BLEACH El fuego no se apaga.   作:更夜

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BLEACH El fuego no se apaga.18

 

 

 

 

 

 

 

 

白く広大な空間が広がっている。

ずべてが白い空間、四方に壁、天井があるところを見るとそこは屋内なのだろう、しかしその広さに不釣合いなほど柱の数は少なく、高い天井と相まって非常に大きな空間が作り出されていた。

 

その広大な空間に響く音がある。

金属と金属がぶつかった様な甲高い音、そしてそれと同時に散る火花。

それは剣戟の音と光、その広大な空間の丁度中心辺りで断続的に発生するそれを、発生源より少し離れた位置で見る人影がある。

人影の数は三、人影はそのどれもが女性の姿をしていた。

 

三つの人影の正体である彼女達三人は第3十刃(トレス・エスパーダ)ティア・ハリベルの従属官、アパッチ、ミラ・ローズ、スンスン。

三人は大きな白い正方形の石材のようなものが積み重なった上にそれぞれ座り、音と火花が散る方を黙って見つめている。

 

いや黙って見つめる事しか出来ない、と言った方が正しいのか。

座っていると言っても彼女達三人の中で誰一人、まともに座っている者はいなかった。

アパッチは大きな石材の上に仰向けになり、首と両腕をだらりと石材の端から投げ出し、逆様になった視界で件の方向を見つめ、ミラ・ローズは更にその逆、石材の上でうつ伏せになり、両腕をたらして顔だけを上げている、一番まともなスンスンでさえその石材に寄り掛かるようにしてかろうじて座っているといった風だった。

これは決して彼女たちの行儀が悪いという訳ではなく、彼女たちがそうせざるを得ない状態(・・・・・・・・・・・)である、という事だった。

 

一体何故か、それは至極簡単な事で彼女たちは今“疲れている”のだ。

それはもう彼女たちは疲れていた、それこそ今の状態から少しでも動く事すら億劫になるほど疲れていた。

彼女達がそんな状態になってしまった理由、それは彼女たちの主ハリベルにあった。

 

 

今から数日前、彼女たちは小さな諍いから遂に互いへの実力行使に出た。

日ごろの小さな小競り合いの積み重ねがそこへ来て爆発したのだろう、第3宮の外の砂漠でそれはもう激しく戦う三人。

女同士の戦いというのは怖ろしいもので、“退く”という事がないそれは延々と続き、互いが顔を腫らしその体力が尽きるまで続く。

そして体力の消耗と共に頭が冷えてきたのか、このあまりに無意味な争いが終息へと向かったとき、彼女達に冷水の如き言葉が投掛けられた。

 

 

 

「終わりか? 」

 

 

 

声の主は、丁度彼女達の背後に立っていた。

その声が誰のものであるか瞬時に理解した三人、ゆっくりと振り返るとそこには腕を組み、氷のようなその瞳に怒りを滲ませたハリベルが仁王立ちで待ち構えていた。

私闘を好まないハリベル、なにより三人がハリベルの制止を無視し争いを始めた事がハリベルを怒らせていた。

更に言うならば、三人に『黙っていてくれ』と言われたショックが、彼女の怒りに油を注いでいるのかもしれない。

いや、おそらくそれが最たる理由だろうが、そんなハリベルの怒りの理由はさておき三人はそのままハリベルの前で正座をさせられる、反論は一切認めない、というハリベルの気配を察知したのか物凄い速さで正座する三人、そしてそこから始まるのは当然説教だった。

 

制止を無視したことの叱責から始まり、私闘の愚かさ、従属官のあり方へと話は続き、更には日頃の三人の小競り合いへの叱責から生活態度への指摘、それぞれの戦い方の欠点、そしてそもそも戦士というものはというハリベルの戦士論までその説教はそれこそ三人の争い以上に延々と続いた。

ようやく説教が終わり半ばぐったりとした三人、しかしハリベルのお仕置きはまだ始まったばかりだった。

そのまま彼女達の性根を叩き直さんと、後に彼女達に“地獄”とまで言わせた特訓が開始されたのだ。

基礎的な能力の訓練から始まり霊力制御、霊圧操作、剣技、格闘術から響転(ソニード)などの歩法、虚閃(セロ)虚弾(バラ)といった霊圧攻撃等など、休憩など一切無しで少しでも休もうという気配を見せればその倍の特訓が加算される様な、まさしく地獄の特訓の数々。

それら全てを完遂し息も絶え絶えに倒れ臥す三人、もう動けないという雰囲気が濃厚な彼女等を前にハリベルから死刑宣告が告げられる。

 

「では最後に、『虚夜宮(ラス・ノーチェス)外周部を1周』して終わりとする」

 

 

その言葉に愕然とする三人。

今彼女達が居る砂漠、青空の下に広がる砂漠はしかし“屋内”なのだ。

虚夜宮という言い表す言葉が無いほど巨大な建造物の中、それが彼女たちの居る砂漠の正体。

その虚夜宮の外周を回るなどどれほど時間がかかるか分からない、しかし彼女達の目の前でそれを告げた人物の眼は、明らかに本気の眼だった。

そして彼女達は文句を零すことすら許されずそれを達成し、今この空間で動けないほど疲弊し未だ続く剣戟の光を見ているに至ったのだ。

 

 

「なぁ…… 」

 

 

そんな三人のうち、仰向けでいるアパッチが他の二人に声をかける。

しかしそのアパッチの声にすら反応するのが面倒なのか、ミラ・ローズもスンスンも無言だった。

 

 

「なぁってばよ! 」

 

「なんだよ、うるさいねぇ…… 」 「なんなんですの…… 」

 

 

それでも二人に声をかけるアパッチに、ミラ・ローズとスンスンは面倒そうに答える。

だが二人の反応も仕方が無いと言えるだろう、地獄の特訓が漸く終わったかと思えばハリベルにこの第3宮『練武場(フォルティフィカール・ルガール)』に呼び出され、休息もないまま件の剣戟を見せられているのだ。

見ながらも少しでも休みたい、というのが三人の共通の認識ではあるのだろう。

それでも声を掛けたアパッチ、それには彼女なりの理由があった。

 

 

「アイツ…… 本当に強いのか(・・・・・・・)?」

 

「「……」」

 

 

アパッチのその問に二人は無言だった。

それは他の二人も口に出さないまでも思っていたこと、目の前で繰り広げられる剣戟、それを行っているのは片方はもちろんこの第3宮の主ハリベル、そしてもう片方は破面No.12 グリムジョー・ジャガージャックと引き分けたとされる破面、金色の髪と紅い瞳の少年、フェルナンド・アルディエンデだった。

それぞれの斬魄刀を抜き放ち刃を交える二人、響く音と飛び散る火花からその一撃には強烈な力が込められているのが伺える。

しかし、アパッチをはじめとした三人は、今まさにその斬魄刀を振り被りハリベルへと叩きつけるフェルナンドの姿を見て思っていた。

 

あの破面は本当に強いのか、と。

 

彼女達から見ても、その体躯の何処からそれ程の力が出るのかというほど、フェルナンドの刃には力が乗っていた。

攻めるフェルナンドと受けるハリベル、ハリベルが自ら受けに回っているというのが正しい表現だがそれは今然程関係のないこと。

フェルナンドの放つ一撃はそれこそその全てが、必殺の一撃と言って過言ではないほどの威力を有している、有してはいるのだが彼女達から見ればそれだけ(・・・・)なのだ。

 

ハリベルの配下という事もあり、彼女達はそれなりに刀の扱いに長けている。

それぞれ得物は違ってもその根底たるものは皆同じ、故に判るのだ、フェルナンドが刀を扱っている(・・・・・・・)とは言いがたいという事を。

今のフェルナンドは、ただ力任せに刀を振り回し、相手に叩きつけているだけに過ぎなかった。

斬魄刀を手に入れ日が浅いという事を差し引いてもあまりにも粗野、言ってしまえば今のフェルナンドは、その手に握るのが刀であろうがただの棒切れであろうが変わらない戦い方をしているのだ。

 

故に彼女達は思ってしまうのだ。

本当にこの破面は強いのか、本当にこの破面はグリムジョーと引き分けたのか、そして本当にこの破面は自分達の主ティア・ハリベルが鍛える価値がある存在なのか、と。

そう彼女達に思わせてしまうほど、フェルナンドの振るう刀には“才”というものが感じられなかった。

 

 

 

 

 

従属官である彼女達にすら見抜けるフェルナンドの“刀の才”の無さ、それがその主たるハリベルに見抜けない筈も無い。

初撃、彼女の刀とフェルナンドの刀がぶつかり合った瞬間、彼女は既にフェルナンドに刀の才が無いことを見抜いていた。

初めて刀を握り初めて刀を振るう、そんな初心者とも言うべき状態の者の振るう刀の一撃で、その才の有り無しを判断出来るものなのか疑問は残る。

 

しかし、何事にも“才”のある者は“煌く”のだ。

 

まるでそうする事が当然といった風で、何十年何百年と先人が積み重ねてきた工程を吸収し、昇華する。

知らぬはずの事を昔から知っているかのように行える、それは刀の扱いであったり太刀筋であったり、間合いであったりといった長年の経験の上で身につくもの、それを“才”というものは一足飛びで吸収していく。

 

だがしかし、ハリベルはその“才の煌き”をフェルナンドの刃に見出す事は出来なかった。

ハリベルから見るフェルナンドの振るう刃はあまりにも無骨、しかしそれは刀に振り回されているという訳ではない。

己の意思でその刀を振るい、その上で尚その刀は無骨極まりないのだ。

その剣技は鍛えればある程度の強さにはなる、しかしその全てが二流止まり、超一流との戦いの中の“刀”を用いた戦闘でフェルナンドが勝利できる可能性は皆無であろうと、ハリベルは見ていた。

 

 

「……フェルナンド、お前に刀の才能は無いな…… 」

 

 

フェルナンドが大きく振り被り、力任せに振り下ろした刀をハリベルが弾く。

それにより後方へと飛ばされるフェルナンド、フェルナンドが宙返りするようにして着地し距離が開いたところでハリベルが切り出す。

才能が無いという一言、それは今まさに力を、彼の者に己を刻み付けんが為の力を欲するフェルナンドには残酷とも言える宣言だったかもしれない。

しかし、ハリベルはあえてそれを口にしフェルナンドにそれを告げる。

それがフェルナンドの今後を考えたとき最も合理的な選択である、刀に固執する事無く刀の才無き者なりの戦いを早くから考える事の方が、後の飛躍へと繋がると彼女は考えたからだ。

対してフェルナンドはそんなハリベルの宣言に特に顔色を変える事も無く、その手に持った刀を二、三回軽く振るとそのまま鞘へと納めてしまった。

 

 

「ま、そうだろう……な。 コイツを握った瞬間にそんな事は判って(・・・・・・・・)たんだ。俺に(コイツ)を扱う才は無ぇ…… 力任せに振ってはみたが、俺はアンタの太刀筋を見ちまってるからな…… 酷ぇもんだ、我ながら……な 」

 

 

さすがに才が無いなどと言われれば、如何なフェルナンドといえども落ち込むか怒るかと思っていたハリベルに返って来たのは、余りにもあっさりとしたフェルナンドの対応だった。

ハリベルはその対応の仕方に眉をひそめる。

 

 

先日、一度目を覚ましてから再び眠りに付いたフェルナンドは順調すぎる程順調に回復し、自らが特訓を課していた彼女の従属官の帰還と時を同じくしこの練武場で初めて刀を合わせるはこびとなった。

刀を合わせる前、フェルナンドからは先日のような無気力感や惚けている様な気配は既に感じず、どうにか壁を乗り越えたものと思っていたハリベル。

しかし今、自らの才の無さを思い知ったフェルナンドが纏う気配が何処と無く先日のものと似通っている、そう感じたハリベルに一抹の不安がよぎる。

乗り越えたものと思っていたフェルナンドの抱える畏れ、考えてみればそれはそう簡単にそれが乗り越えられる筈のものでもなく、安易にそう判断した自分をハリベルは悔いた。

 

 

「フェルナンド…… 」

 

 

なんと声を掛けていいか判らない。

そんな感情が、零れた言葉からありありと伺えるようなハリベルの声。

だがフェルナンドはそれすらもあっさりと吹き飛ばした。

 

 

「ハッ! 何だよハリベルその顔は。 別に俺は落ち込んでなんかいねぇよ…… (コイツ)を巧い事使ってやれないのは悔しいが、別に刀だけが(・・・・)戦いの手段、って訳でもないだろうが。それに…… 俺にはまだ“コイツ”が残ってる」

 

 

どこか沈んだ様子のハリベルの顔を見たフェルナンドは、ガシガシと頭を掻きながらおそらくハリベルが考えているであろう事を否定した。

本当にフェルナンドは落ち込んでいる訳ではなかったのだ。

彼の中でグリムジョーに対する畏れについてはとっくに整理がついていた。

それは何も難しく考える必要など無い事だと、力が届かない、力が示せないのならば強くなればいいのだと。

貪欲に力を求め、業を磨き、その上でグリムジョーの前に立ち刻み付ければいいだけの話なのだと。

悩みなどというものは意外と簡単に晴れてしまうもの、そして晴れてしまえば後は進むだけの事なのだ。

 

ハリベルにフェルナンドがどこか沈んでいるように見えた訳は、彼が言ったとおり『刀を巧く使ってやる事が出来なかった』という事が理由。

刀の柄に手を置くようにして、そう語ったフェルナンド。

己の分身たるこの刀には何一つの非は無い、それを扱いその刀剣としての力を十二分に発揮してやる事が出来ない自分、それが悔しいと、使いこなしてやる事が出来ない自分の非才が悔やまれると、フェルナンドはそう言ったのだ。

 

その吹っ切れた態度、そして己の非才を嘆かないフェルナンドの態度に驚くハリベル。

そうして驚いているハリベルへと向けられたモノ。

刀だけが戦いの手段ではないと、そして何より自分にはコレがあるとハリベルに示すように、強く握られたそれがハリベルに向けられる。

それはフェルナンドが破面化してから積み上げてきたものが宿るモノ、何十体もの破面を打ち倒してて来た彼の武器。

 

ハリベルに向けられたそれは“拳”

 

何千何万と振り貫き鍛え上げたそれ、未だ道半ばであるそれ、しかしフェルナンドという破面を語る上で既に重要な因子と成りつつあるそれ。

数々の数字持ちを打ち倒し、あのグリムジョーにすら届いたその拳は確かに“煌き”を放っていた。

 

たしかに“刀を極める”という才能はフェルナンドには無いのかもしれない。

しかし、それを補って有り余る才能が、“無手を極める”という才能がフェルナンドにはあるのだ。

フェルナンド自身どこかでそれを自覚している。

己の積み上げてきたものの宿る拳はそれだけで信頼に足る彼だけの武器、それがある故にフェルナンドは自身の刀の才の無さに嘆く事はなかったのだ。

 

 

(杞憂だったか、まったく…… お前には驚かされてばかりだ、フェルナンド。確かにお前の(ソレ)は、煌きに満ちているよ…… )

 

 

自信に溢れ、拳を突き出すフェルナンドの姿にハリベルは自身の不安が杞憂だった事を悟り、安堵した。

フェルナンドが畏れていることは、グリムジョーに自身を認めさせることが出来ず、落胆させてしまったのではないかという畏れ。

ソレを克服するには強くなるしかない、そうする事でしかその畏れを断ち切る術はないのだ。

ハリベルが言わずともフェルナンドはソレを理解していた。

そして自ら強くなる為の道を見つけ出していたのだ。

 

「……なんだ? 変な顔しやがって…… まぁいい、仕切り直しだ。こっからが本番だぜ? 」

 

「いいだろう。 私もお前の業がどれほどのものか興味があった。来い、フェルナンド 」

 

 

沈んだかと思えば直ぐに和らいだハリベルの表情に逆にフェルナンドの方が怪訝な表情になる。

観察眼とでも言えばいいのか、ハリベルの目元と雰囲気のみで彼女の感情を大まかに読み取るフェルナンド。

そして刀を納めた状態で戦いを再開しようというフェルナンドに、ハリベルはそれを受けて立った。

元々彼女もフェルナンドの業に興味があったのだ。

上空、第3者の視点から見ていてもフェルナンドの業は奇抜なものだった。

機先を制するという点では抜きん出ているそれ、第3者の視点だからこそ理解できた部分もありそれがもし当事者として、いや業を受ける側としてその場に立っていたならば、自分はどれほど対応できるのかハリベルはそれが知りたくなってしまったのだ。

 

 

「ハッ! じゃぁ遠慮なくいくぜぇぇえぇぇッ!なんだ!?」

 

 

間合いを詰め、今まさに飛び掛らんとしたフェルナンドを驚きが襲う。

腰に挿した彼の斬魄刀、それが突然光を放ったのだ。

フェルナンドの霊圧度同じ紅い光、斬魄刀を包み込むようなその光が収まるとそこには形が変化した(・・・・・・)彼の斬魄刀が在った。

今までごく一般的な刀の形をしていたフェルナンドの斬魄刀、しかし紅い光に包まれ再び彼の眼に入ったそれは刀と呼ぶには少々形が違いすぎていた。

前と同じなのは白い鞘と紅い柄の拵えのみ、その長さは刀というよりは脇差に近くなり、鍔は無く柄尻に紐が通る程の穴が開いていた。

刀身の幅も広くなり刀というよりは、どちらかといえば鉈に近い形状へと変化したフェルナンドの斬魄刀。

刀よりも総じて小型になったフェルナンドの斬魄刀に突然に現れたその変化、それをハリベルは冷静に説明する。

 

 

「フェルナンド、その斬魄刀の変化は珍しいものではない。死神のそれとは違い我々破面の斬魄刀の形状は画一的なモノではないのだ。その持ち主の最も得意とする戦闘の型、元あった力の象徴などその形は千差万別、お前の斬魄刀の変化、お前ならばその意図がわかるはずだろう」

 

 

破面の斬魄刀は、必ずしも刀としての形を保っている訳ではない。

ハリベルの持つ斬魄刀でさえ、非常に幅広で、更にその中心部は空洞になっている。

破面の刀は刀剣という分類に収まらないものも多々あるのだ、それは破面ごとの戦闘方法、破面化前の力の象徴や精神の具現化などによる斬魄刀の変化が原因としてあった。

それが今フェルナンドの斬魄刀に起こった現象、その変化が意味するもの、フェルナンドはいち早くそれを理解するとニィと嗤う。

 

 

「流石に俺の分身だ、良く分かってる…… コレなら動き回っても邪魔にならねぇ(・・・・・・・)

 

 

そう言うとフェルナンドは腰の横に挿してあった刀をそのまま腰の後ろへと移し、その柄尻を軽く叩く。

拳、そして脚、武器を持たず無手による戦闘を選択したフェルナンドにとって、嵩張り動きを阻害する恐れのある刀は邪魔にしかならなかった。

その点、今の斬魄刀の形状は刀と比べ小型である事から、無手による戦闘に対する支障は軽減されたと言っていいだろう。

フェルナンドに合わせた斬魄刀の変化、彼にとってそれは利に働いていた。

 

 

「さて、(コイツ)もいい具合になった所ではじめるか?ハリベル 」

 

「私の準備は既に出来ている。 いつでも掛かって来るがいい」

 

「ハッ! 上等ォォォオオ!! 」

 

 

気勢を上げ、フェルナンドがハリベルの下へと駆ける。

両の拳を握り締め、その“才の煌き”を握り締め、それを見せ付けんとハリベルに迫る。

そして待ち構えるハリベルもまた、フェルナンドの才の煌きがどれ程のものか、その身をもって確かめんとしていた。

 

 

 

 

 

「なぁ!」

 

「「……」」

 

「なぁって言ってんだろ! 」

 

「「うるさい! 」ですわ! 」

 

 

興奮した様子で声を上げるのはアパッチをミラ・ローズとスンスンが同時に黙らせる。

その様子は先程の無言でいた時と違い、アパッチ同様どこか興奮しているようだった。

 

アパッチら三人は先程の体勢のまま動かず、というより動けずにフェルナンドとハリベルの戦いを見続けていた。

先程フェルナンドの太刀筋等から彼の強さに疑問を持ったアパッチの問に、ミラ・ローズとスンスンは答えなかった。

それは判断に困ったが故の無言、その刀捌き、太刀筋、間合い、どれをとってもフェルナンドに強者たる資質を彼女達二人は見つけられなかった。

だが、彼女達が判断に踏み切れなかった理由、それは他ならぬハリベルの存在。

主であるハリベルがその手で鍛えると言った者が本当にこの程度なのか、その思いが彼女達二人に判断を留まらせていた。

それはアパッチも同じ事で、自分では判断のつかない事に二人の意見を聞いてみようとしたが返って来たのは無言、結果判断は保留という形で戦いの行方を傍観する事となっていた。

 

その意思の保留状態が急激に変化したのは先程。

フェルナンドがその刀を鞘に納め、更にその刀が変化した頃からだった。

三人はフェルナンドが刀を納めた時点で彼が戦う事を諦めたと考えていた。

“非才”そのあまりにどうしようもない事実が、彼に戦いを続ける事を諦めさせたのだ、と。

 

しかし現実は違っていた。

刀を納めながらも三人に伝わってくるフェルナンドの闘志に、些かの揺らぎも無かったのだ。

訝しむ様にフェルナンドを見る三人、そしてその三人の眼に映るのは拳を突き出したフェルナンドの姿だった。

それは如何なる事か、三人にはフェルナンドがハリベルに対して拳で挑むと宣言しているように見えた。

だがそれは余りに愚かな事、実力の遥か上、そしてその手に刀を握る彼女たちの主ハリベルに対して、格下であるフェルナンドが無手で挑むそれを愚かと呼ばずしてなんと言おうか。

だが彼女達が愚行と称するそれは、紅き光の発現により現実のものとなった。

光に包まれたフェルナンドの斬魄刀、そしてその刀を挿し直すとフェルナンドはハリベル目掛け一直線に駆け出したのだ。

 

 

そして今、彼女たちの目の前で繰り広げられる戦い。

それは彼女達三人の予想を覆す光景だった。

その手に持った刀を振るうハリベル、その太刀筋は一言で言えば“流麗”、流れる水の如きその切っ先は止まる事無く、舞うが如き刀捌きで迫るフェルナンドを迎え撃つ。

対するフェルナンドは無手、迫り来るハリベルの刀をまさに紙一重で避わし隙あらば懐に飛び込み拳を、蹴りを繰り出す様はまさに“猛火”。

相容れぬ性質が産み出す二人の激しい戦い、そして際立つのはフェルナンドの存在だった。

 

刀を持っていた時とはまるで別人、武器を手放して強くなるという理不尽(・・・・・・・・・・・・・・・・・)が彼女達の目の前で戦っていた。

振るわれる拳は未だどこか無骨さを残してはいるが、明らかに生きた拳、刀の非才とは比べ物にならない才能、それが宿る拳。

主たるハリベルに無手で挑み尚対等に戦っている、振り下ろされる刀にその身を曝しながらも一歩も引かない姿勢、それは明らかな“強さの証明”、一瞬たりとも目を離せないその戦い、どこか興奮した様子でその戦いを見る3人の中ではすでにフェルナンドという破面は“強者である”という評価が下されていた。

 

 

「うぉっしゃぁぁあああ!!」

 

 

食い入るように戦いを見ていた三人のうち、アパッチが突然大声を上げる。

仰向けだった体を勢い良く跳ね上げ、白い石材の上に立ち上がると両手をあげて気合の叫びを上げた。

そしてその眼は大きく開かれ、爛々と輝いていた。

 

 

「ど、どうしたのさ、アパッチ!? 」

 

「かわいそうに…… 遂におかしくなってしまったのね…… 」

 

 

いきなりの事に驚くミラ・ローズと、アパッチがおかしくなってしまったとワザとらしく涙を拭うフリをしながら語るスンスン。

そんな二人にアパッチは興奮冷めやらぬといった風で捲くし立てる。

 

「うるせぇよ スンスン! 決まってんだろ、アイツと戦いに行くのさ!アイツ強ぇよ! アイツと戦えばきっとあたしももっと強くなれる!強くなるには強いヤツと戦り合うのが一番だろ?だからアイツと戦うのさ! あんた達はそこであたしが強くなるのをボケッと見てな!」

 

 

そう言って戦う二人の方へと駆け出すアパッチ。

それを後ろから見ていたミラ・ローズとスンスンだが、抜け駆けはさせないと慌ててその後を追っていった。

 

フェルナンドとハリベル、二人の戦いはアパッチら三人が乱入する形で幕を閉じた。

いきなり戦いに乱入してきた三人を怪訝に見つめるフェルナンドと、それを叱るハリベル。

叱られて尚フェルナンドと戦いたいという三人、それを困り顔で見つめるハリベルとあっさりそれを了承するフェルナンド。

では誰からはじめるかと決めようとすれば、我が我がと例の如く三人が揉め始めそれを見ていたハリベルが、仕置きが足りなかったかと特訓の追加を決め項垂れる三人。

面倒だからまとめて掛かって来いと三人に言うフェルナンドと、その言葉に意気を増した三人の戦いが始まる。

 

行っているのは手加減無しの戦い、互いが全力でぶつかり合いその強さに磨きをかける。

 

男一人と女四人、戦う事で互いを認め合う、そんな第3宮の日常がそこの日からはじまっていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

暴虐の嵐

 

理由等無く

 

答え等無く

 

ただ理不尽に

 

蹂躙す

 

 

 

 

 

 

 

 


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