島村卯月冒険譚~この世界で平和を取り戻す~   作:アカツキ=ニュー

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遊娯楽国家キルト

国家の持つ力のうち分かりやすいものの一つとして挙げられるのが武力、

では同列に掲げられるものは何かと聞かれれば、財政力だ。

財政により支えるモノは結局武力になるパターンが多い、

しかし“この国”ではそれらの比重が圧倒的に金銭へ傾いているのだ。

 

 

――遊娯楽国家キルト

 

 

夜間でもネオン光り輝く街並みは常に人と金が動いている証拠、

にも拘らずアンダーグラウンドな世界特有の“踏み入れにくさ”が無いのは

敷かれたルールをきちんと守れば、誰でも等しく受け入れられる寛容さ故。

 

見渡せば街道の左右に立ち並ぶ遊戯施設、

中でも最も人と金の往来が激しいスポットが国家の顔でもある

カジノ“メイデス”だ。

 

 

 

「わ……!」

 

やたらと派手派手しい音色が響き渡る騒がしい店内一角、

手軽ながら一発の返しが莫大でロマン溢れるスロットマシーンのコーナー、

その機械の前にちょこんと座っている少女が居た。

 

なかなかに不釣り合いな光景であるがキルトでは珍しい光景ではない、

女子供でも、自己責任の元で勝ち負けの舞台に挑む事が出来る。

そして、幸運にもそれなりの当たり役を引いた少女は

払い出し口から飛び出すメダルの回収に手一杯のようで

 

「これじゃ入り切らないかも……えっと、大きい入れ物があったような……」

 

まさか当選を引くと思っていなかった事、想像よりも大量の排出がなされた事で

事態の収拾一本にしか目が行っていなかったのだろう。

例えば、戦場において物資へ何の保護も施していなかったら、どうなる?

隠してもいない、守ってもいない、完全に宙へ浮いた放置状態。

 

――スッ

 

メダル入れを取りに台を放置してしまった少女の隙を突き

手癖の悪い者たちがバレない程度に悪戯を仕掛けるだろう、

気付けば戦利品が削れ、少女の当たりは知らずの間に価値を低めてしまう――

 

 

 

「お客様ぁ?」

 

――事は無い。

ここ“キルト”で、カジノのような施設が成り立っているのは

国家としての庇護下だから、皆の信頼の元、などという生易しいものではない。

先に述べた“ルールをきちんと守れば”の裏返し、

徹底的に不正を見逃さない監視の目が敷かれている事実に他ならない。

 

「ど~もぉ、ホール担当のあやかでぇ~す。

 お客様、店内では当選金のやり取りは禁止されていますぅ~」

 

最初から見ていた、はずはない、

いくらメダルを掠め取る小悪党でも、相手が少女のカモであろうと

周囲の監視は確認するだろう、そして誰もいなかったから実行したはずなのだ。

 

「……え? あれ?」

「駄目じゃないですか~、メダル入れが無いなら店員さんを呼んでくださいね~?」

 

当事者の少女も驚いている、なぜなら周囲に助けを求める従業員が居なかったからこそ

自分自身でモノを取りに行こうとしていたはずなのだ、

すぐ近くに――あやかと名乗った彼女のような美女が居たのなら、間違いなく気付く。

 

「美穂ちゃん」

 

状況を飲み込めていない少女に掛けられたのは、そこからさらに別人の声。

あわあわと混乱している様子を放っておくわけにもいかず出てきたのは

紺色の髪に、かなり高い身長のスーツ姿をした女性。

 

「留美さん!」

「さすがにここまで騒ぎになると中止ね」

「あ、はい……すいません」

「……謝る事じゃないのよ、美穂ちゃん」

 

留美と呼ばれた女性、そして件の当事者であった少女の名は美穂、

どうやら保護者的な立場の人物なようだが

トラブルが起きる瞬間まで一切関与してこなかったところを見ると

美穂を自由に活動させ見守っていたのだろう。

 

「対応の早さ、噂は本当なのね」

「あやかは全部見てますよぉ」

「ここなら美穂も羽を伸ばして時間を過ごせたようね」

「えっと、ありがとうございましたっ」

「う~ん……お仕事なんでぇ、そんなに感謝されてもぉ……

 でも、ありがとうねぇ、なんてったって美穂ちゃんは――」

 

と、談笑に耽っている一同を隙と判断したのだろうか、

未だ注意警告をしただけで片付けられてはいなかった美穂の当たりメダルから

懐へ盗み取った者が勢いよく

 

――タタッ

 

「あ、彩華さんっ! 逃げちゃいましたっ!」

「えっ!? ホントですかぁ!? 逃げるなんてぇ――」

 

 

 

「逃げるなんて、何考えてるんだろぉ」

 

ヒュッ  ドォンッ!!

 

「っ!?」

「きゃあっ!」

 

盗人は美穂たちの元を離れ建物出口へ走っていた姿が見えていたのだが

突如脇から飛来した影に重なり刹那、遥か遠くから何かが崩れる衝撃音が響く。

 

「いやいやいや、珍しいねっ! もしかして、初めましての人?

 ここのルールを知らない人だよね?」

「お疲れ様ぁ、出動は久しぶりかもねぇ」

 

あやかこと彩華が声を掛けたその影――いつの間にか一同の隣に佇んでいた彼女は

彩華と同じ服装の従業員、しかし接客などを担当するスタッフではなく

ルールの違反者を取り締まる役目を持ったいわば用心棒。

 

「はい! あなたがメダルを取られちゃった人?

 私、北川真尋が責任もって盗人から奪還してきましたっ!」

「他人のものを盗っちゃダメってルールは普通ですけどぉ……

 “ここ”で盗っても、絶対に逃げられないってのは知らないのかもぉ」

 

差し出した手には、なるほど美穂が引き当てたメダルが数枚、

このたった数枚に対して出撃した用心棒真尋は

先の轟音から想像する強烈な一撃をもって粛正を行ったのであろう。

 

ルールを破った者への確実かつ徹底的な制裁と、実行力に対する信頼、

この国家とカジノを支えている根幹は、これらの事実によるところが大きい。

 

「ええ、ありがとう……でも、メダルは彼女のものなの」

「あれっ?」

 

真尋がメダルを渡した先は留美の方、

そして留美が指差した先の美穂を見て一瞬は驚きを見せるものの

 

「……そっか! ごめん! はい、返すよ!」

「あ、ありがとうございますっ」

 

とうてい野蛮な実力社会に紛れ込めないような風貌の少女、

それでも一瞬に留まった驚きは、決して珍しい客層ではないからか、

真尋の実力の高さ――起伏を見せない精神力故か。

 

 

 

「この瓦礫は何事ですの? 掃除が行き届いていませんわね」

「うん?」

 

突如現れたスーツの集団――威圧を与える統一感はホールスタッフのそれではない、

隊列を乱さず店内を悠然と歩く先頭を進むのは一派を率いる大頭――

には見えない、美穂よりもさらに小柄な少女が居た。

 

「いらっしゃいませぇ、本日は――」

「案内は結構ですわ、今日は気分が良いので……用件は同じですの」

「さようですかぁ」

 

(……あの子は?)

(子供でもこの国には入れるの。美穂ちゃん、あなたも体感したでしょう)

(ですけど――)

 

あまりにも“囲い”が違う、これが纏っている力の差とでも言うのだろうか、

断定するには早計だが背後に付く人の多さは余りにも美穂視点で大きなものに感じる。

 

「おや、あなたは……」

「!」

「噂はかねがね聞いていますわ、確かキルトで最も人気のある楽団のリーダー……

 小日向美穂と、お隣は御付の和久井留美ですわね?」

 

そんな少女が意外にも話を振って来た、

美穂の事を詳しく知っているという意外の重ね掛けも加えて、だ。

 

「え、えっと……そうです」

「わたくし“貴族位”櫻井財閥のトップを担っている櫻井桃華ですわ」

「……貴族、なるほどね」

「ぜひわたくしの前で一演目、機会を用意したいところですわね」

 

「失礼ですが、今は美穂のプライベート中……お仕事の話なら私が伺いますが」

「……けっこう、今でなければ意味がありませんの。

 わたくしのお楽しみに花の一つでも添えられたらと思いましたが……」

「…………」

 

互いの素性はハッキリとしたが話は発展しない、

たまたま出会った初対面の有名人? に、あれほど突っ込んだ私事を通そうとする

桃華の胆力もなかなかだが、貴族位と判明した相手にも割り切った対応をする

留美も、なるほど美穂の付き人として優秀なのだろう。

 

「では、ご案内しますぅ~、あちらから下の階へ降りる――」

「案内は結構と申しましたでしょう、わたくし一人で行きますわ」

 

――…………

 

 

 

「ん~……いつもよりかはご機嫌ですねぇ」

「何かイイことでもあったんだろうね、いつもは騒々しい子なのに!」

「彼女は権力者なの? 貴族位にしては、幼く見えるわ」

「ご存知ない? あそこ、けっこうな力持ちだよ、お金的な意味でね」

 

ただすれ違っただけに近い接触時間でも強烈なインパクトを残した桃華一行、

聞けば聞くほど彼女の持つ“財力”は大きい、という情報が頭に残る。

となると、いずれは正式な手続きを踏んで美穂の“仕事”を見せる日が来るやもしれぬ――

 

「つまりあなた達の上客なのね」

「ま、そういうことかな」

「このカジノクラスで上客なら、じゅうぶん私達が仕事を受けるメリットはあるわね」

 

留美がマネジメント、仕事のスイッチが切り替わる、

しかし隣に居る美穂は憮然顔で

 

「って、お客様に向かって上客なんて言わないよっ!

 あっちもプライベートで……二人もプライベートなんだよね? もっと遊んでいこっ!」

「もう、いつもお仕事の話ばかりです……わたしは良いですけど」

「?」

「留美さんっ、たまには遊ぶのも一つ、ですよっ!」

 

今回、この建物を美穂が訪れたのは自身の遊戯目的が全てではない、

あまりにも仕事に精を出し過ぎる留美を無理矢理にでも

休息させるためであったはずが、再びスイッチを入れようとしている彼女へ

ついに美穂が思いきり誘いをかける。

 

「…………まぁ、たまには」

 

ここまで“振り”を受けて、受けないわけにもいかない。

半ば渋々に近いものがあるが、一旦は手に掛けたスイッチを離し美穂の元へ。

 

「じゃあ、行きましょうか」

「は、はいっ! じゃあ行きましょう! どこにします?

 一階だけじゃなく二階も三階も、留美さんの好きなところから!」

「ちょっと、ちょっと……落ち着いて美穂ちゃん」

「だめです! 皆に言ってきたんですっ! 留美さんを休ませてあげようって!」

「み、皆に……? もう……」

 

「いやぁ……楽しそーな一行だねー」

「本当ですねぇ」

「ところで、さっき吹っ飛ばした勢いで壊しちゃった壁だけど」

「……報告しておきますねぇ」

「ありがとう! 助かるっ!」

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