BLEACH El fuego no se apaga.   作:更夜

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BLEACH El fuego no se apaga.4

 

 

 

 

聳える炎の壁はその中腹から真っ二つに引き裂かれた。

巨大な壁を割ったのは外側からの力ではなく内側からの力、しかし内側から破裂するように裂けた炎の壁はその内側に生命に存在を許さぬはずの業火の壁。

触れる全てを消し炭へと変え、ましてその内にあるものなど有象無象の区別など無く、塵一つ残さずこの世から消滅させる獄炎であった筈。

だがその壁を真っ二つに引き裂いた張本人、ティア・ハリベルは悠然とその場に立っていた。

その服に多少の焦げ痕は見えるものの、その身体は五体満足であり炎によって与えられた火傷などは皆無。

まるで燃え盛る業火など意に介さないとでも言いたげに佇む彼女。

 

フェルナンドにとってそれは異常な事態だった。

今まで、今この瞬間までこんな事は起こったことは無かった。

彼の炎に呑まれて生きている者など居なかった、彼の炎に触れて無傷の者など居はしなかったのだ。

何より彼を驚かせていたのは、ハリベルの放った光によって彼の”炎が消し飛ばされている”という事実。

今までただの一度も経験した事のない事態にフェルナンドは混乱していた。

 

 

「アンタ…… 一体何しやがった……」

 

 

自分自身が混乱の中に居るであろうフェルナンドは、その中にあっても存外冷静な自分に驚いていた。

何故生きているのか、何故無傷なのか、どうやって脱出したのか疑問は尽きなかったがフェルナンドにとって最も理解できない現象である”炎の消滅”という事態。

フェルナンドの炎は唯燃えているだけの純然たる炎ではない。

彼の炎は彼の放つ霊圧そのものとも言える存在であり、それ故に全てをフェルナンドの思いのままに操ることが出来る。

霊圧は斬れるものではなく、斬られたからといって消えて無くなる訳でもない。

フェルナンドにとって彼の霊圧と炎は同義なのだ、それがハリベルの放った光によって消滅しているという現実、今までに無い現象にフェルナンドは冷静にならざるを得なかったのだろう。

 

此処で愚かにも思考を放棄し、敵へと襲い掛かることは死へと繋がる愚行だと彼は理解していた。

 

 

「その質問は何に対してだ? 私が生きていることか?どうやって生き延びたかということか?それとも…… 貴様の炎が消えてなくなってしまった事に対してか?」

 

「ッ!」

 

 

まるで自分の思考を見透かしたかの様なハリベルの言葉に思わず息を飲むフェルナンド。

未だ自らが裂いた壁から動かずにフェルナンドの仮面が浮かぶ高く隆起した炎に正対しているハリベルの返答は、そのどれもがフェルナンドが求めるものであった。

だがそんな事よりもフェルナンドが感じた一番大きな変化は、彼女の霊圧が強大になった事や炎を破られた事以上に今の彼女からは先ほどまでフェルナンドが感じていた自身に対する侮りが一切なくなっていたことだった。

 

「私が無傷だったのは単純な話だ。 貴様の炎の殺傷能力以上に自分に纏わせる霊圧を上げただけの話、多少服は焦げてしまったが問題ない。そして私が貴様の炎から抜け出せた理由と貴様の炎が消し飛んだ原因は…… コレだ 」

 

 

そう言うとハリベルは刀の切先をフェルナンドの仮面へと向ける。

次の瞬間、刀の切先へと急激にハリベルの霊圧が収束し、拳大の球体を形成した。

膨大な霊圧の収束、それを見てフェルナンドはハリベルが何をしたのか、そしてこれから何をしようとしているのかを理解する。

それは大虚以上の虚に許された一撃、膨大な霊圧を持つからこそ行える技、放たれるそれは生命を刈り取る事だけを目的とした死を招く閃光。

 

そしてハリベルの一言で、黄金の球体からその死招く光は解放された。

 

 

 

「虚閃(セロ)」

 

 

 

言葉と共に放たれた黄金色の光線、それは拳大の球体から発生すると一気にその太さを増し、フェルナンドの仮面を目掛けそれだけに留まらず仮面の浮かぶ炎ごとを一瞬のうちに呑込んだ。

数瞬の後、ハリベルの放った虚閃は次第に細くなっていきその後にはそれが通過したことを示す痕を残した炎だけが残っていた。

 

 

「今までの戦闘から見るに貴様の炎は霊圧によって操られているようだ。斬れば他の炎と霊圧が結合し、消えることは無かった…… 故に斬撃で斬り刻むより霊圧を用いた攻撃によってその霊圧ごと消し飛ばした。そうして霊圧ごと霧散させてしまえばさすがに再び操ることは出来まい?」

 

 

ゆらゆらと燃え続ける眼下の炎の海に語るハリベル。

ハリベルが取った行動は、その全てがいたってシンプルなものだった。

炎に捲かれたのならば、その炎よりも強い霊圧を発する事でダメージを防いだだけの事。

斬撃などの物理的攻撃の効果が薄いのであれば霊的な攻撃、霊圧を用いた攻撃へとその方法を変えただけの事。

そして何よりそれらの行動は無理やりに発する霊圧を上げた訳ではなく、本来発しているそれに戻したというだけの事。

それにより導かれる結果は見ての通り、そらら全てが導く答えは単純。

地力が違う(・・・・・)というたったそれだけの事。

それは余りに単純だがそれ故に破ることも、そしてその差を埋める事も難しい。

 

 

「霊圧は消えていない、まだ生きているのは判っている。続けるか、それとも此処で止めるかの返事を聞かせてもらおう。フェルナンド・アルディエンデ…… 」

 

 

燃え続ける炎の海に再びハリベルが語りかける。

すると、ハリベルの両脇に聳えるもはや墓標としての意味をなさなくなった炎の壁が、ゆっくりとその根元に広がる海へと還っていく。

そしてそれと反比例するようにハリベルの眼前へと炎が海から再び隆起し、ハリベルの前で止まるとそこからフェルナンドの仮面が浮かび上がった。

 

 

「ハッ! 消し飛ばしただけ…… かよ。とんでもねぇ霊圧込めて撃ちやがって…… ただの大虚の虚閃ぐらいじゃ俺の炎は消えないってのによ。アンタのお仲間だってこんな事は出来なかった。それにあの二射目…… あれには震えたぜ 」

 

 

そう心底呆れたように語るフェルナンドの言葉に、ハリベルが返す。

 

 

「ほう…… 震えた、ということはあれには危険を感じたということか。やはりその仮面は炎とは別で特別ということか…… それで、返答はどうする?続けるか、それとも止めるのか」

 

 

フェルナンドが言ったとおり彼の炎を消し飛ばす事は難しい、それは彼の霊圧が他の大虚に比べても強いことに由来する。

彼自身、自分が中級かあるいは最上に至っているのか判っていないようだが、どちらであったとしてもその霊圧の強さ故相手の虚閃に代表されるような霊圧的砲撃によって炎が散り散りになることはあっても、霧散してしまうことは無かった。

だがそれはあくまで大虚同士の話であり、ハリベルという別次元の存在にあっては無意味。

それだけハリベルの放った虚閃、そしてそれに込められた霊圧は凄まじいものだったのだ。

 

そしてハリベルの言ったこともまた真実だった。彼にとってその仮面は確かに特別なのだ、仮面こそが彼の“個”を証明する全てだった。

 

「馬鹿言うんじゃねぇよ。 震えたってのは危険だからじゃねぇ…… 楽しくて、だ。 ハッ! まぁいいさ、返事はもちろん続行だ!アンタだってあんだけの霊圧込めた虚閃が何十発も撃てるとは思えねぇ…… それに楽しいじゃねぇかよ! やっぱり俺の直感は間違ってなかった…… アンタ最高だぜティア・ハリベル!やっぱりアンタとなら最高の暇潰しができる!俺の空虚を満たすのは、やっぱりアンタだ!!」

 

 

フェルナンドが選択したのは続行。

己の攻撃は最早相手に決定的なダメージを与える事は叶わないかもしれない、代わりに相手は此方にダメージを与えられる手段を示した。

立場の逆転、しかしフェルナンドは止まらい。

それよりも戦闘が始まる前に感じた直感、一度は裏切られたとも思った自身の直感がやはり間違いではなかった事に歓喜していた。

それは彼にとってハリベルこそが最高の暇潰しの相手であるという直感。

それは彼にとってハリベルこそがその空虚な胸のうちを埋めてくれるかもしれないという直感。

その穿たれた喪失の証、ポッカリと空いたその穴をハリベルならば埋めてくれるという直感。

 

それこそフェルナンドが真実求めるもの、戦い、殺し、喰らい、そして戦う、その無限螺旋の中でフェルナンドが感じた空虚。

生きる事への『飽き』

なんの変り映えもしない世界への『飽き』

かといって易々と殺されて終われるほど弱くも無かった彼の不幸。

それを癒してくれるかもしれない存在を彼は見つけたのだ。

今まで壊してきたどんな相手とも違う、こちらが壊されてしまうかも知れない相手、しかしそれ故に埋められるかも知れないと、実感出来るかもしれないとフェルナンドは思う。

 

 

 

そう、自分は今“ 生きているのだという実感 ”を。

 

 

 

ただそれを戦うことでしか、殺すことでしか感じられない彼はそれを癒す術を見つけたとしても未だ不幸とも言えなくも無いが。

 

フェルナンドの叫びと共に、炎の海から無数の火柱が立ち上る。

そしてその全てが等しくハリベルに向かって襲いかかった。

ハリベルはフェルナンドの答えと自らに迫り来る火柱を見て「そうか……」と一言呟くと、臨戦体制を整える。

そして次の瞬間には火柱の群れがハリベルを呑込むかに思われたが、そうはならなかった。

ハリベルの姿が一瞬ぶれたかと思うと、次の瞬間には彼女の姿はその場から消え去っていたのだ。

 

 

「何ッ!?」

 

 

その場から消えたハリベルに驚愕するフェルナンド、今までの戦闘である程度ハリベルの速度は測れたつもりでいたフェルナンドにとってそれは想定外の事態だった。

戦いの最中に敵の姿を見失う、その失態にフェルナンドは僅かな硬直を余儀なくされてしまう。

そして、その一瞬の驚愕と硬直をハリベルが見逃す筈は無かった。

 

 

「何処を見ている? コッチだ」

 

 

その声の発生源はフェルナンドの仮面の真上、瞬時にハリベルはそこまで移動していたのだ。

そして彼女の右手に握られた刀の切っ先には、すでに黄金色の球体が完成し主の号令を待つように光を放っている。

ハリベルの声に反射的に回避行動をとったフェルナンド、しかしその仮面を未だ射線上に捉えながらそれは容赦なく解放さた。

 

 

「虚閃」

 

 

真上から放たれたそれは隆起していた炎を貫き、炎の海を貫きその下にある虚圏の砂漠すら貫いて爆発を起こす。

その爆発によって巻き上げられた砂煙、しかし攻撃を終えたのも束の間膨大な砂の嵐の中で視界を遮られたハリベルに向かって鋭い殺気が走る。

視界を遮られた中でも殺気に反応したハリベルは、一直線に心臓を目掛けて迫った殺気を帯びた攻撃を刀で受け止めた。

正面から彼女に向けられて放たれたそれはフェルナンドの炎の槍、しかし今度はその槍の威力を彼女は完全に受け止め、僅かも押されるようなことは無い。

槍を刀で受け止めたハリベルはその場から一歩も後退する事無く立っている、本来の霊圧を解放したハリベルにとってそれは造作も無い事であり、あまりにも当然の結果と言えた。

 

しかし、ハリベルは今の一撃に微かな違和感を感じていた。

 

徐々に砂煙が晴れるとそこには虚閃を間一髪で避けたのであろうフェルナンドの仮面が炎に浮かんでいる。

火柱は未だ轟々と燃え滾り聳え、そこに見える彼の闘志もまた些かの陰りも視えなかった。

 

 

「高速移動術……かよ。 消えたんじゃねぇかと思うほどの速さだな…… なかなか捕まえるのに骨が折れそうだぜ。だがまぁいいさ、オラ次ぎ来いよ!直ぐに一発お見舞いしてやる!」

 

 

ハリベルがまるで消えたように見えた理由、それは『響転(ソニード)』と呼ばれる破面が使う高速移動術である。

それを用いたハリベルの奇襲を間一髪で避けたフェルナンドは、怯むどころかむしろ更に苛烈にその猛を燃え上がらせていた。

猛るフェルナンドの精神に呼応するように彼自身ともいえる炎の海もより一層燃え上がる。

その猛る炎が彼の言葉が虚勢の類ではない事をありありと証明しているかのように。

 

 

「それは私の響転を見切る、ということか?やれるものならやってみるがいい。……それよりも今、何故正面から(・・・・)攻撃してきた?あの状況、貴様なら背後から仕掛けるものだと思っていたが…… 」

 

 

フェルナンドを多少挑発するように語るハリベル。

それは見下した発言ではなく、純粋に破って見せろという意図を含んでいた言葉だった。

そして僅かに間を空け、ハリベルは先ほど感じた疑問を口にする。

ハリベルが自らの攻撃で視界を塞いでしまった先程の一瞬、彼女自身思い返せばあれが下策であったことは認めざるを得ないだろう。

しかしあの瞬間、今まで対峙したフェルナンドという大虚を考えるならば確実に後ろから攻撃が来ると踏んでいたハリベルは、背後に神経を集中させていた。

 

だが実際攻撃がきたのは正面、その攻撃にハリベルは逆に虚を衝かれた程。

結果として防いだものの、それは先ほどまでの彼の言動や行動原理からは違和感を感じざるを得ない一撃だった。

 

 

「ハッ! 別にたいした理由は無ぇよ。 ただ何と無くだ…… 雑魚なら別だがアンタは違う。アンタみたいに強い奴は初めてなんだ、よくわかんねぇけどアンタとは正面からやった方が楽しそうな気がしたんだよ。俺の直感がそう感じたってだけの話さ。 ……さぁ、お喋りは此処までにしようぜ、此処から先は殺し合いだ!俺に実感させてくれよ!俺を満たしてくれよ!なぁ!ティア・ハリベルゥゥゥゥ!!」

 

 

その言葉と共に炎の波が、火柱が、槍が再びハリベルへと迫る。

それを見ながらハリベルは思う、確かに言葉は無粋だと。

今は目の前の大虚だけに集中しよう、この大虚との戦いに興じようと、ハリベルの中の戦士がそう言っているような気が彼女にはしていた。

 

そして目の前の大虚に現れた僅かな変化を見極めようと。

 

 

「貴様のその願い、叶えよう。 これから私の全霊をもって貴様を打倒する。往くぞフェルナンド・アルディエンデ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

第二幕

 

全霊の戦舞台

 

命を賭して舞い踊る

 

故に舞い散るその舞は

 

命舞い散るその舞は

 

きっと何より美しい

 

 

 

 

 


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