BLEACH El fuego no se apaga.   作:更夜

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BLEACH El fuego no se apaga.12

 

 

 

 

 

―― 時間が遡る

 

 

 

破面化の後、怒りに任せてハリベルへと挑み結果軽々とあしらわれてしまったフェルナンド。

戦いの中で気絶し、意識を失うという愚を曝した彼はその意識が戻ると、またすぐさまハリベルへと挑みかかった。

しかし、再び挑みかかったとてその実力差が埋まるはずもなく、それどころかダメージを負った身体はフェルナンドの意思に反し、思い通りには動かずまさに致命的ともいえる隙を何度もハリベルに曝してしまう。

 

そして結果は何度も繰り返される。

飛び掛り、返り討ちに合い、意識を失い、気が付けばまた飛び掛るという非生産的な繰り返し。

それを幾度繰り返しただろうか、いい加減その無意味な繰り返しに辟易したのかそれともフェルナンドを心配してなのかは判らないが、ハリベルがフェルナンドの攻撃を避けながら彼に話しかける。

 

 

「……もう止したらどうだフェルナンド。 いい加減お前も判っただろう、己が力を“暴”として振り回したところで私には届かないと。それでは大虚だった頃のお前以下だ、頭を冷やせ」

 

そう言いながらハリベルはフェルナンドの拳を払い、払ったその手でそのままフェルナンドの手首を掴むとフェルナンドの攻撃の勢いを利用し、彼の身体を強引に引き寄せ、自らの力も上乗せしてフェルナンドを背中から自身の横側の床に叩きつけた。

止めとばかりに床が陥没するほどの威力で叩きつけられたフェルナンド、その身体は殴られ、蹴られ、壁に床にと叩きつけられ無数の傷が覆い、まさに満身創痍といった状態。

 

フェルナンドの頭側に立って彼を見下ろすハリベルが先程言った言葉はもっともな意見だった。

今のフェルナンドはただ我武者羅に、何も考えずハリベル目掛けて突進する事しかしない猪と大差無い状態。

本来の彼は戦いを愉しみながらも、自らの勝利のための道筋を考え、それを実行する賢さを秘めていた筈。

しかし今の彼は怒りに支配されたようにただ目の前のハリベルに飛び掛るだけであり、そこに策と呼べるものは無くただ己の力を振り回しているだけ、言ってしまえば子供の喧嘩、いやそれ以下の状態に見えた。

 

 

「……ウルセェよ、そんなもんアンタに言われなくても判って(・・・・・・・・・・)んだ。だがな…… 一度始めちまったからにはそう簡単には退けねぇだろうが、終われねぇだろうが。 ……そういうもんだろうがよ 」

 

「……不器用なヤツだ。 退く事を学べ、と言っただろうに…… まぁ、言っても無駄だとは思うがな 」

 

 

フェルナンドの怒りはとうの昔に収まっていた。

そして今の自分がどう足掻こうが、目の前の女性に届かない事も彼は理解判していた。

では何故挑み続けたのか。

怒りが冷めているというのに、ダメージを追った身体ではハリベルに敵わないと理解しているのに、彼は何故挑み続けたのか。

 

 

それはケジメだった。

たとえ怒りに身を任せ我を忘れての行動だとしても、自らが先に手を出して始めた戦いに勝てないからといって背を向ける、それをフェルナンドは良しとしなかったのだ。

頭では判っている、このまま続けたところで自分が勝利を掴む事は不可能であると、しかしこれは、これだけは“理”で割り切れるものではなく自分の理性よりもっと奥の部分が割り切ってしまうことを拒否していると。

 

それはどんな事にも共通する理念、始めたからには終わらせなければいけない、そして迎えるであろうその終わりは自分の都合の良い様に終わらせてはならない(・・・・・・・・・・・・・・・・・)

結果としてそうなるのではなく結果を捻じ曲げるように自ら中断するなどという事は、それだけでそこに至る総ての過程を腐敗させ、無価値で醜悪なものへと変えてしまうとフェルナンドは感じていた。

 

そして、フェルナンドにとってそれは戦いに最も持ち込んではいけないもの。

戦いとは“死”と隣り合わせ、それ故に“生”を実感出来る場所、フェルナンドにとって戦いとはそういうものなのだ。

自ら仕掛けた戦いを自ら止めると言う事は“死”から逃げる事、即ち“生”の実感を諦める事であり故にそれは彼にとっての死(・・・・・・・)に他ならない。

戦いの最後は必ずどちらかが血を流し、どちらかが地に臥す。

それこそがフェルナンドの知る戦いであり、フェルナンドにとって勝てないからといって退くなどという事は許容出来ない事だった。

 

故にケジメ、実際ハリベルがフェルナンドを殺すと言う事は現時点でありえない。

そうあって欲しいと願いながらもそれが不可能だと理解しているフェルナンド、ならばこの自らの愚かな行いにどうケジメをつけるか、結局戦うという事に背を向けられず、死と生に背を向けられないフェルナンドがとった行動がこれだった。

意識を失うような状態まで戦い、実際意識を失って気が付けばまた戦う。

戦って戦って戦ってそうして身体は悲鳴を上げ、やがて立つ事すらままならなくなりそれでも立ち上がりハリベルへと向かって拳を振り蹴りを繰り出し、そして倒れて遂には起き上がることすら出来ない状態になる。

戦いに敗れたものは”死”、それに準じた状態まで己を痛めつける、それがフェルナンドの結論だった。

自分勝手で身勝手、しかしケジメとは自らをどう戒めるかという事であり、結局は個に由来する罰でしかない。

 

 

いよいよ動けなくなったフェルナンドにハリベルが話しかける。

不器用なフェルナンドを見て砂漠でも言った『退く事を学べ』と言う言葉を再び口にするが、ハリベルはそんな言葉をフェルナンドが素直に聴くわけがないと理解していた、そう考える白い衣で隠された彼女の口元にはきっと苦笑が浮かんでいる事だろう。

フェルナンドのその不器用さは決して嫌いではないと思うハリベル、そんなハリベルの言葉にフェルナンドは床に大の字になったまま答えた。

 

 

「ハッ! 判ってるじゃねぇか。 それに俺も言ったろうが、俺はそんな大人じゃな…… チッ、締まらねぇな 」

 

 

ハリベルの言葉を鼻で笑い、同じように砂漠で口にした台詞で返そうとするフェルナンドだが、それに含まれる言葉はどうにも自身へ皮肉として返るであろう事に気が付くと、バツが悪そうに彼女から顔を背けた。

そんなフェルナンドを見てハリベルはまた苦笑を浮かべる。

 

一頻りの苦笑いの後、ハリベルは居ずまいを正しフェルナンドの頭辺りに片膝を付いてしゃがみ込むと、改めてフェルナンドの視線に向かい合った。

その眼差しは真剣そのもの、翡翠色の瞳がフェルナンドの紅い瞳をしっかりと見据える。

 

 

「フェルナンドよ…… 」

 

「何だよ、笑いたきゃ笑いやがれ、クソ面白くもねぇ…… 」

 

「そうではない…… フェルナンド。この戦いはこれで終わりだ。……だが、お前がこれから力を付け、それを存分に使いこなし何れまた私を殺す為挑んで来ると言うのならば、その時は私の持てる総ての力でお前の相手をしよう。 ……その為に、私の元で戦いを学んでみる気はないか?」

 

 

床からハリベルを見上げるフェルナンドの瞳が驚きで大きく開かれる。

それもその筈、ハリベルは自らを殺すと宣言したフェルナンドを傍に置き、更にその彼に戦いを教え鍛えようと言うのだ。

命を狙っていると公言する相手を鍛えるという理解しがたい行動、フェルナンドの驚きは当然の事だろう。

自分を見下ろすハリベルの瞳をフェルナンドはその鋭い瞳で射抜く。

フェルナンドが見上げるハリベルの瞳には、その言葉が嘘や冗談の類ではない事を示す真摯さがあった。

そこには決して自分が殺される筈がない等という侮りや驕りといった濁った感情は見えない。

ともすれば自分が殺される、そういった可能性を充分に理解して尚の発言であると、純粋にフェルナンドを鍛え、高みへと導くという強い意思がその瞳からフェルナンドへ確かに伝わってきたのだ。

 

絡む二人の視線、数秒かそれとも数分か、その状態のまま二人は見詰め合う。

そして最初に言葉を発したのはフェルナンドだった。

 

 

「……アンタ、やっぱり変わっやがる。普通自分のことを殺すなんて言ったヤツは遠ざけるもんだが、アンタはそれを近くに置いて更に鍛るかよ。まぁ、近くに居た方が俺には何かと都合が良い……か。イイぜ、その誘い乗ってやるよ 」

 

 

フェルナンドはハリベルの提案を受けた。

それは確かにフェルナンドにとって都合が良い提案であったし、それ以上に自分に真正面から向けられた言葉を無視できるほど、彼が腐っていなかったという事だったのだろう。

何の打算もなく、策謀もなく、ただ純粋に向けられた感情に背を向け逃げるような事は、フェルナンドにとっても忌諱すべきものだったのだ。

 

 

「そうか…… では身体が治ったら早速始めよう。お前は破面化して本当に間も無い、まずはその身体に慣れる(・・・・・・)事と、自分の力を見極める(・・・・・・)事からはじめる。手始めに十刃以下の数字持ちを全員倒して来い。ただし殺すな、それが終わったら次の段階に入る」

 

「アァ? なんだよそれ、アンタより弱い奴等と戦りあって意味なんかあんのかよ?アンタが俺の相手をすればそれで済む話だろうが」

 

 

自分の誘いを受けたフェルナンドに対しハリベルは早速一つの課題を出した。

『十刃以下の数字持ちを全員倒す事、ただし殺害は不可』という課題、だがその内容にフェルナンドは異を唱える。

今、目の前に現時点で虚夜宮第三位の実力を持つハリベルが居る、だが何故それより下の者、弱い者と戦わなければいけないのか、最もな疑問であろうそれをハリベルは斬って捨てた。

 

 

「今のままでは私も加減し損ねてお前を殺してしまいかねん。それにお前はその肉体での戦闘経験が少なすぎる。戦いの勝敗を決するのは霊圧の大きさでも、武器の強さでも、能力の優劣でもない。総ては経験だ、お前はまず己を知らなければならない。相手である私を知るのはそれが出来てから、という事だ」

 

 

ハリベルの言葉は、結局のところ今のフェルナンドではどう足掻こうとも自身に勝てない、というものだった。

それは破面としての強さもさることながら、今のフェルナンドに圧倒的に足りていないものが在るということだと、それが経験だと語るハリベル。

破面化して間もないフェルナンド、更に今までの大虚としての特性上肉体を用いた戦闘の経験はほぼ皆無、それ故にまずはそれを知る事からはじめろとハリベルは言うのだ。

己の有利は何か、そして不利は何か、霊力は霊圧はどの程度なのか、現在の肉体の特性、耐久力、移動速度、膂力、自らの限界、使用できる力、それに伴うリスク、それを補う策、上げればそれに際限はなくそのどれも今現在フェルナンドが知らない事だった。

 

己を知らずして勝利無し、故に数字持ちとの戦闘でそれを見極めろとハリベルは言っているのだ。

 

「チッ…… こんな(ザマ)じゃどんだけ吼えたところで無駄……かよ。やってやろうじゃねぇか数字持ち狩り、少しぐらいは愉しめそうな奴はいるんだろうな?えぇ?ハリベル」

 

「殆どが冷静な貴様ならば問題ない筈だ。 解放されれば多少梃子摺るだろうがそれも経験。あぁ、それと…… コイツ(・・・)はこの試練が終わるまで預かっておく」

 

「あぁ?その刀がどうしたよ、そんなもん俺は知らねぇぞ」

 

 

渋々、と言うより現状叩き伏せられ指一本動かせるような状態でないフェルナンドは、ハリベルの言葉を了承する。

それを聴いてハリベルは思い出したように壁際まで移動すると、そこに立て掛けてあった一振りの刀を持ちそれをフェルナンドの眼前へと突き出した。

白い鞘に納められたその刀、その鍔には炎のような模様が描かれ、柄の部分もまた炎のように紅い拵えだった。

見せられたその刀、全く見たこともないその刀、知らない筈のその刀、しかし何か惹きつけられる様な感覚を感じるフェルナンド。

だが結局は知らないものとして、ハリベルに答えてしまう。

 

 

「まったくお前は…… 藍染様の御説明を聞いていなかったのか?これはお前の斬魄刀(・・・・・・)だ、虚としての力の核を封じた刀、即ちお前の力の核だ」

 

 

翳した刀を説明するハリベルの表情に呆れが混じる。

フェルナンドが惹かれるような感覚を覚えるのは当然の事だったのだ、何故ならそれは元々彼と一つであったもの、己の内に存在していたもの、刀という姿へと変貌しようともそれは変わらない、己の一部であり総てだったものだったのだから。

 

 

「ケッ、そうかよ。まぁ別に構わねぇさ、とりあえずはアンタが持ってりゃいい」

 

 

己の刀、力の核だと告げられたフェルナンドは、特に気にした様子もなくそれを取り上げられることを受け入れた。

それに驚いたのはハリベルだ、フェルナンドのことである、真実を告げればきっと返せと騒ぐだろうと予想していたが結果としては逆、あっさりとそれを受け入れてしまったのだ。

 

 

「驚いたな、これはお前の物なのだぞ? 手元に置かなくていいのか?これから数字持ち達と戦わねばならんというのに」

 

「構わねぇよ別に。 ソイツ無しで数字持ちとやらを倒せば済むだけの話だろうが。それに刀なんか必要ねぇさ、テメェの事を知るにはテメェの身体だけでやった方が良いだろうがよ」

 

 

若干戸惑ったハリベルがフェルナンドに理由を聞いてみれば、フェルナンドはさも当然と言った表情でこう答えた。

自らの身体、己を知るのに今武器は邪魔だと、己の肉体面での性能を見るのに武器は必要ないと。

武器はその手に握っただけそして振るっただけで相手を容易に傷つける、それは確かな力であるし戦いはより力があった方が有利なのは当然。

 

しかし安易な力に頼れば何れ破滅を呼ぶ。

 

武器の強さを己の強さと勘違いし、増長し、己を磨く事を止めてしまう。

それでは意味がない、今フェルナンドがやるべき事は大きな力を得ることではなく、その大きな力を受け止める器を作ること。

そのためには己の肉体に付加する形での力の増加はまだ必要ではない、あくまで己の内にあるモノのみで事を成すべきだとフェルナンドは考えたのだ。

 

 

「お前がそう言うのならば構わん。 それが数字持ち達に対する侮りでないことを祈ろう…… だがフェルナンド、数字持ちの中でも奴だけは…… 破面No12.グリムジョー・ジャガージャックだけには気をつけろ。あれは数字持ちの中でも別格だ 」

 

「グリムジョー? ……あぁ、あの広間で一体だけ生き残ったアイツか。そんなもん言われなくても判ってる。 アイツは最後だ、愉しみは後に取っておかねぇと。なぁ、ハリベル」

 

 

ハリベルが唯一警戒しろと付け足した破面グリムジョー。

広間でのあの殺戮の瞬間までハリベルは彼の存在を知らなかった。

しかし、あの新たな第4十刃 ウルキオラ・シファーの攻撃を必死ながらも受け止め、命を永らえたその実力はハリベルの中でも評価に値した。

あれは一介の数字持ちが対応できるレベルの攻撃ではなかったと彼女は見抜いていたのだ。

 

ハリベル達十刃から見てウルキオラが手を抜いているのは明らかだったが、それでもあの攻撃は速かった。

それを紛いなりにも防いだグリムジョー、十刃には未だ届かないまでもその実力は他の数字持ち達からは抜きん出ていると言えるだろう。

 

だがそれを聞いたフェルナンドは気を引き締めるどころか、愉しそうに笑う。

フェルナンドとてあの広間に居たのだ、ウルキオラの攻撃もそしてその一撃を生き残ったグリムジョーのことも覚えているだろう。

それをして尚愉しみだと笑うフェルナンド、その幼いつくりの顔に全く持って似合わない猛禽類の様な鋭い瞳は、既に獲物を捕らえているのだろう。

 

 

「嗚呼、今から愉しみで仕方ねぇな」

 

 

自然と笑い声が漏れる、そして身の内で燃え上がる魂の猛りを、フェルナンドは確かに感じていた……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

狂喜する

 

襲い来る獣の爪

 

それをして尚狂喜する

 

狂気する

 

襲い来る熱風の渦

 

それをして尚狂気する

 

 

 

 

 

 

 


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