ダンジョンをクリアーするのは間違っているだろうか?   作:中二ばっか

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おそくなりました。


第16話

【神会】

 神々が一堂に集い、会議や情報交換をすることになっている。

 もっとも、やっているのはただのおふざけ、しかもふざけた二つ名を与える名命式、改名である。

「じゃ、この子は【闇の炎に抱かれる者《ダークフレイム・ホルダー》】な」

「やめろぉぉぉおおお‼」

 余りの痛々しい名前に悶え苦しむ神。

 ところがどっこい。このような痛々しい名前でも眷属からすれば畏怖を与えるらしく、嬉しいようなのだ。

 そんな神を見てせせら笑う神々だが、最後の1人になった時、全員が神妙になる。

 

 司会進行役のロキでさえ、顔を顰める。

 ランクアップに掛かった時間が1か月ちょっと。

 眷属の中で才能あふれるアイズがランクアップしたのは8歳児の時。ファミリアに入団した時は7歳だったので1年かかっている。

 それから8年間のうちにLV6まで上がった訳だが、それでも異常なほど早い方だ。

 

 ――たった一人の例外を除いて。

 

(……経験値関係のスキルしかありえへん)

 例外のことを知っているからこそ、ロキの考えはすんなりと纏まり納得できた。敵対関係のファミリアに行ってしまうことが気に食わなかったが、間違いはないだろう。

 虚偽やイカサマを使わない相手と言うのは犬猿の仲で、性格を知っているからこそ分かる。

 

「二つ名決める前にな。ちょっと聞かせろや、ドチビ。一ヶ月半で恩恵を消化させるちゅうのは、一体どういうことや?」

 目を細め、相手を威圧するように見下す。その行為にヘスティアがたじろいたのを、ロキが見逃すはずがない。

「おい、説明せぇや」

 無論、ただの嫌がらせだ。

 だが、眷属が持つレアスキルに興味がない訳ではない。最も重要な情報なので喋るに喋れず、汗をだらだらと流すヘスティアを見ていたいというイジメでもあるが。

 

「何や? 言えんのか? 【神の力】でも使ったんやないんか?」

「そんなことする筈がないだろ!」

 ロキも本気で言った訳ではない。下界で【神の力】を使おうものなら、速効でばれる。【神の力】に神が気付かない筈がないのだ。

「後ろめたいことがないんなら言うてみや」

「うっ……」

 ニタニタした顔を釣るロキだが、神会に出席している者たち全員がヘスティアを注目している。擁護に回る者もおらず、あたふたし始めるヘスティア。

 

「別にいいじゃない?」

 その時、美しい声が響く。

 誰もがヘスティアの擁護に回るとは思わなかったので、ヘスティア自身も声を出した人物に驚いてしまう。

 銀髪の女神フレイヤは興味なさげに、だが唇は歪めつつヘスティアを見ている。

「不正をしていないというのなら、聞き出す必要はないでしょう? ファミリアの内部事情には不干渉、団員の能力詮索は禁制なのだから」

 

 確かにそう言った行為は、何かしらの事情(犯罪を犯した、巻き込まれたなど)がない限り強制することはない。

 だが、発言者がくせ者なので、ロキは胡散臭さく感じてしまう。

 

「一ヶ月や。この意味わかっとんのか、色ボケ女神」

「例外なんて常に存在する物よ。あなたが知らない筈がないでしょ?」

「……」

 ずいぶん前からフレイヤにはヤマダのことを気付かれている。もっとも魂の形が見られるという能力で偶然目に入っただけらしい。それからというもの、ヤマダを引き抜こうと画策している節がある。無論、ロキはヤマダを手放す気はない。

 だが、この場で不用意な発言はヤマダの存在の発覚に繋がりかねない。

 

 もし発覚して、神々がヤマダを手に入れようと画策し、実行に移したらどうなるか。

 まず、強引な手段、恐喝や暴力なら、仕掛けて来たファミリアは壊滅的な打撃を受けるのは確定だ。

 問題はその後で、圧倒的な力を世間に見せつけたヤマダの立場だ。

 それでもほしいと思うか、危険だと排除したいと思うか。ともかく、ヤマダを中心にして何かしらの厄介事が起きるだろう。

 

 それはヤマダが望んでいることではない。

 ヤマダはロキの眷属である。主神なら眷属の望むことは、ある程度叶えてやりたいと言うものだ。

 

 それにフレイヤ自身もヤマダの存在を口外する気はない。

 しばし、ロキは本気で睨み、フレイヤは微笑むという奇妙な構図が生まれる。

 だから会話は発言者のロキが終わらせるしかない。

 

「まぁ、LV1の駆け出しがミノタウロスと倒した時点で偉業と言えば偉業やな」

「ええ、LVという差を奇跡的に覆して」

「その戦闘はドチビの眷属にとっては特別な、おのれの存在を昇華させるような戦いだった」

「だったらランクアップも不思議じゃない。少なくとも私は思うけど?」

 続けざまに発言する彼女たちによって、神会は翻弄される。

 どちらも都市最大派閥のファミリア。おまけにフレイヤの魅力は多くの賛同者を自動的に増やしてしまう。

 

 ともかく、強制的にヘスティアへの尋問を終わらせてくれたフレイヤをロキは忌々しく思った。

 

 

 

【最速記録保有者・ベル・クラネル】

 そんな見出しのチラシが掲示板に貼られている。

 1ヶ月でLVが上がるのがそんなに珍しいようで、ヤマダは浮き立つオラリオの人たちをしり目にいつもと同じ店、豊穣の女主人の店に向かった。

 

 そこで噂のベル、パーティメンバーのリリに会う。

 

「LVアップ? おめでとさん」

「……無関心過ぎはしませんか。1か月半でランクアップなんて早いなんてもんじゃないんですよ!?」

 そんなこと言われても、昔はヤマダにとっては1ヶ月ダンジョンに籠って戦闘を繰り返していた結果、LV100以上は上がったのだ。自分が非常識なのは分かり切っているが、比較するとどうしても遅い。効率考えろと言いたくなる。

 

 最強と謳われているオッタルもLV8。あいつ冒険者になって何年目だっけ。俺なんて5年しかたってないのに。2年目でもうLV500越えていたんだと思うだけど。1ヶ月なら40はLVアップしている計算になる。

 

「最速ね……」

「胡散臭いとでも言うんですか?」

「いや、ただ、ねぇ? そんなに騒ぐようなことか?」

 誰だって戦い続ければ成長する。LVも自然に上がるだろう。

 他人から見れば早いのかもしれないが、

「あの剣姫だってLVが2になるのに1年かかっているんですよ!? これが偉業じゃなくてなんだっていうんですか貴方は!?」

「……よくある出来事の一つ?」

「こんなのがよくあって堪りますか!」

 ヤマダが最初の1ヶ月で上がったLVは150オーバーしていた気がする。

 

 みんなが思っているLVの概念は格上げ。

 ヤマダはステータス上昇ぐらいに差が出ている。

 まぁ、そのステータス上昇も確認できなくなってしまった。

 

「そんなんだから、【パラサイト】ととか、【グレムリン】なんて陰口言われるんですよ」

「なにそれ、初耳」

 リリルカの話ではヤマダはロキファミリアのお零れに預かり、金をくすねていると噂されていること。パラサイトは寄生虫、グレムリンは悪戯し、いつの間にか甘い物を取っていく悪い妖精だ。

 そのことを聞いたヤマダの感想は、(パラサイトは心外だけど、グレムリンはいいな。可愛げがある)だ。

 

「リリなら、ベル様の【リトル・ルーキー】の方がいいと思います」

「あ、ありがとう、リリ」

 

「私もいいと思いますよ、【リトル・ルーキー】」

「ランクアップおめでとうございます」

 シルとリオンが声を掛けて来る。

 そして、そのままこちらの空いている席に座って来た。

 

「あれ? 二人とも働かなくていいんですか?」

「貸してやるから存分に笑って飲めと、ミア母さんが。それとお金を使えと」

「がめつい。流石ミアさん。がめつい」

そんな茶々を入れると、キッと鋭い視線が飛んでくる。その視線から逃れるようにコップを口元に運んだ。

 

「それで、クラネルさんは中層へ行くのですか?」

「ひとまず、11階層で様子見をしてからにしようかと思っています。そこで攻略に支障がなかったら、12階層にまで降りるつもりです」

「それが賢明です。ソロでLVが上がっているからと、考えなしにダンジョンにどんどん潜るのは自殺行為です」

 と、リオンは僅かにヤマダに目だけを動かした。その目には、お前は黙っていろよといった意味合いがあるのだろう。確かに急成長しているとはいえ、ベルクラネルにヤマダのやり方を真似することは不可能だ。

 

 それはヤマダがリックのLVが上がったからと、いきなり50層まで進出してリックの精神が沈んでしまったことに由来する。いつもハイテンションだった彼が部屋の隅で体育座りをして影を落としていた。だが、次の日にはあっけらかんといつもうるさい彼に戻っていたので、また行くかと言うと一気に顔を真っ青にした。

 そのトラウマから、彼はしばらくダンジョンには潜れなかった。

 

 なので、リオンはベルが二の舞にならないように釘を刺しに来たのだろう。

 

「そして、差し出がましいですが、中層に挑むのはまだやめておいた方がいいでしょう」

「リュー様はベル様とリリでは中層に太刀打ちできないと?」

「そこまでは言いませんが。上層と中層は違う。モンスターの質、何よりも量が違います。今更口にすることではありませんが、大多数のモンスターにソロで処理するのは困難。1体1体倒している間に、他のモンスターにも警戒しなければなりません。それにミスした時にカバーしてくれるものが居ません。ダンジョンをソロで潜るのは、文字通り綱渡りと言っていいでしょう」

 そこまで続けて言ったところで、一度区切る。リリは顔を真剣に、沢山言われたことにベルは少々戸惑ったものの意図は伝わる。

 

「貴方たちはパーティを増やすべきだ」

「でも、肝心な仲間になってくれそうな人が……。あ、ヤマダさんは?」

 と、良いことを思いついたようにベルは視線をヤマダに向けた。リオンは思わずいつもは凛とした顔を顰めてしまう。ヤマダ自身もベルとリリの仲間になるつもりはない。

 

「悪いけどやめとく」

「そうです、クラネルさん。彼はやめた方がいい。彼の破天荒な行動に貴方が巻き込まれてしまいます」

「え、そうですか」

 ヤマダよりもパーティに入ることを拒否するリオンに戸惑ってしまったベル。

 

「でも、リュー。ヤマダさんは強いんでしょ? だったらベルさんとリリさんは安全じゃない?」

「……確かに彼の実力は保証します。ですが……、彼に団体行動は出来ません。そうですね。階段降りるのが面倒だからと、命綱なしにダンジョンの縦穴に飛び込む、また落として自由落下させる。危機に陥れば隠された力を発揮するかもと、モンスターに捕食される寸前まで助けない。そういった行動に目を瞑るならいいのではないでしょうか」

「やめておきます」

 今度はベルからきっぱりと断言した。

 

「いや、落としてもちゃんと受け止めるし、見殺しにはしないぞ」

「心臓に悪いですよ。ってか、本当にやったんですか!?」

「当たり前じゃん」

「……ですから、おすすめはしません」

 こめかみに手を当て項垂れてしまうリオン。

 何が悪いのか分からないヤマダは頭に疑問符を浮かべた。

 

「ははは! パーティのことでお困りかぁ? リトルルーキー!」

「?」

 突然絡んできた酔っ払いが、先程の話を聞いていたようだった。

 押しかけ、やっかみだろうか。ごろつきとその仲間といった面々だ。酒臭い匂いが漂っていることから、余程飲んでいるのだろう。正常な判断などできていない。

 

「なんだったら、俺たちのパーティにてめぇを入れてやろうか? 俺たちはLV2だ。中層だって潜ってるぜ」

「え?」

「けどその代わり、そこの別嬪を貸してくれよ。仲間なら分かち合いだ。なぁ?」

 

 鼻の下を伸ばす、いやらしい視線を向けるまではいい。誰だって彼女たちは美人の分類に含まれる。が、触れるのはご法度だ。

「あー。そういうことはやめておいた方がいいぞ」

「なんだよてめぇ。俺らになんか文句でもあるのかよ、ああ!?」

 ガンを飛ばしてくるならず者だが、ウサギのように怖気る程の物でもない。殺気すら出していないので、呆れたように言ってしまう。

 

「そう言うのはこの店じゃご法度だ。娼館にでも行ってくれ」

「はっ! なんだ、ここは仲良くお手て繋ぐとこまでですってか!? そんなのもしたこともない童貞が、粋がってんじゃねぇよ!」

 本当に酔っているらしく、何やら話がかみ合っていない。だから、酒はあまり好きではないのだ。酔っ払いの言い分にため息を吐いてしまう。

 

「なぁ、妖精さんよ。俺らの方がこんなカスみたいな奴より良い思いさせてやるぜ?」

「触れるな」

 そうして、リオンの方に触れようとしたならず者。

 だが、即座に動いた彼女に空になったジョッキを使って、ならず者の手をジョッキの中に入れ、間接的に手首を捻られる。

 

「イデデデデデ!?」

「すまない。癖だ。それに彼に貴方達は相応しくない」

 ならず者が尻もちを突いた所で、ジョッキを手放す。

「このっ、女でも容赦しねぇぞ!」

 逆上したならず者が彼女に襲い掛かろうとするものの、ヤマダは足を払って転倒させる。

 

「てめぇ、何しあが――」

「おい、誰がカスだって?」

 起き上がろうとしたならず者の目の先にあったのは銀色の並ぶ針、フォークの先端。あと僅かで突き刺さってしまう距離に置いたのはヤマダである。

 

 目の前に突き付けられた凶器に思わず体が固まるならず者。ヤマダも怒っている訳ではない。決してリオンに手を出したこと、そして苛められたことに嫉妬している訳でもない。

 

 そう決して怒っていない。だが、ヤマダから発せられる威圧感は殺気が濃厚であった。 

 幾ら酔っているとはいえ、冒険者の端くれのならず者はその近くに居たせいか、血すら冷めるほどの肌色をする。

 

 そして、そのまま気絶したならず者。

 気当たり、という技で相手に威圧感を与え、フェイントや動きを封じる物なのだが、少々やり過ぎた。

 白目を剥いたならず者のみに放ったが、漏れていたようで殺気に敏感な冒険者やこの店の店員は、警戒態勢を取る程の物だったらしい。

 突然倒れたならず者の仲間は、どうして倒れたか困惑しているので失敗はしていないのだろう。

 

「貴方達、彼はどうやら頭の打ちどころが悪かったようだ。すぐに医者に見せると良い」

「え、あ、はい」

 リオンの声に我に返った仲間の一人がならず者を担いで、急いで立ち去ろうとする。

 

「アホダレ! 金を払いな! 食い逃げなんてさせないよ!」

「は、はいぃ!」

 がめついミアさんの怒号にすっかり怯えた仲間は財布ごと置いて行ってしまった。

 

「……どうすんの、これ?」

「落としてしまったのです。お釣りは次に来た時に返すとしましょう。次があればですが」

「お前もがめつくなったな」

 軽口に彼女から鋭い視線が突き刺してくる。だが、何でだろう何故か心地いい視線なのだ。

 ともかく、そんな視線を浴びながら、美味しい料理を食べることにした。

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