉄のような体ですね?」

「それ看板の支柱だぞ……」

 

などと一行の居る場所と反対方向へ話しかけ続けていた彼女だが

他の兵士たちが慌てた様子で白煙上がる現場から舞い戻ってくる声を聞き、

ようやく視線をその方角――先程攻撃した場所へと向き直せば

 

「わっ!? 誰か来たぞッ! まだ全然元気そうじゃないかッ!?」

 

どうやら派手な一撃を御見舞したものの撃破には至っていなかったようで、

検問を突破して騒ぎを起こしていたと見られる者は再度立ち上がり、

取り押さえようとする兵士を追い返しながら逃走を試みている。

 

「逃げられるよ!?」

「あれっ!? そんな馬鹿な……あの眼鏡は私の自信作で

 眼鏡に込めたエネルギーを一度に大量照射して標的を撃ち払う――」

「説明はいいから! しぶりん、私達だけでやろう!」

 

手を貸す義務は無いが放置して見送ることも出来ない、

凛と未央は逃走者の後を追いかけようと体制を整えるが走り出すよりも早く

 

「仕方ありません、一つじゃ足りないなら……たくさんで対抗しましょう」

 

バサッ

 

「……え、ええっ!?」

「なんだこりゃ!?」

「無論、私の数々の眼鏡たちですよ!」

 

一つや二つではない、文字通り無数に仕舞われていた眼鏡が

一斉にズラリと横一列に並び、それぞれが先程の眼鏡と同じよう

レンズ部分に煌く光を集約させ始め

 

「一斉照射ーっ!!」

 

 

ズドドドドォンッ!!

 

 

「…………」

「な……なんだ、これ……」

「あれあれ、今度は強すぎましたか? むむ、さすがに十九は無駄使いかもしれません」

「ていうか眼鏡持ち過ぎだぞッ! なんで十個も二十個も持ってるんだよッ!」

 

もはや非常識な装飾品の量に困惑する美玲であるが、卯月は別の見方をしていた、

そして正体が分かった今、その異様とも言える光景も、どこか納得した表情で

 

「その人は……この国の幹部の一人であると同時に、

とても眼鏡に執着を持っている事でも有名で……」

「執着じゃないです、愛着! 愛情です! 私は誰よりも眼鏡を愛し、活用しています!」

「幹部……って、幹部ぅ!?」

 

「……と、自己紹介が遅れました。

私、この国家ウィアルソで幹部を勤めています上条春菜と申します、まぁまぁ眼鏡をどうぞ」

「まだ持ってる……」

「もちろんです! お気に召すデザインのものはありますか?」

 

偶然にも、国へ訪れて最初に出会った人物が国家の中枢人物、

噂通りの趣味嗜好とポリシーを本当に持っていたことに驚きつつ、

どうしてそんな人物がこの場所で受付など担っていたのか――という疑問も今は脇に置く。

 

「えっと、春菜さん……」

「はいはい、以後お見知りおきを」

「……さっきチラっと聞こえたんですけど……“種”について、聞いてもいいですか?」

 

最も聞き逃せない単語について、単刀直入に質問する。

もしも卯月が想定しているものと同じならば

この国をただの通過点として素通りするには事情が変わりすぎるからだ。

 

「……さぁ、何の事でしょう?」

 

だが春菜は解答を濁す。

もしも何かが聞こえたならば、それは深く知らない方がいい話だと思うとも付け加えた、

つまり公に広めたくない話題なのだ。ますます、可能性は高まる。

ともかく、この騒ぎに関しては種子に関係が無かったようだ、

偶然にも検問でトラブルが起きたのだろう、だがそれは検問の意味を知る材料にならない。

既にここでの作業――こういったトラブル処理を終えた春菜が去ろうとするが

 

「私達、知ってるんです!」

 

何としてもここで聞いておきたい――

そして、こう言ってしまえば流石に春菜も足を留めざるを得ないだろう。

 

「……いったい何を――」

 

 

――ズズゥン……!

 

 

「!」

「今度は何なんだッ!?」

「やれやれ……“また”ですか?」

 

再びの異音、またしても近い位置からだ。

春菜も先程と同じように連絡を受けて現場へ向かおうと歩を進めた瞬間――

 

「……! 今度は、本当にですか」

 

突如、足早になって全力で駆け出していく、

そのスピードは軽装備の鎧を身に纏っているにしては非常に迅速で、

轟音に気を取られていた一行は春菜の遠い後姿にようやく気付き

 

「追いかけよう!」

「はい!」

 

 

 

(来ましたね……これが例の“能力者”ですか……!)

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