島村卯月冒険譚~この世界で平和を取り戻す~   作:アカツキ=ニュー

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第二幕 - 粗悪品 -


翌日。卯月が外に出てみると既に陽は十分高く、気温も朝特有の寒気は感じないほど。

そんな明るい往来から少し逸れた地点、既に“四人”の人影が集まっていた。

 

「あれ?」

 

真っ先に気づいたのは、美玲がいる事だった。

が、よくよく思い返せば昨日から彼女の集落へ訪れることは半ば決定していた事で、

ならば案内人として美玲が同行していても、別段妙な事ではない。

 

「早い方がいいと思ってウチは朝から待ってたんだぞッ!」

「ご、ごめん……」

 

卯月の体調は大丈夫か?昨日の疲れや、秘宝に関わった影響が残っていないか?

これらの心配は、ひとまず杞憂に終わっており

 

「……怪我は?けっこう、大丈夫じゃないと思うほど戦ったつもりだったけど」

「そのままそっくり返すぞ……」

 

凛も、美玲と互いに負った傷の治りを探り合っているほど。

確かな手応え、自信の一手の痕が見つからない回復力に、不満半分妬み半分といったところ。

ようやく静まった場に、心配が消え去った愛梨が話し出す。

 

「卯月ちゃんの体調が万全という事なので、当初の予定通りに動きます」

 

名前を呼ばれた当人は疑問符を浮かべていたが、周囲の皆は分かっているようだ、

つまり、彼女が居ない間に決まっていた事項ということになる。

 

「これから……美玲ちゃんの住む集落の方角に向かいますが」

「……が?」

 

 

「ここからはかなり遠いと思うぞ?」

「近く……じゃないんですか?」

「少なくともウチが知ってるところじゃないからなココ、集落の周りだったら分かるはずだッ」

 

目的地は数日がけでようやく辿り着けるほどの距離があるようで

一朝一夕の移動では到着は困難、その他にもいろいろと問題が山積みである。

 

「真っすぐ向かったとしても、間に幾つもの国を通過します」

「ってことは……ちょっとトラブルも起きそうだね」

「そもそも美玲ちゃんは、こんなところまでどうやって?」

「ゆそー?って言ってたっけ、荷物を移動する装置に入り込んでたんだ!」

「それって密入国じゃ……」

 

美玲の過激な経緯はさておき、彼女のように無茶な手段で移動はできない、

ならば各所の中継地点を挟んでの地道な徒歩移動が基本となる。

現在地“インザネム”から最も近くに存在する村への移動経路は

智香から借りた地図をもって把握しているが、

目先の中継地点よりも重要な部分を調べる必要が、卯月たちにはあった。

 

「村や集落以外で最初に通過することになる大きな国は、名前を『ウィアルソ』という国です」

「やっぱり、大きな国を経由するのは避けられないんだね」

「国かぁ……ウチも、なるべくややこしいところとは関わりたくないけど……」

「その国は、かなり平和な国だったはずです!」

 

 

文献を読み漁る毎日、最も情報を持つのは卯月だ。

彼女はこの国を知っている、それも彼女達にとっては有益なもの。

国家“ウィアルソ”は美玲が危惧しているような危険性のある国家ではない、

むしろ稀少かつ随一の安全な国家、と言われる程に“平和”が似合う、

理由としては盤石かつ広大な領土を統治する優秀な人材、

そして何よりも魔術ではなく一般にも広く扱える技術が発展し、豊かである事。

つまり、強固なのだ。簡単には手出しできず、それでいて厳格ではない。

 

「……というように、危険性はないかと思われます」

「ふぅ……なんか安心した」

「でも警戒は怠っちゃ駄目……だよね?」

「はい、くれぐれも」

 

国が安全であることと、卯月達を狙うものが現れるかどうかはまるで別の案件、

しかし少しでも可能性が低くなるのは事実で、その点だけは胸を撫で下ろす様。

 

「安全なのにどうして警戒するんだ?」

「あー、まぁ……いろいろとね?」

「……卯月、オマエらは何のためにウチみたいな冒険をしているんだ?」

「あー……えーっと……」

 

一方で、彼女達の目的を詳しく知る由も無い美玲とっては

心配性すぎる四人の様子に疑問を抱くようだ、これには未央も返答に困る。

咄嗟に助けの視線を求めたものの凛にはスルーされ、仕方が無く卯月が受け取った。

 

「この世界に平和を取り戻すため、ですよ♪」

「……ぷっ、あはははは!なんだソレ、ウチの目的よりよっぽど難しいな!」

 

笑う美玲が、卯月の発言を冗談ではないと気付くには少し情報が足りない。

 

 

 

 

「まだ私達も目立った動きはしていません、目を付けられることは無いと思いますが……

くれぐれも安心しきって油断はしないよう、お願いします。それと――」

 

ぽすん、と愛梨は卯月へ向かって手に持っていたものを手渡す、

大事に抱えていた“灰姫の経典”を、卯月へ授けた。

突然の行動に意味を考える間もなくそのまま手に取ってしまっていたが

頭が働くにつれて困惑、何故といった疑問を聞き返すよりも早く答えは返ってきた。

 

「私は……皆さんと並んで歩くのは止めようと思います」

「えっ!?そ、それって」

「ご安心を、旅には同行させていただきますが……まず、この経典を、離さないでください」

「は……はい、もちろんです!でも――」

「どういう意味か、ですよね?それは、これです」

 

 

フッ

 

 

「わっ!あ、アイツ消えたぞ!?」

『ここです』

 

霧のように姿を消した愛梨、しかし声は目の前から聞こえる。

視線を巡らせば、卯月が手に授けられていた経典へと到達して

 

『この経典は私が休む空間……それも兼ねています』

「ほ、本の中かッ!?なんだそれッ、すごいな!?」

「愛梨さん!えっと……休む、というのは?」

『薄々感じていたと思いますが、今の私は少し……いや、かなり衰えています』

 

無論、前々から愛梨が利用していた仕組みだろう、しかし一人で行動していた以前は

休息中に経典を守る者はおらず、新たな移動も不可能な状態であった。

しかし今は違う、誰かが経典を持ち行動が出来る、効率は飛躍的に上がるだろう。

 

『無理に活動を続けすぎていたのが原因です、だから……なるべく、甘えていいですか?』

 

愛梨の言っている事は本当だろう、三人の脳裏に初対面時の光景が浮かび上がる。

心なしか声にも安堵の裏側に疲労が現れ、しかしそれでも

 

『本当に危険な時は、すぐに駆け付けます』

 

頼りになる一言を前にして、卯月はほぼ反射で『分かりました』と了承した。

 

 

(こんなに早く、私達を頼ってくれるなんて……これは、頑張らなきゃ駄目、ですね!)

 

一人、姿だけは減った一行だが気持ちはむしろ高揚している、

既に目標は決めた後、指針に迷う事は無い。

 

「じゃあ、えーっと……ウチの集落に行くには、その国を目指さなきゃ駄目なのか?」

「智香さんがくれた地図、一応その大きな国までの道は書いてあるみたい。

それによるとー……やっぱり途中で他の村を通過するっぽいよ」

「じゃあ最初の目標は、その村だね」

 

一つ目の中継地点として決定した村は規模もそこそこ、

智香が言うにはトラブルが頻発するようなところでもないとのことで

初っ端の休憩ポイントとしては及第点だろう。

 

「お取込み中すいませんね、お疲れさまです……あれ?もうお一人は?」

「あっ、お店のねーちゃん!さっきのヤツな、本の中に消えたんだぞ!」

「本?なんだか、本当に驚くようなことばかりで」

「いいんです椿さん!あ、それと……私達、もう出発します」

 

ちょうど良いタイミングで現れた最初の協力者たち、

智香は奥で給仕中のようだが椿でも構わない、伝えておかなければならないことを話す。

本当に短い間でも、この巡り合わせは忘れない、後に何をお互いに助け合えるかもしれず、

更に言えばそのような利益をも超えた関係を大事にしていきたい、卯月の心がけだった。

 

「またいつでも来てくださいね、待っていますから」

「はい!それじゃあ、ありがとうございました!」

 

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