空を舞い、戦うジオとヒョウガ。嵐と雨。二つの炎を燈し、戦う彼らはお互いの信念の為に戦っていた。大切な者を守る為に。仲間を助ける為に。
「・・・嵐牙・炎撃!」
紅い炎の矢が放たれ、その数が増えていく。雲の炎も混じったその炎は止まるところを知らず、ヒョウガに迫る。
「はあぁっ!」
ヒョウガは刀一本でそれらを全て弾き、空を覆い尽くす程の青い炎の斬撃が放たれた。それらをジオは弾きながらも全てを弾く事は出来なかった。段々と傷が増えていく。頰に。腕に。足に。そして動きが段々とゆっくりになっていくにつれて傷が更に増えていった。
「これでトドメだ!青龍・破刃!」
ヒョウガの攻撃が放たれる事は無かった。それは彼の腹を人の手が貫いていたからだった。
「・・・なぜ?」
「ん。ああ。全部消す事にしたからだよ。ヒョウガ」
「ゼオン‼︎生きていたのか⁉︎」
血を吐き、刀を落とすヒョウガの後ろにいたのはエドラスのゼオンだ。彼の右手はヒョウガの腹を貫いており、左手は彼の肩を持ち、落ちないように支えていた。
「妹は?」
「まだ寝ているさ。約束を守る気は最初から無かったし」
馬鹿にするように、笑って告げる彼の言葉にヒョウガは涙を流す。ヒョウガから手を抜き、左手を離す。重力に逆らう事なく、堕ちていくヒョウガは涙を流していた。
「残念だったな。せっかく妹を治してもらえると思って仲間を裏切ったのに」
「ゼオン!お前、ヒョウガに何を!」
「ああ。ただ、妹を治して欲しかったらお前らを殺せって言っただけさ。裏切らないように彼女を人質にして」
ヒョウガには7つ下の妹がいる。彼女は国王軍の町への砲撃に巻き込まれ、一年前から昏睡状態。しかし、エドラスのゼオンなら彼女を目覚めさせる事が出来るのだ。その為にヒョウガはジオ達を裏切った。
「お前、その為に・・・ゼオン!テメェは許さねえ!」
話を聞いたジオは怒りを抑えられなかった。気付いてやれなかった自分に対して。彼の純粋な気持ちを利用し、弄んだエドラスのゼオンに。
「なら、どうする?」
「テメェをぶっ飛ばす‼︎」
震える手でゆっくりと弓を構え、炎で矢を形成する。しかし、そんなジオをエドラスのゼオンは笑う。
「出来るのか?そんな状態で。そして今のお前なら俺の火銃で一発だ」
エドラスのゼオンの右手人差し指に大空の炎が燈る。これを放てばジオは死ぬと言うエドラスのゼオン。かつての仲間に対して何も感じていないようなヒョウガに対する行動。容赦無く自分を殺そうとする彼を見て自分の知っているエドラスのゼオンではない事を認識する。
「一体、何がお前をそうさせた?ゼオン‼︎」
「神の導きだよ。俺は選ばれたのさ。神の如き力で国王軍を消滅させたあのお方に!」
「神の導き?」
「貴様ら如きが知る必要は無い!」
「なら、言わなくていい・・・」
ゼオンの拳がエドラスのゼオンの顔にめり込み、後ろへ大きく後退させる。
「へぇ?聞かないんだ」
「聞いたところで無駄だろう。なら、聞く必要はない」
「お前には一度会いたかったんだよ。会って・・・殺したかった‼︎」
狂気の笑みを浮かべてエドラスのゼオンが迫る。両手には禍々しいグローブが装着されている。大きく振り下ろされたその手をあっさりと受け止めるゼオンはあくまでも自信たっぷりに言い放った。
「俺の力を借りておいて殺す?紛い物が本物に勝てると思ってるのか?身の程を弁えろ」
「そっちがな!」
二人は同じタイミングで距離を取り、まずは小手調べと使い慣れた攻撃魔法と使い慣れた必殺技を放つ。
「黒炎竜の咆哮!」
「ヘルズバスター!」
黒炎の咆哮と黒いレーザーが衝突、周囲に爆発の余波による煙が巻き起こる。二人の戦いはそれを合図として苛烈さを増していく。
た
上空で起こった爆発に仲間の治療を行っていたマナが気付いた。
「ゼオン?」
「大丈夫なんでしょうか?」
治療を受けているメンバーも心配そうに見上げるが治療が終わればすぐに戦場へと戻って行く。そんな折、レンズを通して空での模様を見ていたアレスが険しい表情で話す。
「どうやら不味い展開になっていますね」
「え?」
「どうやら、この世界のゼオンは生きていたようです。しかし、彼がヒョウガを裏で操っていたようですね」
その言葉を聞いたマナはゼオン達のいる戦場へ向かう。
「まあ、あちらにはアースランドのゼオンがいるので大丈夫ですかね」
アレスは有幻覚で実態のある幻の鎌を作り出し、敵を葬る。彼の役目は敵を全滅させ、一刻も早く戦いが終わるようにする事。その為に彼は敵を倒していく。
場面はゼオンの戦いに戻り、アースランドのゼオンが優位に立っていた。黒炎竜の皇拳で殴りつけ、エドラスのゼオンは吹き飛ばされていく。
「ぐっ。何故だ⁉︎何故、この俺が貴様なんかに‼︎」
「所詮は与えらた力を満足に扱えず、振り回される雑魚という事だ!黒炎竜の皇拳!」
黒炎竜の皇拳を再びくらい、エドラスのゼオンは人のいない場所に叩き付けられる。空中から落とされた事でとてつもない衝撃が襲う。
「ぐわっ!」
「何故、俺が・・・」
呻き声を上げるエドラスのゼオンの近くに降り立ったアースランドのゼオンは彼の疑問に答えた。
「勝敗は戦う前から決まっていたという事だ」
「何⁉︎」
その疑問への答えに分からないというような顔をするエドラスのゼオン。アースランドのゼオンは小さく溜め息を吐き、話を続ける。
「”最後に勝敗を決めるのは心の強さである”俺の師の教えだ。お前は絶望し、闇に堕ちた。その時点でお前に既に負けていた!たとえ俺の力を得ようと心弱き者にその力は扱えない」
「ふざけるな!俺の力はこんなものではない!」
「良い加減、絶望による支配から逃れたらどうだ?過ちを認めろ」
「黙れ!貴様には分からないだろう!あの圧倒的な力を目にした俺の気持ちなど!死の恐怖と共に俺は絶望を教えられた!」
当時、重傷を負っていたエドラスのゼオンがあのお方と呼ぶ者 ベルデによって軍隊は巨大な光に呑み込まれて消滅した。自身が敗れた者達が簡単に殺された。その事実が彼に大きな恐怖を与え、ベルデの甘い言葉にエドラスのゼオンは乗っかった結果、今の彼が誕生した。彼にあるのは死の恐怖。それがエドラスのゼオンがベルデに従う理由になっている。自分が生き残る為に仲間への思いを捨て、道具のように扱うようになった。
「その絶望は俺なら乗り越えられた」
「くっ・・・ならば貴様はこれ以上の絶望を知っているというのか⁉︎」
「少なくとも俺がいた世界では毎日のように人間は人間が虫を殺すかの如く殺されていた。仲間が目の前で殺された。愛すべき者の死を看取る事も出来ず、亡骸を連れ帰る事も叶わなかった。お前の大事な仲間達はまだ生きている。なのに捨てた。どうしてだ?お前の大事な仲間だったんだろう?」
酷く凄惨な戦争。自身の無力さに怒り、自身の至らなさに後悔する日々。仲間とぶつかり合いながらも支え合って来た。しかし、マナを除き、親友と呼べる仲間達は彼の目の前で死を遂げた。
「どうしようが貴様には関係のない話だ‼︎」
「確かに俺と直接関わりがあった訳ではない。だが、貴様は自身の我が儘で仲間を捨て駒扱いにした。貴様の所業は世界で最も忌むべき行為!絶望に負けた貴様はただの負け犬だ!」
仲間が死んでいるからこそ、大事な仲間がいたからこそアースランドのゼオンにはエドラスのゼオンのした事が許せなかった。
「しかし、その絶望が俺を新たな境地に導いた!俺は絶望を与えられる事で神から認められた!俺は神に選ばれたのだ!」
エドラスのゼオンから黒いオーラがもれる。黒いオーラは空に向かって放たれ、彼はその力の強大さに思わず笑みを浮かべる。
「ああ‼︎この感じ!素晴らしい高揚感‼︎あのお方に近付いたようなそんな気分だ‼︎これならば負ける気はしない!やはり、俺は世界を統べるに相応しい人間を超越する存在!」
「(他者の力に酔いしれたところで意味はないと言ってやりたいがそうも言えないな。これは流石に油断すれば俺がやられる)」
アースランドのゼオンが警戒を高める。エドラスのゼオンからもれた黒いオーラは収縮していき、身体を覆う。肌は浅黒くなり、彼を覆うオーラが不気味さをより一層強くしていた。
「いくぞ‼︎」
エドラスのゼオンがアースランドのゼオンに連続でパンチを放つ。攻撃を受け流し、小さな動きで避ける事で躱していたアースランドのゼオン。二人は少し離れた場所で止まり、お互いを見据える。
「(・・・掠り傷とはいえ俺に攻撃を与えるとは)」
アースランドのゼオンは苦笑をもらす。頰には一筋の切れ筋が入っていて服も何箇所か切れているところがあった。攻撃が掠っただけとはいえ当たっている。
「なるほど。確かに先程とは違うようだ」
アースランドのゼオンの言葉にエドラスのゼオンは得意気になり、小さく笑う。
「だが・・・」
アースランドのゼオンの姿が消え、エドラスのゼオンの真上に現れる。
「雷竜の鉄拳‼︎」
雷を纏ったアースランドのゼオンの攻撃が放たれる。
「・・・まだだ。俺は勝つ!勝たなければならないんだーーーーーーーー‼︎」
その時、エドラスのゼオンから溢れ出た黒いオーラが漆黒の翼を形成する。周囲にはオーラで作られた剣が円を作るように展開されていた。
「くっ・・・これはベルデの力か」
「死ねーーーーーー‼︎」
幾つもの剣がアースランドのゼオンに迫る。それを魔力の波で吹き飛ばすとエドラスのゼオンに迫り、使いなれた技を使う。
「黒炎竜の咆哮‼︎」
「そのような技が効くものか!」
エドラスのゼオンに当たったと思われた瞬間、黒炎竜の咆哮は消失した。いや、取り込まれたと言うべきだろうか。しかし、唯一言えるのはアースランドのゼオンの力がエドラスのゼオンに効かなくなっているという事だ。
「(魔力を吸収したのか。とりあえずは黒の力以外を使った方がいいな)」
アースランドのゼオンは冷静に今の現象を分析する。
”冷静に事を対処せよ”
幼い頃、ゼオンが父 ディオから教えられていた事だ。その教えを実行し、ゼオンは次の攻撃の準備をする。
「俺に闇の力は効かない‼︎俺は闇の支配者!」
「ゼオン。それがお前だ。俺と同じ名前を持つ」
アースランドのゼオンは彼に思い出させようとしている。仲間への思いを。しかし、その思いが届きはしない。
「最早その名は不要!今の俺はシヴァ‼︎破壊を齎し、世界を変える‼︎」
自らをシヴァと名乗るエドラスのゼオンは闇の力を使えるようになり、それと同時に過去の自分を全て捨てたのだ。
「ゼオン。いや、シヴァ!お前が世界を破壊するというなら俺はお前を殺す!」
シヴァに迫るゼオンは光の拳を放つ。
「光竜・一閃‼︎」
ゼオンの拳はシヴァに当たる事は無かった。闇の膜に受け止められ、それを破る事すら出来ず、後退する。
「ダーク・レインズ!」
シヴァの上空から闇を纏った黒の槍が雨のように降り注ぐ。ゼオンはそれを光を纏い、躱すとシヴァに接近する。雷竜の力を拳に纏い、放つ。
「無駄だ!今の俺に敵う人間はいない‼︎」
その言葉と共に弾き飛ばされたゼオンは再び放たれたダーク・レインズを避ける為に光竜の光を纏おうとするが纏う事が出来なかった。
「ぐっ‼︎」
小さな呻き声を上げたゼオンに更なる追撃が。今のゼオンには抵抗する術がない。魔法は何故か使えず、死ぬ気の炎は燈せても微弱なものだ。躱す事も出来ずに攻撃を受けたゼオンには最早、戦う術も力もなかった。それでもゼオンは諦めず、活路を見い出そうとする。その時、ゼオンがある事に気がつく。
「なるほど。魔法が使えなかったのは、あれのせいか」
ゼオンは魔法が使えなかったのが、周りの状況だと察知した。今、二人の周りには4本の赤い柱がある。小さく、闇の槍に混じっていた為に気が付かなかったが、それは魔法の使用を制限するものだ。
「気付いたようだな。そう!あの柱は魔法の使用を封じる事が出来る!俺も魔法は使えないがな」
シヴァは話を続ける。
「貴様は俺に屈辱を与えたのだ。ただ、殺すのは面白くない。そうだな。時間逆行で存在を抹消してやろう」
そう言い、手に力を集めるシヴァは紫色の球体を作り出す。
「さあ、死ね!」
シヴァが球体をゼオンに放つ瞬間、マナが二人の間に入る。
「ゼオン‼︎」
彼女が現れ、シヴァは攻撃を中止する。仲間への情は捨ててもマナへの情は残っているのかとゼオンは考える。いつもより遅い傷の治り。ゼオンは二人の会話に耳を傾けながら、柱をどうようにして破壊するか、傷がどれ位で治るのかを考えていた。
「マナか。何の用だ?」
「何で、こんな事を・・・」
マナの声は震えていた。会えた嬉しさと皆を騙し、傷付けた怒り。ごちゃ混ぜになった感情が彼女の心を支配している。
「何でって、それがこの世界に必要だからだよ」
さも当然のように言ったシヴァはなおも言葉を紡ぐ。
「さあ、マナ。退くんだ。俺は今からそいつを殺すんだから邪魔はしないでくれよ」
「嫌よ。貴方がこれ以上罪を重ねないようにするのが私がしなければいけない事だから」
ゼオンはマナの覚悟がひしひしと伝わった。だが、ゼオンはシヴァの目付きが変わったのを見て、マナに逃げろと言う。分かっている。彼女が自分の知るマナでない事は。それでも重ねてしまう。例え違う世界のマナであっても死んで欲しくない。ゼオンの悲痛な叫びはマナに届かない。
「なら、死ね!」
もう片方の手でシヴァは小さな闇の槍を形成する。
「逃げろ・・・逃げるんだ」
ゼオンの声に反応したマナは戦場には似合わない笑みを浮かべる。ありがとうと彼女が言う。ゼオンは身体を動かそうと試みるが動かない。
「死ね!」
小さな闇の槍は彼女の心臓を貫いた。瞬間、飛び散る鮮血。それが顔に付いているがゼオンは気付いた様子もない。マナが死んだ。その事が彼の心を押し潰す。
「死んだな。ああ、安心しろ。お前もすぐに後を追うんだからな」
肥大化する球体がゼオンに放たれる。時間逆行。おそらくはベルからの贈り物だろうがそんな事はゼオンにはどうでも良かった。ゼオンは願った。シヴァを殺す力を。同時に球体が膨張し、彼を包み込む。
「後は下賤な奴等に制裁を加えるだけか・・・」
シヴァはゼオンが死んだと判断し、背を向ける。そのまま皆を殺そうと動き出すが、その時、シヴァは背後から殺気を感じた。
「何故、生きている⁉︎何故、動ける⁉︎」
ゼオンがマナを抱き抱えて姿を現すが攻撃を受けた傷が全て消えていた。服はボロボロであったがゼオンの身体を緑色の光が包んだと思った瞬間に元に戻る。更に赤い髪の量が増え、鋭い目でシヴァを見つめる。
「貴様は必ず殺す」