島村卯月冒険譚~この世界で平和を取り戻す~   作:アカツキ=ニュー

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惑わす

「逃げられませんよ? ここが丈夫な金庫である事は本当なんですっ、

 頼みの英雄は戦闘不能で、お友達もバラバラに分かれたところですよね?」

「愛梨さん、愛梨さん!?」

 

反応が無い。

愛梨の受けた傷はナイフ一刺しとはいえ、部位が悪かった。

ただでさえ少ない消費でなんとか経典と共に維持している活動エネルギーが

盛大に流出する傷口を閉じないまま戦えるほどの余裕は無く

 

「それで、卯月さん? どっちにしますか?」

 

先の選択肢、優位に立つ者が投げたどちらも選べない二択を迫られる卯月。

悠貴と名乗った少女はそもそもの矛先が経典本体、

麗奈や沙紀の時とは異なる別の狙いがあるのだろう、それらを今探る事は出来ない、

もちろん知った所で譲渡する選択肢は選ばないが。

では残ったもう一つの選択――これも甘んじて受け入れるつもりはない。

 

「はあっ!!」

「わわ」

 

――ドォンッ!!

 

(避けられた……!)

「危ないじゃないですかっ! でも、そんなに派手な魔法だと当たりませんよ」

 

悔しいが悠貴の言う通り、卯月は破壊力こそ高い派手な攻撃手段を持つ、

しかしこの決して広くはない空間――例えるならばバスケットボールのコートほど、

溜めて放つタイプの魔力砲を構える程の時間を悠貴が与えるはずが無い。

 

(攻撃も、愛梨さんへの援助も難しい……!)

「急には決められませんか? それじゃあ先にお話しましょうっ、

 まず……私がどうやって卯月さんにバレずここまで近づけたのか、分かりますか?」

 

浮かべる満点の笑顔は却って不気味、崩れない表情は余裕の表れか

それとも、このような大胆な作戦を決行出来る精神に依存しているのか。

だが、卯月も押される一方ではない。

 

「……“幻惑の腕輪”」

「!」

 

「実物を見たことはありませんが……愛梨さんが残してくれたヒント、腕輪……

 私の思い当たる知識を探して、見つかった答えがそれです」

「……ご名答ですっ♪ 私が身につけているものは、幻惑の腕輪と呼ばれる道具ですっ」

 

悠貴が差し出した右手、卯月の視界は彼女の手首にブレスレットのような装飾が見えた、

そして先の怪現象、琴歌と思っていた人物が突然に悠貴とすり替わった――

いや、これは悠貴の言った通り“元から悠貴だった”に違いない。

 

「身につけた人物は……その人が“別の人”だと誤認するという……

 失われた魔術を封じた腕輪、それが幻惑の腕輪……!」

「良く言えましたっ」

「それが、どうしてこんなところに!!」

「やだなぁ、卯月ちゃんだって同じモノを持っているじゃないですか、こんなところでっ!!」

 

――同じもの

 

 

 

“十大秘宝”

 

 

 

「くうっ!?」

「私はそんなに戦ったりするのは得意じゃないんですけど、

 本当はこっそり話を終わらせたかったんですっ」

 

言葉とは真逆に、悠貴は手に持ったナイフで斬りかかりながら卯月へ急接近、

確かに攻撃の手は凛や未央、美玲と比べても速度では劣るも

魔力充填のために集中する必要がある卯月の気を逸らすには十分すぎた。

 

「でも、最初の一手で愛梨さんを落とせるなら、そっちを優先しますよねっ!」

(愛梨さんの事も知ってる、この人は一体……どうして経典を!?)

「大人しくそれを――」

「嫌ですっ!!」

 

――ドガッ!!

 

「ぐえっ!!」

「っ……チャンス……!」

 

大したダメージにはなっていないが偶然にも綺麗に命中した足が

悠貴を後方へ吹き飛ばし、よろめかせた。

またとない好機、卯月は魔力の充填を始める、少しでも溜まれば華奢な悠貴を仕留めるのに

十分な威力を放てると自負しているエネルギーを

 

「いっ、けぇッッ!!」

「!!」

 

――パァンッ!!

 

 

 

「ぅ~~……あ、危ないじゃないですかっ」

 

弾丸のように飛翔した魔力の粒は、悠貴の脇をすり抜けて壁面に命中、破裂――

彼女へダメージを与える絶好の機会だったが、惜しくも体へ当てる事が出来なかった。

 

「っ――」

「遅いですよっ!!」

 

――ヒュンッ!!

 

「もう距離は見切りました、私の方が射程は広いですねっ!

 今度は偶然の攻撃だって当たらないよう警戒します! つまり――」

(受け止められない、刃物は手じゃ……)

「そこです!!」

 

――ピシュッ!!

 

「あぅっ!!」

 

単調だが悠貴の攻撃の手は休まらない、反撃の機会は綺麗に詰まれた切り口は

徐々に卯月の体力と精神力を削り、切っ先が肌に届くところまで射程に踏み込まれる。

多少強引でも魔力を溜めようと試みるが、同時に二つの事柄へ意識を向けるのは

今の卯月にとって厳しい作業で

 

――フッ

 

「駄目……!」

「させませんよ?」

(上手い、ぜんぜん……集中させてくれない!)

 

たまらず距離を取った卯月、

魔力のコントロールを放棄すれば多少は早く動けるもののこれでは事態の解決はしない。

 

「間合いを取っても、これくらいの距離なら一瞬で近づけますよ?

 それに逃げるとしても……ここは元々侵入されないための金庫なんですから」

(扉は閉まって、琴歌さん――と、悠貴しかパスワードは分からない……)

 

逃走、脱出までのステップ、まず扉を開ける鍵は分からない、

次に扉もしくは壁面の破壊は、ここが金庫という事を考えると破壊は困難だろう。

そもそも攻撃の為の魔力すら溜めさせてもらえない今、現実的な手段ではない。

つまり残された選択肢は、これまた自動的に狭められ

 

「倒すしか、無い……!」

「もちろん簡単にはさせませんよっ!」

 

構えた魔力は即座に薙がれたナイフにより散らされる、

やはり悠貴を出し抜いて攻勢に回るのは難しそうだ、が、やらなければならない。

こうして相対しても今一つハッキリとしない敵の目的、思惑――

腕輪という幻覚に全てが霞掛かった相手と、逃げ道の無い戦いを始めるのだ。

 

「卯月……頑張りますっ!!」

「なんですか、その掛け声っ」

 

――ヒュンッ

 

「くっ!」

(避け続けていたら、キリがない……! かといって……)

 

――キィィン……!

 

「だから駄目ですってばっ!」

「んっ、くぅ!」

 

運よく見逃してくれるまで繰り返す?

それよりも先に卯月が隙を晒して一撃を貰うのが早いだろう、

どのみちダメージを受ける程、時間が経つ程に疲弊するのは卯月の方、

――さらに最悪のパターンを考えると

 

(救援も、望めない……!)

 

凛や未央が異常に気付いて助けに来てくれるか?

いや、琴歌の姿と偽って接近した悠貴が居る、

元よりこの悠貴の計画は彼女も絡んでいると踏んでも疑いすぎにはならないだろう、

そして何よりも“そうだった”場合は

 

「誰もっ! 助けには、来ませんからっ!!」

 

――ザンッッ!!

 

「ぐっ、う!!」

 

卯月の身体に、明確な筋が刻まれる。

深い傷ではないが戦闘開始から大した時間も経っていない間に一撃、

これから長引くほどに尾を引くダメージが原因で二撃、三撃と貰い続け、

最後には倒れる――明白だ。

 

「ふぅぅ……はっ!!」

「しつこいですねっ、と!!」

 

――ザシュッ!!

 

 

 

二撃目は

 

非常に深く、刻まれた

 

 

 

「ぐぅッッ――――」

「あはは……あれ?」

 

――イィィィ……

 

「……ふッ!」

 

――ザンッ!!

 

 

 

――ィィィン……

 

「あれれ?」

「痛く……ない、です!!」

 

そんな訳が、ない。

二度、三度どころではない。

 

せめて受ける部分を限定しようと背を向け、大事な手は内に隠した。

手と、魔力は死角に隠したのだ。

 

 

 

それ以外は、外へ投げた。

 

 

 

「ふっ……あははっ! 凄いです、凄いですよ卯月ちゃんっ!!」

 

――ザンッ!!

 

「あぁぐッ!!」

「もしかして、我慢して溜めようとしてますかっ?!

 刃物を持った人が前に居るのに、防御も避けもせずっ!!」

 

ダメージと集中は関連があるようで遠い、

いくら外部から妨害があろうとも集中していれば、

その動作に絞って体を動かしていれば魔力の球は弾ける事は無いのだ。

 

「いいですね、いいですねっ! そういうの大好きですっ!! でも卯月ちゃんっ♪」

「ぐ――うぅ!!」

 

一瞬でも躊躇わせれば、驚愕させられれば余計に時間が稼げる、

その願望は届かなかった、一切の手心なくむしろ嬉々として切り刻まれる体――

とはいえどんな形だろうと耐え切れば勝ち、

十数秒も掌に込めた魔力は金庫内を無差別に衝撃で吹き飛ばす、

悠貴が隠れようが防御しようが防げない威力を叩き出す自信があった。

 

(ここ一回、これだけ耐え切れば……一撃!!)

「私、そういう頑固な人を、折れさせるのが得意なんですよ?」

 

――ピッ

 

 

 

プシュッ

 

 

 

「あ――ひッ!?」

 

視界を横切る一閃、背を向けていた弊害で

悠貴が何をしようと背後で模索していたのかを見ていなかった。

確かに守りは硬い、しかしこの構えは体の特定の部位を傷つけないためのものであり

“集中”を乱さないための姿勢ではない。

 

「そして……そうやって『良い作戦だ』と……

 勝ち誇っていた人が落ちるのを見るのも、とっても大好きなんです♪」

 

――パキィンッ

 

「ぁ……」

「ほら……大事な魔力が、割れちゃいましたよ? ……あはっ♪」

 

頬から鼻筋、そして反対側の頬へ、

目の前を突然すり抜けた銀色の線が、痛みと共に赤い線を引く。

ここまで不意の、文字通り目前に迫った刃に動揺しない者が居るはずもない――

 

卯月の覚悟は、あっさりと切り裂かれた。

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