太陽は永遠に   作:ウェスト3世

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love・marginal

 翌朝。

 校内は閑散としており、辺りに人影は見当たらない。唯一、賑わっているのはアイドル研究部の部室くらいだろう。

 

「で、どうすんのよ、ライブ。曲も衣装も決まってないじゃない。」

「A-RISEとのライブは二週間後。思ったより時間がないのよね。」

「とは言っても引き受けたからにはやるしかないやん。」

 

 露骨に嘆息するにこと絵里を宥める希。しかし、本人も切羽詰まる思いがあるのか、表情が芳しくない。

 

「まさかアイドルの頂点でもあるA-RISEとライブだなんて……。」

「緊張するにゃぁ。」

 

 凛と花陽はA-RISEとのライブが重圧となっているのか険しい表情をしている。

 

「海未、真姫、ことりは大丈夫かしら?それぞれ作詞、作曲、衣装の方は間に合いそう?」

 

 すると真姫とことりは逡巡することなく、「大丈夫」と答える。

 

「海未はどうかしら?」

「いえ、私は…その…。」

 

 正直なところ、大丈夫と言えるほど余裕はなかった。

 

「すみません。生徒会の仕事はもちろんのこと、日舞の稽古に、弓道の方も大会が近づいているので作詞に割く時間が中々なくて。」

 

 ライブの時期を変更してもらえば、問題ないのかもしれないが、UTX学園側は早速ライブのために準備を着々と進めているようだ。今更、日にちを変更してくれとは言えない。

 

「そう。確かに他のメンバーに比べて多忙だものね。無理はさせられないわね。」

「けど海未ちゃん以上の適任がいるわけでもないし………。」

 

 悶々とした空気が広がる。霧が晴れず、行き先が漠然としているようだった。

 

「なら、海未ちゃん。この歌詞使って。」

 

 立ち上がったのはことりだった。手渡されたのは一枚の紙切れ。紙切れは一面、文字で埋まっていた。

 曲名は「love marginal」。loveとあるからにはラブソングの類だろうか。

「こ、ことり。しかし良いのですか?」

「うん、いいの。使って」

 

ことりの瞳は真剣だった。無下にできない。

 

「ありがとうございます、ことり。真姫、これで作曲できますか?」

 

 紙切れを真姫に手渡す。真姫は紙切れに書かれた歌詞に目を通す。すると、何か思い当たるものがあるのか、眉をひそめる。

 

「真姫。どうかしたのですか?」

「何でもないわ。ことり、ありがとうね。曲の方は任せて。」

 

 真姫は即座に席を立ち、退室する。

 

「どうしたの?真姫ちゃん。体調悪いの?」

 

 空席となった真姫の席を怪訝そうに見つめるにこ。真姫の態度に違和感を覚えたのかもしれない。私も同様のことを思っていたのだ。どこか普段の真姫から感じる尊大さが掻き消えていた。

 去り際、刹那ではあったが視線をことりに向けていた。その瞳に映る色は悲哀のようだった。

 

 

 瞬く間に二週間は過ぎていった。

 ライブ会場は夜のUTX学園の屋上。このライブが学外初のライブとなる。見慣れた景色などどこにも無く、一面の闇が広がっていた。戦慄する光景だったが、闇の中に咲く光達が私達を祝福してくれているようにも見えた。

 私達の目の前に立つのはやはりA-RISE。闇夜を背景にして立つ彼女達はどこか神々しく感じられた。気を抜いただけで呑まれてしまいそうだった。

 周りには大勢のファンが集い、何やら叫んでいるが一切耳に入ってこない。

 綺羅ツバサ。彼女の絶大なカリスマ性による神々しさなのか。

 ―――それとも。

 天城琴音のμ'sを拒絶せんとする闘争的な神々しさなのか。

 前者ならば理解できる。優秀さと美麗さが掛け合わさった魅力がある。その魅力が強大であるが故に神々しくなるのだろう。

 だが後者の禍々しさは理解の外にあるものだった。何故、私達を憎むのだろうか。彼女は私達の夢や希望といった幻想を募った曲調を嫌悪しているようだった。

 確かに私達は夢を見ているのかもしれない。叶うはずのない幻想を抱いているのかもしれない。そんな心地の良い夢をを見せてくれた人がいるから。

 

「皆さん。今日のライブは成功させましょう。私達の夢や希望は端からみれば非現実的で(わら)われるかもしれない。」

「関係ないにゃ。ずっと夢見て来たんだから」

「そうして出来たのがμ'sよ。」

 

 私の声に凛と絵里が応える。

 荒だっていた水面はようやく落ち着きを取り戻し清浄になった気がした。ただ一つ、言葉にならない懸念を除いて。

 この懸念を問い質したいと思ったが、今はこのライブに専念するべきだろう。

 

 先攻はA-RISEで、曲名は「shocking party」。

 曲が流れるとともに見る世界が変わった気がした。彼女達の虜になったかのように。

 動きに無駄がなく、轟く美声がただただ麗しい。

 曲が終わった時には拍手の波と歓声が絶えなかった。

 

 後攻はμ'sで、曲名は「love marginal」。

 センターはこの曲の考案者であることりである。皆は張り切った表情なのに対し、彼女だけが切ない表情をしていた。妙な違和感を覚えたが、曲が流れだしたところで一端、思考を打ち切る。

 しかし―――。

 歌えば歌うほど覚える違和感。それは曲ではなく、歌詞にあった。深く考えていなかったので気づかなかったが、この歌詞は何処か毒を孕んでいるようだった。

 ふと、観客席側にいる綺羅ツバサと視線が交錯する。他の観客が感動しているようであるのに対して、眉をひそめていた。

 

 曲が終了し、歓声に包まれる。

 しかし、私の胸にあるのは喜びではなく痛み。原因が明瞭でないために言葉では形容し難い。

 ライブは成功した。ならば素直に喜べばいい。なのに、不安ばかりが募ってゆく。

 

「少し、良いかしら?」

「何でしょう?」

 

 声をかけてきたのは綺羅ツバサだった。

 

「貴女達は再びスクールアイドルとして穂乃果さんの為に、何より貴女達の為にμ'sは復活した。それは間違いないのよね?」

「ええ、確かに私達は再度結束しました。」

 

 すると、綺羅ツバサは先程と似た表情を浮かべる。

 

「だからこそ…と言うべきなのかしら。貴女達の表情を伺ってたんだけど、センターの子だけ明らかに表情が違うのよ。」

「ことりが…ですか。」

「気にし過ぎのようだったらごめんなさい。ただ、一応伝えたほうが良いのかと思って…。」

 

 恐らくμ's内でこの違和感に気づいてる部員はいない。寧ろ、外部の者から指摘されるとは意外だった。慧眼と言うべきなのだろう。アイドルとしての実力だけでなく、洞察力にも優れているようだ。

 

「いえ、私も気になっていたのです。ご忠告感謝します。」

「いいえ、次に会えるのは予選の時かしら。楽しみにしてるわ。」

 

 そう言って綺羅ツバサは去って行く。

 それにしてもこの違和感は何だろうか。

 

 

 大勢の観客で押し寄せていたUTX学園の屋上は次第に閑散とし、二人の少女だけが後に残る。

 二人が見る先はビル群でもなく、街の賑わいでもなく何処でもない虚空だった。

 

「とりあえずお疲れ様。琴音。初めてのA-RISEのライブはどうだったかしら?」

「そうですね。やはりライブは良いですね。彼女達にはあんなこと言いましたけど、精一杯歌えるってのは楽しいです。」

「……そう。」

「でもだからこそ辛いんです。この華やかさは泡沫のように儚い。」

 

 悠久という言葉が存在すれば良かった言葉はただ存在するだけで現実世界では機能してくれない。

 起点はいずれ終着点へと向かう。自然の理であり、合理的である。

 だが、なんて残酷なのだろう。時はいつだって待ってはくれない。無情に過ぎてゆくだけだ。

 

「貴女ももしかして気づいているのかしら?」

「ツバサさんも気づいていたんですか?」

「一応、眼は優れている方だからね。」

 

 二人は相変わらず虚空を見つめている。視線の先にあるものは不明瞭でその実態を掴むことはできない。

 

 

 翌朝。

 私は普段よりも一時間ほど早く登校する。

 向かう先はアイドル研究部である。

 

 ここで私に相談がしたいと吐露した人物がいる。

 

「お待たせしました。真姫。」

「待ってたわ、海未。」

 

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