BLEACH El fuego no se apaga.   作:更夜

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BLEACH El fuego no se apaga.extara7

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

キミが想うその世界に

 

ボクの居場所はありますか?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「さいなら、乱菊…… ご免な…… 」

 

 

 

ボクが言えたんは、そんな一言だけやった。

でもボクにはそれしか言えへんかった。

なにせこれはボクが背負(しょ)わなアカン事、ボクが決めて、ボクが望んでした事や。

これが、こうする事がボクの“目的”への一番の近道、遠回りは出来へん、する心算もあらへん、だからボクはその手を振り払ってでも行かなならんかったんや。

 

 

例えそのせいで、涙を流させる事になったとしても。

 

 

乱菊を…… 泣かせる事になったとしても。

 

 

 

自分で言っといてホンマ本末転倒もエエとこやとは思う。

死神になって、あの時乱菊がとられたもんを取り返して、乱菊が泣かんでも済むようにしたるって思うて、でもそうする為に結局乱菊を一番泣かしてるんはボク。

しょうもない話や、ホンマ、しょうもない……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

でもボクは決めたんや。

焼け落ちた僕等の小屋、倒れた乱菊、すれ違った死神達とその死神が持っとったモノ、そして…… そしてそれを受け取ったあの人。

その光景、そしてあの人の暗くて何も写さない眼を見たあの時、僕の中で全ては繋がったんや。

壊された僕等の平穏、乱菊が倒れとったんもその後長い事目を覚まさへんかったんも、みんなみんなコイツのせいやって。

 

コイツが、親玉なんやって。

 

 

 

ボクの中に黒い炎が燈ったのがその時わかった。

その炎はボクの中で直ぐに大きくなって、でもボクはそれを外には出さんように、悟らせんようにしたんや。

出せば悲しませる、乱菊はその時の事を忘れとったから。

あの時何があったのかボクは知らん、せやけど何をされたにせよそれはきっと辛い記憶や、だったらそんなもん忘れとった方がエエにきまっとる。

せやからボクはその炎を外には出さん、悟らせもせぇへん、一人で…… 一人でやるって決めたから。

 

色々考えて、考えて考えてこれが一番やって判ったんは、僕自身が死神に…… あの人と同じ死神になるいう事やった。

僕はまだ弱かった、霊力をもっとる言うてもそれはホンマに持っとるだけや。

使い方も判らんし斬魄刀も持ってへん、そんなんで勝てるはずが…… 取り戻せる筈がない事ぐらいボクかてわかっとった。

せやから決めたんや、死神になるって。

死神になって、力をつけて、そんであの人の近くに潜り込んでそして…… そしていつかこの黒い炎を吐き出したるんやって。

 

手始めにあの死神を、乱菊から“何か”を奪っていった死神をボクは……殺した。

 

刃物なんてその辺に転がっとったもんで充分。

戦い方なんてあの時のボクが知るわけないし、向こうは一人いうても死神、戦うことが仕事みたいなもんや。

それでもボクは、ボクの内側を焦しよる黒い炎の燃え滾るまま、気が付いたときには初めて人の命を奪っとった。

 

そん時のボクは恐れも、悲しさも、辛さも何にも感じひんかった。

手に感じた肉を貫く感触も、頬を伝った血の暖かさも、それが急に熱を失っていく感覚もどっか他人事。

それはきっと、そん時のボクにとってその死神の命なんてまったく取るに足らんもんやったからかも知れん。

恨みはあったと思う、憎しみもあったんやと思う、でもそれはこの死神へやのうて別の、もっと上の、あの暗い瞳の死神に向いとったんや。

そこで、そこで初めてボクはこの胸を焦す黒い炎の正体が、ボクの復讐心やって事に気がついたんや。

 

 

殺した死神の死覇装を剥ぎ取って、ボクは雪の中を歩いた。

白い雪景色の中で奪った死覇装を羽織ったボクの姿は浮き上がったように、拒絶されたように映っとったと思う。

でもそん時のボクはそれでエエ思うとった。

それでエエ、人を殺したボクと乱菊の世界が別々になったんやったらそれは寧ろエエ事や。

 

ボクはもう後戻り出来へん、進む道は一本だけ、歩いた後は端から崩れる一本道。

崩れた後に残るのは奈落や、落ちるわけにはいかん奈落、落ちたら終わりや、落ちたらそこで終い、何にも手に入らんと…… 何にも取り戻せへんままで終いや。

崩れた道の根っこには乱菊が立っとる。

でもボクは振り返らへん。

道が崩れていくのは僥倖やった、崩れれば追いかけては来られへん。

乱菊はボクと違って死神なんかにならんでエエんや、乱菊はただ平穏に…… 出来れば笑っとってくれたらボクはそれでエエんや……

 

 

でももし……

 

でももしあん時…… ボクが振り返っていたなら。

もしあん時振り返って、乱菊の事を見てたなら。

もしかしたらボクの…… ボク等の“今”は変っとったかもしれへんなって、最近になって思う事がある。

 

 

でもそれはもう意味のない幻想なんや。

ボク等の世界はボク自身が引き裂いた。

手が届かんように、声が届かんように、そして災厄が降りかからんように……

 

 

 

 

 

“死神殺し”

死覇装を奪ったボクを捕まえようとやってきた死神はボクに向かって口々にそう言いよった。

何を今更、そん時のボクはそう思うとった。

当たり前の事を口にされてもなんも響くわけないやんか、って。

 

 

「そうや…… ボクが殺した。あんなんが死神なんて笑わせるわ。あれやったらボクが死神になったほうがよっぽどマシやで」

 

 

ボクの口から出たんは存外に強い言葉やった。

ボクを捕まえに来た死神にも見覚えがあった。

あの死神と…… ボクが殺した死神と同じようにあの人に傅いていた死神。

それが判っとったから知らずボクの語気も強まったんかもしらん。

それにそん時のボクには判っとったんや、ここに来たんはコイツ等だけやない、あの人も一緒やって。

 

 

「面白い事を言うね、死神殺しの少年。 なら私が試してあげようか?君が…… 死神になれるかどうかを 」

 

 

それが…… それがボクが初めてあの人を…… 藍染惣右介を真正面から見た瞬間やった。

顔には柔和で人のよさそうな笑みを貼り付けて、そんでもその黒縁の眼鏡の奥にある瞳はこれ以上ないほど暗かった。

ホンマあん時からアホみたいな霊圧しよって、それをまだ子供のボクにぶつけるんやから始末に終えんわ。

そしてその霊圧に震える身体を必死に隠しながら僕は見た、あの人の目を。

 

あの目は何にも見てへん。

真正面からあの人と向き合って、ボクはそう確信した。

アレは硝子球かなんかと一緒や、景色は映ってもそんだけ。

人が映ろうが虚が映ろうがあの目にはみんな一緒に見えてんねやって、そう確信した。

あの人は人を人とも思わんのや無くて、自分以外を”人”やなくて”物”と思っとる。

はなっからあの人には“人”が見えとらん。

あるんは道具かなんかと同じ扱いだけで、使い捨ての鼻紙みたいなもんや。

 

そんでもボクは真正面から対峙せなアカンかった。

子供の頃のボクがいくら背伸びしたってあの人に勝てん事ぐらい判っとった。

せやからボクも利用してやろう思うたんや。

ボクの内を焦がす黒い炎、その復讐心を燃え上がらせる矛先であるあの人を利用して、復讐してやるんやって。

 

ボクの大事なもんに手ぇ出した報いは、キッチリ返してやる為に。

 

 

「ならボクがコイツ等みんな殺したら、ボクを死神にしてくれる?」

 

 

顔には…… 僕の顔にはそん時あの人と同じ笑顔が張り付いていよった。

昔っからこんな顔やったけど、そん時のボクの笑顔は楽しさや嬉しさやのうて、人を騙す為の(・・・・・・)笑顔やった。

それはあの人から最初に学んだ事。

人を上手く使うには、思い通りに動かして自分の目的を達成するにはこれが一番いいって、それだけはあの人に会ってよかった思う。

笑顔で人を騙す。

自分の心、奥底は分厚い笑顔の仮面で覆い隠して見せへんで。

三日月みたいになった仮面の目の奥に、本当の瞳を隠しておく。

歪んだ仮面の口の奥で、本音は音になることは無い。

 

他人を騙す笑顔の仮面。

そしてボク自身も騙す笑顔の仮面を、ボクはその時手に入れた。

 

 

そしてその仮面で…… 心を燃やす黒い炎にその笑顔の仮面でボクは蓋をしたんや。

あの人の傍で、誰よりも近くで待つために。

誰よりも近くで刃を研ぐために。

研いだ刃でいつか必ず、喉下を突き刺してやるために。

 

 

「君は本当に面白い事を言うね、死神殺しの少年。 ……いいだろう、君がもし彼らを全て倒せたなら、私が君を死神にしてあげよう」

 

 

あの人はそん時、貼り付けた笑み以上に笑っとった気がした。

きっとあの人にとってそん時のボクは取るに足らない存在やったんやろうけど、暇つぶしと興味の対象位にはなっとったんやと思う。

それも出来るならやってみせろ程度のもんやろうけど。

 

なんにせよボクは最初の一歩を上手く踏み出した。

あれがボクのはじまりの一歩。

目の前に立ちはだかる死神達を見ても、そん時のボクに不安は無かった。

それはボクが強いからいう意味やのうて、やらなアカンっていう覚悟があったから。

 

ボクが取り返す。

奪われたもんを。

奪われた全てを。

乱菊が奪われたもんも、貧しくても平穏な日々も、そして……ボク自身の幸せも。

すべて……すべて取り返してみせる。

例えどんだけこの手が血で汚れようとも、例えどんだけ忌み嫌われようとも、嘘吐きと、裏切り者と罵られようとも絶対に……

 

そう……絶対に……

 

 

 

 

 

 

 

 

「驚いたな・・・・・・ 年端もいかず、霊力の何たるかも知らない少年がこれ程の力を…… 麒麟児、というのだろうねキミの様な子供は。 ……名を聞こうか、死神殺しの少年 」

 

 

「ギン…… 市丸ギンや。これからよろしゅう頼むわ、死神はん……」

 

 

血染めの死覇装。

それも自分のやのうて相手の返り血でや。

あの人は本当に驚いた様子でボクを見とった。

でもその驚きは直ぐになりを潜めて、あの笑みに戻る。

名を訊くあの人にボクはあの人と同じ種類の笑顔で答えた。

それがその時ボクにできた精一杯。

 

そこで僕の意識は途切れた。

極度の緊張と戦闘の疲労、そして終始浴び続けたあの人の霊圧はボクを衰弱させるには充分なもんやった。

それがボクとあの人の出会いで、ボクの復讐の始まり。

 

 

そしてそれももう少し…… もう少しで全部終いや。

何もかもがもう直ぐ動き出す。

そうなったらいくらあの人でも全部は把握しきれへん。

計画にも必ずどこかで綻びが出る。

 

その時が……

その時が唯一の機会なんや。

 

あの人が油断するほんの一瞬。

その時の為だけにボクは生きてきた、強うなった。

 

何処までいっても自己満足やって事ぐらいボクにかて判ってる。

でもそれでエエ。

ボクはどうなったって構わへんねや。

 

 

 

 

ただ乱菊はきっと怒っとるやろうな。

ホンマ…… 死神になってまでボクを追っかけてくる事なかったのになぁ。

こんなにも裏切ってばかりの碌でも無い男、朴っといたらエエのに……

 

この戦いが終わった後、全てが上手く転がったとしても、ボク等の世界が全部元通りになることなんて…… そんな御伽噺みたいな事なんて、あるはず無いのにな……

 

 

そう思えばあの時、別れ際に謝っといたんは正解やったかもしらん。

きっともう乱菊の目を見て謝れる事なんてなさそうやし。

 

 

あぁ、きっとそうや。

あれが正解やったんや。

久しぶりに笑顔の仮面の奥から零れたボクの“本音”。

あれが伝えられただけできっとそれは正解やたんや。

ならよかった。

後はただ、進むだけやから。

 

 

全てが終わる、その時まで。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「また部下で遊ばはって…… 意地が悪いなぁ…… 」

 

「見ていたのか……ギン 」

 

 

白々しい台詞やったけど、それを追求する心算なんてない。

この人は何でもお見通しや、そしてこの人はああやって掌で命を弄ぶんが癖みたいなもんや。

せやからボクも本気で意地が悪いなんて言わへん。

そんなもん、言わんでも誰にもわかることやから。

 

 

「少々乱れはしたが、予定に寸分の狂いも無い。最上級(ヴァストローデ)を揃え、十刃(エスパーダ)が揃えば…… “我々”の道に、敵など無い」

 

 

死んでいった最下級(ギリアン)なんぞ気にも留めず外を眺めながらそう口にするこの人は、本当にそう思っていた。

確かに敵は無いかもしれん、破面の力は圧倒的や。

それに加えて(かなめ)も居る、そしてなによりこの人は例え十刃が全て倒れても一人で全て終わらせるやろう。

だからこの人は言う、“敵は無い”と。

 

でもそれは間違いや。

確かに進む道に敵は無いかもしれん。

歩みの先に敵は無いかもしれん。

でもその道は“我々”やのうて、アンタが一人で進む道や。

アンタは精々前だけを見て、その道を進んだらエエ。

ボクかて前だけを見て進むよって。

 

 

アンタのガラ空きの、その背中を目掛けてなぁ……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

キミが想うその世界に

 

ボクの居場所はありますか?

 

 

ボクとキミは離れたけれど

 

二度と交わらないけれど

 

それでもキミの

 

想う世界に

 

キミの世界のキミの隣に

 

ボクの居場所はありますか?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




方言は難しい。
エセ関西弁(京都弁?)で申し訳ない。

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