太陽は永遠に   作:ウェスト3世

40 / 43
桜に乗せて

 ラブライブ本戦当日。

 アリーナには開始前から大勢の観客が押し寄せていた。

 ファン層は主に学生が多く見られるが、年齢幅は老若男女問わずといったところだ。

 

「人、多過ぎるにゃ。」

「まさか、ここまでとはね。流石ラブライブね。」

「他のスクールアイドルの子で、あまりの緊張でホームシックになってた子もいたよ。」

「まあ、総決戦みたいなものだからね。仕方ないわよね。」

 

 女子生徒で結成されたアイドルユニットの最後の公演―――ラブライブ。プロのアイドルとは異なり、未熟な女子生徒達の奔走振りを描いた物語とも言える。

 

「でも海未ちゃんは大丈夫なのかな。」

 

 ふと花陽が口にした一言に、メンバー内に動揺が走る。

 

「大丈夫よ。きっと来るわ。」

 

 しかし、絵里は確信に満ちた表情で答える。証拠も何もない。ただ、「来ない」という選択肢が考えられなかっただけだ。

 

「そうやね。海未ちゃんはきっと来る。」

 

 部員の動揺が霧散する。

少女達は彼女の帰りを待つことにした。

 

 

 ようやく此処まで辿り着いた。

 長く、辛く、悲しく―――。然れど、喜びもあった。挫折しそうになりながらもこの日を迎えることができたのだ。

 それはきっと誇って良い。ひとつの終わりに携わることができる。如何に些細なことであったとしても、だ。

 私には何もなかった。習い事や特技も本意で身に付けたものではない。ただ、両親の願いに応えるために従事してきた。

 そんな私が真に成就させたいと思うものに出会えたのだ。

 

「さぁ。行きましょうか。」

 

 一歩、歩み出そうとした時だった。

 桜が風と共に舞う。

 

「本当に行くの?」

 

 背後から呼び止める声があった。

 

「……琴音。」

 

 ああ、彼女の瞳から伝わる。「行かないで」と。

 

「行ったら、もう戻れないかもしれないよ?」

 

 行ったら戻れない。確かにそうなのかもしれない。

 だが、私に戻る場所はもう存在しない。

 

「ふふ。心配してくれるのですか?琴音。」

「だ、だって……!」

「琴音、よく聞いてください。」

 

 琴音の姿を逃さないよう、じっと彼女の瞳を見つめる。

 

「今の私の立ち位置は嘗ての彼女ときっと同じなのでしょう。振り向けば、そこには終わりがある。」

「だったら……」

「それでも、叶えたい夢があったから彼女は走ったのです。」

「………っ!」

 

 死して尚、叶えたい夢があった。血を吐き、手足が動かなくなり、目が見えなくなっても尚、叶えたい夢があったから、彼女は最後まで笑っていたのだ。

 

「私も同じです。叶えたい夢があるから、私は奔走する。それに……。」

 

 この時、私はどんな顔をしていたのだろう。胸に湧き上がる感情に何と命名すれば良いのだろう。

 嬉しい、悲しい、寂しい、何れも該当しない。

 

「それに、此処で私が諦めたら、貴女と……あの時、約束は叶えられない。貴女の願いは永劫叶わない。それだけは耐えられません。」

 

 想いは桜の波に乗って、流れてゆく。

 私の言葉はどう彼女に伝わったのだろう。

 

「準備があるので私は行きます。」

 

 最後に彼女の姿を目に焼き付け、告げる。

 

「さようなら。」

 

 何か言いたげな彼女を残して、その場を去った。

 

 

 その場に残された琴音は先ほどの言葉を反芻していた。

 

『それに、此処で私が諦めたら、貴女と……あの時、約束は叶えられない。貴女の願いは永劫叶わない。それだけは耐えられません。』

 

 海未は嬉しそうにも、悲しそうとにも、寂しそうにも見える無名の表情を見せていた。

 それは未だ嘗て見たことのない感情だ。ともあれ、一つだけ確信できたこともあった。

 

「ちゃんと約束、覚えてくれていたんだ。」

 

 鈍感と侮っていたが、どうやら既に気づいていたようだ。

 

 桜の花弁がひらひらと舞い落ちる。

 

「本当に馬鹿だなぁ……。」

 

 目尻を拭い、空を見上げる。

 

 太陽が笑っている気がした。

 

 

 控え室に向かうと、全員既に衣装に着替えて、ボイストレーニングを行なっていた。

 

「遅くなりました。」

 

 すると、メンバー達はトレーニングを中断し、こちらに向き直り、微笑んだ。

 

「お帰りなさい。」

 

 全員、声を揃えて私を迎えた。

 

「ただいま。」

 

 私は相応しい言葉で返答した。

 




 次回、最終話になります。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。