BLEACH El fuego no se apaga.   作:更夜

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BLEACH El fuego no se apaga.2

 

 

 

 

辺りを照らす明かり、力強く佇むかの様なそれは炎だった。

 

 

それは炎の柱とでも言えばいいのか、太い炎が轟々と燃え盛り砂漠から10m程の高さでま聳え立っている。

明らかな異常、異質な光景にもハリベルは決して動揺しなかった。

白い砂と黒い空、それ以外無い虚圏でこの燃え盛る紅い柱は色彩と言う概念を失ったかのような世界に彩りを取り戻そうとしているかのようで、しかしそれ故に世界には受け入れられない、異質な存在。

 

ハリベルは炎の柱を確認すると上空からゆっくりと、しかし油断無く降下し柱の中ほどの高さで止まる。

尚も轟々と燃え盛る炎を見据えるハリベル。

するとその炎の柱の中からハリベルの前に、ゆっくりと白い仮面が浮かび上がる。

それは人間の頭蓋骨というよりむしろ草食動物のものを模したように縦長で、下顎骨の無い馬や牛の頭蓋骨に近い形の仮面だった。

仮面は炎の表面まで浮かび上がると、ハリベルを見据えながら声を発する。

 

 

「何だ…… また客か? 最近は忙しくていけねぇな…… まぁ、暇にならないと思えば儲けもんなのかねぇ」

 

 

仮面はハリベルの姿を確認すると、そう言ってクククッと少し笑う。

その態度はハリベルに対してこの炎の柱が、まったく脅威を抱いていないということをハリベル自身に認識させるには十分なものだった。

 

 

「貴様は虚か?」

 

 

自分をまるで見下したかの様な態度を前に、それでもハリベルは任務を優先した。

あくまで冷静に、何事にも心を揺らさずに居る事がハリベルのスタンスであり、その自制心がこの無礼な虚を一刀の下に沈めるという選択をとどまらせているのだろう。

だが相手はそんな彼女の自制心など露ほど気にかけはしない。

 

 

「何だよ、この仮面見えてんだろ? だったら虚以外あり得ないだろうが」

 

 

何を当たり前のことを、といった風に炎の柱は語る。

明らかにハリベルを馬鹿にし挑発する様な態度で語られる言葉はなおも続く。

 

 

「それともアンタはこの虚圏で虚以外の奴に合った事があんのか?それともこの形が気になるかよ? そんなもんは瑣末なことだろ?肉が見えなきゃ虚じゃぁないとでも? ハッ!それなら随分と狭い了見だな。 そんなんじゃぁ直ぐに死んじまうぜ?」

 

 

ハリベルの眉が僅かに動く、ハリベルとて相手が虚だということは判っている。

その奇妙な炎に覆われているのであろう姿に疑問を覚えはしたが、そんなことは確かに瑣末なことだ。

任務ゆえの確認事項、ハリベルはそれを行ったまで。

しかし、それをああも自分を馬鹿にしたように返されては如何なハリベルといえど多少の怒りを感じざるをえなかった。

 

 

「・・・・・・では貴様は最上大虚か?それとも中級大虚か? 答えろ 」

 

 

言葉と共に威圧もかねた霊圧がハリベルから放たれる。

威圧目的とはいえそれはただの虚ならばそれだけで魂を押しつぶされ、絶命するほどの霊圧だった。

だがそんな彼女の霊圧の中それを一身に受けながらも炎の柱は一切臆する様子はなく、それどころかその霊圧が涼風だといわんばかりにその炎も揺らぐ事無く轟々と燃え続けている。

 

 

「ハッ! 最近来る奴らはそればっかりだな…… 知らねぇよそんなもん。 最下級じゃ無ぇってのだけは確かだろうが、俺が最上だと言えばアンタはそれを信じるのか?」

 

 

そんなハリベルの問を鼻で笑いながらそう言い放つ炎の大虚、少なくとも最下級ではないと語るその大虚は言葉の意義をハリベルに問う。

相手が語る言葉をお前は全て信じるのかと、信のない相手の言葉をお前は鵜呑みに出来るのかと。

答えは往々にして否だろう。

それはこの世界に限らずあまりにも幼く無垢な考えであり、何よりもあまりに愚かな行為なのだから。

 

 

「そもそも中級だ最上だって階級に意味があんのかよ。誰かが決めた階級で自分が上だ下だと騒ぐなんてのは小物のすることだ。喰いたい時に喰って殺したい時に殺す、所詮化け物の俺達に階級なんか必要ねぇだろ?俺達虚の中で上か下かが判る時があるとすれば、それは“相手を殺したとき”か“テメェが殺された時”だけだろうが、馬鹿が」

 

 

ハリベルの問いに炎の大虚は階級で力を推し量る事の無意味さを語った。

位階の上下、それだけで相手の力を量る事がどれだけ無意味で愚かな事かを、化物である自分達にそんなものは必要なく、その中でもし本当に上か下かが判るときがあるとすれば、それは殺し合いの末にこそ明確になると。

 

その答え、正確にはその答えの最後の一言にハリベルの怒気が一段階あがる。

侮り見下したような態度に極めつけは馬鹿呼ばわり、礼節を重んじる気質の彼女にとって許し難いものがそこにはあり、しかしハリベルはその驚異的な自制心で自身の怒りを押さえ込む。

彼女の使命は“最上大虚を探し出す”こと、その可能性があるこの大虚は彼らの居城たる『虚夜宮(ラス・ノーチェス)』へと連れ帰らなければならないのだ。

 

そして彼女にはもう一つ、確認しなければならないことがあった。

 

 

「では最後の質問だ・・・・・・我等が同朋達をどうした?」

 

 

そう、元々この任務についていた破面の消息を、彼女は確認しなければならない。

そして目の前の大虚はそれを確実に知っている。

 

「なんだぁ? アンタのお仲間なんぞ俺の知ったことじゃ無ぇし、俺には関係も無ぇよ。そもそもなんで俺に聞く? 逃げ出しただけなんじゃねェのかよ」

 

「貴様は私を見て”また”と言った。それは少なくとも一度は私のような者が此処に来た、という事だ。そして最近来る”奴ら”が同じ質問をするとも言った、それは訪問者が複数だったということだ。ただの虚が何体もそんなことを聞きに来ることなどあり得るとは思えない…… 指令を帯びた我等が同朋以外はな。」

 

 

ハリベルの思考の冷えた部分は、この大虚の無礼な発言の中からしっかりと事実を導いていた。

そしてそこから確信を持って答えたのだ。

この大虚が同朋達の行方を知る鍵であると、もっともその結末もハリベルは凡そ予想はついていたが。

 

「ハッ! 怒らせてこっちのペースに乗せようとも思ったが存外冷えてやがる…… 面倒くせぇヤツだぜ。 ……確かにアンタのお仲間は俺の所に来たぜ?アンタにしたのと同じ様に答えてやれば全員直ぐに斬りかかって来やがる。丁度退屈してたもんだからよぉ、少しばかり遊んでやったのさ」

 

 

またハリベルの問を鼻で笑いながら嘘をあっさりと認める大虚、そして“やはり”かとハリベルは納得する。

ここに来る途中『探査回路(ペスキス)』と呼ばれる霊圧による探査をかけたが、他の破面の霊圧は探知できなかった。

そしてこの大虚の発言をみるかぎり、遊んだとはほぼ殺したと同義であろう事もハリベルは悟った。

ただの大虚が最下級とはいえ破面と対峙し、それを“遊んだ”と呼べるほどの戦力差で殺害する、それも複数回にわたって。

 

それだけでこの大虚がどれだけ強力な力を秘めているかの証明となるだろう。

そして先ほどからの会話で、言葉による説得はこの大虚には無意味であろう事もハリベルは察していた。

だが、どうしたものかと悩むハリベルを他所に大虚は更に言葉を続ける。

 

 

「だいたい退屈凌ぎの為に遊んでやったヤツのことなんか一々覚えてる訳無ぇだろ。 “退屈凌ぎの玩具”なんてもんは“動かなくなったら用済み”だろうが、そうなればもう俺には関係ねぇのさ。だから俺は言ったぜ?アンタのお仲間なんぞ俺の“知ったことじゃ無ぇ”ってなぁ!」

 

 

瞬間、ハリベルの目が鋭さを増す。

あの大虚は何を言ったとハリベルは自問した。

玩具と、動かなくなったら用済みと、そう目の前の大虚は言った。

それはハリベルにとって許されざる言葉だった、たとえ出来そこないとはいえ名も知らぬ同胞の破面達は、この大虚にとって明確な敵ではなく唯の“暇を潰すための玩具”であったと、それは戦闘ではなく“唯の遊戯”であったと目の前の大虚は言い切ったのだ。

自ら斬りかかったとはいえ彼らは戦士として戦うことは出来なかったのだ、彼らに待っていたのは予想外の結末、予期せぬ一方的な蹂躙だったのだろう、何故なら。

 

玩具相手に、戦う者などいないからだ。

 

暇つぶしの相手とされて死ぬ、それを彼らが弱いせいだと誰が言えるものか。

戦士として戦いの中で死ぬことは叶わず、その死に誇りは無く、唯惨めに屍を晒しただけ。

それはハリベルの戦士としての矜持が許さなかった。

いや、許してはならなかった。

 

 

「そうか…… では最後に一度だけ聞こう。 私と共に我が主の下へ来る気はあるか?そうすればお前には今以上の力を得る機会を与えよう」

 

 

「ハッ! お断りだね。 どうしても連れて行きてぇってんなら態々そんなこと聞かないで力ずくでそうしろよ。言ったろ? 言葉も! 階級も! そんなもんは意味は無ぇ!今この時この瞬間で最も意味があるものは”力”以外に存在しない! アンタの力を見せろよ! 俺の退屈を癒してくれよ! 今までの奴らは歯応えも無く直ぐ壊れちまいやがった…… だがアンタは違う! その程度の霊圧が最大じゃ無ぇんだろ?見せてみろよ! アンタの力をヨォォ!!」

 

 

その叫びと同時に今まで柱のように真っ直ぐに聳えていた炎が歪み、霊圧の爆発と共に四方へと広がるとたちまち辺りは業火に包まれた。

天を焦がさんばかりの勢いで燃え盛る炎、そして発せられる熱は、息をすれば気道が焼け中から燃え尽きるかのような灼熱。

その炎を眼下にハリベルは、少し俯いたまま背に担いだ刀の鍔にある穴に指を掛ける。

そして勢い良く引き抜かれた刀はその勢いのまま一回転し、ハリベルの右手がその柄を掴んだ。

彼女の手に握られたのは奇妙な形の刀。

非常に幅の広い刀身でありながらその刀身の真ん中の部分が空洞となっている奇形の刀。

 

ハリベルはその右手で奇妙な刀を握り、空いた左手でゆっくりとその上着のジッパーを上げる。

肌蹴る白い上着、その下から現れたのは顔の下半分を隠す牙の意匠を感じさせる仮面、それが首から胸の上部を覆い隠すように存在していた。

顕になった右の乳房の内側には『 4 』の刻印。

そしてゆっくりと顔を上げるハリベルの目は、明確な敵を見るそれとなっていた。

 

 

「忠告はした…… 言葉での説得は無理だと判断し、以降は力で捻じ伏せ捕縛して虚夜宮まで連れて行く。名も知らぬ大虚よ、貴様が退屈凌ぎと…… 玩具だと言った者の本当の力を、思い知るがいい」

 

 

次の瞬間黄金色の柱が天を衝いた。

ハリベルから発せられた黄金色の霊圧が、まるで空間そのものを震わせるかのように広がり大気は耐え切れずに悲鳴を上げる。

格が違う、炎の大虚に今まで彼が屠ってきた者達とは違うと、そう認識させるのに充分すぎるその霊圧。

だがしかし、それを見た炎の大虚は臆するどころか歓喜していた。

 

 

「ククククッ、ハッハハハハハ!! その霊圧、最高だぜ女ァ!名は何だ! 最高に気分がいい! きっとこれから始まるのは最高の暇つぶしだ!だから覚えておいてやる、女ァ名前を教えろ!」

 

 

ハリベルの放つ霊圧に臆する事無くそれどころか歓喜している、その姿を見てハリベルは思う。

この大虚にとって戦いとは本当に唯の退屈凌ぎなのだろうかと。

この大虚が行き着く先、それは惨めな死でしかないのではなかろうかと、理性を持ちながら獣のように生き、力を持ちながらそれを暴としてしか振えず、戦士としての矜持も知らず、戦いに誇りすら持ない。

ただ殺し合い、負けて無為の死を遂げる、余りにも無為な死を。

 

 

「破面『No.4』 第4十刃(クアトロ・エスパーダ) ティア・ハリベル…… 私も貴様の名を覚えてやろう、名は何という?炎の大虚よ 」

 

「ハッ! 俺の名はフェルナンド…… フェルナンド・アルディエンデ! アンタを殺す男の名だ…… 刻んだか? 俺は刻んだ! アンタの名を俺自身に!さァ始めようぜティア・ハリベル、楽しい殺し合いの…… 始まりだァァアァァァ!!!」

 

 

炎は津波となってハリベルに襲い掛かる、それを迎え撃つべくハリベルも駆ける。

そして、戦いの幕は切って落とされた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

紅い津波

 

黄金の閃光

 

波が踊り、黄金が舞う

 

見守るものは誰も無し

 

ただ月だけが

 

その行方を知る

 

 

 

 

 


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