BLEACH El fuego no se apaga. 作:更夜
我等三人諸共に
生きる意味は主の為に
響き渡る鋼鉄の悲鳴。
甲高く、数瞬の間もなく弾かれ火花を散らしあう。
もしそれに残光が尾を引いたとすればそれは曲線、弧を描いただろう。
黄金と紅、二つの光は時折交わりを見せながらも弧を描きながら離れ、そしてまたぶつかり交わる。
ただ惜しむらくは一方の軌道、具体的に言えば紅い軌道の方はどうしようもなく無骨で、粗野で、美しき黄金の軌道と相対しているだけにそれは際立ち、超一流とは言い難いものに見えた。
「……今更判りきっていた事ではあるが、フェルナンド。やはりお前は刀の“ 才 ”には恵まれていないな」
「判りきってんなら今更言う事も無いだろうがよ……」
数合の打ち合いの後、二人はその足を止めた。
幅広の刀でその中心が空洞となっている刀を持った女性と、刀身はやや短く、鍔も無くどちらかといえば刀より鉈に近いそれを持っている男。
客分というよりは居候に近い形でハリベルの宮殿、
戦う為に、自らの生の実感を得る為に、そしていつかハリベルを殺す為にフェルナンドはその目標たるハリベルに師事していた。
といっても立場はあくまで対等、師事といってもあれこれと口を出すわけでもなく、戦い、叩きのめし、その身を持って教えるといった格好で。
師と弟子、というよりは共に切磋琢磨する者同士のようにも見える二人。
今日とてそんな日頃の一幕に過ぎず、練武場にてハリベルの従属官達の前で戦う二人。
しかしフェルナンドの方はといえば気に食わないという雰囲気を漏らしてはいた。
「“ 才 ”に恵まれて無ぇ、なんてのは端から判ってんだ。だったら斬り合いなんて鍛えてもしょうがねぇ、敵が刀を、武器を振り回そうが俺はこの五体で全て吹き飛ばす。それに何の問題がある」
フェルナンド・アルディエンデに刀をあつかう“才能”は無い。
壊滅的、という訳ではないがそれでも、超一流、生死を賭けた戦いにそれでは足りないのだ。
だが彼にはそれを補って余りある“力”があり、今日のように刀を使った戦いなど鍛えても仕方がないと。
それ故にあまり気乗りしていないフェルナンド、しかしそんなフェルナンドにハリベルは落ち着いた雰囲気で言葉を返す。
「確かに、お前ならそれも可能だろう…… だがな、それは同時にお前自身がお前の
それは諭すような声で語られた。
自ら不得手であると自覚し、しかし他があるからとその不得手をそのままにすれば何時か困ることになる。
不得手とは才能如何もあるがその者の意識によるところも大きく、不得手であると自ら忌諱するのは愚かな事だと。
確かに一点に突出し、それが飛び抜けていればいる程その不得手を必要とする場面は少なくはなる。
だが、それがまったく無くなる等という事は無く、何時かその場面に直面したとき、それはあまりにも脆く見えるのだ。
故にハリベルはフェルナンドに刀を持たせ、戦っていた。
不得手、それも才は無くとも決して伸びないわけではないそれを放置するのは、あまりに愚かしく。
またそんな事で倒れてもらっては困るという想いから。
「なるほど…… 戦いの可能性……ねぇ。 ……だがハリベルよ、可能性が増えるって事は、当然間違う可能性も増えるって事だ。それで馬鹿を見る事になったらそれこそ目も当てられねぇぞ?」
「なに、心配など要らんさ。 お前がそんなヘマをするとは思えん……し、何よりそうなったとして、それを切り抜けられぬお前ではあるまい?」
「ハッ! 随分と高い評価なこった……」
戦いの中の可能性、選択肢の広さの優位性を語ったハリベルに対し、フェルナンドは皮肉気な笑みを口元に浮かべて答える。
確かに可能性、選択肢は多いほうがいいのだろう。
それは一つの状況により多く対応でき、その中から最も最善である行動を導き出す事が出来るという事。
だがしかし、選択肢の多さはときに
だがハリベルも然る者、それは彼女からすれば通り過ぎた問答であり、答えなど決まっていた。
それはフェルナンドという男への信頼、彼女が知るフェルナンドという人物が選択肢の多さから最善を間違う、などという事をする筈がないという思い。
絶対的な信頼、そして自負。
万が一それがおこったとしても、その窮地を前にフェルナンドという人物がその状況を脱せない等ということはありえないという、信頼を越えた確信。
何の根拠もない、だがしかし彼女の中にある確信がそう言わせる。
心配する必要などない、と。
「さぁ、もう一度いくぞフェルナンド。 いいか?よく覚えておけ、“ 己を細くしろ、川は岩を砕けても穴は穿てぬ、水滴だけが岩に穴を穿つ ”のだ。 水滴となり集中しろ、何も刀を持った時だけではない、戦いとは極限の集中の只中に在り続ける事なのだから……な」
贈られた言葉は一つの真理。
戦いとは集中の連続である。
力で押しつぶす事は容易ではあるが、それだけでは決して成し遂げられない事があると。
それは細く絞った己が精神、心であり、力を只力として振るうのではなく、その力をどう用いるかこそが肝要なのだと。
そしてそれは刀を持った時のみならず、すべてにおいて通ずるものなのだと。
届いた言葉にフェルナンドは一度小さく笑みを見せる、そしてその笑みがゆっくりとだが消えていった。
次第表情も退いていき残ったのは敵を、ハリベルを見据える強い瞳だけ。
気配はいまだ荒く、無手の時とは比べようもなく隙が見えるそれは極限の集中とは言いがたい。
彼の刀に構えはない、その手に握っただけの斬魄刀をただ敵目掛けて振るう以外の方法を彼は知らない。
だがそれでも、先程までの彼とはほんの少し違いがあった。
それは、刀をただ握っているのではなく、握ったそれにまで意識が通りつつあること。
それだけで超一流の仲間入りなどという事は、おこがまし過ぎて言えないだろう。
どこまでも彼の剣は超一流には届かない、それはこうして鍛えても決して届かないのだ。
だがそれでも、僅かながら彼の剣は前に進んだ。
集中、武器を
気が付いたとはいえずとも、その一端を彼は今、見つつあるのだ。
極めるには遠く、おそらく極める事は叶わないであろうそれ。
しかし、それでも彼はまた一つ、自身の“ 幅 ”を僅かに広げたのであった。
――――――――――
ハリベル様とフェルナンドの奴が打ち合ってる。
こういう光景は結構見慣れたもんだけど、今日はいつもと違ってフェルナンドの奴も斬魄刀を持ってた。
まぁ言っちまえば相変わらずヒドイもんだ。
刃筋も何も無い、ただハリベル様目掛けて思いっきり振り下ろしたりするそれは、斬撃なんておこがましくて言えもしない。
あれくらいならアタシにだって捌ける気がするのは、きっと間違いじゃない。うん。
ホント、アイツはよく判らない奴だぜ。
武器持った方が弱くなる、とかどんな冗談だよ。
どう考えたって武器使った方が強くなるのが当たり前だろ。
……って、こういう
アイツを相手に当たり前、とかありえる訳が無い、とかってのはダメだ。
フェルナンドの奴はそういうのを平気で越えてきやがる。
あの馬鹿に勝ちたきゃ、どんな小さな可能性もアイツなら
でもその辺ハリベル様は流石だよなぁ~。
アイツと戦っててどんな状況になっても、絶対油断しないんだもんな。
絶対に緩めないんだ、ハリベル様は。
これが本物の殺し合いじゃないってわかってても、絶対緩めない。
そのなかであの馬鹿はそれを承知で挑んでくんだから、手に負えない。
絶対ハリベル様の方が強いに決まってんだろうが!ったく……
でもアタシはあそこまで挑んでいけんのかな……
そういう所はフェルナンドの奴のスゲェとこかも知れねぇけど。
ん? なんかフェルナンドの奴の気配が変ったような……
こう……なんつーか、意識がよりハリベル様だけに向いてるっ気がする。
集中が増してる……?
って、うぉ! なんか剣捌きがさっきより鋭くなってねぇか!?
元が悪いから五十歩百歩かもしれねぇけど、こんな一瞬で変んのかよ……
スゲェ…… やっぱスゲェな、あの馬鹿野郎!
ハハ! 強ぇ! ダメダメな刀振ってあれだ!無手になったらどんだけだよ!
見てみてぇなぁ…… あぁ、見てみてぇ。
ハリベル様とアイツ、ホントに強いのはどっちなのかを!
きっと震えるほどスゲェ戦いに決まってる!
そんでハリベル様が勝つに決まってんだけど、でも!見てみてぇなぁ!!
でも何でだろう?
見てみたい、って確かに思うけど、でも少しだけ、胸がモヤモヤすんだよなぁ……
――――――――――
ハリベル様とフェルナンドが打ち合ってる。
にしても珍しいねぇ、フェルナンドが斬魄刀使ってるなんてさ。
実際あいつが斬魄刀使ってるのなんて、あたしが知る限り最初の一回だけだった気がするよ。
まぁハリベル様に使え、って言われて渋々だってのは雰囲気で判るけどね。
破面は
でもさ、だからってフェルナンドみたいに斬魄刀なんて使わない、ってのはなかなか居ないよ。
敵が、同じ破面が斬魄刀抜いて斬りかかって来る。
そしたらこっちも抜いて対応するのが常識だと思うけど、あいつは違うんだよなぁ……
前なんてあたしが振り下ろす斬魄刀を、避けきれないと判断するや逆に踏み込んできたんだから。
実際面食らったね、アレは。
避けられない、というか避けりゃ腕の一本も落としてやれたのに、あいつ踏み込んで鍔元を肩の肉で受けたんだから。
間合い潰されて、しかも鍔元じゃ幾許も斬れやしない。
それどころかそのままあたしに掌底食らわして、さらに砂漠に叩き付けんだからさ……
あいつはきっと頭がおかしいのさ。
自分の命が戦いの後に残る、残らないなんてのは二の次。
戦いに生きる、戦いの中に生きる、そういう類の馬鹿野郎なのさ。
嫌になるねぇ、まったく……
ほぅら、またあの馬鹿が一つ階段を上ったよ。
『 穿心 』、だったかな。
ハリベル様の教えの一つ。
まぁ“ 炎の理 ”を地で行くフェルナンドに“ 水の理 ”が実際どんくらい利があるのか判らないけど。
それでも、あいつの集中が増したのは確かさね。
あ~あ、またあいつ強くなったよ、きっと。
こっちが一歩進む間に、あっちは二歩も三歩も前に行きやがるから始末におえない……
もうとっくに追い越されてるしね。
流石だよ、まったく。
ハリベル様が気に掛けるだけの事はある、ってもんだろうね。
……でもさ、正直あたしは残念なんだ。
アパッチの馬鹿はきっと、どっちが強いのか知りたいとか、見てみたいくらいにしか考えてないんだろうけど。
判ってんのかねぇ……
それを見て、決着が付くって事はさ。
どっちかが死んじまう、って事だって。
そう思うとあたしは残念だよ。
あたしはそんなに”今”が嫌いじゃないからさ、こうして5人でいるのが、嫌いじゃないからさ。
だからこそあたしは残念なんだよ。
その結末を止められない事が……さ。
――――――――――
ハリベル様とフェルナンドさんが打ち合ってらっしゃいますわ。
それも何故かフェルナンドさんの方は、斬魄刀をつかって……
気でも触れたのでしょうか?
ハリベル様に才は無いと言われ、御自身でもそれを認めてらっしゃるというのに……
実際はハリベル様が、不憫なフェルナンドさんの為を思って鍛えて下さっている、と言ったところでしょうけど。
あの方の規格外ぶりは今に始まった事ではないけれど、それでも全部完全でないというのは、正直安心しましたわ。
何者にも得手不得手がある、それは長所と短所、そして短所とは弱点ですわ。
あの馬鹿げた攻撃力と、打撃、組技、投げ技を使うフェルナンドさんにもそれがあった。
決して完全無欠な者などいないといういい証明ですわね。
それにしてもハリベル様は本当に嬉しそう。
口元は隠されておられますから見えませんが、目元が薄っすらとですが緩んでますわ。
ちょっとした嫉妬を覚えますわね。
私達従属官の誰が相手でも、ハリベル様があんなに楽しそうに戦う事はありませんもの。
でもそれも仕方が無い事かもしれませんわね。
ああも目の前で伸びていく力を見せ付けられれば、誰だった嬉しくなるはずですもの。
戦いの中で育っていく力、相手を凌駕しようとする力。
戦士としてフェルナンドさんを鍛えようというハリベル様からすれば、喜ばしい事この上ない事。
そしてなにより、その戦いの中でハリベル様ご自身もまた力を磨いているという事実が、その思いを大きくするのでしょう。
凌駕させまいと立ちはだかる、その為に力をより高みへと自ら押上げる感覚。
そうさせるフェルナンドさんの圧力、不謹慎かもしれませんが、ハリベル様は楽しくて仕方が無いのでしょうね。
でもやっぱり妬けますわ。
だって私達では、ハリベル様にそこまで迫る事が出来ませんもの。
あら、フェルナンドさんの気配が変りましたわ。
力、というより精神的に何かを掴んだのかしら?
いえ、掴んだというには及ばずとも、触れた、といったところでしょうね。
それでもまた先に行かれたことは確かですわ。
悔しい。
ほら、やっぱりハリベル様が楽しそうな御顔をしてますわ。
私達には見せない、そして引き出せない御顔。
嬉しいような、でも少しだけ寂しいような、複雑な気持ちですわね……
にしてもあの二人、お互いの事を本当はどう思っているんでしょう?
ハリベル様は……弟子? いえ、どちらかといえば弟のような感じかしら?
手の掛かる弟をなんとか一人前にしようと頑張っている、そんな印象?
麗しいですわ。
対してフェルナンドさんは…… 標的、獲物といった感じ?
なんとも殺伐としてらっしゃいそうですわね。
でも聞いた話によれば、ネロがハリベル様を殺そうとした時に、「誰にもこの女は渡さない」と言ったそうですし、もしかして奥底では……
いえ、ありえませんわね。
完璧に、完全無欠に、間違いなく断言できますわ。
きっと自分の獲物だ、とか思ってたに決まってます。
どっちもどっち、浮いた話の一つも無し、ですわね。
最後に残るのは殺伐とした戦場と、殺し合いの風景。
あの二人もきっとその只中に立つのでしょう……
遣りきれませんわ……
でもそれは当然の事。
何せ私達は破面。
“こころ ”を失った血塗れた獣。
その私達に“ 愛 ”や“ 恋 ”なんてものが存在する筈ありませんもの。
我等三人諸共に
生きる意味は主の為に
そして主を思えばこそ
時よ止まれと思うは罪か
今よ続けと
思うは罪か
本編の続きが気になっていた方には申し訳ない。
修行の一コマと従属官三人から見た二人。
三者三様、といったところでしょうか。
ハリベルが言った心得、知ってる人ってか元ネタわかる人居るかなぁ。