島村卯月冒険譚~この世界で平和を取り戻す~ 作:アカツキ=ニュー
「さっきの話ですけど……変じゃないですか?」
「……変?」
真相に辿り着くための第一歩は、幸運にも卯月が“真相”の取っ掛かりに
手をかけた、違和感という突起に気付いた事により踏み出された。
「私達が今回の……敵である夏樹と接触したって、琴歌さんは知ったんですよね?」
「だね」
「しかも、その話題を私達は話さなかった、琴歌さんが切り出すまで」
正確には話すタイミングを見失っただけなのだが
それは卯月たちの都合であり琴歌視点から考えると
意図的に話さなかった、隠していたと取られても仕方のない話だ。
「でも……」
「そこは触れられなかった」
「私が『自分の味方が相手の大将と接触』していたら……怪しむと思うんです」
今回の相手となる人物、木村夏樹。
その当人と接触していた“警備部隊”となれば、その事実に対してどういった反応をする?
少なくとも、好意的な解釈はしないだろう、特に今回の作戦に対して強い意気込み、
外部の手を借りてまで取り組んでいる琴歌が聞けば猶更なはず。
「ただ単に、そこまで気が回らなかったとか」
「これだけ厳重に計画も立てているのに……?」
「確かに変と言われたら変かもしれないけど、気にし過ぎかもしれないよ」
「だけど――」
「何かあるかもしれないなら、逆に聞いちゃう形になるけど……何があると思う?」
引っ掛かりは見つかった、しかし今は“だから何があるか”の域を出ない、
結果引き起こされる行動が無意味ならば、心配は思い過ごしと判断するのが妥当だろう。
仮に琴歌が何か良からぬ事を企てていると考えよう、
夏樹は決して琴歌をどうこうしようとは伝えてこなかった、
自身が被る可能性のある被害を避けようとする手段の一つとして接触してきたのだ、
この事から琴歌の企てはおおむね夏樹関連であると言える――要するに問題が無い。
「琴歌さんは、夏樹が打つ手無しの中で唯一崩せそうな私達に迫って来た……
そして私達が報告しなかった、つまり私達が向こうに加担したと――」
「え、でも、凛ちゃんは何も……」
「きっぱり断ったとは言ってない。……そもそも、何か協力してとも言われなかったけどね」
「私達と夏樹が接触するのは想定済みだった……もしくはそもそも接触させる予定だった」
「しぶりん、それって何のために?」
「夏樹の行動を操りたかった……よく考えたら、私達をわざわざ雇ったのは
こんなわざとらしい隙を作るためだったんだ」
コントロール、夏樹を操った。
強固過ぎる壁を作れば侵入を防ぎやすいが、夏樹はなかなかに強敵である、
もしもの侵入手段を用意してこないとも限らない、
ならばあえて崩しやすい弱点を作る事で賊の侵入口を操った――
「…………うーん」
「しっくりこない? でも、これなら説明がつくと思う。
琴歌さんの気合の入り様を見ていると、これぐらい徹底的な詰め方をするはず」
「いやぁ、凄いねぇ……義賊なんて言われているけど、盗賊を捕まえるために全力!
ちょっとイメージ変わったかも、第一印象で決めつけるのはよくないなー」
「これが答えとは限らないけどね」
「でも、言われてみればそうかもしれません! 念の為、他の可能性も考えましょう!」
しかし、考えども答えは出ない、糸口を見つけても解けなければ成果は得られない。
実のところ、ヒントはあった。一行に観察力と推理力があれば一連の違和感の正体と
今回の事の顛末、最終的なビジョンまで辿り着けたかもしれない。
しかし――時には、真相が判明したところで防止しようが無い、
真相へ至る過程の道筋が不可解を極める場合も、あるのだ。
そもそも、真相までの道筋を彩る演者の情報を、卯月達は知らなかった。
いや、このような“仕掛人”が暗躍しているなど、誰が想像できようか――
――遡る事数時間
「接触したのは、あなたでは無いのですね?」
まだ外の景色は薄暗い、反して内装煌びやかな室内は例の来客用部屋ではない、
ここは国家中枢本部から少し離れた位置にある豪華な邸宅――西園寺家の屋敷である。
当然、話す相手は卯月たちでも春菜でもない、
「向こうも馬鹿ではないという事ですわね……先手を打ってくるとは」
「あははっ」
「笑っている場合ではありません」
漂う空気、決して楽観視できる雰囲気ではないはずの場で、その“誰か”は笑ってみせた。
琴歌は情報を得ていた、例の人物が自身の駒に接触するという先手を打ってきたことを、
例の人物とは言うまでも無い、今回対峙する相手である木村夏樹、
そして自身の駒とは卯月たちの他ならない。
琴歌と話す“誰か”こそ、今回の作戦の核。
これは卯月たちに知らせていないのは当然で、直接的な協力者である春菜にすら伝えていない、
秘中の秘は琴歌の中にしか全貌が用意されていないのだ。
しかしこれを知ってか知らずか、夏樹の直接介入により秘策の組み立てはズレた、
本来なら可能な限りこちらの作戦の発覚を防ぐために接触は控える予定であったが
卯月たちでも感じ取れるほどに強い作戦成功への意気込みを持っていた琴歌は
些細なイレギュラーにも敏感に反応し、この会議を組んだのだ。
「作戦は無駄にならないよう予定の組み直しを――」
「その前に、琴歌さん」
接触を求めたのは琴歌の方であったが、相手側にも丁度良い機会であったようで
特に夏樹の出現という情報を仕入れてから“彼女”にも相談案件が発生していた。
「私から一つ、提案があります」
「……それは当初の私の目的から遠ざかる可能性がある内容では?」
「嫌だなぁ、私は琴歌さんに協力しますよ? それが第一ですっ♪」
「でも……あくまで本来は協力関係、
支障が無い範囲で私に融通を利かせてくれてもいいと思うんですっ」
「…………話を聞きましょう」
琴歌は却下しない、まずは話を聞いてから判断するというのもあるが
彼女にも一方的に要求を押すだけではいけない、匙加減を見る必要がある。
なぜなら琴歌にとっても“彼女”は欠いてはならない存在だから、
替えの利かない唯一無二、その力が彼女にあった。
「ありがとうございますっ♪」