太陽は永遠に   作:ウェスト3世

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冬の到来

 秋葉原の駅周辺はイルミネーションで一層輝くようになった。私と凛と花陽は衣装の布地買い出しの為に店を回っていた。買出しの後、真姫の家で集合する予定となっている。

 

「もうすぐクリスマスにゃー!」

「凛、はしゃぐのも良いですが、今日の集まりはあくまで曲決めですよ。」

「分かってるにゃ!でも綺麗にゃ!」

「……全く。」

 

 徐々にラブライブ予選も近づき、衣装や曲、歌詞作りなど準備が必要な時期となった。曲と歌詞は今まで通り私と真姫でこなせるが、衣装だけはそうはいかない。

 そこでファッションセンスのある絵里と裁縫経験のあるにこが今後の衣装担当となる。本来、二人は受験生でもあるため、私は賛成しなかったが、二人揃って「皆の為だから」と頑に聞かない。

 

「とは言っても海未ちゃんは予め歌詞の用意はしていたんでしょ?」

「ええ、2曲ほど。あとは作曲担当の真姫に選曲してもらおうかと。」

 

 以前のUTX屋上ライブでは十分な準備ができなかった反省を活かし、休み時間を使って作詞していたのだ。

 まさか2曲用意できるとは思わなかったが、後は真姫が作曲しやすい方を選曲すれば良いだろう。

 

「海未ちゃんは最近調子どう?正式にμ'sのリーダーになったわけだけど。」

 

 花陽が私の顔を覗き込んでくる。花陽の懸念を露わにした表情に思わず微笑む。

 

「そうですね。活動自体に変化はありませんが、やはり責任感はついて回ってくる。けれと、その責任も最近は少し心地よいのです。」

「…どうして?」

 

 花陽が首を傾げる。何故、と問われると最適な言葉が思い浮かばない。何故この責任を心地良いと思ったのか。

 

「わかりませんね。どうしてなのでしょう。」

「わ、わからないの?」

「はい。」

「そっかぁ。でも海未ちゃんって頑張り屋さんだけど、穂乃果ちゃんのことになると尚更だよね。」

「そうですか?」

 

 穂乃果のことになると躍起になることに、自覚がないわけではない。ただ、他人に言われると新鮮な気分である。

 

「そうだよ。だって海未ちゃんは……。」

 

 花陽が何かを言いかけたその時だった。

 

「あ、見つけましたよ。海未さん。」

「え?あ、貴女は………。」

「花陽さん、でしたっけ。すみませんが、海未さんは少し借りますね。」

「え、あの!?」

「ちょっと、まっ……!」

 

 強引に引っ張られ、そのまま凛と花陽から引き離される。

 後には花陽の「ダレカタスケテ〜」が山彦のように響いていた。

 

 

 強引に引っ張られ、辿り着いたのは喫茶店だった。UTXの制服を着用した生徒が多いことから彼女も普段この喫茶店を多用しているのだろう。

 その彼女とは………。

 

「急に何ですか。私にも予定というものがあるんですよ。」

「あぁ、すみません。どうしてもお話したいことがあったので。」

 

 私の眼の前にいる少女はA-RISEの新メンバー、天城琴音。穂乃果と瓜二つの容姿に行動までもが穂乃果を彷彿とさせる。

 しかし、今日は口調が敬語なのと、冷静な態度から別人のようだった。

 

「その、お話というのは…?」

「私からは一点だけです。興味本意で聞くだけなので、あまり本気にしないで頂きたいのですが………。」

「……はぁ…。」

「貴女は高坂穂乃果さんのことをどう思っていますか?」

「……は?」

 

 唐突な質問だ。思わずたじろぐが、すぐに平静を取り戻す。彼女の瞳は答えを知りたいと訴えていた。

 

「そうですね。私の大切な人です。彼女が微笑んで……笑ってくれるだけで、それでいい。」

 

 琴音はポカンと口を開けていた。暫く私を凝視して、私の瞳を覗いていた。

だが、私の想いは本物だから動じることはなかった。誰に何と言われようと、この気持ちだけは偽物ではない。

 

「へぇ、嘘じゃないんですね。純粋にその人を想い続ける………。私からすれば理解できないのですが、面白いですね。」

「それは褒めてるんですか?」

「勿論。だって私には何もないから。貴女の誠実さと純情さが時折羨ましいです。それは穂乃果さんに至ってもそうです。」

 

 何もない人間は居ない。琴音は自分を卑下しているようだが、人間は生まれた時から何かしらの特性を持って生まれる。それが何であるかは人それぞれで形が異なる。

 仏教では人間でも仏になる素質があると説かれている。確か仏性と言ったか。その仏性も人により形状と質が異なる。

 詰まる所、琴音は気付いていないだけで、これから「自己」に気付いていく筈だ。私もμ'sと共にしたからこそ、自分を改めて認識することができたのだから。

 

 とはいえ、天城琴音という少女は何処か不思議だ。

 穂乃果を彷彿させる時もあれば、今、目の前に居る彼女は全く別人のようだ。

 

「さて、私の話はここまでです。」

「はい、では、私はこれで……。」

「ちょっと待った!私の用は終わってないんだから!」

「え……?」

 

 その瞬間をしっかりと捉えた。

 天城琴音が纏う雰囲気が一変する。冷静沈着から天真爛漫へと変貌する。普通の人間でも気持ちを切り替えるために表情を変える行為はあるだろう。

 だが、次元が違う。纏う雰囲気が一瞬で変化することが有り得るだろうか。もっと言ってしまえば人格そのものが変わったと言ってもいい。

 

 とりあえず平常心になる為にゆっくりと呼吸する。冷静な対応を取るべきだ。

 

「話であれば今終わったところだと思いますが。」

「むぅ、さっきのとは別だよ。全くいきなりあんなこと聞いちゃうんだから………。」

「………。貴女は………。」

 

 この不可解な状況に本人は気付いているのだろうか。私は未だに混乱している。

 

「では聞きましょうか。話とやらを。」

「うん!」

 

 まさに「今の状態」が穂乃果と重なって見える時だ。落ち着きのなさが目立つ。

 

「まぁ、話っていうのは、ラブライブ予選も近いでしょ?」

「ええ、まぁ。」

「海未ちゃんに作詞をお願いしたくて。」

「はい?」

 

 彼女は今何と言ったのだろうか?

 

「もう一度お願いします。」

「だから作詞を……」

「お断りします。」

「断るのが早すぎるよぉ〜!」

 

 琴音が子供のように駄々をこねる。周りから視線が集まる。

 

「え、あれってA-RISEの天城琴音とμ'sの園田海未じゃない?」

「わぁ、本当だ!」

「嘘⁉︎サインもらおうかな」

 

 どうやら、私達の顔と名前は随分と知られてるようだ。

 

「全く少しは落ち着いて行動したらどうなんですか!すぐに店から出ますよ!」

「え、ちょっ」

「早く!」

 

 ファンと思しき生徒達から逃れる為に私達は全速力で走った。

 暫く走り続け、人気のない公園に辿り着く。

 

「此処は………。」

 

 人気のない公園だが、私は此処を知っている。先日、ことりを引きとめようとした時も、それ以前に穂乃果とことりと三人で遊んだ場所だった。

 

「この場所。覚えていたんだ。」

「……あの、どういう意味ですか?」

「ううん、別に何でも。」

 

 琴音は嬉しそうに微笑んだ。その笑顔は夕日と重なって綺麗だったが、何処か儚い。

 

「さぁ、私もそう時間がありません。用はすぐに済ませましょう。」

「ええ、私さっき言ったでしょ〜。海未ちゃんに作詞をお願いしたいって。」

「何故、私なのです。A-RISEのこれまでの曲もメンバーの誰かが作詞していたのでしょう?」

「それはそうだけど、海未ちゃんに書いて欲しいのー!」

「何故です?」

 

 ただ、書いて欲しいだけでは理由が稚拙だ。せめて理由だけでも知っておきたい。

 

「もう、此処に留まっていられる時間がないから……。」

「……どういうことですか?」

 

 琴音は沈みゆく夕日を眺めながら答える。

 

「そのままの意味だよ。私が歌う最後の曲になるかもしれないから。最後は海未ちゃんが作った曲を歌いたいの。」

 

 辺りは薄暗くなっていく。元々人気の少ない公園はより一層寂しくなる。

 

「最後…ですか。」

 

 彼女の言う最後が何であるか、私には解らない。解らないのに胸が痛い。

 ただでさえμ'sのライブ準備で忙しく、他グループの曲を考えている暇はない。

 

 それでも彼女の願いを裏切ることができなかった。

 

「仕方ありませんね。特別…ですよ。」

「ほんとっ、ありがとう!」

「ええ、その代わり私の質問に答えてください。」

「ん、何?」

 

 それは確信に迫る問い。彼女の正体を暴くためのものだ。

 

「貴女は誰なのですか?」

 

 すると、琴音はぎょっとしたようにこちらを向く。

 だが、すぐに視線を逸らし、こう答える。

 

「私は天城琴音。他の誰でもないよ。」

 

 そのまま、彼女は去って行った。

 きっと彼女は天城琴音であり、天城琴音ではない。天城琴音という人間は一人しか存在しない筈なのに、「一人の少女」として認識できなかった。

 

 

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