アイドル研究部の部室は相変わらずアイドルグッズで埋め尽くされていた。そのせいで、部員が満足に
時刻は十五時半過ぎ。本来ならば放課後練習の時間なのだが、部室に招集をかけたことには理由があった。
「で、私たちを呼んで話って何なのよ。もう残り時間も少ないんだから練習もしないと…。」
「にこ。それは分かっていますが………。」
「まあ、とりあえず聞きましょう。海未が何でもないことでわざわざ呼び出したりはしないわ。」
穂乃果がいなくなってから十分な練習ができず、切羽詰まるものがあるのだろう。皆の表情には焦りがあった。
絵里がメンバーを上手く諌めて、ようやく私の話に耳を傾ける気になったようだ。
「実はこの前、駅前で穂乃果と瓜二つの生徒を見かけたのです。」
「そっくりさん…てことやろか。でも、世の中そんな人たくさんおるやろ?」
「ええ、それはそうなのですが………。声も笑顔も穂乃果を彷彿とさせるようで…。」
あの笑顔と声を覚えている。あの笑顔と声が重なって見える。幻視しているのだろう。理解しているのに、記憶の中の彼女を呼びおこしてしまうのだ。
「でも、無理もないにゃ。凛たち大事な人亡くしたから、そっくりさんが出てきたら………。」
「穂乃果ちゃんって認識しちゃうよね。」
凛と花陽は同情するように私を見ていた。
「海未ちゃん、その子の名前はなんて言うの?」
「
すると、ことりは「天城琴音」と念仏するように唱えていた。その表情が憂いのようにも嬉々としたようにも見えた。
周りのメンバーを見ても、葛藤があるのか、眉をひそめている。
そんなメンバーの煩悶を打ち消すように、にこが立ち上がる。
「なら、UTXに行くわよ」
「い、今からですか?練習もこなさなければ………。」
「こんなモヤモヤした状態で練習できるわけないでしょ。なら、そのモヤモヤを少しでも解消した方がいいじゃない。」
すると、にこの言葉にみんな顔を見合わせる。にこの言葉に最初に賛意を示したのは真姫だった。
「私も、その天城琴音って子がどんな子か気になるわ。」
それに続きメンバー全員が「私も気になる」と賛同する。
にこの言う通り、練習できる状況ではない。天城琴音という少女が如何なる存在なのかと、気に掛かっているのは確かだ。
「分かりました。では、UTXに行きましょう。」
高坂穂乃果の筈がない。けれど、高坂穂乃果だと認識している。
この矛盾した苦悩を一刻も早く払拭したいと思った。
☆
他のビル群に紛れて建つUTX学園は、とてもじゃないが学校と認識し難い外見だった。詳細は分からないが、並大抵の学力では入学は困難だろう。
そんな困難を乗り越えた故だろうか。彼らには妙な色気があった。カリスマ性とでも言おうか、他者を魅了させる何かがあった。
「ここがUTX……。」
「でっかいにゃ〜」
学校とかけ離れた構造は言葉を失うほど壮観だった。
「で、此処に天城って子がいるんだっけ?」
「ええ、本人がそう言っていたので間違いないでしょう。」
「とは言っても、この規模だと探すのには一苦労しそうね。」
絵里の言葉に誰もがうんうんと頷く。一つ一つ教室を確認していたら、日が暮れるのは自明である。
では、どうするか。最適な方法を模索し始める最中、人影が真っすぐこちらへと向かってくる。
「あなた達、μ’sよね。」
目の前に立っていたのは誰もが驚愕するであろう人物だった。にこと花陽はポカンと口を開けたまま石像のように硬直していた。
「初めまして、私は綺羅ツバサ。よろしくね。」
微笑みながら自己紹介をする。達観した艶のある微笑。高校生で、このような笑みを浮かべられるのは彼女くらいだろう。
―――
誘導されるがままに私たちは応接室へ招かれる。応接室とはいっても、一般生徒が想像するものとは全く異なる。例えるなら高級ホテルの一室である。
「適当にくつろいで。あと、この二人は私と同じA-RISEのメンバーよ。右から統堂英玲奈、優木あんじゅ。」
「よろしく。」
「よろしくねぇ。」
「ど、どうも……。」
スクールアイドルの頂点に立つA-RISEを目にしているせいか、メンバー全員の肩が上がっている状態である。
たった三人のメンバー。だが、その実力は私達μ’sを遥かに凌駕している。そのせいなのだろう。同じ空間に居るだけで圧倒される。
「さて、ようやく会えたわね。μ’sの皆さん。」
まるで、ずっと待ち望んでいたような口振りである。
「私達を知っているのですか?」
「もちろん。私達だけじゃなく、全国のスクールアイドルがあなた達に注目を集めているわ。」
一間置き、凝視しながら続きの言葉を紡ぐ。
「だって、絶望的な悲しみから立ち上がったグループなんだもの。皆、興味は湧くでしょう?」
その言葉にどう返答してよいのか分からなかった。絶望から立ち上がることを喜劇として捉えるならともかく、彼女は「興味」と述べた。それは私たちを
「何があなた達を再び結束させたのか……。実に興味深いわ。やはり亡きリーダーの高坂穂乃果さんかしら?」
何が私たちを結束させたのか?それは他者に理解されて良いものではない。
彼女は興味を示しているだけできっと悪気はない。だが、μ’sの苦労を興味呼ばわりされたメンバーたちは眉をひそめていた。場の空気は徐々に悪化している。
そんな折に勢いよく扉が開く。
「ツバサさーん!……ってアレ?」
「
そこで目にしたのは―――。
「はーい。あ、海未ちゃん!一日ぶりだね~。あとμ’sの皆さん初めまして!私、
落ち着きのない行動に溢れるばかりの笑顔。
「ほ、穂乃果?」
ポロッと口出したのは真姫だった。唇が僅かに震えていた。
「本当に………瓜二つ。」
「穂乃果ちゃん……。」
他のメンバーも全く同じ気持ちなのだろう。誰もが天城琴音という少女を高坂穂乃果と認識していた。
「もう、皆やだなぁ。私は天城琴音。A-RISEの新メンバーですよ?穂乃果ちゃんじゃないってば~。」
「ご、ごめんね。でも、少しだけ触らせて?」
「えぇ、ことりちゃん……だっけ。少しだけだよ?」
「ふわぁぁぁぁ……。」
「あ、ちょっと、ことり。私にも触らせなさいよ。」
「凛も凛も~。」
「みんな琴音ちゃん困ってるやろ~。」
やはり、思うところがあるのか、皆、琴音の周りに集まる。
いや、それよりも―――。
先程、彼女は自らをA-RISEの新メンバーと発言してなかっただろうか?
「……A-RISEの新メンバー……?」
「その通りよ。」
私の呟きに綺羅ツバサが反応する。
「改めて私から彼女を紹介するわ。A-RISEの新メンバー、天城琴音よ。」
何のことはない。ただの新メンバー紹介だ。
なのに、裏切られたような気持に