島村卯月冒険譚~この世界で平和を取り戻す~ 作:アカツキ=ニュー
店と銘打たれてはいるが、立派な建物が構えられているわけではない。
小さな商品棚が張り出したスペースのみが今回お邪魔する“店”と呼べる範囲だ。
「いらっしゃー……あれ?お友達?」
「初めましてっ、えーっと――」
「ふふ、わざわざお店の店主に自己紹介する必要はないよ?でも、一応聞いておこうかな?」
偶然にも他の客はおらず対話する時間が十分にとれた、
各々の自己紹介を済ませてようやく明るい笑顔が特徴的な店主の名前を知る。
「卯月ちゃん、凛ちゃん、未央ちゃんに美玲ちゃんだね。私は夕美、よろしく♪」
「よろしくお願いします……ここは、食堂なんですか?」
「食堂じゃあないんだけど、みんなにはそうやって利用してもらっているかなっ」
雑貨や物珍しい品から何に使うか分からないような品までが置かれた棚、
興味あり気に眺めながらもまずは食事にありつく為の席へ着く一行。
「じゃあ何にする?」
「えー?どうしよっかなぁー」
「ウチは何でもッ!あ、でも量が欲しいな」
「仲が良さそうだね、私も楽しくなっちゃう♪」
鼻歌混じりに――奈緒と加蓮は注文が毎回同じなのだろう、聞く前に調理を始めている、
卯月たちも勧められるままとはいえメニューを指定し
ひとまずは提供されるまで談笑混じりの商品棚漁りを始めた。
何度見直してもバラエティに富んだラインナップ、
それらを前に夕美の素性が気になり、そしてその意識を彼女が察したのか
「私、本職はお花や植物を育てるお仕事をしているの」
「お花屋さん……ですか?」
「うん、でも商品にするというより、趣味かな?」
確かに、飾りとしての花壇は多いが値札の着いた花は棚を見渡しても一つも見つからない、
手放したくない程に花を愛している、そういう事なのだろう。
だが売り物にはしなくとも、一押しの品は自慢したいようで
「それでね……これ!」
「占い、好き?」
「あ、花占いですか?」
「間違ってはいないけど、花びらを千切っちゃうのはお花が可哀想だからダメ!」
やはり並々ならぬ花への愛情を見せながら取り出したのは苗木。
そう、まだ花が咲く前、小さな双葉がコップ一杯ほどの土から顔を出しているだけ。
「この小さな苗を、持つだけでいいの!」
さぁ、と押し切られる形で夕美と最も近い距離間だった未央が苗木を受け取る。
が、受け取ったところで真新しさは無い、植物に詳しくない彼女が持てる感想は少なく
「……何も起きないけど」
「それは残念、じゃあ次!」
「終わり!?なーんか納得いかないなー」
結局、何も起きないまま苗木は再び夕美の元へ、
花占いというからには何か変化が起きると期待していたところを肩透かし、
わだかまりを残したまま席へ戻った未央と対照的に
「私もやってみていいかな?」
「どうぞどうぞっ」
今度は加蓮が手に持ってみる。が、変化は起きない。
底を覗いても、じーっと見続けても特別な事象は発生せず
「何も変わりませんね……」
「ダメかー……うん、凛、パス!」
半ば自棄気味、隣に座っていた凛へとそれを手渡した時、
沈黙を貫いていた苗木に初めての変化が起きたのであった。
パァッ
「わ……」
ただ受け取っただけ、その瞬間にグングンと小さかった双葉は成長し、
その身に似合う小振りで一輪の花を咲かせたのだ。
「凛ちゃん、凄いです!」
「綺麗な花だね……」
「あ、ありがとう……えーと」
「おめでとう♪ 凛ちゃんには記念にこれをサービスっ♪」
「ど、どうも……」
「あっ!?だったらウチもやるっ!」
咲かせたお礼、いや、賞品なのだろうか、薄い色がかかったほのかに香るドリンク、
彼女の説明によるとこれは果汁のジュースらしい。
飲み物にも飢えていた美玲は凛の賞品獲得を目にして、早く早くと苗を要求する、
不思議な事に凛から美玲へと花が手渡された瞬間、元の双葉へと姿を戻してしまった。
多少は驚きつつ、そして戻ったという結果が見えてしまった以上美玲は上手く行かず
「うー……ホントに凛みたいになるのか?どうやったんだ?」
「別に何もしたつもりはないんだけど……」
結局、数分間粘った美玲が花を咲かせられないまま
しぶしぶテーブルへと苗木を戻した。
原理などは気にしない、得てして女性は占いには弱かったりもする、
ちょっとばかり興味を惹かれれば熱中するのも想定内だったのだろう。
「それじゃ、次は卯月ちゃん」
「はい!頑張ります!……えっと、何を頑張ればいいんでしょう?」
「気合を!とにかく思い切り念じるとか!」
未央の――当人は実行する間もなく手番が終わってしまったアドバイスを受け、
優しく握りしめた苗木の器に念を込める。もちろん念といっても冗談交じりの気合なのだが
「んっ……!」
ハラリ
「ひえぇ?!あ、あれ?!」
なんと、卯月が手にしていた苗木は双葉がクタリと傾いたかと思えば
そのまま茶色く変色し、片側の葉が茎から零れ落ちてしまった。
「かっ、枯れちゃいました……!すっ、すいません!」
「……私も初めて見た。卯月ちゃん、お花さんに謝っておこうね」
「うう、ごめんなさい……頑張りすぎましたぁ……」
「ちょっと待ってくれよ!あたしまだやってない!」
「大丈夫、まだお花はたくさんあるからっ!」
完全に想定外の事態だったようだが奈緒の番は中止される事無く
新たな苗木が用意される。このような不思議な花が幾つも用意できるあたり
花に関する本職としての知識は疑いようもなく本物と認識してもいいだろう。
「奈緒ちゃん、さっきと違う個体だけど、同じ花だから大丈夫」
「本当?また枯らしちゃうのは嫌だぞ……?」
先の一件で恐る恐る苗木に触れる奈緒、
かなり慎重に、優しく刺激を与えないよう手に取った結果は
パァッ
「あ……咲いた……」
「奈緒!やったじゃん!」
「ふふ、じゃあ同じくサービス♪」
凛と同じく振る舞われたジュースよりも、とにかく枯れずに済んだことに一息をつく。
目的がすり替わっていたが、めでたく奈緒も占いで言う大吉を獲得したというところか。
「……さて、いい感じに時間は潰れたかな」
「え?あ、もうこんなに……」
ふと、煮込み続けていた鍋から漂う美味しそうな香り、
周りの景色も心なしか明るさが落ちており、気付かぬ間に時が早く過ぎていたよう。
「私の料理、少し時間がかかるものが多くて。その間、ただ待ってもらうだけじゃなくて
こうやって色々楽しんでもらいながら待ってもらうのがいいんだ♪」
「確かに……時間を忘れて盛り上がっちゃいました」
「それにお花も見てもらえて、一石二鳥♪」
「本音はそっちね」
時の流れを忘れる暖かな行商人、夕美の振る舞う食事を囲んで一同は会話に華を咲かせた。
「これも大吉のおかげかな」
「……かもね」
あの後、奈緒達の部屋へ戻ると偶然にも訓練生以外の宿泊客が居た部屋に空きが出来ていた。
さすがに六人一部屋は狭かったと思っていたところ、すぐさま確保を決定し
卯月一行は少し離れた別の部屋を一日の寝床にすることが出来たのだ。
「でも四人分のベッドは無かったかー。美玲ちゃん、私と寝る?」
「いやウチは床でいいから――」
「んぅー遠慮するでなーい!」
「わあぁっ!?」
まるで知った友人の家に泊まりに来たような、兎にも角にも
リラックスしきった雰囲気は旅の緊張を解きほぐすために必要である。
――――
「ん……?」
(あれ、このテーブル……濡れてる?)
しかし、意図的であろうとなかろうと
“トラブル”は気持ちが弛緩した時を狙って突然に発生するのだ。
そう、彼女達にとっては突然。
「違う……?!」
「え?凛ちゃん、どうしたんですか?」
(私の“汗”……!?なんで、体調なんて悪く――)
意識が向けば把握は一瞬、そして把握してしまえば自覚してしまう。
触れたテーブルが湿っていると感じるほどに凛の手は汗ばんでおり、
さらに手だけではない、腕も肩も、よくよく見れば全身が
まるで高熱にうなされた時のように激しい発汗を促している。
「しぶりん!?」
「うわっ!?おいッ!どうしたんだ急に!?」
(苦しい、ッ……それに、寒い……!?)
「あ、ぐぅ……!」
「凛ちゃん!凛ちゃん!?」
急変した体はバランスを崩し、かろうじて地面に手をついたものの
明らかに尋常ではない膝から崩れ落ちた姿に卯月達が駆け寄り凛へ肩を貸す、すると
「……あ、れ?」
「大丈夫ですか!?」
「あ、うん……だ、大丈夫になっちゃった」
「なんだなんだ!?驚くだろッ!何かつまづいたのか?」
「いや…………」
(気のせい、のはずはない……今のは?)
体調は目まぐるしく、と言っても悪化ではない。
なんと足元がフラつくほどの急変から、今度は一瞬で全快復。
何が何だか、理解も認識も間に合わないまま凛は何事も無かったかのように立ち上がる、
立ち上がることが出来た。まるで最初からそうであったように。
驚いていた美玲や未央達も凛が大袈裟に転倒しただけだ、そう誤解するほど。
「かれぇぇんッッ!!」
「!?」
「こ、今度は何だよッ!?」
だが、外から聞こえてきた咆哮を幻聴とは流石に誤解しなかった。
加蓮――確かにその名前を呼んだ声の持ち主は
「今の声……奈緒!」
「向こうで何かあったの?!」
「行こう!」
今、彼女達は自らが戦う“常識外れ”の規格を知る事となる。
予想もしていなかった場面、予想もしない切っ掛け、原因、偶然によって――