島村卯月冒険譚~この世界で平和を取り戻す~   作:アカツキ=ニュー

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アタシじゃない

「……いきなり信じろってのも無理な話だよな、

 むしろ……ここで確保しようって事も、考えてたりするか?」

 

間合いは上下こそあれ直線で数メートル、段数にして十、

相手の力量は高いと思われるが悪くて五分、もしくは有利に立ち回れる位置関係だろう――

 

「話をしてくれる気があるなら立ち止まってくれ、上がるも下がるもナシだ」

「…………」

「オーケーって事だな? 助かったよ、窓をぶち抜いて騒ぎにはしたくなかったからな」

 

――ただし相手に戦う意思があれば、である。

凛が前進もしくは後退を選んでいたならば即座に夏樹は撤退していただろう、

踊り場脇の窓までの距離は二人の間合いよりも圧倒的に近い。

 

「何を言いに来たの?」

「そりゃ気になるよな、実を言うとアタシも何も言う気は無かったんだ」

「だったら――」

「どうしてわざわざこんな事をアンタに伝えに来たかって言うと……警告だよ」

 

「この依頼、アンタは受けない方が良い」

 

 

 

凛は考える。

この、唐突に降って湧いた情報は何だ。

夏樹は何を狙っている、もしくは――何を伝えようとしている。

 

「そっちのお嬢様曰く、アタシは盗賊だからな? 盗み聞きくらいやるさ」

「……いったい何の話?」

「全部だよ、アタシとだりーの事、活動内容とかも話してたっけ?」

 

手段は分からないが盗聴されていたのは確かなようだ、中の会話は把握されている。

とはいえ作戦への致命的な情報漏洩はしていない、それ以前に作戦が確立されていないのだ、

不足しているものを知ろうとして、そもそも存在していないという状況。

 

(私を通して、作戦を知ろうとしている?)

「ま、中身はいいんだよ別にさ」

「……いいんだ」

「ああ、そんな事よりも大事な事さ」

「私が依頼を受けない方がいいって話?」

 

最初に夏樹が話しかけてきた際の言葉が想起される、

疑う事の無かった“実行犯”本人が発した想定外の言葉。

 

「実行犯にされてる、って言ったね。……それ、どういう意味?」

「そのまんまだよ、アタシは襲撃を企てた事にされるんだ」

「……意味わかんない」

「だろうね。それだけを言いに来るアタシの行動も、かな?」

 

仮に嘘偽りのない真実だとしてそれを凛に、相手側の警備役へと伝えてどうなるのか、

そもそも真偽など確かめようが無い、琴歌や春菜に相談など不可能な内容だ。

 

「間違いなく真実として言えるのは……『アタシ達は予告状を送っていない』だよ」

 

だが夏樹の言葉は不思議な“迫力”を感じた。

言葉の強弱だけで真偽を決断させるものではないとは分かっている、

しかしそれでも“適当な戯言”と一蹴するには、余りにも言葉に込められたパワー、

そしてプライドが賭けられていた。

 

「これはアタシの名を勝手に使われたことへの怒り、

 義賊の評価を無関係なところで傷つけられちゃたまらない」

 

――だから、こちらへ少しの加担をしに来た。

 

 

 

「そっちが降りれば、この襲撃はそもそも発生しない」

「どういう意味?」

「はは、アタシを信用して無いんじゃなかったのか?

 無関係な第三者から情報をこれ以上聞くのは野暮だろ?」

 

夏樹から持ち掛けてきた話だろう、その言葉を寸での所で飲み込み

考えるべき謎の多い、彼女が与える少しの加担を受け取る。

 

「アタシはただ、ほんのちょっとの手間だけでアタシが得をする……いや、違うな、

 損をせずに済みそうだと思ったから動いただけ、実るか実らないかは……ははっ」

「私次第……って言いたいの?」

「ああ、そうさ」

 

「無視してくれてもいい、この話を報告したっていいさ。

 アタシが撒いた種の管理は任せた、どう扱うのも自由だし捨てたっていいよ」

「……!」

 

去り際に見せた夏樹の表情、そこらの男共にも負けないような凛々しさ、

この情報をどう扱おうが自由と言い放って一方的に投げかけてきたモノは

確実に凛の中に謎を残していった。

 

 

 

「凛ちゃん、おかえり!」

「遅かったじゃん! 何してたの?」

 

本来の目的をこなす時間は微塵もかからなかった、

帰り道のエレベーターは問題なく動いていたところを見ると

それすらも夏樹の仕業かもしれないと疑問は更に拡大する一方で

凛の身体は二人が待つ地上へと戻ってきてしまっていた。

 

「……さっき、会って来たんだ」

「うん、美玲ちゃんとみくちゃんにだよね」

「今回の相手……木村夏樹に」

「……へっ?」

 

話そうか話すまいかの葛藤は無かった、これまでも疑問は三人で挑戦し解決してきたのだ、

胸中の疑問が晴れないまま目的地に着いた凛は自然と先の階段での出来事を話す。

 

 

 

「うーん…………しまむー、どう思う?」

「どうって……どう、でしょう」

「真偽は私達が判断する事じゃない、依頼主がする事だよ」

「でも、その依頼主の琴歌さんへの反対意見じゃないですか」

 

もちろん、卯月や未央が夏樹の意図を一発で理解できる程の

観察力や想像力を持っているわけではない、むしろそれらは凛の方が優れている、

つまり話したところで解決する事は無いのだが気の持ちようは大きく変化するだろう、

それとは別に凛自身が気を向けていなかった部分への心配も。

 

「しぶりん、他に何かされたとかは?」

「そ、そうです! もしかすると凛ちゃんに種子の力で何かされたかも……」

「知らない間に受けていたら分からない、でも何もされていない気はする」

「一応念の為、触っておきましょうか?」

「……あまり意味はない気がするけど、経典は種子の回収だけでしょ?」

「あうぅ……」

 

経典の効果として種子本体、能力そのものは没収できるが能力自体の発動条件、

既にかかった能力を剥がす力は無い、これは解呪の道具ではないのだ。

 

「細かい事は分かんない! しぶりんに分からなかった事は、私にはもっと無理!

 ……それで終わっちゃうと意味ないから、二択まで狭めよう!」

「二択、ですか?」

「そう! その、えーっと……夏樹? って人が私達に話しかけてきた理由!

 突き詰めれば……『本当』か『嘘』か、じゃない?」

 

「“本当”だったら?」

「私達が居るから、夏樹は琴歌さんへ襲撃する」

「じゃあ……“嘘”だと?」

「私達を追い払って、琴歌さんへ襲撃する」

「……どっちも駄目じゃない?」

「あれぇー……?」

 

 

 

結局、結論は出ない。当然だ、推理の材料が足りなさすぎる、考える以前の段階である。

せいぜい三人が考えられる、考えるべき夏樹に対しての事柄は

これらの遭遇を三人以外の人物にも情報として共有すべきか――この一点に尽きる。

しかしこの決断すら後回し、話すか話さないべきか悩んだまま翌日になり、いざ琴歌と対面、

触れないまま迎えた二度目の席では思いもよらぬ切り口から話が始まった。

 

「昨日……面白いことをしていらしましたわね?」

 

先に話題を振ったのは、まさかの琴歌から。

曰く、彼女もただ会議室の椅子で口だけを動かしていたのではないとの事、

それなりに動かせる部下もおり、把握する情報のルートも

恐らくは卯月達の想像も及ばない方法、なのだろう。

そんな、一連の夏樹との邂逅劇を知った上で琴歌の口から告げられたのは

 

「耳を傾けない事ですわ」

「…………それ、だけ、ですか?」

「それにしても夏樹、私の防衛網を突破する良い策が思いつかなかったのでしょうか?

 まさか個人で、それも警備の人員を誑かそうなどと……褒められた策ではありませんわ」

 

どちらかと言えば琴歌の関心は夏樹の取った戦略に向いていた。

琴歌に言わせれば愚策、確かに内側から防衛網を潰そうにも

今回その防衛に当たるのは春菜たち国家サイド、琴歌を裏切るメリットは皆無で

唯一の外部からの参戦にあたる卯月たちすら例外ではない。

 

「結構、昨日の接触は賊側も攻略の手筈が整っていない証拠……

 こちらは当日までまだまだ防衛を強固にすることが出来る、完璧ですわ」

「とりあえず、OKかなぁ?」

「よかったぁ……」

「もちろん皆様も、次からは私から話させる手間を取らせないでください、

 何かあったらそちら側から私の耳に届ける事ですわ、以上」

「……うん、そりゃあそうだよね」

 

とはいえ報告が遅れたお咎めは無しに終わる、

軽い注意だけを受けた一行はその日の説明を受けた後、同じように解散する。

 

(……あれ?)

 

しかし、部屋を出た直後――思い返せば、何か引っかかる。

その疑問、違和感に気付くことが出来るかどうかが

今回の“真相”に辿り着けるかどうかに直結するとは知らずに――

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