BLEACH El fuego no se apaga.   作:更夜

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俺は妬まない。

 

俺は喰らわない。

 

俺は奪わない。

 

俺は(おご)らない。

 

俺は(あなどら)らない。

 

俺は怒らない。

 

そして俺は

 

 

何一つ欲する事はない。

 

 

 

 

 

 

 

 

腕を振るえば、目の前の(ゴミ)は消える。

 

それは何の事はない作業だ、何一つ考える必要など無い。

何故歯向かうのか、何故命乞いをするのか、俺にはその理由が理解出来ない。

 

俺は塵に何も求めていない。

それは当然の事だ。

塵と語らうなどという事は在り得ない、そもそも塵の言葉を聞き取る術を俺は持たない。

目の前で叫ぶ塵、俺の耳に届くそれはただの雑音。

大音量のそれは俺をただ煩わせるだけだ。

 

だから俺は腕を振るう。

振るえば音は端から消えていく。

指先に温いものが残るが、気にはならない。

何故ならそれは放っておけば、直に冷めてしまうからだ。

 

そして俺は湧き出た塵共を払い終え、虚夜宮(ラス・ノーチェス)へと戻るだけだ。

 

 

 

 

 

「コロニーの殲滅、規模は大きかったが良くやってくれたね……ウルキオラ」

 

「いえ、お言葉を頂く程の事ではありません 」

 

 

俺達の主である藍染様から送られる言葉、それに小さく頭を下げる。

だが、そもそも俺はお言葉を頂く様な事等何一つしていない。

命ぜられたとおり藍染様に反旗を見せたコロニーの一つを消した、俺がしたのはそれだけだ。

特に時間を割いたわけでも、また時間をかけたわけでもない。

俺がしたのは沸いて出た塵共を端から消すという作業のみ、塵を払うのに時がかかるはずもなく、終了したそれを誇るほどの事でもない。

 

瑣末だ、何もかもが。

 

 

「そうだね。 君の相手をするには、彼等は些か脆弱過ぎたかな?」

 

「お言葉ながら、塵に強弱は存在しません 」

 

 

藍染様のお言葉を否定するのは意に反するが、それも仕方がない事。

脆弱、藍染様があの塵共をそう表現されたのは判る。

だがあれは脆弱という言葉すら当て嵌まらないほど脆かった。

しかし“脆弱”という表現が存在するのならば、逆に“強靭”な塵も存在するという事になる。

 

それは在り得ない。

塵として生を受け、塵として生き、塵の中で生きるアレ等は塵にしかなれず、塵とは取るに足らない存在。

その中に俺達に通用する“強靭さ”などあるはずが無い。

 

故にアレ等は、諸共に取るに足らない存在なのだ。

 

 

「成る程…… 君にとって彼等の中の優劣など参考に値しない、ということか」

 

「ハイ、その通りです。 考える意味がありません」

 

 

明確な解。

アレ等の強弱を論ずる事自体に意味がない。

アレ等塵共の強弱は、アレ等の中でのみ通用する稚拙な関係性だ。

この世全てに通じる“強さ”の基準がアレ等には欠落している。

どちらが強いか、どちらが上か、声高に喧伝しそしてそんなものに拘るアレ等はその時点で塵だ。

塵共の自尊心、塵共の虚栄心、その何もかもが俺の目には愚かに映る。

いや、愚かという言葉すら温い、愚かというよりも思考にはさむ事も無いそれ。

俺にとって、塵共は理解の外の存在なのだ。

 

 

「では彼はどうだい? フェルナンド・アルディエンデ…… 彼は君の眼に彼はどう映ったかな? 」

 

「…………」

 

 

フェルナンド・アルディエンデとはあの破面の事だろうか?

第2十刃 ネロ・マリグノ・クリーメンと意味も無く戦い、しかし一瞬だが打ち倒したあの破面だろうか?

別に俺にとって奴はどうという事は無い存在だ。

そもそもその出来事自体が俺にとって瑣末でしかない、それに関わる人物などやはり俺にとっては瑣末なものなのだから。

瑣末の極みだ。

 

奴が生きようが死のうが俺に興味は無い。

たかが破面一匹死んだところで、それが俺に何の関係があると言うのか。

在りはしない。

俺はただ藍染様の命を忠実に実現するだけだ。

それ以外に必要な事などない。

 

だが

 

 

「藍染様。 ……一つ御訊きしても宜しいでしょうか」

 

 

何故か俺の口は勝手に動いていた。

 

 

「おや? めずらしいね、君が疑問を持つというのは…… 何が訊きたいんだい? ウルキオラ」

 

 

何故か藍染様は常よりの笑みを深くしていらっしゃられた。

俺がなにかに疑問を持った、ということが興味深かったのだろうか。

だが、そんなものは今俺が一番思っていることだ。

俺は一体どうしたのだろうか、口が、喉が、勝手に動き音を発する。

理性で止めようとするがもう遅い、それは外界へと放たれ意味を持ってしまった。

 

 

 

「……『心』 とは、なんですか?」

 

 

 

放たれたそれに藍染様は驚いている様子だった。

今まで見たこともないような表情、それほど俺が放った言葉は意外だったのだろうか。

それは放った本人である俺とて同じだった。

何故こんな事を訊いているのか、何故それを知ろうと思ったのか、それの方が俺には疑問だった。

 

 

「……『心』か…… 何故それを知ろうと…… 知りたいと思ったんだい?」

 

 

藍染様は少し考え込むと、俺にそう尋ねてこられた。

そんな事は俺が知りたかったが、藍染様に訊かれたからには答えねばならない。

俺が何故そんなものに興味を示したのか、そう考えると浮かんだのは瑣末な者であるはずのあの破面の叫びだった。

 

 

「あの破面…… 第2十刃と一瞬同等の力を出したあの破面、本来その全てにおいて劣っているはずのあの破面が引き出した力。霊圧でもなく、能力でもなく、内側から引き出したようなあの力…… 理論的な手段ではない力の発露、それを可能にする存在が『心』である、という超常の知識がある事を俺は知っています」

 

 

口を突いて出た言葉はすらすらと、まるでそう語ると決めていたかのように紡がれていく。

自分でもわからないが、どうやら俺は狂ったようだ。

意味の無い疑問、意味の無い問、そんな不要なものを求める。

我ながら理解できない。

 

藍染様はただ黙って俺の言葉を促す。

俺は狂った発言を尚も続けるしかない。

 

 

「胸を裂いても視えず、頭蓋を砕こうとも視えず、だが存在すると…… 少なくとも人間はそう信じている、という知識を俺は持っています。何故そんなものを信じるのか、何故そんな曖昧なものが存在できるのか、俺には理解出来ません」

 

「故に知りたい、と…… そういう事かい?ウルキオラ 」

 

「ハイ……」

 

 

藍染様が俺の言葉の最後を受ける形で、説明は終わった。

理解出来ない存在。

本来理解する必要がないのならば、そのまま捨て置けばいい。

少なくとも今までの俺ならそうしていただろう。

だが、何故かこれだけは捨て置く事が出来かったのか、疑問は理性と関係なく放たれてしまった。

それもこれもあの破面のせいなのか。

だとしたら余計な事をしてくれたものだ。

 

おかげで俺は狂い、壊れたのだから。

 

 

「……すまないね、ウルキオラ。 残念だが私はその“解”を持ち合わせていない。何故なら私にとっても『心』等という都合のいい存在は、“理解の外”でしかないからね。……しいて言うならばそれは“幻想”だよ。理性を感情という揺れで表現した紛い物、人はそれを『心』と言うのだろうね」

 

 

藍染様の答えは、俺の“解”とはなりえなかった。

だがそれも当然、如何に藍染様が全能とて存在し無いものを理解する事は出来ない。

人間は容易くそれを口にし、安直に存在を信じるがそんなものは本当は存在しないのだろう。

所詮は人間の信じるもの、それを理解しようというのが間違っていたのだ。

 

 

「いえ、『心』というものが存在しない、という事が判っただけで問題ありません。お時間をとらせました 」

 

 

これ以上藍染様にお時間をとらせるわけにもいかない。

この場は一礼し、下がる事を選択する。

背を向け、大扉の前まで来ると藍染様は何故か俺に声をかけられた。

 

 

「そうだ、ウルキオラ。 『心』が存在しないというのなら、君はフェルナンドのあの力は一体何処から来たと思う?」

 

 

背中にかけられたその言葉。

確かに心が存在しなんと言うのならば、あの破面の力の出所は別のものとなる。

それは一体なにか、藍染様は俺にそれを訊いているのか。

それとも俺の矛盾をつくことで疑問を残そうとしているのか、だがそれはもう俺の中で決着がついている。

 

 

「あの破面の力、それが何処から来たかは判りませんが、それが何処からだとしても俺には関係ありません。 ……塵に強弱は、存在しないのですから…… 」

 

 

それだけ言い残すと俺は部屋を後にする。

 

そうだ、関係ない。

それが『心』だろうが別のなにかだろうが、俺の前に立ちはだかる事はありえない。

所詮は塵、払わずとも放っておけば地に堕ちる。

 

それでも俺の前に現れるというのなら腕を一振り、それで全ては終わるのだから……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

俺は妬まない。

 

俺は喰らわない。

 

俺は奪わない。

 

俺は(おご)らない。

 

俺は(あなどら)らない。

 

俺は怒らない。

 

そして俺は

 

 

何一つ欲する事はない。

 

 

視ろ。

 

世界に意味を求めたとて。

 

所詮無意味を悟るだけ。

 

だから俺は欲さない。

 

 

 

欲する事さえ無意味と知るから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


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