島村卯月冒険譚~この世界で平和を取り戻す~ 作:アカツキ=ニュー
「ぐうぅっ!?」
「美玲ちゃん!」
対象と判断されてからの美玲に向けられた攻撃は
驚異的な俊敏さを伴ったもので、凛と攻防を繰り広げた彼女にも
万全の対抗は間に合っていない。
「は、早いッ……この動き、やっぱりみく、なのかッ?」
「さすが、美玲が住む村のリーダーだね」
しかし抑え込むだけならば数の利がある。
逃がさないよう未央と凛が包囲、美玲を狙う攻撃を彼女自身と卯月で防御し続け
「そこを退くにゃ、みくは美玲チャンにお話があるにゃ」
「私の友達です、それは聞けません!」
――ヒュンッ
(これは、避けられる!)
みくの攻撃は爪型の手甲で繰り出される斬撃、
右からの振り抜きを受け流すよう体を捻って避ける。
「にゃっ!!」
「次は反対――」
――ザシュッ!!
「っぐ?! え……!?」
そして左からの攻撃を同じように、避けられなかった。
いや、ただ避けられなかったのではない。
「卯月ッ!」
「邪魔をすると、巻き込まれても知らないよ?」
「今の攻撃、変だ……! おかしい、卯月は“当たっていない”のに!」
「え、えっ!? どういう事なのしぶりん!?」
凛の目からは、追えない攻撃の速度ではなかった、
そんな彼女の視界が捉えた結論が、あり得ない結果であった。
(避けたはずなのに……それに、それだけじゃない!)
「……あ、あれ? 今の攻撃って右から来てたっけ?」
右脇腹、卯月が負った傷の位置だ。
卯月から見て“左方向から”飛んできた爪の斬撃を避けようと右に逃れたところを
別の攻撃が命中してしまったのだろうか?
(怪我をした場所が“攻撃された方向”と逆に……!)
「これは……もしかして」
「う、うん、あの不思議な攻撃は、能力……もしかして、あの子も“種子”が――」
疑問が確信に変わる、あの謎の獣人――美玲曰く、前川みくという名の少女は
異能の種子を取得した人物で、更なる力を求めてここを訪れた者だ、と
「……その話」
「?」
「詳しく“聞かせて欲しい”にゃ」
――ダンッ!!
「わっ!? と……こっちに来た!」
予想を口に出した未央に、みくの攻撃の指針が向けられた。
「急に美玲ちゃんから未央ちゃんに攻撃が……!」
「でも、未央ちゃんはただやられるだけじゃないぞ! 反撃もする!」
距離はある、スピードでは敵わないが迎え撃つパワーを繰り出す準備は整えられる、
ちょうど卯月たちを挟んで反対側、こちらから前進すれば負傷の卯月も後方に庇える、
そう踏んで一歩、二歩と駆け出した未央だったが
「……“そこ”、ダメだよ?」
――ザリュッ!!
「がうっ!?」
「未央!?」
ちょうど腹部を掠め抉るような軌道で斬撃跡が走る、
辛うじてダメージが入った直後に飛び退いたため深手には至らなかったものの
「っ、また……!?」
「なんだ!? どうなってんだッ!?」
「美玲ちゃん、あの人はあんな能力を持ってるの!?」
「い、いや、ウチは知らないぞ! こんなの聞いた事無い!」
予期せぬ不意打ち、沙紀の時とは違う明確な“あり得ない”現象、
間違いなく絡んでいる異能の種子の力だが、美玲はかつてのみくにこれらの心当たりはない。
「能力……そっちの子も、何か“知っている”の?」
先程から過敏に“能力”への話題に反応するみく、
未央から再び彼女の視線は卯月へと戻り、武器の爪を構えていた。
「なんなんだよ、みくッ! ウチだよッ! どうしちゃったんだ!」
「美玲ちゃん、下がって……今、狙われているのは私です!」
「元に戻ってくれよッ! お前、ヘンだぞッ!」
「ふむ……“元に戻る”なんて言葉が出るあたり、
美玲ちゃんの中のみくちゃんと今のみくちゃんに違いがあるようですね?」
この一連の流れを遠巻きに、倉庫の防衛を行いながら観察していた春菜が動いた。
「春菜さん!」
「いやぁ、ずっと任せっきりなのも失礼かと思いまして……
ただ、おかげで少ーし予想がついたので、やっちゃいますね?」
「何してんだッ! 危ないぞ!?」
傍から見れば無装備――武器のつもりで持っているらしき眼鏡は意図が読めない――の春菜が
明らかな攻撃意識を持っているみくの前に立つのは危険、
美玲もそれが分かっているから止める、が、それでも彼女は前に出る。
「みくさんとやら、お探しの能力はこっちですよ?」
「!」
ピクリ、とみくが春菜の言葉に反応する。
もう春菜は“キーワード”が分かっている、後は予定通りに動くのみ。
「ただし、お渡しする分は用意していませんが!」
――カッ!!
「ぬわっ!?」
「眩し――」
「おや失礼、ですが眼鏡とは光るモノでして、わざわざ伝える必要は無かったかと」
「そんなの初耳だぞ!!」
突然の閃光に視界が白く染まる、その隙に春菜はみくに接近する、
しかし一直線にではなく大きく迂回――そのための時間稼ぎだったのだろうか、
ともかく近づくことには成功している。
「あなたの動きを観察していましたが、どうやらその両手がイタズラの原因ですね?」
「見れば分かるぞッ! みくはウチと一緒で武器はそのツメが――」
「いえいえ、そういう訳でなく。そちらの、えーと……卯月ちゃん未央ちゃんが受けた攻撃は
どうもあなたの主力武器、爪の引っ掻きと同じ傷を受けていますが」
「でも……卯月は攻撃に触れていなかった、それは私がちゃんと見ている!」
触れずに繰り出される攻撃――それがみくの見破れない脅威、
原理の分からない仕組みと相対するのはそれだけで大きな不利を被る、
実際に卯月や未央は決して小さくはないダメージを受けていたのだが
「そうです、触れずに……でも、違うものには触れていたんですよ」
「……?!」
「この不可解な攻撃の正体は……“一度避けた攻撃”の軌跡、これが答えですね?」
――ギィンッ!!
「……“能力”、その話、ちゃんとみくに分かるよう言ってくれる?」
「そしてそして、行動の単調さと“キーワード”に反応する様子から……
あなたは本当に“正気”のまま行動していますか?」
直接振り抜かれた爪の攻撃を簡単に受け止め、
密着状態にまで接近した春菜は同時に能力の予測までも行ってみせた。
一歩引いて観察に徹していたからこそ気付けた関連性、
卯月が傷付いた“攻撃の位置”は、ほんの数秒前に繰り出された逆手の振り抜きの位置、
つまりみくは己の爪撃をその場に不可視の状態で停滞させることが出来ていたのだ。
「そ、そんな事――」
「いや、あり得る……“能力”と考えると、かなり単純に説明がつく」
「でしょう? 私の予想、当たっていますか? 前川みくちゃん」
「……“能力”」
――バッ
春菜と眼前まで肉薄していたみくは、突如体を翻して向きを変える、
その視線の先には――凛が居た。
「……次は私なんだね?」
「その話――」
「はい、ナイスですよ凛ちゃん」
――ドッッ!!
「に゙っ!?」
視線を凛に向けた、つまりみくは間近に居る春菜を一切見ていない、
当然隙だらけの背後、首筋へ放たれた手刀を察知できるはずも無く
その場で崩れ落ちたみくは、気絶という形でようやく大人しくなった。