太陽は永遠に   作:ウェスト3世

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番外編 ほのうみ

 桜を見ていると不思議な気分に駆られる。期待が込み上げてくると同時に、寂寞感を覚える。何とも矛盾した気持ちに苛まれるのだ。

 だが、この感情は私たちに予兆させているのだろう。

 

 ―――喜劇と悲劇を。

 

 ☆

 

「ィエーイ!これで私たちも二年生だねぇ」

「はしゃぎ過ぎですよ。穂乃果。」

「うふふ。穂乃果ちゃん、嬉しそう」

「全く、あの赤点の数でよく進級できましたね。」

「むぅ。海未ちゃん酷いなぁ。こう見えて穂乃果頑張ったんだから!」

 

 そう私たちは無事に二年生に進級することができた。とはいえ、穂乃果は各教科で赤点を取っていたので、無事進級できたことは奇跡といえる。

 

「全く……。普段から予習復習していれば解ける問題なんですから。」

「だって、いざやろうとすると、五分で寝ちゃうんだもん。」

 

 ……予習復習以前に、集中力に欠けていることが判明した。

 

「まあ、こればかりは私が注意しても、貴女が変わろうとしなければ意味ありませんね。」

「だよねだよね~。」

「ほ、穂乃果ちゃん……。」

 

 彼女には改善する気が皆無らしい。良くも悪くも楽観的である。

 

「そういえば、穂乃果ちゃん。テストもそうだけど、健康診断、引っ掛かってなかった?」

 

 ことりが思い出したように口出す。

 

「あ、そういえばそうだね。今度、メディカルセンターで検査するとかなんとか……。」

「ちょっ、それって随分と本格的じゃありませんか!?大丈夫なのですか!?」

「ん~、大丈夫でしょ。穂乃果は健康なんだし、お医者さんが間違えたんだよ!」

「貴女という人は……。心配するこちらの身にもなってくださいよ。」

「そうだよ。体調管理はしっかりね?」

 

 私とことりはハラハラとした気分になる。楽観的な性格は人に好かれる長所であると同時に周りを不安にさせる短所も持ち得る。

 

「ははっ。心配性だなぁ、二人とも。」

 

 ……本当に不安です。

 

 ☆

 

 穂乃果と出会ったのはいつだっただろうか。明確には覚えていない。

 それもその筈で、私たちはお腹の中にいる時からの幼馴染で、気付いた時には互いに知り合っている関係だ。

 そのことを母からも飽きるぐらいに聞かされている。正直うんざりするが、微笑ましくもある。

 

 これ程までに親交の深い友人なんて世界に二人もいないのだから。

 

 ☆

 

 

 時間は夜の七時半。ちょうど夕食を終えた時間だった。インターホンが鳴る。

 

「あら。どなたでしょう。」

 

 母が玄関の戸を開ける。気になって私も襖の隙間から除く。

 そこに立っていたのは―――。

 

「穂乃果?」

 

 目元が赤くなっていた。一体何があったのだろうか?

 だが、穂乃果がこうして私の家に押寄せて来る時の理由は統一されている。おおよその見当はつく。

 

「海未ちゃん。今日一日泊めさせて~」

「……またですか」

 

 最近は回数が少なくはなったが、時々彼女は私の家に訪れる。

 

 ―――

 

 穂乃果の自宅に連絡をし、親御さんは納得してくれたみたいだ。

 今向かえるのは就寝。私は自分のベッドの隣に来客用の布団を敷く。

 

「え~、海未ちゃん。穂乃果、海未ちゃんのベッドで一緒に寝たい。」

「まったく何なんですか。人がせっかく布団を敷いているというのに、いつも私の布団に入りたいなど……。」

「えへへ。だって海未ちゃんのベッド温かいんだもん。」

「……うぐッ………」

 

 私も押しに弱いのか、最後には首を縦に振ってしまうのだ。

 

「分かりました。仕方ありませんね。」

「やったーー!」

 

 この笑顔を見て思う。彼女は何処までも無垢なのだろうと。

 人は加齢するほど、無垢な存在から遠ざかっていく。故に、穢れなき彼女の心はどうしようもなく美しい。

 このままであって欲しいと、願いながら。

 

 

 

 カーテンの隙間から月の光が射す。

 

「ねえ、海未ちゃん。」

「何ですか?」

「何があったとか聞かないの?」

「聞かなくても、貴女は自分から言うじゃないですか。」

「……えへへ、確かに。」

 

 私が何があったのかと問わずとも、正直者の彼女は素直に吐露してくれる。

 しかし、今日は何も言わなかった。静寂の時間が流れていく。

 気になった私は自分から聞くことにする。

 

「また、ご両親と喧嘩ですか?」

「……まあ、そんなところかな。」

 

 曖昧な返答だった。それは彼女らしからぬ返答だ。

 だが、玄関に立っていた彼女の目元が赤かった。何か理由があるのは間違いない。

 

「まあ、あまり気にしてはいけませんよ。」

「……うん。」

 

 穂乃果がじっと私を見つめていた。

 その瞳はきっと忘れないだろうと思った。未だ嘗て見たことがない表情だった。

 何かを痛切に訴えかけるような瞳。

 

「海未ちゃんはさ、もし、私が居なくなったらどうする?」

「………え?」

 

 もし、仮にの話なのだろう。長い人生を考慮するならば有り得ることなのかもしれない。

 だが、穂乃果が居なくなる未来など一度も考えたことがない。それは私の望む未来ではない。

 

「馬鹿ですね。貴女が言ったんですよ。『私たちはずっと一緒だよ?』って。」

「……海未ちゃん。」

「もし、仮に居なくなるようなことがあっても、貴女をずっと想い続けます。」

 

 穂乃果の手を握る。

 

「えへへ、そっか。なら安心だね!」

 

 彼女も笑いながら私の手を握り返す。

 

 私は貴女が居ない幸福があったとしても、貴女と共に居られる地獄を望む。

 

 ―――これが愛するという気持ちなのだろう。

 

 

 

 桜はやがて満開を迎え、散っていく。

 その光景は何かをすり減らすようで、儚かった。

 

 

 

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