島村卯月冒険譚~この世界で平和を取り戻す~ 作:アカツキ=ニュー
「大丈夫でしたか?」
戦いの終息を見た愛梨は、ゆらりと木々の間から姿を現す。
その姿を見て、美玲はようやく自身が誘い出されたのだと思い知らされた。
「なんだよっ……最初から公平じゃなかったのか……!」
「いや、私一人で倒すつもりだったよ」
「凛ちゃん、それは追い打ちにしかならないと思いますけど……」
兎にも角にも経典を狙った夜襲は、凛の活躍により阻止された。
今は地面に伏せられた美玲が抵抗の意思も薄く取り押さえられている。
「宿は?」
「心配無用です」
愛梨の発言とほぼ同時に、ガサガサと草木をかき分ける音が響く。
それは徐々に近づき、やがて忙しない足音も混ざりだした。
「凛ちゃん!!」
「しぶりん!!」
正体は、愛梨を追いかけて寝起き直後に凛の元へと駆けつけてきた二人だった。
あまりの慌て様に、つい先程まで戦闘をしていたはずの凛よりも息を切らしている。
そうして経典と凛の無事を確認した視線の先、美玲の姿が目に留まった。
「その子は?」
「あっ!オマエっ!ウチが子供だと思ってるだろッ!!」
「……まだ分からない事は多いけど、とにかく説明するよ」
「お、襲われた!?凛ちゃん、大丈夫なんですか!?」
見ての通りだよ、と自身の健在を示す凛。
致命傷に至るダメージは皆無、経典も無事、強いて挙げるならば武器として使ったブーツが
激しい攻防で汚れてしまったため、綺麗な国を歩く際には目立ってしまうことだろうか。
要するに、それほど大きな問題ではない。
「……美玲ちゃん、ですか?」
「なんだよッ」
落ち着いたところに、愛梨が美玲に話しかける。
彼女が凛を襲ったのは当然経典が目当てだから、これは当人も発言していた。
では、万が一経典を手に入れて無事に逃げ帰れた場合は?
「何をするつもりだったんでしょうか?」
「……オマエには関係ないだろ」
「違います!!」
割って入ったのは卯月、今まで凛の心配をしていただけだったが、
思わず会話に参入してしまい、一瞬はっとしたものの
「私、今会ったばかりで……あ、卯月です!えーっと、それで……」
卯月の目標、旅の意味は愛梨の協力や世界を救うなどいろいろなものが重なった結果である。
しかし突き詰めて見ると、即ち『困っている人を助ける』となり
皆を笑顔にするための冒険、という事にもなる。
「だから私としぶりんが最初村から出る時に居なかったの、かなり落ち込んでたって」
「そ、それは終わったお話です!……とにかく、私は誰でも、困ってるなら助けたいんです!」
「助ける、だって?オマエが?ウチをか?」
「願いを叶える力に頼らないといけないほどの、何か大変な事が起きてるんですよね?」
「何の話なんだ?……っていうか、経典って何だ?」
「へ?」
場に沈黙が訪れる。あまりにも、予想の斜め上の返答が飛び込んできたからだ。
慌てて経典を用意して――迂闊な行動だが、それほど焦っているとも取れる。
「これっ、この本を狙って襲ってきたんじゃ――」
「何でだよッ!ウチが本を読むように見えるのかッ!……言ってて空しいだろッ」
「だったらどうして襲ってきたの?」
「それはオマエたちが昼間の宿で“持っていた”から、奪ってやろうって……」
「え?じゃ、じゃあやっぱり……」
「あの宝石!あれだけあれば、ウチの村が平和になるんだ!
たったあれっぽっちの、食べられもしないモノのために……でも……!」
「待って!ちょっと待って!ストップ!」
頭の整理が追い付かない、というよりも最初から認識にズレがあったのだろうか、
未央が制止して会話は中断されるが三人、いや、愛梨も含めて状況が一変してしまった。
「……まさか」
そして導かれた結論、美玲は襲撃を実行したものの
卯月達が持っている経典が目当てではなかったのだ。
目的は、智香によって鑑定が行われた正確な値が測れなかった宝石の山――
「ウチの村は、どの国にも所属してない隠れ里……自由な村だぞ」
平和な村育ちの卯月達にとって、美玲の発言はピンと来なくても仕方がない、
口にするのは躊躇いのある美玲の代わりに愛梨が汲み取った真意を話す。
「自由は裏を返せば……襲う側にとっても、自由な話です」
過去の愛梨達が奮闘した時期と比較すると幾分か平和な世界、
しかし全ての戦火が収束というわけではない、まだ各所では大小の争いが起きている、
その争いの動機となっているものが“異能の種子”を始めとする争奪戦。
「奪い合うものが物資であるか領土であるか、それとも……とにかく、様々です」
「……ウチの村はどこの所属でもないからな」
「つまり、規律が無い代わりに庇護も受けられないという事です」
「どこが自由なもんか!」
搾り出したような叫びは彼女の村の現状を物語っているのか、
とにかく無所属のデメリットが先行しているには違いないだろう、
平和が脅かされようとしている、もしくは――既に、危険に晒されているか。
「……私達は」
「美玲ちゃんの村の事情は、知りません」
「っ……」
残酷に言い放った、ように見えた卯月だが『でも』と、すぐに付け足し、
今度は目にはっきりと光を灯らせて、堂々と
「このまま放っておくことも、出来ません!」
自らの判断、決意を述べた。
言葉を投げかけられた美玲も、彼女の勢いにポカンと口を開けたまま、
しかし冷静に意味を理解するうちに驚きと戸惑いが見られた、
放っておけない?なら、どうするつもりなのか?と、いかにも聞きたそうな表情だ。
「お金は、もう智香さんたちに渡してしまった分です……でも、
もしも美玲ちゃんの“平和”が、もっと別の方法で解決出来るかもしれないなら」
この時、まだ真意を掴めておらず警戒心が少なからず残っていた美玲が
最後に一押し、卯月を信用たる人物に見せた切っ掛けが
「お手伝いします」
真っすぐに心を貫いた意思のある言葉と、
二人が出会って数分も経たない者にも向ける分け隔ての無い、最高の笑顔だった。
あくまで異能の種子という回収すべきモノのために旅を始めていた一行だが
目の前に現れた“平和な村の中から出たことが無い自分達”が
考えすらしなかった状況に置かれている少女を見て戦慄する、
こんなことが、珍しい世の中じゃない――と。
際限無く訪れるであろう、とても自分達の目的とは合致しない問題。
それらを全て解決しようとすれば途方もない労力が必要、実質不可能というものである。
もっとも前述の通り卯月らに解決の義務は無い、これからの活動を円滑に行うには
早々に見切りをつけなければならないのだ。
(卯月ちゃん……これから、会う人会う人の問題を解決するつもりですか?)
それでは目的の達成など夢のまた夢、愛梨の心配は最もであり、
砂漠の砂粒を全て掬い取る事など無理な話なのだ。
「な、なんでなんだ?さっき会ったばかりのウチに――」
「会ったからですよ!全部は解決できないかもしれない……
でも、私の見える所で起きた問題は、私が関われる問題は、絶対に解決したい……!」
「うんうん、それでこそ」
「卯月……だね」
「はい!その為なら私、頑張れます!」
この流れを見ていた愛梨は、ああ、と優しい笑みを浮かべていた。
不可能とも言える難題、仕方のないものだと割り切るべきところでその固定観念を無視、
楽な方向に逃げず自身の信じた道を進む――
(……少し前の、私を見ているようです)
絶対に無理だと言われた、世界単位の抗争の終結。
完全とは行かなくとも十分な成果を挙げられた、不可能と言われていたにもかかわらずだ。
「なら、まずはお話を聞かなくてはいけませんね」
「愛梨さん!」
ある意味、この流れは彼女達が“協力者”として取るべくして取った行動、
故に、これを寄り道として窘める事はしなかった。
「美玲ちゃん、仮にお金が手に入っていたら、何をしていたんですか?」
「……分からない」
「分からない?えっ、だけど実際に必要だったから襲ってきたんじゃ……」
「ウチの村の長が言ってたんだ!お金がないから、困ってるって!
つまりお金があればウチの村はどうにかなるってことだろッ!」
「うーん……どう思う?」
問題解決に向けて相談は重要である、
しかし美玲の話を聞いても必要な情報は今一つ収集できず、核心が掴めない。
「用途が分からない……つまり、お金以外の解決法があるかもしれませんね」
「可能性は、あると思います!だから……」
「はい。行きましょう、美玲ちゃんの村に」