ダンジョンをクリアーするのは間違っているだろうか? 作:中二ばっか
「久しぶりだね。ヤマダ」
「……何の用? 団長」
ヤマダが借りている部屋の扉がノックされた。珍しく来客が来たらしくヤマダが渋々と扉を開けるとそこには金髪の小人族、ロキファミリアのリーダー、フィン・ディムナが居た。
「ちょっと聞きたいことがあってね。上がっていいかい?」
「……散らかっていてもいいならな」
「問題ない」
フィンをヤマダの部屋の中に入れる。
ヤマダが言った通り、部屋の中は見たことがない鉱石や薬草、何かしらの図式や術式が書かれた紙が至る所に散乱している。
研究者が徹夜で実験して整理しないまま、また実験を再開し続けているような有様の部屋だった。
「お邪魔だったかな」
「あー。まぁ行き詰っていたから別に」
「興味心から聞くけど、何をやっていたんだい?」
「他人が転移魔法を使えるようになる方法」
特大級の爆弾発言がヤマダの口から発せられる。
見知らずの他人が聞けば鼻で笑いそうなものだが。あいにくとフィンはヤマダの実力、知識の深さを知っている。
「……実用化は出来そうかい?」
「一般的な意味での魔剣のように使い捨て、それも1回限りならばなんとか可能性が見えるってところだな」
もしそんな物が実現したら、ダンジョン攻略や商人の在り方が変わってしまう。
だが、世界を揺るがしそうな魔法、神秘の開発もヤマダは浮かない顔をするだけ。
「何か気に入らなさそうだね」
「まぁ、使い捨てだからな。量産できそうなものでもないし、1つ作ろうとするだけで軽く億を超えそうな桁の金が飛ぶ。範囲や使用に制限を掛けても桁は変動しないとか。思考だけ空回りって感じだな」
そこで、話題を変えるヤマダ。
「で? 忙しい団長さんが何の用?」
「ちょっとヤマダに聞きたいことがあってね。ダンジョンにはバベル以外の地上への出口はどこにあるのか」
「あるかないかじゃなくて、どこにあるかね……。悪いけど知らない」
ヤマダは普段から深層よりその奥にはよく行くものの、地上に近いところほど行くことはない。良くて採取のクエストで取りに行くぐらいだ。
なので、バベル以外の出口と言われても見当が付かない。フィンはもしかしたら深層より奥に地上に出る入口があるのかと思っていたのかもしれないが、問題が一つある。
ダンジョンの壁、床は時間が経てば元に戻ってしまう。
なので、トンネルを掘るようにダンジョンに直通路を作ることは不可能なのだ。元からの道か、作るとしても形状が変化しない金属でも使わなければならない。
しかし、不壊武器に使われる金属は武器自体が高価すぎる。それで道を作ろうとしたらどれだけの量の金属が、金が掛かることやら。
「転移だとしても、俺がやったように桁がおかしい金は掛かるし、類似する魔法だとしても、それだけの魔力があるなら俺や他の悪魔が感知できないはずがない」
「そうか。……仮にだ。オラリオを滅ぼすとしたらどうする」
「まずはダンジョンの穴を埋める」
オラリオはダンジョンがあるからこそ成り立つ。
だったら、そのダンジョンが無くなれば?
「良くも悪くも、オラリオはダンジョンから生まれる特産を主軸としている。まず、探索系のファミリアはそれだけで困憊するし、生産系も薬品や武器を作ることは出来ない。凄まじい速度で、弱体化する。で、そうなれば例えレベル7や6が幾らいようが生産力がない、補給ができないってことになる。周り取り囲んで流通を止めさせすればどっかの王国だって倒せるだろうね。何もしなくていいんだから」
「農業のデメテルファミリアが居るのにかい?」
「あいつらだってモンスターの灰を肥料にしていたんじゃなかったか? 例えそれを使わなくても、生産力は落ちるしダンジョンで食べる食料品は買う必要性が無くなる」
そう、別に強いモンスターを地上で暴れさせる以外にもオラリオは結構簡単に潰せる。
オラリオは町であって、国ではないのだ。
国には軍がある。国には王が居る。
だが、オラリオには治安を守る軍はいない。アストレアファミリアがあったとしてもLVやステータスを上げるために、ダンジョンに入らなければならない。そして、町の治安を守ろうと積極的な冒険者が多くいるなら、一度敵対ファミリアから
王、つまり国を仕切る政治家や指導者はオラリオでは神になるのかもしれないが、娯楽好きでいい加減な神々が、そう言った面倒事を仕切るとは到底思えない。
もし、仕切っているのならばいつものように戦争を仕掛けて来るラキア王国をそのままにはしないだろう。
冒険者は強いから安心?
先程も言ったがオラリオを守ろうとする奴が居るなら、敵は排除すべきである。第一冒険者が町を守る保証などない。彼らはダンジョンに行く必要性が有るからオラリオを守っているだけに過ぎない。
もし、ラキア王国がダンジョンの所有権を放棄するのであれば、金を握らせて協力しろと言われれば? 協力するファミリアだって出てくるだろう。
「確かに……。だけど、現実的にダンジョンを塞ぐことなんてできるのかい?」
「なぁ、フィン。誰が最初にダンジョンを塞いだのか忘れたのか? 天界送り覚悟すればどこのファミリアでもできる可能性はあるんだぞ?」
さすがにヤマダも神の力を使わずにダンジョンを防げるとは思っていない。
だが、最初に地上に降り立った神々がダンジョンを塞いだように、もう一度誰かがダンジョンを塞げる可能性はある。
ただ、誰もしないだけ。
デメリットが分かるから。
でも、そのデメリットがメリットになってしまうのならば?
「まぁ、そんなことを考える連中は闇派閥ぐらいか?」
「……君はどう思うんだい。もう大体のことは知っているんじゃないのか?」
「さぁ? どうでもいいし」
あっけらかんとヤマダは言う。
「そいつらが何考えていようが、邪魔になるならねじ伏せればいいだけの話だろ?」
首をかしげ、ヤマダはフィンに確認するように言った。
その無邪気さにフィンは一瞬背筋が震えたが、もう一つの要件を言うことにした。
「ヤマダ。次の遠征は59回層を目指す。だから、その辺には近づかないでくれ」
「はいはい」
本来なら在り得ない申し出だが、これはヤマダから提案したことだ。
ヤマダ一人で確実に下層を突破でき、後ろについていけば楽々とダンジョンを攻略できる。
だが、それはただの腰巾着であり、冒険者とは言えない。
ならば、ヤマダは前線には出ず、後方にいざという時の備えとして待機する、といったことは出来ない。一度でもヤマダと言う力を振るってしまえば、その圧倒的な力に縋ってきてしまう者も出て来てしまう。
圧倒的な力は絶望にも似た諦めを感じさせてしまう物なのだ。
なので、例え食人花や赤髪の調教師が出て来たとしても、自身の力で突破する。第一、最初から最後まで他人任せなのはフィンは好かない。
だから、決してダンジョン内ではロキファミリアとヤマダが遭遇しないように、あらかじめ伝えている。
「それでもヤマダ。サポーターやヒーラーとして遠征には加わらないか?」
「一緒に行ったらあまりの効率の悪さに我慢できず、しゃしゃり出るぞ」
「……そうか」
それはある種の傲慢だが、フィンは一々指摘しない。そんなことはヤマダ自身分かっている。
冒険者は実力主義が多い。自分が強いと勘違いした恩恵を得た者や増長して天狗になる者も居る。
だが、ヤマダは自身の簡単に世界を滅ぼせる力を自覚しているから、ワザとお道化た表情で他人から距離を取り接している。少なくとも胸の内を明かすのは、フィンではない。
「そう言えば、豊穣のエルフのウェイトレスとは上手くいっているかい?」
「知っていてそれ言う? というかそれを茶化してくるなら帰れ」
「そうだね。もうそろそろお暇させてもらうよ」
と、部屋から出ていくフィン。
部屋の扉が閉じ斬る前にヤマダは言う。
「別に俺はファミリアの奴らと組みたくない訳じゃなくて、待ってるだけだからな」
「ああ、追いつくのは何時になるか分からないから、気長に待って居てくれないか?」
「いやだ。首がバベルを超えそうなほどに長くなりそうだから、先にどんどん進むわ」
「そうか」
フィンは少し悔しい顔をして、扉を閉じた。