島村卯月冒険譚~この世界で平和を取り戻す~ 作:アカツキ=ニュー
既に目的地へ急行してしまった春菜を追いかける途中、
相当なダメージを負った誰かが運ばれる様子を見かける。
これは先程春菜が照射したレーザーに晒された者、
検問を無理に突破しようとした代償は大きかったようだ。
(ここまで徹底的に不審者を通さないようにしている、絶対に何かあるね)
素直に搬送されているところを見るとただ検問に業を煮やしただけ、
もしくは本来の検問の目的とは異なる案件で、やましい事があったのだろうか、
どちらにせよ本命ではない、もしも“種子”が絡む案件ならば
多少の妨害があろうとも強引に突破を試みているはずだ。
「で、強引に突破するくらいだから、中に何かがあるのかもね!」
「かもしれませんけど、大きい国だから『多分何かある』程度の考えかも……」
「行ってみれば分かるはず、そこの角を曲がればすぐ――」
――ギィンッ!!
「!?」
激しく金属を打ち付けた音、激しい戦闘――にしては、やけに規則的に響いている。
聞こえてきた方角には巨大な倉庫、そしてあからさまな侵入口であろう
大穴が壁面に開いており
「行きましょう!」
「うん」
「よし!」
三人は“何か”が起きている現場へと足を踏み入れようとしていた。
「…………」
「壊れないでしょう?」
ちょうど一度目の金属音が響いた頃、侵入者と春菜は既に内部で対峙していた、
ほぼ一直線に向かった春菜、まるで最初から“ここ”が襲撃先と知っていたようで
「どこから仕入れた情報か……いえ、情報が無くとも“何か”がある事は一目瞭然、
だからこそ防御は完璧にしてあります」
「…………」
「その小屋……うちの国家代表曰く“シェルター”だそうですけど
簡単には壊せません、かなりの強度を持つ外壁で囲まれていますから」
侵入者は春菜の説明に耳を傾けていないのか、
ひたすらに小屋の壁面を攻撃し、内部への侵入口をこじ開けようとしている。
「無駄だと言っているじゃないですか、私の話も聞いてくれませんか?」
ギィン、と響く金属音、何度も何度も打ち付け――その行動が変わることなく、
続いて到着したのは卯月たち、そしてこの現状を見た感想は、やはり同じもの。
「これは……何をしているの?」
「あの壁を、ずーっと攻撃して……ひょっとして中に何か凄いものが?」
「しっ、ですよ。何かに気付いたり思ったとしても、秘密です」
春菜も始末に困っているのだろうか、それとも三人への忠告なのか、
小屋についてこれ以上の言及を止めるよう口を挟む、
一心不乱に壁面を攻撃し続ける人物を止めようにも妙な空気が場を支配していて動けない、が
「み、みくッ!? 何してるんだッ! こんなところで!」
「おや、そちらのフードの子はお知り合いですか?」
「美玲ちゃん! あの人が誰か知ってるの?」
遅れて到着した美玲が状況を大きく変える。
倉庫へ入るなり叫んだ第一声が個人名――おそらくは、この侵入者の名前、
どうやら美玲は面識がある人物らしい。
「みくは……ウチの住んでる村の、一番偉い“長”だッ」
「美玲ちゃんの……!?」
それも、かなりの親密な人物という形で。
「美玲が一人でも何とかしようと思うほどの村、その長……の、割には」
「ずいぶん、聞いた感じの印象と違うくない?」
美玲が己が身ひとつで解決しようとしていた村の問題、
もちろん村には住民も入っている、その代表格となれば当然彼女が救いたい対象筆頭のはず、
が、目の前に居るその人物は少なくとも現在進行形で何かの小屋を破壊しようとしており、
既に国境の検問を荒々しい突破でひと騒がせをし、およそイメージとは大きく異なる行動だ。
「こんなところで何してるんだよッ! ウチらの村はどうしたんだッ!?」
何よりも、美玲の言葉に耳を貸す様子が無い、
ひたすらに小屋を破壊――傷がついていない壁面を、ただただ殴りつける、
もはや不気味で奇妙なほどに何度も、何度も。
「何とか言ってくれよッ、それとも……みくも探しに来たのか? あの能力って種を――」
「……! 危ない!」
――ヒュンッ!!
「あ……っ……!? な、何すんだッ!?」
その行動パターンが変化したのは突然であった。
壁面を殴りつけていた手が瞬間、傍らに迫っていた美玲の顔面横スレスレへ振り抜かれる、
もしも少し美玲の位置がズレていたならばクリーンヒットしていただろう、
およそ“長と住民”の関係性で放たれる拳の挙動では、ない。
「大丈夫!?」
「ちょっと、何すんのさ! 危ないでしょ!?」
「……美玲チャンって言った? その話……詳しく聞かせて?」
未央の言葉には返答しない、みくと呼ばれた人物の言葉は
あくまで美玲個人に向けて紡がれている。
たまらず卯月は二人の間に割って入る、あまりにも無思慮な応対ではないかと言う為に。
「危ないじゃないですか! 美玲ちゃんは、あなたの集落の住人で――」
「集落……んー……覚えがあるような、無いような、ともかく今のみくには関係ないにゃ」
「どうしちゃったんだよ長ッ! そんな事を言うみくじゃなかっただろッ!?」
それでも意識は向けられない、壁面を攻撃する手は止んだものの
放っておけばその攻撃が今度は――美玲に向かって放たれるだろう、
確信は無いが予感はする、それほどまでにみくが纏っている雰囲気は奇妙なのだ。
「みくッ! ウチが分かってないのか!? 話を聞けよッ!」
「まぁまぁまぁ、ちょっとお互いピリピリしすぎなのでは?
一度冷静になってもらって、それからじっくり話を聞くことにしましょうよ」
「春菜さん……そんな悠長な事を――」
「いえいえ、悠長なつもりはありませんよ?」
奇妙な雰囲気のみくとは対照的に、こちらも先程までの緩い空気と異なる気配、
春菜が――やはり眼鏡だが――武器を構え、既に臨戦態勢になっている。
一連の流れで会話のコミュニケーションは不可能と判断したのだろうか、
どのみち侵入者と警備の立場、突破された検問、もう戦闘は避けられない。
「さて、先程は下がってと言いましたが……どうも複雑な事情があるようですね?」
「そうだッ! みくはこんな事をする奴じゃないッ!
これは、きっと何かワケがあるんだ! そのワケを聞いてからでも遅くはないだろッ?!」
「ならばお手伝いしてもらった方が早く事が済みそうですね」
――ザッ
「みくの邪魔をしないでくれる?」
「おや、ようやく私に話しかけてくれましたね、でも続きは後にしましょう」
「まずはあなたを拘束します、皆さんお手伝いをお願いしますね!」
「任せてください!」
「う、ウチもやるぞッ!」