フェアリーテイル 戦いの果てに待つもの   作:NAGI

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ありがとうとさようなら

「誰が命ごいをすると言った?それに命ごいをすることになるのは貴様だ」

 

「親父の身体で勝手な事はさせない!」

 

少しの間呆気にとられたように口を開けていたゼレンだったが状況を把握すると笑い出す。

 

「これはもう我の身体だ。我が奴を封じ込めて表に出てきたのだからな。虫けらの息子如きが身の程を弁えろ‼︎」

 

そう言うと魔力による衝撃でゼオンをワース樹海の中央まで吹き飛ばし、自らもそれを追う。ディオと戦い力があまり残っていないゼオンはハルバスとの竜衣武装が解けているが反対に闇の人格が目覚めた事で力が回復したゼレン。力の差は歴然だ。しかしゼオンは諦めず悪魔迎撃の為の魔法を発動する。

 

「氷魔の激昂‼︎」

 

口から放たれた氷はゼレンに迫るが魔力を高める事でそれを砕くと彼の目前にまで移動し、アッパーをくらわせる。

 

「ふん。やはり虫けらの息子もあの程度か・・・」

 

そう言いニルヴァーナの方向を向くゼレンだったがゼオンはまだ戦える。上空からゼレンのすぐ近くにまで迫りパンチを繰り出す。

 

「雷竜の鉄拳!」

 

使われたのは黒の力ではない通常の滅竜魔法・・・しかしその威力は凄まじくゼレンの足の半分が地面に埋もれる。

 

「貴様の魔力は底をついた筈・・・にも関わらず何故戦える?」

 

「俺には頼れる師匠がいるんだよ」

 

口元に笑みを浮かべながらそう言うゼオンの言葉にゼレンは空を見上げる。いたのは龍の姿で自らの存在を示すように佇むグランドの姿があった。グランドの雷を喰ったゼオンは魔力と体力が少しであるが回復している。まだ少しは戦えそうだと感じる。しかしそれはゼレンの怒りに触れたらしい。

 

「過去の遺影如きがぁあ‼︎」

 

激昂したゼレンは本気でゼオンを潰しに掛かろうとする。

 

「我に逆らう者は全て消えろ‼︎うぉおおお‼︎」

 

同時にゼレンの身体から鎧が外れ、吹き飛ぶ。さらに禍々しい形をした尻尾と悪魔のような羽根が生え、両腕には刺々しい刃があった。

 

「こうなった以上我を止めることはできん!虫けらの息子よ。その身に我の力を受けて死ぬがよい!」

 

 

 

「虫けら虫けらうるさいな。俺はまだ死ねないんだよ。メイビスとの誓いを守る為にも、俺に希望を託して消えた仲間たちの為にも」

 

ゼレンの尻尾がゼオンに迫るが彼は受け止める。

 

「少しはやるようだな・・・だが我には勝てん!」

 

その言葉と同時にゼオンは吹き飛ばされる。ゼレンが感じたいのは強き者を倒す事で得られる快感。勝利という極上のスパイスを感じる事で彼は自分が存在していると実感できると思っていた。だから自我を得る前とはいえ、自身から身体のコントロール権を奪ったディオが憎い。ならばどうするか。それは息子であるゼオンに苦痛を与えてから殺し、ディオを消滅させる。復讐と同時に自分が望む快感を得られるのだ。こんなに嬉しい事はない。だがまだ足りない。誰かで渇きを満たし、さらなる快感を求める。永遠に続く最高の快感だとゼレンは思う。しかしまずはゼオンを殺そうと彼に狙いを定めていた。

 

「まだ倒れるなよ、我はまだ遊び足りないんだ」

 

「ちっ・・・まだまだ余裕があるって感じだな。イラつくぜ」

 

立ち上がるゼオンは悪態をつくが状況は最悪だ。魔力は少ないというレベルを越えていて、空っぽに近い。しかも体力も少ないがグランドのところに行こうにもゼレンはかなり警戒していて行けないのだ。かといってグランドは最早力はなく、今にもこの世界からハルバスがいる世界へと戻ろうとしている。

 

「これは久々に味わう絶体絶命のピンチだな・・・だがやはりこっちの方が燃えてくる」

 

ゼオンは口元を拭う。まだまだ彼の闘志は消えてはいない。むしろますます燃えていた。どうやら負けず嫌いな点はナツと同じらしい。しかしついにグランドも戻ってしまい一人で戦うしかない。まだニルヴァーナがある事から20分は経っていないのだろう。だが何時間経ったのかと錯覚させる程に過ぎていく時間が久々に長く感じた。

 

「ふん・・・いつまでそうしていられるか実物だな!」

 

ゼレンが人差し指から放ったビームはゼオンの肩を貫通するが彼は倒れない。続いてゼレンはゼオンにパンチと蹴りを入れていき地に伏せても彼は立ち上がる。

ゼオンの目的はただ一つ 属性がある攻撃を出させる事だ。ドラゴンスレイヤーを始めとするスレイヤー系の魔導士は自身が扱う属性と同じものを食べる事で魔力と体力を回復する。

ゼオンはこれまでたくさんの属性のスレイヤー系魔法を覚えてきた。だから何かしらの属性である魔法が繰り出されたら魔力と体力を回復させられる。しかし敵もおそらくそれは分かっている筈・・・。

 

 

そう考えたゼオンは自身の不老不死という特性を利用することにした。いくらダメージを受けても死ぬ事はない身体。普段は永い時間を生きた事で苦痛に感じる事が多い。しかしやはり長期戦の時は使える。

いくらダメージを受けても死ぬことがないのだから敵からしたら死ぬことがないというのは厄介だ。攻撃していく内に焦りが生まれやがて攻撃が単調になる。それで体力が尽きて自滅するならもうけもの、属性がある魔法を放ってくれたら自身の力が戻り倒せるのだ。どちらにしても良い事だ。

ただ問題は自分がそれまでに意識を保っていられるかどうかという事だった。

 

「おのれ〜‼︎虫けらの分際で生意気な‼︎」

 

この様子だと本気の攻撃を繰り出すのか、それとも自分の思惑通りに動いてくれるのかゼオンには分からなかった。

 

「さっきまでの・・・余裕はどうしたんだ?」

 

「我は最強なんだ!最強でなければならないんだーーー‼︎」

 

そして放たれる大きな紫色の球体。ゼオンは必死に抗うが魔力が空っぽになってしまった状態では大した抵抗にはならず・・・その球体に呑まれてしまう。

 

「勝った・・・我は勝った!やはり我は最強なんだーー‼︎」

 

ゼレンは目を閉じ地に伏せるゼオンを見て高笑いをする。ゼオンが死に自分が最強だと証明されたのだと感じて喜んでいた。

 

 

 

「ゼオン。起きなさい、ゼオン!」

 

懐かしい声に目を覚ましたゼオンは目を見開く。そこにいたのはもう既に死んでいる筈の母・ルーチェだったからだ。桜色の長い髪はナツにそっくりで彼らが血縁関係にある事がよく分かる。

 

「母さん・・・本物か?」

 

「どうしたの?何かあった?」

 

とりあえず首を横に振ったゼオンはある人物がいるであろう場所へと行く。

 

ゼオンが来たのは街を一望できる草原だった。

ゼオンは来る最中に通った街からここが四百年前の世界だと理解したが何故今更こんな夢を見ているのだろうかと考えて死んでしまったからかと思う。しかも何故か自分が王になった年である14歳の身体になっており、会う度に皆が王よと言って挨拶してきたので自分が王であった事は変わっていないが不思議な事に竜との争いがない。

この頃が一番竜との抗争が激しくなっていた。だから先代は死にゼオンは王位を継承したのだ。とにかく変わり過ぎた世界に頭が混乱しているゼオンは一体俺にどうさせたいのかと考えていた。

 

「珍しいね。兄さんがここに来るなんて・・・」

 

「俺だって静かな場所にいたい時はある」

 

昔はゼオンとゼレフはまさに静と動。まるで正反対な性格だった。変わったのは王になって少ししてからだ。とりあえず自分がそんな風に思われていたとは心外だと思うゼオンだが空を見上げる為に寝そべる。

 

「ゼレフ兄ちゃーん‼︎」

 

「ナツどうしたんだい?」

 

そこへ走ってくるナツはある一人の少女を連れていた。銀の髪が特徴の少女の名前はマナ。

 

「連れてきた!」

 

「兄さん、兄さんのフィアンセが来たよ」

 

ゼオンの婚約者である。

 

「なんだ、お前か・・・」

 

「ちょっと!それはないでしょ!せっかく来てあげたのにーー!」

 

「はいはい。それはご苦労さんでした」

 

昔から扱いやすいとゼオンに定評のあるマナは頭を撫でるとすぐに顔を真っ赤にする。さっきまでは不機嫌そうにしていたのにコロコロ表情が変わる。それでもっと表情を変えさせようと色々して怒られるというのが彼らの日常だった。

 

「ねぇ、ゼオン。行かなくていいの?まだ戦いは終わってないんでしょ?ディオさんのもう一つの人格と」

 

「マナ・・・何で知っている?」

 

「それはこの世界が夢のようなものだからだよ。この世界は兄さんが望んだ夢の世界だ。だけど兄さんはここにいてはいけない」

 

マナの代わりに答えたゼレフはゼオンの手を取る。

 

「行って、ゼオン。貴方はまだやるべき事がある・・・」

 

「たとえそれがどんな険しい道だとしても自分を信じて進め・・・だろ?」

 

ゼオンの言葉に皆が笑みを浮かべる。

 

「ゼオン兄ちゃん!頑張ってな!」

 

ナツの言葉に頷きゼレフの手を離すとマナに向き合う。

 

「頑張ってね・・・」

 

「ああ。そういえばお前だけ魂は本物なのか?」

 

マナや両親たちの魂はオリジナルというべきものだ。しかしゼレフたちの魂は限りなく本物に近い。とはいえ彼らはかつての記憶から再構成されたような人格である為似ているのは当然だが。

 

「それだけ私たちは運命の鎖で繋がれてるの!」

 

皆が噴き出し少し拗ねるマナにゼオンは自分に振り向かせる。

 

「それは言い過ぎだが・・・お前を愛してるのは変わらない。何百年経っても」

 

「当然よ!」

 

「じゃあ、またな。ありがとう」

 

 

 

 

どんなに辛くとも生きると決めた。

 

それはマナに俺を救ってくれたメイビスとの約束と願いで、俺が王だった時に支えてくれた仲間たちから託された頼みだ。

 

どんなに永き時を生きて全てを忘れようと覚えていた事。だから俺にとって決して忘れられない最後の約束なんだ。

 

「俺が死ぬのは世界が俺を必要としなくなった時だけ」

 

「何⁉︎」

 

そんな時代が来るのがいつなのか俺には分からないけど・・・

 

「だがまだまだ貴様のような奴がいる間は死ねないんだよ」

 

アンナたちがいたから俺は生きている。

 

メイビスがいたから今の俺がある。

 

そしてマナがいたから俺は愛するという事を知れた。

 

皆に救われてきた。

 

だから俺が俺である限り戦い続ける。世界に真の平和が訪れるその瞬間を待ちながら。

 

「貴様には死を与えてやる。慈悲は与えない!」

 

 

 

 

「起き上がったのは褒めてやろう。だがそんな身体で何ができる?」

 

「貴様を倒す事が出来る」

 

血管を浮かび上がらせたゼレンはゼオンにビームを繰り出すがそれを全て避ける。

 

「(あいつらとの出会いは限りなく現実に近い夢と捉えた方がいいようだな・・・あいつらから渡された魔力があるのがなによりの証拠だ)」

 

身体が軽く感じるゼオンは一瞬でゼレンの背後に回り込む。

 

「一体どこを見ている?」

 

「遅いぜ!」

 

ゼレンを殴りつけ、雷を連続で浴びせる。それだけでゼレンの身体はボロボロになっていた。ゼレンは元々戦闘経験がなく、力を無駄に消費していたのだ。抗う術はなかった。

 

「お前の敗因は圧倒的に経験が少なかった事。それだけだ」

 

魔力を高めるゼオンにゼレンは慌て出す。

 

「待て!これは貴様の父親の身体だぞ!こいつがどうなってもいいのか⁉︎」

 

「親父なら構わず倒せって言うだろうからな」

 

逃げようとして空に羽ばたくがゼオンは見逃そうとはしない。

 

 

 

右手にグランドの強襲形態のオーラが見える。一撃必殺 ゼオンの最強のカウンター技といわれた攻撃をゼレンに繰り出そうとしていた。こちらを向き、恐怖に怯えるゼレンだがゼオンにはディオが満足気に頷いている姿が見えた。それに頷き返し、ゼレンに迫る。

 

「ドラゴン ストライク‼︎」

 

その拳はゼレンの身体にヒットし、ニルヴァーナを貫いていく。

 

「はぁああ‼︎」

 

その頃丁度ナツたちの方も終わった。ナツはゼロを倒し、皆は六つのラクリマを破壊した。

 

その一方でニルヴァーナが崩れ落ちる中樹海を越え、丘辺りにまで来たゼオンたち。身体は元に戻り、ディオの人格がおもてに出ていた。

 

「良くやったな・・・」

 

「俺の誇りをまだ言ってなかったよな」

 

「ああ、そうだな」

 

「俺の誇りは仲間たちだ。何ものにも変えられない宝物。そいつらが俺の誇りなんだ」

 

そうかと呟くと目をゆっくり閉じ、ディオの身体は砂となって消えた。残ったのは静かに涙を流すゼオンの姿だけだった。

 

「ありがとう。そして、さようなら」

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