島村卯月冒険譚~この世界で平和を取り戻す~   作:アカツキ=ニュー

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第九幕 - 帰結点 -
ターニングポイント


来客用の部屋というのはシンプルなものが多いが

一部の重要な人物が相手となれば案内する先も変わるものなのだろうか。

普通、想像する客間とは豪華さが違うこの部屋に通された卯月たち、

しかしもちろん、招かれる側としてではなく

 

「例の一件、お答えが出たそうですわね」

 

卯月が立つのは入口横、客間の中央にあるテーブルを囲んだソファに座る事は無く

代わりに座するのはここへ客人を招いた当人である春菜と、

対面に居る一見これといった“力”と無縁に感じる人物。

 

「ええ、その件なんですけども」

「まさか『やっぱり断る』と言う為に私を呼んだのではありませんよね?

 もしもそんな理由で西園寺家に無駄足を踏ませたのならば――」

「いえいえ、もちろん違います、違いますが……

 我々の国家構成員から人員を提供するのは、やはり無理があるのですよ」

 

彼女は当作戦の依頼者、例の義賊とやらに狙われた家系の代表、

春菜たちの国家へパトロンとなっている西園寺家、名を琴歌と言った。

そんな彼女は今回の呼び出しに不満があるようで

先程から会話に飛ぶのは怒号が中心、なかなか穏便な対談とはなっていないようだ。

 

「えぇ、ええ、まぁ話を最後まで聞いてください」

「結構ですわ! 用意できたのか、用意できなかったのかだけ話して下さい!

 もしも用意できているならば、すぐにこの場に――」

「あのっ!」

 

口を挟むつもりはなかった、しかしあまりにも“立場”に縛られた春菜を

不憫に思い咄嗟に上げてしまった声。

 

「私達が、今回の任務に当たる者です!」

 

 

 

「素性は問いません、あなた方がどういう目的で国家から依頼を受けたのか、

 どんな経緯で話が通ったのか……私は一切認知しません」

 

結果的にスムーズな本題への橋渡しとなったのは幸運か、

今度こそ卯月たちを含み囲んだテーブルの会合、

自己紹介もほどほどに琴歌が告げたのはたった一つ。

 

「求めているのは任務の達成のみですわ」

「……お任せください」

 

結果至上主義といえば聞こえはいい、

詰まるところ成功と達成の確実な報告しか求めていない。

貴族という立場は敵も多い、そして求める成功の大きさも莫大、

失敗しましたなどの情けない報告は聞きたくないと琴歌の弁だ。

 

「えぇもちろん、私も国家から送り込む人員として保証しますよ」

「ならば構いません。絶対に賊を捕らえ、奴らの企みを阻止するのです」

「……捕らえる? えっ?」

「それくらいの気概でやれという事ですわ」

 

位の違いによる態度、威圧感はあれど根本の共通問題である襲撃への対策意欲は

並々ならぬものを見せている。実際、集まりにくいとは重々承知の応援要請も

結果的に誘致成功まで粘り勝ち、卯月たちを呼び寄せたのだ。

――最終目的の乖離は見られるが。

 

「……して琴歌さん、私にはほぼほぼ予想がついているのですが、

 今回の警備依頼の肝となる部分をお教えいただくと助かります」

「ならば事前に説明してください。……まぁ良いでしょう、私が説明しますわ。

 西園寺家に予告状なる粗末なものを送って来た盗賊団……その名は木村夏樹」

「夏樹……」

 

「しまむー、知ってる?」

「いえ……名前に心当たりは……」

「それは仕方ないよ、一応泥棒だし……卯月が読んでいるような古書になんて書かれないよ」

「捕捉になりますが、正確には木村夏樹と多田李衣菜両名を中心とした

 義賊団『ロック・ザ・ビート』となりますねぇ」

「……あのような輩など盗賊でじゅうぶんですわ」

 

木村夏樹と多田李衣菜、卯月一行には馴染みのない名前だが

この国のような情報が広く流動し浸透している地域では知られた名である、

続けて琴歌は詳細も説明したが卯月たちが知らなかったのは名前だけ、

活動内容については櫂から聞いたそれと大差ないものだった。

 

「中心は夏樹ですが、主に実行役は李衣菜の方です、

 対策もそちら側を中心に話した方が良さそうだと思いますが」

「……お任せしますわ」

「そうですか? なら、具体的な警備体制は我々が提案するとしましょう。

 なら卯月さんたちは顔見せも終わった事ですし、連絡待ちの解散という事で――」

 

 

 

「意外とあっさり通っちゃったね」

 

一朝一夕で決まる作戦内容ではないのは重々承知、

夏樹に関する情報も自分達が得られるモノは恐らく少ない、

むしろ調べたところで後から説明される内容の方が濃く重要なものになる、意味が無いのだ。

 

「空き時間、出来ちゃいましたね」

「うーん……どうする?」

「どうするって、決めてなかったし……」

 

本来ならばこちら側でも本番に備えて準備を進めるところだが

なにぶん経験が無い事柄への備えを行うなど何から手を付ければ良いか分からない、

そしてそれよりも上回る好奇心の矛先が一同にはあり

 

「じゃあ、この国を少し見て回りましょう!」

「そーいえば、入る時もバタバタしてたし入った後はいきなり本部ド真ん中だったし……

 ぜんぜん国を見て回れていないねー……どう? しぶりん」

「じゃあ少し待ってて、美玲とみくに伝えて来るから」

 

結局は自由時間を観光へと回す。

とはいえ猶予が丸っきり無駄になったわけではない、

しばらく滞在する、とまではいかなくとも主要国家の文明レベルを知る事は大いに益がある、

そうと決まれば早めに、現在療養中の二人に声をかけてからの出発だ。

 

 

 

「えっと……どう行けばいいんだっけ、これに乗ればいいんだよね」

 

村と分類されるような地域に住んでいた凛にとって

科学の文明が発達したこの国の基本的な移動手段や設備は慣れないもの、

例えば今も、エレベーターと呼ばれる装置の前に立っている凛だが

上階へ向かうボタンを押したものの、いつまで経っても扉は開かず

 

「……え、止まってるの? ……もう、待って損した」

 

側面のデジタル画面に流れていた“故障中”の文字を確認するまでにかなりの時間を要した。

結局、目的の階はかなり上になるものの階段で地道に進むしかない、

が、凛にとっては足での移動のが慣れたものかもしれない、トントン拍子に歩を進めた。

 

――コツン、コツン、コツン

 

(あと何階くらい上がればいいんだろう)

「おっと、横失礼するよ」

「ん、ごめんなさい……通れる?」

「ああ、ありがとう。この階段狭いな……、ま、普通は使わない非常階段だから

 多少は仕方ないところもあるか……ところで」

 

 

 

「なぁ、アンタが琴歌の依頼を受けた三人組……の内の一人か?」

 

順調に進んでいた足が、止まった。

すれ違った人物、特に気にかけていなかったがその姿をよく見れば妙に見覚えがある、

素肌を隠すような服装だが隙間から覗く顔が特に――いや、違う、

この人物に関して、見覚えがあるのは“顔”以外になかった。

 

「……え?」

「まぁちょっと聞いてくれよ、アタシも困ってるんだ。

 なんせ“アタシが実行犯”にされてるんだ、全然関係ないヤマなのにさ」

 

見覚えがあるのも当然、なぜならその“見覚え”は

つい数分前、あの客間で目を通した資料の中にあったもの。

 

「アタシの名は木村夏樹、三日後に西園寺家への襲撃を行う……“事にされた”被害者さ」

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