太陽は永遠に   作:ウェスト3世

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 徐々に寒さが増していることに気づかなかった訳ではない。

 ただ、そうだと知りながら気づかぬ振りをしていた。

 

 純白色に染まる景色。

 全てを氷結させるような吹雪。

 

 冬は既に始まっていたのだ。

 

 

 ラブライブ予選当日である今日、関東地区は大雪に見舞われる。

 ライブ当日の天候としては最悪の一言に尽きる。これではパフォーマンスを十分にこなすのは困難である。本来であれば中止が妥当な判断なのだが、会場設営、及び運営・企画進行は予定通り行われるようだ。

 延期という手段がなかったのか、という口論も当然あったのだが、本日使用する会場は365日予定が詰まっているらしい。

 

 私達は控え室で時間を待ち構えていた。

 

「天候は最悪ね。」

 

 真姫は盛大に溜息をつく。まあ、この天候であれば、不満もあるだろう。

 

「一応、天気予報だと午後の3時くらいかは吹雪も収まるようだけどね。」

「まぁ、午後の5時からのスタートだから大丈夫にゃ!」

「ええ、きっとライブの方は大丈夫ですよ。」

 

 天候状況は劣悪だが、ライブに対して不安はない。これまで私達が積み上げてきた痕跡が確固たるものであることを私は理解している。それ故か、失敗はないと信じている。

 

 だが、今日のライブに不安はなくとも、言い様のない不安がある。

 黒く靄が掛かっていて、はっきりと視覚化されていない。この靄は一体何を予兆させているのか、後になって理解する。

 

 雪は徐々に止み始め、ライブ本番に近づきつつある。衣装に着替えるために試着室へと向かう途中、又しても彼女と出会う。

 

「…海未ちゃん」

「琴音」

 

 最近になって彼女と会う回数が頻繁に増えている。何故こうも彼女と居合わせるのかはわからないが、妙な縁だ。

 

「今日はお互い頑張ろう。それと…。」

「…はい。」

「私は天城琴音だよ。何度も言わせないでよね。」

 

 そのまま琴音は試着室へと向かう。私も彼女の後に続き、試着室へと向かおうとするが、足を止め、琴音の背を見つめる。

 

 先日、彼女と会った時に、琴音のことを穂乃果と呼んだ。天城琴音は高坂穂乃果とは別人と心の中で何度も叫んだけれど、容姿も性格も仕草までが穂乃果を再現している。

 加えて、私に決定的な衝撃を与えたのは以前、喫茶店で会話した時だ。普段と打って変わり、冷静な面持ちで私と対面した。だが、話の区切りが良いところで普段の快活な性格に急変した。

 

 ずっと考えていた。

 天城琴音という人間が存在することに否定はしない。 ただ、それは私が知る「快活な」天城琴音ではなく、本来の姿は喫茶店で僅かに見せた「冷静な」天城琴音ではないのか。

 だとすれば、「快活な」彼女の姿は---。

 

 否、真っ当な考えではない上に、確たる証拠はない。それ故に疑問だけが残る。

 

 ―――貴女は誰なの?

 

 

 純白な景色の中と絢爛なステージは何とも稀有な組み合わせである。ライブ当日の天候は晴天から雨天と様々だが、雪は異例だろう。

 だが、私は雪のステージはスクールアイドルの生き様を具現してるように思う。スクールアイドルの誰もが困難に抗いながらも輝こうとしている。同様に、この雪のステージも吹雪という劣悪的環境の中で煌めこうとしている。

 

 ステージと私達が一体であることを改めて理解する。

 

 やはり、他の予選参加グループもそれを理解しているのだろう。ステージの上で輝くために歌のうまさだけでなく、体全体で観客を魅了しようとしている。

 ここに立つ者全員がスクールアイドルの本質を理解した上で最大限まで極めている。

 彼女達は敵として脅威的なのは間違いない。その中でもさらに脅威なのはやはりA-RISEだろう。彼女達がステージに立っただけで歓声が響き渡る。

 

 歓声の中、イントロが流れ始める。そう、この曲は先日私が作詞提供したものだ。曲名は『NO EXIT ORION』。

 

 A-RISE特有のカリスマ性がこの曲をさらに観客を魅了させる。観客達は完全にA-RISEの虜である。

 何せ、モニター越しのスクールアイドルでさえ、口をポカンと開けている程だ。

 圧倒的とも言えるパフォーマンス力に誰もが無意識に手を叩き合せていた。次第に拍手の波は広がり、歓声も頂点に達する。

 彼女達の次に出演するのが私達μ'sなだけに、この歓声と拍手はやや辛いものがある。メンバーの表情を窺っても強張っているのが一目瞭然である。

 

「ほら、皆さん。行きますよ。いつまでもボーッとしていてはパフォーマンスに支障を来しますよ?」

「だ、だってあんな凄い人達の後に凛達が立つって…」

「ウチ、お腹痛くなってきたやん…。」

「さ、流石ね。」

 

 どうやら随分と弱気になっているようだ。あれ程の演技を見た後では萎縮する気持ちも分かる。

 けれど、それでは最大限の力は引き出すことができない。

 

「良いですか。貴女達が弱気なのは他のスクールアイドル達と比較しているからです。だから他のスクールアイドルより良い演技をしなければと切羽詰まる思いに駆られるのです。」

「で、でも実際その通りじゃ……。」

「違いますよ。敵は常に己自身です。己を超えられるかどうかが勝負です。」

 

 私達が本当に勝たなければならないのは自分自身。絶望に翻弄される自分に勝たなければならない。

 今まで解散寸前まで陥り、挫折しそうになりながらも、ここまで努力を重ねた。それは誇るべきことであり、萎縮する必要など無いのだ。

 ただ私達は些細なことで折れるため、消極的になりやすい。

 

「海未の言う通りね。私達は他のアイドル達よりも数多の困難を潜り抜けてきたんだから。」

「……にこ。」

「ええ、そうね。まぁ正確にはまだ潜り抜ける途中過程だけど……。私達はこの道を歩き続ける。」

「……絵里」

 

 皆の表情には先程までの翳りはない。スクールアイドル相応の輝きが宿る。

 

「では、行きましょうか。私達のステージへ。」

 

 躊躇い、戸惑いながらもこの道を歩くと決めた、私達の新曲の名は『冬がくれた予感』。

 

 

 今まで以上に私達の声が、心が1つになっているのを感じる。波に乗っかるように心地良い。

 心地良さは歌えば歌うほど増幅していく。

 

 

 同時に、歌えば歌うほど黒い靄が濃くなるのを感じる。靄はすぐそこまで迫っている。

 

 

 

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