ダンジョンをクリアーするのは間違っているだろうか?   作:中二ばっか

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第9話

「んー」

 と店の酒を眺めているヤマダ。

 流石に酒が嫌い、弱いとはいえ、1杯で酔って寝てしまう自分はどうなんだろうと思い、こうして酒を購入しに来たわけではあるが、ずらりと並ぶ酒瓶。

「さっぱり分からん」

 と、延々と何を買おうかと逡巡くした後、匙を投げた。

「高い奴が美味いってのが相場だけど」

 ヤマダが目を向けた酒瓶は6万と、並ぶ酒瓶とは桁違いの額を誇っている。

 ソーマファミリアが販売している酒らしい。

 この店には薬品や非常食が売られているので冒険者もよく利用する。

「でもなぁ、たかが酒に6万ってのも馬鹿らしんだよなぁ」

 6万あれば何が出来るか。ヤマダの頭の中では家賃を支払え、お釣りすらくる額である。 

 それが、この酒瓶に消える。あまりに馬鹿馬鹿しく、買う気になれない。

 それなら100円のジュースを買った方がヤマダに合っている。

 だが、どうせ克服するなら不味い物を飲むよりも、美味い方がいい。幸い金はある。

 ヤマダが6万もする酒瓶を手に取った時、隣で見ていたギルドの係員のハーフエルフ、エイナ・チュールが驚く。

「買うんですか!?」

 ぎょろっと目を見開いた彼女は、信じられないと言った表情を浮かべる。

 ヤマダも言いたいことは分かるが、別に自分の金で何を買おうと文句を言われる筋合いはない。

 そのまま会計を済ませ、部屋に戻ろうとする。

「ちょ、ちょっと待ってください!」

「……なに?」

「えっと、そのお酒はいつも飲酒しているんですか?」

「いや、初めて買って適当に酒の耐性付けるつもりだけど」

「そ、そうですか。因みにそのお酒に依存性とか、少し普通じゃない症状が出ている方はいませんか?」

「アルコール依存症になった奴でもいんの?」

「いえ、そういう訳ではありませんが……そのお酒を造っている所がその、問題を起こしているので」

 ヤマダは再び6万の酒瓶に目を向ける。

 ソーマファミリア。確かにヤマダが金を持っているといちゃもんをつけて脅し、金を巻き上げようとする馬鹿どもである。

「ああ、あの金に執着している連中か」

「何か知っていませんか?」

「……しいて言うなら、団員の誰かが仕切って収納金を定めているはず」

「その収納金って、幾らぐらいでしょう」

「そこまで俺は知らねぇよ。そっちは何か知らね?」

 と、ヤマダが声を掛けた。

 エイナの後ろで聞き耳を立てていたのか、緑髪から出て来た柳の葉のような耳を持つエルフ、リヴェリアの耳が少し震えた。

「確かにあのファミリアには薄ら寒い物があるとは聞くが」

「り、リヴェリア様!?」

 突然現れた、エルフの王族に畏れおおのくエイナ。

「久しいなエイナ。少し見ない間にずいぶんと綺麗になったぞ」

「あ、ありがとうございます! 過分なお言葉身に染みる思いでっ」

「それはいい。ここはエルフの里ではない」

「そ、そんな王族の御方に」

 二人のやり取りを見て、疑問に思ったヤマダはそのまま口にする。

「王族ってそんなに偉いのか?」

「まぁ、里ではな。それよりも先程の話だが、多少は明るい人物に心当たりがある。立ち話もなんだ。ホームに来ないか」

「えー……」

 余り乗る気がしないヤマダに対して、エイナは何が何でも行きたいらしい。

「酒は1人で飲んでもつまらんぞ。それにロキが会いたがっている」

「……はぁ」

 一応、神の恩恵をくれた神で、恩があるので断り辛い。なにより、定期的に会っていなかったら突撃訪問してくるため、隣の住人に少し恥ずかしい。

 部屋に両親が来て恥ずかしく、また居心地の悪さを感じるよりはマシだろうとヤマダは嫌々とホームに行くことにした。

 

 

 本当に、久々と来るロキファミリアのホーム。黄昏の館の談話室に久々に入ったヤマダ。

 途中、門番やすれ違うファミリアのメンバーが嫌そうな顔をする。

「あの、ヤマダさんは、ファミリア内から」

「疎まれてるよ。ほっといてくれたらいいのに」

「……それは、あの、ロキファミリアの在庫を?」

「エイナ。それは根も葉もない噂だ。大方嫉妬した奴が流したのだろう」

「ってか、それを聞きに来たの?」

「いえ。あの、すいません」

 と、なぜか恐縮したエイナ。

「お帰りなさい。リヴェリア」

 談話室には先客がおり、ちょこんと椅子に座っているアイズ・ヴァレン・シュタイン。

「ああ、ただいま。アイズ」

「そっちの人たちは?」

「私の親戚と問題児だ」

 ヤマダはもう聞き流し、さっさと酒瓶の蓋をあけ、適当にグラスに注ぐ。

 そして一口煽り、一瞬にして酔った。

「おぅ?」

 ぐらんと一瞬にしてぼやける視界。

 甘味はしつこくなく、口どけも滑らか。後味もすっきりしている。

 だが、一瞬にして意識を持っていかれるほどに不味い。

 すぐさま意識を強く保たないとその場で寝てしまいそうである。

「……やべ」

「おいおい。もう顔が赤くなってるぞ」

「うるひゃい」

 もう既に呂律が上手く回らない。

 そうしている間にも頭の中でリヴェリアの声が幾重にも聞こえる。

「この匂いは、神酒やな

っ!?」

 と、酒好きの神が僅かな酒の匂いを嗅ぎつけて談話室に入ってくる。

「なんや、ヤマダもいるやないかい。買ってきてくれたん?」

「黙れぅえ、こぉの男神~」

「言ってはならんことを言ったな!? って一口飲んだだけで酔ったんか」

「うぅー、世界が回るぅー」

 そう言って机に突っ伏しはじめた。

 

「あの」

「気にしないでくれ。ヤマダは酒に弱い」

「はぁ」

「エイナも飲んでみるといい。ヤマダ良いだろ?」

「どうぞご勝手にー」

 酒に弱いとは聞いたが、一杯であそこまで泥酔するものだろうか、とエイナは不安になる。エイナも1口飲んでみるが、いきなり泥酔状態にはならない。むしろもっと飲みたいと思う。

「で、ギルドのもんがなんで接触してくるんや?」

「いえ、私は」

「私の友人だ。中傷は許さんぞ」

「なんや、リヴェリアのお客さんか。勘ぐってしまったわ」

「いえ、お気にならさず……」

「まぁ、滅多に来ないうちの子供が来たんや。今日のうちは機嫌ええで。何か聞きたいことあるんやろ?」

「ソーマファミリアのことについて、知っていることがあれば教えて頂きたいのです」

「いきなり核心突いてくるなぁ……、まぁええか」

 そう言ってグラスに注がれていた神酒を一回、飲み干してしまうロキ。

「まぁ、小耳に挟んだ話なんやけどこの神酒、失敗作らしいで」

「これが!?」

「安物掴まされただとぉー!?」

 信じられないという気持ちと悔しいという気持ちで、彼らは別々の驚き方をする。

「少しうるさい。話している最中だ」

「えぇー。でも、完成品を、何で、売らないんだぁ?」

 べろんべろんに酔ったヤマダは何気なく疑問を口にする。

「報奨品らしいんや。酒を造るには金が掛かる。で、一度神酒をちょびっと飲ませて、また飲みたぁなった奴を神酒を金集めさせたんや。これ飲んだらわかると思うやけど、ヤバいで。また飲みたぁなった団員は1ヴァリスでも多く稼ぐ。仲間蹴落としてでも、他人を犠牲にしてでも」

 薄ら寒い感覚をエイナは味わう。

 失敗作ですら美味い。確かに飲みたくなる気持ちも分かる。

「……それ、飲まなきゃやってられないのか?」

 しかし、ヤマダには分からない。

 美味しい物でなくとも、それなりに食えれば人間は満足する。冒険者ならダンジョン内で贅沢な食事は出来ない。なので、酔いが醒めれば元に戻りそうな気がした。

「うーん。酒嫌いのヤマダには分からんかもしれんけど、どっちかと言うとあそこの子が崇めているのは神やなく、神酒の方なんやろうな。ソーマの野郎は子供たちには無関心みたいやし」

 何も関心がなく見捨てた神より、自分を幸せにしてくれる酒の方が良かったという事かもしれない。

「ま、うちが知っているのはそんくらいや。役に立ったかエイナちゃん」

「はい、ありがとうございました」

「ほな、ヤマダ。久々やしステータス更新しよや」

「どうせ変わってないからいらね」

「わーん、振られたー。アイズたん! 振られた者同士、ステータス更新しながら慰め合おう!」

「……更新以外に変なことしたら斬ります」

「まじでぇ」

 と、部屋を出ていく二人。

 それを見ていたエイナは、流石に先程のいわくつきの神酒の出来損ないに手を付けず、リヴェリアと同じ紅茶に飲み物を変える。

「面白い神ですね」

「面白いかどうかはともかく、あれは存外にキレる。我々からの信頼も厚い」

「信仰はまるでないけどな」

「はぁ……」

 神としてそれはどうなのだろうか、とヤマダの言葉に戸惑うエイナ。それよりも明日ベルと離さそうと考えることにした。

 紅茶に口を付けていると突然隣の部屋から大声がした。

「LV6、きたぁあああああ!」

「ブフゥーーーー!」

「うわ、汚ね」

「エイナ……」

「ああ、すいません!」

 

 エイナがギルドに帰った後、談話室にはヤマダとリヴェリアが取り残される。

「酒の耐性を付けなきゃいけないのに、ロキに殆ど飲まれるとは……」

「珍しいな。酒なんていらないと言っていたお前が」

「いやね、流石に一杯で酔ぱらうのはどうかと思ってさ。新品の味を確かめるために頼んだのに酒が入っていて、まぁ、一杯でダウンした」

「最強も酒には勝てんか」

 あんまりなヤマダの弱点に苦笑したリヴェリア。

「で、大丈夫なのか。俺がここに居て」

「誰彼構わず、危害を加える訳ではないだろ」

「でも、俺が怖いんじゃないか?」

「…………」

 正直に言うことも、嘘を吐くことも躊躇ってしまうリヴェリア。

「……それでも家族だ」

 逡巡してやっと返せた言葉。偽りはないが、ヤマダは何と言っていいか返し辛い。

 そもそも、家族と言うのがどういう物なのかヤマダはよく分からない。

 物心ついた時には、どこかの家に引き取られて居心地が悪かったので家を飛び出し、適当に地上に出て来たモンスターや害獣駆除をして金を稼いでいた。

 家族と言われてもよく分からない。

「まぁ、ありがとう……なのか?」

「なんだそれは」

 ヤマダの返答が曖昧なものなので、リヴェリアの表情が柔らかくなる。

「いや、家族って何だろうなぁって。酒も飲み干されたし帰るわ」

「ファミリアのホームなんだ。ここに居ればいい」

「もう、俺の部屋ないだろ?」

「ロキが残してる」

「でもいいや。今更と言うか何と言うか、居心地が悪い。他の団員の視線とかじゃなくて俺自身の問題だから、あんたたちが後ろめたく思う事じゃないよ」

「……私たちはもう関わるなと言うのか」

「うーん。そうじゃなくて俺が距離を置いておきたいだけ」

 正直、昔使っていた部屋が残っているとは思わなかった。だが今となっては、もう要らない。

 月額で支払われる家賃が無駄になってしまう。

「そうか……」

 寂しげに憂うリヴェリアの横顔は美しかったが、そんな顔をしないでほしいと思った。

「そんな顔せずにこう、知的な感じが合うと思うぞ。老眼でも掛けたら?」

「馬鹿にしているのか」

 ゴゴゴとリヴェリアの背後に黒いオーラが立上ったのを感じ、ヤマダは脱兎のごとく走り出した。

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