BLEACH El fuego no se apaga.   作:更夜

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BLEACH El fuego no se apaga.10

 

 

 

 

 

破面(アランカル)の頂点に君臨する十体の破面『十刃(エスパーダ)

彼らには様々な特権が与えられている。

No.11以下の破面に命令を下し支配する権限、その中から『従属官(フラシオン)』 と呼ばれる直属の部下選ぶ権限、そして虚夜宮(ラス・ノーチェス)の天蓋の下にはそれぞれに宮殿が与えられる。

 

余りにも巨大すぎる構造物である虚夜宮、その中にはこれもまた巨大な構造物がいくつも存在し虚夜宮の天蓋には、不可思議にも虚圏の明けぬ夜空とは真逆の澄んだ青空が広がっている。

その青空の下、それぞれの十刃は与えられた宮殿でその日々を過ごす、力に磨きをかける者ただ何もせず時間が過ぎるのを待つ者、自らの興味の対象を探求する者、十体の十刃の十通りの過ごし方が其処にある。

 

その中の一つ、『第3宮(トレス・パラシオ)』その名が示すとおり第3十刃(トレス・エスパーダ)を主とする宮殿である。

そしてその宮殿は前主を失い、新たなる主を迎えていた。

 

今その宮殿の広間に二つの人影が相対している。

 

 

「おいアンタ…… コイツは何の冗談だ? 」

 

「此処は第3宮と呼ばれる場所だ。 私が第3十刃に昇位した事で此方に移る事になった」

 

「そんな事聴いてんじゃねぇんだよ…… 」

 

「では何故此処にお前を連れて来たか、ということか?破面化の術式後、気絶していたお前の面倒を診る様にと藍染様からの御命令の為だ」

 

「誰がそんな説明しろっつったよ…… 俺が聞きてぇのは!何でこの俺がこんな! 人間の! ガキみたいな姿(・・・・・・・)になってるかって事だっ!」

 

 

第3宮の中に、フェルナンドのある意味魂の叫びと呼べるものが木霊する。

彼にしてみればそれは当然の叫びだったと言えるだろう。

破面化の術式から目覚めた彼が眼にしたのは、何故かその姿を人間の少年のそれへと変えられた自分だったのだ。

鏡を見たフェルナンドは愕然とした、ハリベルと同じ襟や袖口を黒く縁取られた白い装束、黄金の髪と眉、左目の周りに残る仮面、額の中心には小さな菱形の模様、そして鏡の中からこちらを見る己の炎と同じ紅い瞳。

 

そこまではよかった。

 

しかし明らかに幼さを残すその顔つき、身体は細く余計な肉どころか力強さを全く感じさせない腕と脚、目線も低くハリベルを見上げる自分。

余りにも不条理、硝子細工で出来たいとも簡単に壊れるであろうその鏡にうつる像。

その姿は彼の精神とは余りにも不釣合いで、幼く脆い人間の脆弱さを象徴するような未完成なその身体は、力を求めるフェルナンドには到底許容出来るものではなかった。

 

 

「あぁ、そんな事か。 藍染様はお前の破面化に伴って新たな術式を試したと仰っていた。それはお前の炎を肉体に再構成するというものだった様だ…… だが、お前の肉体たる炎は大半が失われた状態(・・・・・・)だった。そしてそのまま術式を行ったため、術式によって現存する炎だけ(・・・・・・・)を用いた肉体の再構成が行われ、結果そのような子供の姿となったという訳だ」

 

 

フェルナンドの憤慨を他所に、ハリベルは淡々と現在のフェルナンドの状況を説明した。

藍染の試した術式は破面化に伴う肉体の再構成術式、既存の破面の総ては肉体のある大虚から破面へと変化したものだ。

大虚としての肉体からそれぞれの持つ大虚としての能力の核、そして肉体的特長を抜き出し斬魄刀へと封じる、そしてそれ以外の肉体は霊力の消費を抑えるため往々にして収縮し、その大きさを人間サイズにまで落とす。

彼ら破面も元を辿っていけば人間であり、それ故に大虚としての力の核を取り出した肉体が最も安定するのはその力を得る前の姿、即ち人間の姿という事なのだ。

 

しかし、総ての破面が完全な人間の姿となる訳ではなく、確実に人間型になるのは最上大虚のみ、残りの二階級は破面化しても完全な人間の姿になれるかどうかは判らず、能力の低い者や知能の低い者程人ではなく虚に近い姿となる。

何故上位階級の大虚の方が人型となりやすいのか、といった理由は未だ解明されてはおらず霊力の過多や、それまでに捕食した虚の数などの仮説は立てられて入るがどれも信憑性には欠けるものであった。

 

 

フェルナンドはその肉体そのものがすでに消失しており、その能力である炎とその身体は同一の存在となっている。

それ故に能力の核を抜き出した炎を肉体へと再構成するという工程が必要となった。

しかし此処で問題が発生した。

藍染の試した術式はその術式の開発者の意図を完璧に再現し、炎の再構成を行った。

今その術式にある全ての炎を肉体へと再構成する、それ自体はなんら問題のない事ではあったがしかしフェルナンドの炎はハリベルとの激闘によりその絶対量を半分以下(・・・・・・・・)にまで減らしていたのだ。

 

術式は其処にある炎の全てを再構成する、其処にある炎を肉体へと再構成する、いやしてしまった(・・・・・・)のだ、フェルナンドの半分にも満たない減少した炎を。

 

完全な状態とは言いがたいまま再構成された炎、少ないままの炎では当然何らかの問題が発生する。

そしてその術式は少ない炎から再構成される最も合理的な形を選定した。

炎の量に見合った被験体のサイズ縮小である。

結果としてフェルナンドの見た目は人間の子供、12~14歳程の少年のそれへと変わってしまった。

ある意味では減少した炎での破面化に於いても人型になったフェルナンドの力の強さが伺える出来事ではあったが、それを本人が納得出来るかは別の話である。

 

 

「そんな事だと!? ふざけんじゃねぇ! こんな姿まっぴらだ!こんな生き恥を曝させやがって…… こんな姿、強くなった筈が無ぇ!」

 

 

当然といえば当然なのだが、フェルナンドは自らの現状を認めることが出来ない。

どうあろうとも力を求めると決意はしたが、これはどうにも想定外過ぎたのだろう。

憤慨此処に極まり、怒髪天を衝く勢いでハリベルに捲くし立てるフェルナンド、それをやれやれといった風で眼を閉じ二、三回軽く頭を振っるハリベル。

尚も騒ぎ続けるフェルナンドに遂にハリベルが遂に実力行使に出る。

 

 

「いい加減落ち着けフェルナンド…… まだ話の途中だ」

 

「ぐおぉぉぉ~ッ! 何しやがる! 放しやがれ!」

 

 

がっしりとフェルナンドの頭を鷲掴みにして力を込め、強引にフェルナンドを持ち上げるハリベル。

女性に少年が頭を掴まれ片腕で持ち上げられるという光景、現実ではまずありえない光景がそこに展開されていた。

フェルナンドはハリベルの腕を何とか外そうと頭を掴む腕を両手で掴み力を込めるが、そんな事でハリベルが手を放すはずもなくそのままの体勢でハリベルは話を続けた。

 

 

「いいか、お前がその姿になったのは炎の総量が減少したまま破面化したからだ。故に炎と霊力が回復していけば人間が成長するようにその身体も成長するだろうというのが藍染様の見解だった。貴重な体験だぞ? 我等は力の増加はあってもその姿が成長するなどという事はない。既に完成された肉体を持っているからな…… しかしお前は違う。 我等と同じ存在でありながら成長する破面、それがどのような変化をもたらすか…… 藍染様はたいへん興味を示しておられた 」

 

 

 

成長する破面、本来生物として完成している破面にあってフェルナンドは成長すると藍染は考えた。

炎と霊力が同義であるフェルナンドにとってそれはあながち間違いでは無いのだろう。

それを貴重な体験だとして淡々と事の経緯を説明するハリベルを他所に、頭を掴まれている手を外そうともがくフェルナンド。

ジタバタと身体を動かすがその程度でハリベルが揺らぐ筈も無く、その頭は一向に捉えられたままだった。

その必死の姿を見たハリベルは、その余りの必死さに「フッ」と小さく笑い声をもらしてしまった。

 

そしてそれを聞いた瞬間、フェルナンドの中で何かが切れた。

 

 

「放せって…… 言ってんだろうが!! クソがァァアァァあアァァァァ!!」

 

 

咆哮と共にフェルナンドから霊圧が放出される。

ハリベルが漏らした笑い声を“嘲笑”と受け取ったフェルナンドから吹き上がる紅い霊圧。

紅い霊圧は彼の怒りの感情と相まって激しく立ち上り、第3宮全体が揺れているかのように錯覚する程の圧力で放出されている。

フェルナンドを中心に外へ外へと広がる圧力、その霊圧にハリベルは驚きというよりはむしろ感心していた。

半分以上の炎と霊圧を失い破面化したフェルナンド、その姿は子供でありその見た目からハリベルも多少なりとも不安を覚えていた事は否定できない部分もあった。

 

 

(霊圧と炎を失ったままでの破面化で力が落ちているのではないかと思ったが…… どうやら杞憂だったようだな。 感じる霊圧は大虚だった頃のものと比べても上昇している。これでまだ万全の状態でないとは…… 先が楽しみだ)

 

 

しかしその不安が杞憂だった事に安心するハリベル。

自分が傷を負ってまで連れて来た大虚がこの程度である筈が無いという感情が今、目の前で放たれる霊圧によって証明されていた。

ハリベルの間近から吹き上がる霊圧、その勢いは凄まじいの一言に尽きるだろう。

それを形容するならばまさしく炎、フェルナンドという存在を形容するにはそれが最も適切でそれ以外には無いと思わせる程。

荒々しく燃え上がり大地を焼き天を焦す、その炎は見るものを惹き付けしかし近付きすぎればそれは容赦なく総てを焼き尽くす。

その雄々しさこそハリベルがフェルナンドに見た戦士の姿、何者にも怯まず敵の事如くを打ち払う雄々しき戦士、今はまだその片鱗しか見えずともいつかそうなる、いや、自分がそうしてみせると思うハリベル。

ハリベル自身にもわからないその使命感が彼女の中には芽生えていた。

 

そう決意するハリベルに異変が起こる、正確には異変が起こったのは腕、フェルナンドの頭を鷲掴みにしている手に熱が奔る。

それは一気に広がり、それを感じたハリベルは瞬時にその手を離しフェルナンドから距離をとった。

彼女が今までフェルナンドを掴んでいた手を見てみれば、その掌からは薄っすらとだが煙が上りその熱の凄まじさが伺える。

フェルナンドの霊圧と共に発生していた熱がハリベルの掌の鋼皮へと伝わり、その熱はハリベルが瞬時の判断でその手を放さなければ彼女の掌を焦していたのではないかと思わせる程の熱量を感じさせていた。

 

 

「ほぅ…… 霊圧が熱を持っているのか、それともその身体から発せられるものなのか…… やはりお前は普通の破面とはどこか違うようだな、フェルナンド」

 

「黙れよティア・ハリベル…… この俺を見下して笑いやがって…… もっと力を着けてからと思ったが止めだ。とりあえず一発殴らねぇと俺の気が治まらねぇ……!」

 

 

ハリベルを睨むフェルナンド、腰を落とし状態を低くしたその姿はまるで人の姿をした肉食獣、そしてその少年の姿には余りにも似つかわしくな眼、殺意を存分に含んだその眼で射抜かれているハリベルは、しかしそれを涼しげに受け止める。

 

 

「まったく…… ではやってみるがいい。 同じ舞台に立った事で私とお前の差(・・・・・・)がはっきりと判るだろう。破面の戦いを教えてやる 」

 

「その澄ました顔ぶん殴ってやるよ!!」

 

 

言うやいなやフェルナンドが床を蹴ってハリベルへと飛び出す。

左腕を前に突き出しながら右腕を振りかぶり、真正面からハリベルへと迫るフェルナンドの目には最早ハリベル以外映っていない。

ただ真正面から突進するフェルナンド、渾身の力で握り締められた拳は、しかしハリベルの顔を捉える事は無く空を切り、上体を軽く反らしただけのハリベルにいとも簡単に避けられる。

ハリベルに攻撃を避けられたフェルナンドは彼女を通り過ぎるとそのまま床を磨る様にして着地し、返す刀で再びハリベルに迫るがそれもまた同じように避けられるのみ。

ハリベルは身体を逸らして、またはフェルナンドの拳を払いその軌道を僅かに変えるだけでその総てを避けて見せた。

その場から一歩も動かないハリベルを中心にフェルナンドが何度も飛び掛るが、その拳は悉く避けられ空を打つ。

それでも怒りに任せ繰り出されるフェルナンドの拳、しかし何度目かの交錯でその拳は避けられるのではなく、ハリベルの片手で真正面から掴まれ受け止められる。

 

 

「歯を食い縛れよ、フェルナンド……!」

 

 

拳を掴まれた状態のフェルナンドにハリベルがそう呟く、拳を掴まれその状況から脱出しようとするフェルナンドだったが、しかしハリベルがそんな隙を与えるはずも無く。

次の瞬間にはハリベルの右の拳がフェルナンドの腹部に深々と突き刺さっていた。

 

 

「ガハッ!」

 

 

フェルナンドの肺から無理矢理に空気が外へと押し出される。

身体の一部を固定されたまま受けた衝撃は逃げ場を無くし、総てがダメージとしてフェルナンドを襲う。

それはまるで内臓が爆発したような衝撃、拳が腹を突き抜けなかったのは一重にハリベルの加減によるものだろう。

眼を見開き腹部に奔る未曾有の衝撃にただ硬直することしかフェルナンドには出来なかった。

 

 

「我ら破面の皮膚は鋼皮(イエロ)と呼ばれ、霊圧によってその硬度を増す。これは一種の盾であり鎧となるが、その硬度を攻撃に使用するだけで大抵の敵は打ち払える。その威力は…… 今、身を持って知っただろう? 」

 

 

掴んでいたフェルナンドの拳を離しながら語るハリベル。

フェルナンドはそのまま床に片膝を着き、片方の手を床につけもう片方の手で腹部を押さえる。

苦悶の表情を浮かべるフェルナンド、呼吸は浅く整える事は出来ず、肩は大きく上下していた。

 

フェルナンドは困惑していた、その腹部に広がる感覚、突き刺さった拳の衝撃とそこから広がるじわじわとした刺す様な感覚、長い間彼が忘れていたその感覚に。

炎の身体はいくら斬られても問題なく、たとえ消し飛ばされたとしてもどうという事はなかった。

しかし今、たった一撃の拳によってもたらされた感覚、久しく忘れていたその感覚、呼び起こされたその感覚は『痛み』だった。

 

 

「どうしたもう終わりか? 今まではあの炎の身体がお前から戦いの痛みを遠ざけていた…… しかし今、肉体を持ったことでそれは再びお前の中に甦った。今までのような己の特性に頼った(・・・・・・)戦い方ではお前自身の身を滅ぼすぞ」

 

 

『痛み』

フェルナンドにとって久しく忘れていたその感覚、炎の身体であった頃はそれを感じることは無かった。

しかしこれから破面として肉体を持って戦うということは即ち痛みを持って戦うということ、今までのフェルナンドはそれが無い故に怒涛の攻撃が仕掛けられたとハリベルは言う。

そしてそれはフェルナンド自身の身をも滅ぼすと。

 

 

「上、等だ…… これが痛みだってんな……ら、これを感じるって事は、俺は、まだ死んでねぇって、事だろが…… ならそれも悪くねぇ、それに…… 誰がこれぐらいで終わるかよ!!」

 

 

フェルナンドの腹部を押さえていた手に紅い霊圧が集中する。

それはみるみる収束し紅い宝玉を作り出した。

至近距離からの虚閃、いかなハリベルとはいえこの距離から破面化したフェルナンドの虚閃を喰らえばダメージは避けられない。

 

しかしその虚閃が完成し、ハリベルへと向けてその光の奔流を解き放つ前にフェルナンドの身体を衝撃が襲った。

その場から吹き飛ばされる様に一直線に壁へと向かい、そのまま壁へと激突したフェルナンドは壁にめり込み、その衝撃で亀裂が奔った壁が彼の上へと容赦なく崩れ落ちる。

未完成のまま炸裂した自分の虚閃と、ハリベルが放ったであろう攻撃の二乗の衝撃がフェルナンドを貫いていた。

その壁へと歩み寄るハリベル。

 

「今の技は『虚弾(バラ)』と言って自身の霊圧を拳に集め、固め打ち出す技だ。威力はそれほどでもないがその速度は虚閃の二十倍、発動に掛かる時間も少ない。怒りに任せて大きな力を振り回せば勝てる訳ではないのだよフェルナンド…… と言っても、もう聞こえてはいない……か 」

 

 

フェルナンドに言葉をかけながら崩れた壁の瓦礫に歩み寄り、その瓦礫の中からフェルナンドを引きずり出すハリベル。

片腕を掴み上げられたフェルナンドは特に酷い外傷は無いものの、霊圧の炸裂と衝突によって完全に意識を失っており首も手も足も力なくだらりと垂れ下げた状態だった。

破面化によってフェルナンドが手に入れた力は霊圧、能力共に破面化以前のものより上昇していた。

だが、不完全な炎によって形成されてしまった不完全な肉体は、本来彼が万全の状態で得るそれよりも脆くなってしまっていたのは明らか。

フェルナンドの虚閃と本気ではないにしろハリベルの放った虚弾、その霊圧の衝突には凄まじいものがあった。

ハリベル自身は威力が低いと言うがそれはあくまで彼女の基準であり、十刃以下の破面からすればそれは必殺の威力と言って過言ではない。

その虚弾と自身の虚閃の両方の霊圧の直撃を受けたフェルナンド、しかし以前のままの彼、炎というエネルギーの塊としての彼ならば耐えられた衝撃は肉体、それも不完全なものを手にしたためにその威力に耐え切る事が出来なかったのだ。

 

 

「少々やりすぎたか…… 早い段階で自分の現状を知らせておいたほうが良いと思ったのだが、この身体で虚閃を撃とうとするとは…… 無茶をする…… 」

 

 

フェルナンドの現状を藍染より知らせられていたハリベルは、フェルナンドにこの事を教えようと戦った。

実際霊圧も炎も減衰してしまっているフェルナンドに本気でかかる心算はなかったが、フェルナンドが虚閃を発動しようとした事で虚弾で応戦し、結果意識を刈り取ってしまったのだ。

 

 

(先ほど感じた霊圧は確かに上昇していた…… だが肉体の方がこれでは上昇していく霊圧に肉体が耐えられない。この先どうなる事か…… )

 

 

フェルナンドの現状を肌で感じ確認したハリベルはフェルナンドの今後を案じる。

破面化による霊圧の上昇に身体がついてこない、それは即ち全力での戦闘はできないという事、出来たとしてもそれは自らの身体が自らの霊圧によって蝕まれるというリスクを背負った命がけの所業。

 

だがハリベルが案じているのはそのリスク自体ではなく、そのリスクを容易く実行してしまう彼の気性。

時に戦いの中でリスクを背負う事は必要だが、フェルナンドの場合それを容易く選んでしまい結果自身を死に至らしめてしまうだろう。

“生きているという実感”を得るには死に際する必要がある、というフェルナンドの考え方その危うさをハリベルは危惧する。

 

必ずしも死に際する事だけが、戦いに生きる者の生を実感する術では無いというのに。

 

 

 

 

 

 

「それはあの大虚か…… 」

 

 

思案するハリベルに広間の入り口から彼女へと声をかける者がいた。

虚ろな緑色の硝子の様な瞳、それに感情は無く写る総てに何の関心も無いといったそれでハリベル、そしてフェルナンドを見据える破面ウルキオラがそこに立っていたのだ。

 

 

「貴様、確かウルキオラと言ったか…… 何用だ。新参の貴様が私に用事などある筈もない 」

 

「確かに俺はお前に用などない…… しかし、藍染様からお前への言伝を預かっている。お前が拾ったその塵は当分、お前が面倒を診ろとの仰せだ。 ……用件は以上だ 」

 

 

藍染の言伝を告げるとウルキオラは踵を返し、その場から立ち去ろうとする。

あくまで事務的に、必要以上を行わずただ無感情に。

 

 

「待て、何故貴様フェルナンドの事を気にかけた」

 

 

フェルナンドを床へと下ろし、立ち去ろうとするウルキオラをハリベルは呼び止める。

この広間に入ってウルキオラが最初に反応したのはフェルナンドの事だった。

何がウルキオラの琴線に触れたのかは判らないが、彼は破面化したフェルナンドを見てそれは本当にあの炎の大虚かと確認したのだ。

それはウルキオラにとって、フェルナンドは何か特別な存在なのではないかとハリベルは考えていた。

 

「……俺に殺気をぶつけた塵が破面化した姿がそれか、と確認しただけだ。 ……だが破面化してもやはり塵は塵のままだった様だがな」

 

「塵……か。 確かに今のフェルナンドは貴様から見ればそうなのかもしれんな」

 

「間違えるな、第3十刃。 今の(・・)ではない…… 塵は永遠に(・・・)塵のままだ 」

 

 

フェルナンドを塵と罵るウルキオラ、いや彼にとって力無い存在は総て塵でありそれはこの世に有ろうが無かろうが全く問題にならない存在なのだろう。

今のフェルナンドはウルキオラにとってそういう存在、取るに足らない存在なのだ。

ハリベル自身今のフェルナンドでは、この目の前の破面に対抗する事ができない事は理解していた。

しかしハリベルのフェルナンドに対する評価はウルキオラのそれとは違っている。

 

 

「確かに塵ならばな…… だがフェルナンドは原石(・・)だ。今は無骨な石くれだがいずれ輝く、私がそうしてみせよう」

 

 

“原石”今はまだ荒々しいその力と幼い身体は不釣合いで、どこか自らの死を望んでいるような気性は歪だがそれを乗り越えたとき必ず輝く原石。

ハリベルにはその確信が有った、戦いの中で初めて感じた恐怖に真っ向から立ち向かってみせる覚悟を見せたフェルナンド、それがどれだけ稀有な事か、逃げ出す事が出来たものに立ち向かえる力、それは何よりも強く何よりも尊いものなのだと。

それを持つフェルナンドは、いつかこの目の前の虚ろな瞳の破面にも届く力を秘めていると、ハリベルは確信しているのだ。

 

 

「……塵も石も変わりはしない。 路傍に転がるそれなど、俺にとって価値が無いという点ではな…… 言伝は確かに伝えた 」

 

 

それだけ言い残すとウルキオラは二度と振り返る事無く第3宮を後にした。

その後姿を見ながらハリベルが呟く。

 

 

「例え路傍に転がっていようと、それでもコイツは、いずれ貴様の視界に嫌でも入る事になるぞ、ウルキオラ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

手に入れた破壊の力

 

己が身を焼く破壊の力

 

慟哭する獣

 

踏み躙られた牙

 

研ぎ澄まされた爪

 

彼の者の喉を裂く

 

 

 

 

 

 

 


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