島村卯月冒険譚~この世界で平和を取り戻す~   作:アカツキ=ニュー

40 / 45
誘導

まずは戦意を失わせるために、相手の切り札を蹴る。

意外に思えるかもしれないが追いつめて切られるカードなどたかがしれている、

温存して最後の手段と温めた攻撃は、リターンよりもリスクのが高い。

 

強者ほど、最初の一撃が強烈である。

 

(勝つためには、一番強い攻撃を最初に使ってすぐ決着をつけるのが賢いに決まってますっ)

「でも私は違います、勝つだけが目的じゃないですからねっ」

 

相手である卯月は、その渾身の覚悟を悠貴の手によりあっさりと潰された。

彼女の実力不足ではない、悠貴が“追いつめて切られるカード”への対処に慣れ過ぎている、

例えば今回の場合に卯月がそもそも選べる手段は限られており

悠貴が候補として想定していた“耐える”に対して、決着に近づくわけでもなく

しかし相手の戦意を削ぐには非常に効果的な一手を放った。

 

(見たところ、卯月ちゃんは戦闘慣れしていない……ってわけではないですけど

 玄人でもありません、つまり……“本気”と合い見えた事が無い)

 

今までが遊びだとは言わないが、旅立ち前の仲間内での模擬戦は当然

奈緒も交戦ではなく救出、麗奈もカラクリを理解できたからこその暴挙に見える進撃、

沙紀と戦った時は明確な攻撃意思と直面したものの一人での戦いではなかった。

そんな中で初めての恐怖を煽る一閃――繰り返しになるが、効果はやはり抜群で

 

「はぁっ、はぁっ……」

 

ただの息遣いではない――震えている。

 

「……いいですねぇ、さて、次はどうします?」

 

 

 

(これで折れる人も居る、でもそうじゃなかったら……取る行動は二種類!)

「う、ぁ――」

「どっちですか? 逃げますか? それとも……向かってきますか?」

 

悠貴は戦闘型ではない、しかし戦闘に関する知識は豊富かつ有用に扱う、

勝つ為の知識というよりも負けない知識、そして負けないための理由はもちろん、

自信が優位に立っている時間を増やすためである。

煽りは判断を誤らせる、焦らせれば見誤る、

それらへ誘導する意味は趣味が半分、そして戦略が半分。

 

(基本的には二種類、でも……例外を警戒するために!)

 

逃走と戦闘、悠貴はさり気なく卯月に二択を提示した、

まるでそれ以外の選択が無いかのように、そして選択を急かす。

第三の選択を用意する思考と時間を与えない。

 

「はぁ、はぁ……」

「どうします? どちらでも私は構いませんよっ」

「……ッ!」

 

――ダッ

 

「ま、近づいて来ますよねっ」

 

 

 

卯月は悠貴に向かって走ってきた。

うまく誘導した、予想外を避けて無難な選択肢を取らせた、

安直に突進を選んだ卯月を対処するなど簡単な事。

 

「……ごめんなさい!!」

 

――ヒュンッ!!

 

「!?」

 

駆け出した卯月の手から放たれた――

もしや感知できなかっただけで魔力の充填が終わったのか?

とも考えたが瞬時に悠貴は状況を正しく理解する。

 

投げつけられたのは“モノ”である、魔力を纏った武器の類ではない普通の物質、

そもそも卯月は武器を持っておらず投げて有効なモノなど持っていない、

が、卯月はふと気づいた、そして――実行しようと考えた。

 

投げたのは、そもそも絶対に手から離さないために戦っているはずの、経典。

卯月は戦いの動機を、矛盾を武器として投げた。

 

「なるほど、降参ですか? ……それとも、この隙を突くつもりですか?」

 

言葉では余裕を醸し出していても思考回路をフル回転させて意図を読み解くのが

戦闘において重要な、主導権を握り続けるための秘訣である。

この場合では“奪い取るもの”を“むざむざと差し出してきた”理由――解答はすぐに来た。

 

――キィィンッ!

 

「はああっ!!」

(後者、ですね! ここからでも戦おうとするのは褒めてあげますっ♪)

 

経典を取りに来た悠貴は、目の前に差し出された――正確には投げつけられた経典を

取らないわけにはいかない、となると必然、卯月への対処は二の次となる。

その隙を確実に生み出せる道具として卯月は経典を放ち、同時に魔力を溜め始めたのだ。

 

(とはいえせいぜい、一瞬だけしか溜める時間は稼げませんよ?)

 

(こうすれば、たっぷり時間を稼げるはず……一発で決められるだけの、大きな!!)

 

差があるとすれば、両者の間にあった認識の違い――

相手がどれほどの人物かを見誤った方が負ける、

相手をコントロール出来たと過信した方が、負ける。

 

 

 

「卯月ちゃん、何か勘違いしてませんか?

 確かに私は頑固な人を折れさせるのが好きですけど、好きな事を優先しすぎて

 お仕事を失敗しちゃうほど馬鹿じゃないですよ?」

 

――パシィッ

 

「時間を稼いで反撃のつもりだったんでしょう? でも、違うんですっ」

 

悠貴は経典を手に取った、そして卯月はこの隙を突き魔術を溜める予定なのだろう、

そうなれば悠貴が手を出した瞬間、僅かながらも圧縮された魔力の砲弾が身体を貫く。

 

だが、違うのだ、それこそが認識の違い――

 

 

 

悠貴は、卯月を、倒す必要が、無い。

 

 

 

「これを手に入れたら、私はここに残る用事なんて……ないんですっ!!」

「……!」

 

そう、この隙に溜められた魔力と、関わる理由がない。

手にした戦利品を持って、逃げてしまえばいいのだ。

返す刀が振られる範囲から、呆気なく去るだけで勝利が確定する。

 

閉じられた金庫の扉は卯月にとって障害になっても悠貴は違う、

彼女はパスワードを知っているのだ。

さっさと扉に駆け寄って、せいぜい一発程度しか放てない魔力の弾にだけ気を付ける、

後は迂闊な戦法を取り、悠貴の私事と仕事に対する優先度を見誤った卯月を尻目に

走り去れば任務は達成される――

 

 

 

「……知ってます」

 

はずだった。

 

「だから悠貴さんには、ここに“残ってもらう”つもりだったんです……!」

「っ!? な――」

 

 

 

(キーが、壊れてる!? いつの間に、どのタイミングでっ!?)

「これじゃ逃げられな……はっ!?」

 

 

 

――いっ、けぇッッ!!

――!!

 

 

 

「もともと……逃がす気は、無かったんです……!

 あの時はあのまま当てても倒せるか分からなかった……だからっ」

 

運よく命中した蹴り、偶然降って湧いた隙、

卯月は悠貴への攻撃にではなく悠貴を逃がさないためにその隙を利用したのだ。

 

(あれは私を狙ったんじゃなくて、この金庫の鍵を!?)

 

外壁は強固でも電子機器は精密なもの、

数個のキーパッドなど魔力の塊が直撃すれば簡単に破壊できる。

そして、最終的に卯月が悠貴をコントロールした、

経典を渡せば逃げに走ると予測し、あらかじめ防いでいた脱出路へ誘導すれば――

 

「充填、完了ですっ……!」

「ははっ……なるほど、そういう事でしたか、一本取られちゃいましたね」

(……私としたことが、ちょっと調子に乗っちゃいましたねっ。

 ちょっとのダメージでも仕事に支障が出ちゃうので、静かに過ごしたかったんですけどっ)

 

「しっかり狙ってください♪ 外したら……もう遠慮はしません、殺りますからね?」

 

しかし悠貴も一手上回られたくらいでは揺るがない、

なにせ状況を冷静に振り返っても“卯月の攻撃ターンが一度回った”事と

“逃走路は塞がれたものの卯月も同じ、そして自分は琴歌と繋がっている”くらいで

自身の優位性は変わらないものである――と、思っていた。

 

「……残念ですけど悠貴さん、脅しは意味がありません」

 

――キィィィ……

 

(え……あれ? 何ですか、この……魔力……おか、おかしいですよっ?

 だってこの部屋、こんなに狭いのに……あの密度だと、それじゃあ――)

 

悠貴は魔力の操作は得手としていない、むしろ鈍感な類に属する側、

しかし目の前の少女からはそんな自分自身の鈍いアンテナでも感じ取れるほどの

強大すぎる、空気が張り詰めるほどの魔力――

 

「あんなに怖い、顔を切られるなんて……すごく、怖くて、手が震えて……だからっ」

「まさか、嘘ですよね……? そんなのを爆発させたら……」

「大丈夫です……この金庫、頑丈なんですよね? だったら、外に被害は出ません」

 

返答を聞いて確信した、これから何が行われるのか。

単純に、想像に容易い例えがある。押し固めた空気を破裂させると、その周辺はどうなる?

 

「今から“やる事”が、それよりまだマシだって思えるように、なりました」

「ま、待ってください!! そんな事をしたらそっちまでッ――」

「ここ一回、これだけ耐え切れば……これが私の、覚悟ですっっ!!」

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。