唐突に、一色いろはは彼の家に押しかける。   作:さくたろう

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初めまして、さくたろうといいます!
大学生八色書かせてもらいました、よろしくお願いします!


唐突に、一色いろはは彼の家に押しかける。

「あー、今日から大学始まるのか……」

 

 パソコンを弄りながらカレンダーを見ると、今日は大学二年の初日だった。しかし、俺は去年の入学式の帰り道、信号無視の車に跳ねられて三ヶ月程入院して以降、まともに大学には行ってない。

 というのも、復帰してみれば既にグループが存在していて、元々ぼっちの俺は完全に孤立し、受講できなかった内容を確認する手段がなかった。そうなると、当然試験もろくにできず単位も落とすわけで……。

 それからというもの、どうにもやる気を失った俺は、学生ニートの道を歩み始めた。

 こうなったのも全て俺を跳ねた信号無視の車が悪い。ていうか俺事故に遭いすぎじゃないですかね? 高校、大学の入学式に交通事故に合う確率って何%だよ……。

 もしかしたら万が一、就職したりなんかした日には入社式の日に交通事故に遭いそうだな。うん、やっぱり働かないのが一番だわ、本当学生ニート最高。

 実家ならば親や小町にこの生活を辞めさせられてしまうだろうが、幸いなことに大学は実家からは通えない距離なので今は一人暮らしだ。

 

 そんなわけで、今日も今日とて俺は大学には行かず部屋で悠々自適な生活を送ることにした――。

 

 

  *  *  *  *  *

 

 

「ふわぁ……」

 

 欠伸をしながら窓の外を眺めると空は夕焼け色になっていて、小腹がすいた俺が何かないかと漁っていると玄関のチャイムが鳴った。

 

「……勧誘か?」

 

 一人暮らしのアパートによく来る勧誘系の類だと思い、今現在している行動を止めて居留守を発動。最初は何も知らずに出てしまっていたが、あの手の奴らは本当にしつこいもので、こうして居留守を使うのが正解だということを最近学習した。

 何回かチャイムが鳴り響いたが、無視していると少しして音は鳴りやんだ。

 

「帰ったか……」

 

 上手く訪問してきた奴を帰せてほっと一安心していると、今度は携帯が鳴り始めた。着信音で相手が小町だと分かり電話に出る。

 

『あ、ごみいちゃん?』

 

 いや、確かに今の俺は世間一般的に言えば、ゴミのような生活を送っているからそう言われても仕方ないかもしれないけどさ……、久しぶりに通話する妹にいきなり「ごみいちゃん」と呼ばれるのは中々に堪えるものがあるわけで……。

 

「どうした?」

 

『今、どこにいるの?』

 

「普通に家にいるけど」

 

『はぁ……、本当、ごみいちゃんはごみいちゃんだね……』

 

 え? だからなんなの? さすがに連発はお兄ちゃんショックで泣いちゃうんだけど?

『さっき居留守使ったでしょ』

 

 あー……、そういうことか。さっきの訪問者は小町だったのか。いや、でもあいつなんでわざわざここに来たんだ?

「すまん、勧誘かなんかだと思ったんだ」

 

 もしかしたら俺に会いたくなって来たのだろうか。なんというか可愛いところあるじゃないか。

 

『それじゃ今また行くから今度はちゃんと開けてね?』

 

「オーケー、任せろ」

 

『絶対だからね』

 

 そう言うと小町は通話を切った。

 勧誘とかならいざ知れず、自分の妹である小町が訪問してきて開けないわけがない。そう思いながら玄関の前で待機していると、再びチャイムがなったので扉を開ける。

 

「お久しぶりです、せんぱいっ」

 

 ――バタン。

 

 玄関の前にいたのが小町ではなかったので、そっと扉を閉め鍵をかけた。

 

「ちょっ、なんで閉めるんですか! 先輩! せんぱーい!?」

 

 落ち着け、俺。まずは今起きていることを整理するんだ。

 小町から電話がかかってきて、訪ねてくるのが小町だと思い、玄関開けたらいたのは一色だった。うん、なるほど、まったくわからん。

 

「せんぱーい、開けてくださいよー」

 

 考えを整理しているあいだも、一色の声は部屋の中まで聞こえてくる。やめて! ご近所迷惑だから!

 ここで開けてもいいのだが、そうすると多分一色がこの部屋にあがってくるんだよな。

 ……なにそれ超めんどくさそう。

 

「ちょっとー、聞いてますかー? せんぱーい」

 

 しかし、このまま一色を玄関前で放っておくわけにもいかんしな……。

 

「わかりました、もういいです!」

 

 おっと、諦めたか?

 さっきまでひっきりなしに声をあげていた一色の声がぴたりと止んだので、帰ったのかと確認するために玄関に向かい扉を開ける。

 

「ふっ、引っかかりましたね」

 

 声と同時に扉を掴まれ、思い切り開かれた。こいつ……小癪な真似を……。

 

「先輩、何か言うことありませんか?」

 

 うわぁ……。

 一色は笑顔で尋ねているはずなのだが、内心頭に来ているようで目の奥は笑っていなかった。

 

「え、えーっと……、久しぶり、だな?」

 

 上手い言い訳も思いつかなくてそう言うと、一色は呆れた顔をしながら口を開いた。

 

「はぁ……。相変わらず先輩は先輩ですね」

 

「人間そう簡単には変わらんからな」

 

「そういうところも変わりませんね」

 

 一色は呆れながらも、どこか懐かしさに安心したような口調でそう言うと、今度はさっきとは違う笑顔で「お久しぶりですね」と言った。

 その笑顔が不覚にも可愛らしくて、見惚れてしまう自分がいた。

 

「それで先輩。いつまで女の子を外に居させるつもりですか?」

 

 あ、やっぱそうくる?

「え、何? 中に入るつもりなの?」

 

「なんのために先輩の家の前まで来てると思ってるんですか」

 

「や、知らんし」

 

「まあ、いいです。それじゃあお邪魔しますねー」

 

 そう言いながら玄関で靴を脱ぐと、すたすたと部屋に向かう。え、なんでこいつこんな自由なの? ここ俺んちなんだけど。

 一色は部屋に入ると「ほぉほぉ」「へぇー」などと呟きながら部屋をチェックし始めた。

 

「意外と綺麗にしてるんですね」

 

「……まあな」

 

 綺麗というか物がないだけなんだけどな。部屋にあるのは大学入学時に購入したノートパソコンと実家から持ってきた本、ベッドとテレビくらいなものだったので部屋自体はそこまで散らかる心配がなかった。

 

「で、お前は何しに来たんだ?」

 

 まだこいつがここに来た理由をちゃんと聞いていなかったので聞いてみることにした。

 

「あれ? 小町ちゃんから聞いてませんか?」

 

「や、何も聞いてねえけど」

 

 聞いたのといえばごみいちゃんくらいだしな。

 

「わたし、今年から先輩と同じ大学に通うことになったんですよ」

 

「へ?」

 

 思わず素っ頓狂な返事をしてしまう。一応うちの大学は文系の中でも上の方だし、まさか一色が受かるとは思わなかったからだ。まあ確かにこいつの学力は俺はよくわからなかっただけで、意外と勉強できるのか。

 

「なんですか、その目は……」

 

「い、いや、お前がうちの大学受けるなんて意外だなと思ってな」

 

「どういう意味ですかね……。まあ、いろいろとあったんですよ」

 

「そうなのか。でもそれがどうして俺の家に来た理由なんだ?」

 

 大学が同じになったからといってわざわざ家に来るほどでもないしな。大学で会ったときにでも挨拶すればいいんだし。まあ、俺行ってないけど。

 

「小町ちゃんに頼まれたんですよ。お兄ちゃんからしばらく連絡ないし、死んでるかもしれないから様子を見てきてほしいって。本当、いい子ですよねー、あんな子が妹になったら楽しいんだろうなぁ……。あ、別に変な意味じゃないですよ?」

 

 どんな意味だよ……。小町はやらんぞ、俺の大事な天使だからな!

「でもまあ、元気そうで良かったです」

 

「お前もな」

 

 まあ、いきなりの訪問で驚いたのはあるが、こうしてこいつと話すのは高校時代を思い出し、それがなんだか懐かしくて自然と表情が和らいだ気がした。

 

「……さてと。それじゃ先輩、台所お借りしますねー」

 

「はい?」

 

「ご飯まだですよね? どうせろくな物食べてないと思って材料買ってきました」

 

「や、まだだけど……」

 

「それじゃ、ハンバーグでいいですか? と言ってもその材料しか買ってないですけど」

 

「お、ハンバーグ? いいな……ってそうじゃなくてだな。何、さも当然のように料理し始めてんの?」

 

「え? 駄目でした?」

 

「いや、駄目じゃねえけど……」

 

「じゃあ、いいじゃないですかー。それに先輩も美味しいご飯食べれますし、嬉しくないですか?」

 

 まあ、確かに最近はコンビニ弁当ばかりでまともな飯食ってなかったからそういうのはありがたいが……。いや、別にコンビニ弁当が悪いって言ってるわけじゃないからね?

「……それじゃ、頼むわ」

 

「了解ですっ」

 

 懐かしい敬礼のポーズをした一色はそのまま調理に戻った。

 

 

  *  *  *  *  *

 

 

 しばらく待っていると、香ばしい匂いが部屋の方に漂ってきて匂いに釣られた俺は台所に足を運ぶ。

 

「あ、先輩。ちょうどできたんで運ぶの手伝ってもらえますか」

 

「おう。その、なんだ、美味そうだな」

 

「わたしが作ったんですから当然じゃないですかー」

 

 えへん、と胸を張りながら答える一色を見て、こいつも成長したんだなーと感心した。いや、別に変な意味じゃなくてね?

 料理を運び終えてテーブルに並べ、二人とも席に着き「いただきます」と言って食事を始める。

 

「ん、このハンバーグまじで美味いな」

 

「当たり前ですよ。でもそう言ってもらえると嬉しいですね」

 

 久しぶりに食べる手料理はとても美味かった。

 食事中、時折話かけてくる一色とのやりとりも一人で食べる食事とは違って、なんだが暖かいものを感じそれが妙に心地よかった。

 

「ごちそうさま」

 

「お粗末様です」

 

 食事を済ませて二人で台所で片付けをする。

 一色は「わたしがやりますから」と言っていたが、さすがにここまでしてもらって何もしないわけにはいかないので手伝った。

 

「それじゃ、今日はもう帰りますねー」

 

「ん、送るか?」

 

 片づけが終わりひと段落したところで帰ろうとする一色にそう返すと、鳩が豆鉄砲を食ったような顔をした。

 

「……本当、相変わらずあざといんですね」

 

「ん?」

 

 一色の声は小さくて、上手く聞き取ることができなかった。

 

「今日は大丈夫です。明日、迎えに来ますからちゃんと準備しておいてくださいね」

 

 ……えっ? 今一色はなんて言った? 迎えに来る? 誰を?

「なんで?」

 

「先輩、事故で一年次の単位ぼろぼろなんですよね? まあそれは仕方ないと思いますけど、その後の後期の単位も全部取ってないから今年は全部一年の講義って聞きましたよ?」

 

 ちょっと待て。なんでこいつがそんなことまで知ってるんだ? 前期のことは事故があって小町も知ってるが、後期に関しては両親も小町にも隠してることだぞ。

 

「はぁ。その顔はなんで後期のこと知ってるんだー? とか思ってます?」

 

「う……」

 

「先輩、ちゃんと説明とか聞いてました? 成績って実家の方にも送られるんですよ。だから先輩が単位取れてないことは家の人たちはみんな知ってるわけです」

 

 あー。なるほど……。

 

「それも含めて小町ちゃんに頼まれたんです。大学をちゃんと卒業できるよう、これからはわたしが監視するんでよろしくお願いしますね、先輩」

 

 

 こうして俺の自由気ままな学生ニート生活は終りを告げた。

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