BLEACH El fuego no se apaga.   作:更夜

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BLEACH El fuego no se apaga.9

 

 

 

 

 

「では皆、今日はこれでとしよう。ハリベル達以外は解散してくれ」

 

 

ハリベル、そしてウルキオラの十刃昇格の後破面達に今後の指示を下した藍染。

その後の藍染の言葉により、玉座の間に集まっていた破面達は散り散りに解散していった。

解散後次第に広間にいる者の数は減り、そしていつしか閑散とした広間にはハリベルとフェルナンドを残すのみとなった。

それを確認すると藍染は玉座から立ち上がると視線だけをハリベルに送り、玉座の後ろの通路に消えていく。

 

 

「行くぞ、フェルナンド 」

 

 

そうフェルナンドに声を掛けたハリベルは、一息に玉座のある位置まで跳び上がると藍染が消えた通路へと歩を進める。。

そのハリベルの言葉に面倒臭そうに答えたフェルナンドもまた、それに続くようにしてゆらゆらと舞い上がり通路へと進んでいった。。

玉座の後ろに続くその通路は一直線に長く続いており、これといった装飾も無くただ点々と照明があるだけの薄暗いもの。

その通路をある程度進んで行くと、フェルナンド達の前に開けた空間が現れた。

床は黒、そして四方を囲む壁と天井は白、広いその空間の中心には彼等よりも先に通路へと消えた藍染が一人彼等が来るのを待っていた。

 

 

「良く来たね二人とも。 では早速フェルナンドの破面化を始めようか…… 」

 

 

その場で軽く両手を広げる藍染。

眼鏡の奥には暗い瞳、そしてその顔にはまるで張り付いているかのような薄い笑み。

彼に視線に映るのはゆらゆらと燃える火の玉とその中に浮かぶ髑髏の仮面。

 

 

『フェルナンド・アルディエンデ』

大虚としての位階は不明、しかしその力は大虚でありながら偵察任務中の出来損ないの破面を圧倒する程。

性格は非常に好戦的、しかしただ己の力に任せてそれを考えなく振り回すだけの粗野な戦い方ではなく、自らの意思で力を制御し最善の勝利の形にもっていく事が出来るだけの頭脳は有している。

特筆すべきはその炎、身体を構成する霊子の総てが炎に変化しており故に肉体と呼べるものは存在せず、物質として存在しているのはその仮面のみでありその他の総ては炎の塊へと変じたもの。

炎は形状、密度、温度などを自在に変化させる事が可能であり霊圧を用いる事でその変化の精度を操作、霊圧と混ざり合った彼の炎は一塊として存在する彼の炎から離れてもある程度の操作は可能である。

また炎を収束させる事により威力は上昇、完全に収束すれば帰刃(レスレクシオン)前ではあるが上位十刃に多少のダメージを負わせることが可能である。

現在はその有する霊圧と炎の大半は失われており、本人曰く全開状態の半分以下とのこと。

しかしその状態で最下位の破面を瞬時に焼き尽くすだけの力は有している。

 

 

以上の内容がハリベルが藍染に報告したフェルナンドの概要。

その中で藍染の眼を引いたのはやはりその身体の構成、肉体というものが存在せずその総てが炎へと変化している。

今まで多くの大虚を見てきたがフェルナンドのような変化を遂げた大虚は藍染にも思い当たらなかった。

 

故に今回の破面化は通常より遥かに未知の部分が多く、それ故に藍染にとっては有意義な実験となるもの。

失敗したところでそのデータは手元に残り、成功すれば新たな破面が一体その配下に加わる。

基本的に藍染惣右介という男は常に“利”を手にするように立ち回る傾向がある、自らはリスクを犯さず他を動かし、誘導し、欺き操りそしてその結果として生まれたものの上澄みのみをその手中に収める。

全ての事柄はいつからか彼の掌の上となり、またそれを気取らせる事もないのだ。

このフェルナンドの破面化も彼にとってこれは実験でありそして座興に近いもの、普通ではつまらない、何か未知の目新しい事象は起こらないものか、それが藍染の笑みの奥に潜む感情だった。

 

 

「……一つ、聴きてぇ事がある。 そもそも破面(・・)ってのは何なんだ?」

 

 

手を広げ笑みを浮かべる藍染にフェルナンドは当然と言えば当然の疑問をぶつけた。

破面とは何か? 単純であるがしかしある意味最も重要な部分であるそれ。

そもそもフェルナンドは破面というものについてほぼ何も知らないのだ、知っている事といえば破面は大虚が変化したものだということ位であり、それが正確にどういった存在なのかはまったく理解していない、というのが彼の現状だった。。

 

 

「フェルナンド、口のきき方に気を付けろ 」

 

 

藍染への不敬とも取れる態度に、フェルナンドの隣にいるハリベルがそれを嗜める。

戦士としてのあり方や教示、そして礼を重んじるハリベルにしてみれば、フェルナンドの態度は目に余るものだったのだろう。

だがそれが気に入らないのか、フェルナンドはハリベルに食って掛かる。

 

 

「あぁ? 別にアンタにとやかく言われる筋合いは無ぇだろ。俺は誰が相手だろうが俺を曲げる心算は無ぇ 」

 

「藍染様は我ら破面の主だ、そのお方に敬意を払うは当然だろう」

 

「知った事か。 そもそも俺はコイツに仕える為に此処に来たんじゃねぇ…… アンタを殺す力を手に入れる為に来ただけだ 」

 

 

言い争う二人、おそらく物事の捉え方や考え方の相違だろう意見の対立。

藍染といういわば創造主に対して敬意と礼をもって接するは当然とするハリベルと、誰であろうとも己を曲げ膝を屈するを由としないフェルナンド。

どちらの考え方も間違いではないのだろう、滅私と我欲、相反する属性の考えはどちらもが正しくそしてどちらも簡単に引き下がるものでもない。

真逆を向いた意見の対立がそこには生まれていた。

 

 

「構わないよハリベル。 その程度の事…… そうだね、ではフェルナンドにはまず破面というものが何なのか(・・・・)を知ってもらう事にしよう」

 

 

ハリベルを言葉だけで制した藍染、そして彼はフェルナンドの問いを受けてそれについて答えようと言った。

藍染は中指で自らの眼鏡を少し上げ、一呼吸置いた後フェルナンドに問いかける。

 

 

「フェルナンド。 キミは破面というものが大虚から昇華した存在だ、という事は理解しているね?」

 

 

その問いに炎に浮かぶフェルナンドの仮面が縦に揺れる、それは肯定を意味しているのだろう。

それを受け藍染はなるべく彼に理解できるよう更に話を進めた。

 

 

「ではフェルナンド、君は死神の事は知っているかい?私のように黒い着物『死覇装(しはくしょう)』を纏った人型の魂魄が死神だ。」

 

「あぁ、何度か戦った事がある。大して強くもなかったが……な」

 

 

フェルナンドの答えに藍染は今まで貼り付けた笑みとは別種の笑みを浮かべていた。

おそらくフェルナンドの答えが思いのほか藍染にとっても的確に死神というものを捉えていたのだろう。

彼にとってもまたフェルナンドにとっても死神というものは、さして取るに足らない存在であるという事が。

 

 

「死神には基本的な戦い方として斬術・白打・歩法・鬼道の四つがある。これを俗に『斬拳走鬼(ざんけんそうき)』と呼ぶが、しかしそのどれもが鍛えた分だけ強くなる訳ではない。死神には力の限界強度があり、技を極めていけば何時かは魂魄の強度の壁にぶつかる…… それが即ちその死神の限界(・・・・・)、という事だ」

 

「……で? その死神の限界とやらが、どうやって破面に繋がんだよ」

 

「まぁそう慌てないでくれ…… 限界というものはなんにでも存在する。それは君にもハリベルにも…… 無論、私にもだ。だが死神がそれを越える方法(・・・・・・・・)があるのだよ…… それが『 死神の虚化 』だ。 死神と虚、相反する存在である筈の二つはしかしその魂魄だけを見れば実に似通っている…… 死神としての限界を超える為あえて虚へとその魂を近付ける事で、魂魄はより力の高みへと昇る事ができるのさ」

 

 

死神の虚化、互いが互いを滅ぼさんとし、そうあることが当然であると定められているかのような関係の両者が歩み寄るような行為、それは最早禁忌としか言いようが無い事象。

だが人は愚かにも禁忌と言う言葉に惹かれる。

誰かに強く止められれば止められるほどそれは魅力を増し、美しさを増し、そして妖しさを増してしまう。

そして何時かはその禁忌の妖しい魔力に耐える事が出来なくなり、その手を伸ばしてしまうのだ。

そこに残るのは、結局は遅いか早いかの違いだけ。

 

 

「だからそれが何だってんだよ。 俺は虚だ、死神じゃねぇ…… そんな話と破面が関係あるのかよ 」

 

 

破面とは何かを問うフェルナンドに対し、藍染は死神とは何か、そしてその限界と突破法を語る。

全く噛み合っていないように思える両者の会話、しかしその実藍染はフェルナンドの問いに既に答えていた。

重要なのは死神と虚の関係性、実に似通った魂の性質を持つ二つの存在、それが死神と虚であるという事。

それこそが藍染がフェルナンドに伝えた彼の問いへの答えなのだ。

 

 

「判らないかい?フェルナンド…… 君も知っていたじゃないか、破面は虚が昇華した(・・・・・・)存在だ、と。そして私は言った筈だ、死神には限界があり、それを突破する方法が虚化だと。そしてこうも言った、虚と死神という一見して相反する存在の両者は、しかし魂魄だけを見れば似通った(・・・・・)存在である…… とね 」

 

 

藍染が笑みを浮かべてフェルナンドへと語る。

彼の笑みは語っていた、もう判っただろう?と、それこそが君の求めた答えだと、そして君がこれから手にする力の正体だと。

そう、答えは既に藍染によって示されていたのだ、虚が昇華した存在を破面とするならば虚は一体何処に向かって(・・・・・・・)その存在を昇華させたのか、それこそが全て。

ゆらゆらと燃えるフェルナンド、一瞬の静寂の後フェルナンドが口を開く。

 

「なるほど…… 破面ってのは死神の逆、虚が魂魄の限界を破って力を得た存在、って訳だ…… 『 虚の死神化 』それが破面……かよ 」

 

「その通りだよフェルナンド。 君の隣にいるハリベルもそして広場にいたほぼ総ての破面も、僕の虚の死神化の技術を用いて破面化したんだ。破面とは虚が死神に近付き、人と同じ姿を得た者…… 虚の限界を超えその力の核をそれぞれの斬魄刀に封じた者、力の増加量はそれぞれだが弱くなる事はまずありえない。姿形が必ずしも人間のそれになる訳ではないが、力のある者はたいていは人型になる」

 

 

破面について藍染が語る。

死神がその限界を超えるために虚に近付くならば、その逆もまた然り、それを体現したのが虚が死神の力を得て進化した存在、破面であると。

虚としての力の核を斬魄刀と呼ばれる刀に封じる事で、彼等は化生としての外殻を脱ぎ捨て再び人の形になるという事。

そしてその力は往々にして破面化する前より爆発的に増大するという事。

 

虚を越えた存在、それが破面であると。

 

その説明を聞いたフェルナンドはしばしの間考える。

破面が虚の死神化によって生まれた事は理解した、だがそれで本当に強くなるのかがフェルナンドには疑問だった。

フェルナンドにとって死神は然程脅威ではなかった。

それは彼が戦った死神が席官に満たない者だった、という事なのだろうが彼にそれを知る術はなく、経験として戦った死神は皆弱く、そんなものに近付けば自身も弱くなってしまうのではないかと思うのも仕方が無い事だったのかもしれない。

 

 

「……本当に死神なんぞに近付いて強くなれるのかよ?そもそもその斬魄刀とやらに力を封じちまったら戦いづらくなるだろうが」

 

「私も不本意ながらその死神なのだがね。 死神にもある程度は力を持った者もいる、今の君を殺す事が出来るものも少なくは無いだろう…… そうだな、近付くというよりも死神の力を掌握する、とでも考えればいい。斬魄刀に関しては、力というものは常時解放していれば何時かは尽きてしまうものだ、虚の君たちは普段霊圧で力を抑えているがそれは余り効率の良い方法とは言えない。死神は刀の形に能力を封じる事で霊圧の消費を抑え、制御しやすくしているのさ」

 

「力の掌握に霊圧消費を抑える……ねぇ…… 」

 

 

自分の感じた疑問を真っ直ぐ藍染にぶつけるフェルナンド。

死神に近付く事、力を封じる事、それに何の意味があるのかと問う彼に藍染はそれぞれ利点を示す。

だがそれでも納得していない様子のフェルナンドを見た藍染は、小さく笑うと腰に挿した刀に手を伸ばした。

 

 

「いいだろう。 直接見せた方が早そうだ…… 」

 

 

そう言うと藍染は斬魄刀を抜き放った。

鈍色にしかし妖しく光るようなその刀身、まるでその刀も持ち主と同じように薄笑いを浮かべているかのよう。

そして引き抜いた斬魄刀を逆手に持ち直した藍染は、その手を身体の前で掲げる。

 

 

「これが私の斬魄刀だ。 破面達とは少し違うが良く見ておくといい…… 力の解放というのもがどういうものか。――砕けろ、『鏡花水月(きょうかすいげつ)』」

 

 

藍染が呼んだのは自らの斬魄刀の銘、『鏡花水月』という銘を呼ぶと同時に藍染の斬魄刀から濃い霧が噴出し部屋に一瞬にして充満する。

気が付けば足元の床には水が流れ、まるで床一面を覆う深い水溜りのように広がった。

一瞬の内に変わった景色に驚愕するフェルナンド、隣にいたはずのハリベルすら今は濃霧に阻まれてその視界に捉える事は出来ない、しかし驚きはそれだけでは終わらなかった。

彼の視界に藍染の姿が映る、隣にいるはずのハリベルの姿が確認出来ないというのに、それより遠い位置に居た藍染の姿は先ほどと変わらぬ位置でもしっかりと確認できる不思議、これもまた藍染の斬魄刀の能力という事なのだろう。

先程と同じ位置に藍染は立っていた、先程と変らぬ姿変らぬ表情、変らぬ気配と変らぬ霊圧で立っていたのだ、藍染が二人(・・・・・)とも。

 

 

「「どうだい? フェルナンド、これが私の斬魄刀『鏡花水月』の能力」」

 

「「辺りに立ち込める霧と足元の流水が光を屈折、乱反射して虚像を作り出す」」

 

「「霊圧知覚すら狂わせる霧の中で、虚像と実像が入り乱れ相手を同士討ちさせる」」

 

「「これが私の斬魄刀の能力だよ 」」

 

 

二人の藍染が同時に自らの斬魄刀について説明していた。

同時に動く二つの口から、同じ声が重なるようにしてフェルナンドへと語りかける。。

そのどちらも同じ笑みを顔に貼り付け、どちらからも霊圧や気配は間違いなく感じられどちらも本物と言って問題ない。

全く見分けがつかない二人の藍染、そして両者が全く同じ動きでその手に握る斬魄刀を鞘に収める。

刀身が完全に鞘へと収まると先程まで辺りに充満していた濃霧も足元の水もその総てが一瞬で消え去り、元の空間に戻っていた。

 

 

「どうだい? フェルナンド。 これが斬魄刀の解放…… ひいては私の力の核だ。 こんなものを常日頃から解放している訳にもいかなくてね。君とて常にその炎を全開にしている訳ではないだろう?効率の良い制御の方法が能力の斬魄刀化と思えば悪くは無いのではないかな」

 

 

自らの力、斬魄刀を解放してフェルナンドに説明した藍染。

フェルナンド自身死神に近づくという事に少し引っかかっていた程度の疑問だったため、これ以上追求しようとは思っていなかった。

彼が此処、虚夜宮に来たのはあくまで力を得るためでありハリベルを殺すという目的のため、今のままではそれは叶わずかといってこのまま破面化して直ぐ戦いを挑んでもそれは叶わないだろう。

破面としての力をつけ再びハリベルに挑む、それが今のフェルナンドの目的だった。

 

故に破面化というものが本当に信用足りえるか、力を手に出来るかが不安でもあったが考えてみれば隣にいるハリベルは破面だ、自分を破った者が破面という存在であるならば、その力は疑うものではないとフェルナンドは結論付けた。

 

 

(ハッ! 我ながら小せぇこった…… この女に勝つためにそれが要るてんなら迷う必要は無ぇじゃねぇか。理屈じゃ無ぇ、要は俺自身の問題だ )

 

 

破面というものがどういう存在であるか、という点が判ったという事はフェルナンドにとって収穫であった、何も知らぬままに流されるのは彼の性分に合わなかったからだ。

だが同時にフェルナンドは自分の小ささも感じていた。

破面化という未知の存在を前に僅かに足踏みする自分、そのなんと小さいことかと。

自分の目的は何か、自分が何故此処に来たのか、それを考えれば破面化が何だという理屈の部分はさして重要では無いだろうと。

重要なのは自分がどうなりたいか、どうありたいかという部分であり、どんな手段であろうがそこで力を得られるかどうかは全て自分自身に起因するもの。

ならば迷いなど不要であり、必要なのは何が起ろうとも力を求める強い意思力だけだと。

 

 

「判った。 さっさと破面化とやらを始めてくれ」

 

「あぁ、いいとも…… では破面化の術式を開始するよ。なに、時間は掛からないさ。 ……次に目覚めるときは君もハリベル達の同胞だ」

 

 

フェルナンドは破面化することを藍染に告げる、元から破面化しないという選択肢など存在しないのだ。

そのフェルナンドの言葉を受け藍染が片手を軽く上げる、するとフェルナンドを囲むように紫電を纏った細く黒い柱が床から飛び出した。

それに四方を囲まれたフェルナンドを次は、白い正五面体の結界が包み込む。

フェルナンドを包み中空に浮かぶ結界の中は見えない、柱に囲まれた中の結界はゆっくりと時計回りに回転し、柱の放つ光を反射している。

 

 

「藍染様、これは…… 」

 

 

今まで見た事が無い破面化の術式にハリベルは藍染に戸惑いの声をかける。

彼女の知る破面化の術式は特殊な霊布によって対象を拘束し、その上で結界で囲んだ後施されるものだった筈だが、このフェルナンドに対して行われているそれは明らかに通常とは異なっている。

藍染はハリベルのその声に「あぁ」と笑いながら一言呟くと、二人の目の前で回転する結界について説明し始めた。

 

 

「これは初めて使う術式でね…… 本来破面化というのは簡単に言ってしまえば大虚の肉体を虚のそれから死神に近い存在へと組み替る様なもの。だがフェルナンドにはその肉体がない…… 故に今回は通常の破面化以外にそれを再度構成しなければいけないのさ。破面化の技術自体は既にほぼ確立しているし、それほど危険を伴う術式は組んでいないよ。私としてもこんな事で彼を失うのは惜しい(・・・)からね」

 

 

そう説明する藍染の瞳にはしかし、明らかに好奇の感情が浮かんでいた。

何事も無く終わっても良い、何か起こってくれても良い、どちらに転んでも構わないといったその眼。

ハリベルの懸念を払うようではあるがだからと言って彼がこの術式を止める事は無い。

何故ならこれは彼にとって必要なことだから、フェルナンドの破面化は藍染にとって意味のあるものに他ならず、そう考えるとこの術式によってフェルナンドが何かを損なうことなどある訳が無い、とも言えた。

 

 

 

 

 

フェルナンドが五面体の結界に包まれて数刻が経った。

依然結界はゆっくりと回転し、黒く細い柱には紫電が纏わり付きときより紫電は思い出したように回転する結界に伝わる。

静寂に包まれる部屋の中には、紫電から発せられる乾いた破裂音だけが響いていた。

 

 

「そろそろ仕上げるとしようか…… 」

 

 

藍染の呟き、それと共に状況は一変した。

ゆっくりと回転していた結界は徐々にその回転を早める。

柱に纏わり付いていた紫電は一斉に結界へと向かい、紫電が結界へと衝突する事で激しい光を発していた。

衝突によって生まれたエネルギーが風を巻き起こし、部屋の中を駆け巡る。

その風の中心で結界は更に回転をまし、回転が早まる事で五面体の角が徐々に残像によって消え、結界は球形へとその見た目を変えていく。

 

 

「さぁ…… 生誕の時だ、フェルナンド・アルディエンデ」

 

 

吹きすさぶ風の中藍染はただ結界に正対し、笑みを浮かべながら彼の再誕を祝福する。

回転する球体、そしてそれに降り注ぐ紫電の雨、そしてその衝突に耐え切れず遂に球の結界は罅割れ、硝子が割れる様に崩壊した。

 

砕けた結界、その中から現れたのは人だった。

浮かぶようにして存在した結界が壊れたため、そこから放り出されるようにして現れたその人影。

意識が無いのだろうか力の入っていない手足を放り出す様にしたまま床へと落下していく。

数瞬の後その人は床へと激突するだろうと思われたその人影を、いち早く飛び出したハリベルが間一髪で受け止め床への激突は回避された。

 

ハリベルに抱き抱えられる様にしているその人影、意識を失い眠っているかのようなその姿はハリベルと同じ黄金色の髪、眉も睫毛も黄金で短めのその髪は逆立ち後ろへと流れていた。

その身体は線が細く痩せ型で、筋肉も余り付いていない身体は見た目以上に軽く、力を入れれば容易く壊れてしまいそうな程。

顔には左の眉から、コメカミの辺りを通って左目の下を沿うように存在する仮面の名残、それは彼が破面であるということを証明するものだった。

顔立ちはなかなか端正で、その額の中心には紅い菱形の仮面紋(エスティグマ)が残っていた。

 

 

「フフッ…… 面白い…… 」

 

 

ハリベルの腕の中で眠るその“ 少年 ”を見て藍染は、今日一番の暗い笑みを浮かべるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

巨大な力

 

紅の鬼童子

 

立ちはだかる金の女神

 

振るう力の行き着く先は……

 

 

 

 

 

 

 


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