BLEACH El fuego no se apaga.   作:更夜

93 / 106
BLEACH El fuego no se apaga.83

 

 

 

 

 

グリムジョー・ジャガージャックと黒崎 一護の戦いが激化の様相を呈してきたのと時を同じくして、もう一つの戦場もまた加速を見せていた。

三体の破面(アランカル)と四人の死神、空座(からくら)町郊外にある林の上空で対峙した両陣営は集団では無く個々に別れ、それぞれに戦場を形成する。

巨漢の破面 ヤミーと対峙する日番谷(ひつがや)冬獅郎(とうしろう)、小柄で少年のような見た目の破面ルピには松本 乱菊(らんぎく)綾瀬川(あやせがわ)弓親(ゆみちか)の二名が、そして残った明らかに自分やる気ありませんといった雰囲気の破面サラマの前には斑目(まだらめ) 一角(いっかく)が嬉々とした表情で刀を構えている。

だが戦況は何処も一進一退、という訳ではなく、破面勢はその強大な霊圧と身体強度をもって徐々に死神達を圧しはじめていた。

 

と言ってもそれは三つの戦場のうち二つまでの事であるのだが。

 

 

「おっと! いや~今のは危なかったねぇ死神サン。一呼吸遅ければ俺の首と胴はオサラバ、ってやつでさぁ」

 

「ハッ!! 余裕で避けてるヤツが何を!! 」

 

「そう見えるんなら儲けもん……てね! 」

 

 

攻め立てるのは死神である斑目 一角、その攻撃を紙一重で避わすのは黒髪に巨躯の破面サラマ・R・アルゴス。

順手に握った斬魄刀と逆手に握った黒塗りの鞘の連撃をもってサラマに迫る一角、荒々しく力強いその斬撃には時折その荒々しさに隠れた強かな一撃が見え隠れする。

それを紙一重といった様子で避わし、どうしても避けきれない斬撃は右手に逆手で握った刀で受けるサラマであったが、その表情や態度に焦燥は見えない。

口では危ないと言いながらも言動からは余裕が見て取れ、何より戦いの最中にベェと舌を出している様は今、彼の口をついて出た言葉に真実を見出すには難しいものだった。

 

だが剣戟の中そのふざけたサラマの態度にも一角は怒りを見せず、それどころか嬉々とした表情は尚深まっていくばかり。

一角からしてみればサラマの口をついて出た言葉よりもその行動、自分の攻撃をこうまで避わしてみせる彼の技量の方が興味を引くのだろう。

始めから圧勝できる戦いよりも、その過程がいかに楽しめるかに重点を置く一角からすれば、サラマは強敵の部類。

そして例え命を賭けた戦場の中であったとしても、それを楽しむのが斑目一角なのだ。

 

袈裟切りから胴への刺突、脚払いを狙った後逆風、鞘の後を同じ軌道で間合いだけを変えた刀が奔る等の一角が繰り出す多様な攻撃の数々、だがその全てがサラマを捉えるに至らない。

見えているのか或いは読んでいるのか、余裕をもった表情は崩さず怒涛の攻撃を避け続けるサラマ。

しかし攻撃を避わし続けるサラマに攻め気は見えない。

元々望んで来た訳でもない戦場で戦う心算もないのに敵に襲いかかられる現状、始めからマイナス方向に振れているやる気が、そう易々と逆転する訳もないと言ったところか。

 

更に普通に考えればサラマ以外の二体の破面は、一介の大虚や下位の破面が名を聞くだけで震え上がる十刃(エスパーダ)、放って置いても彼等の戦場は直に片付く、となればサラマが戦わずとも全体の戦況は優位に傾き勝敗は自ずと見えるというもの。

戦いの定石とは一つ“数の利”であり、その通り行動するならばここで無理にサラマが一角と戦う必要は無い。

要は既にこの戦場の結末は見えているのだ、故に彼が戦う必要もない、時間さえ稼げば後は勝手に流れていく。

 

破面の勝利、という結末に。

 

 

「オラ! どうした破面! 避けてばかりじゃお前だってつまらねぇだろう!!」

 

「そんな事ないさね。 死神の太刀筋ってのはあんまり見る機会が無いからねぇ、間近で(・・・)見ると勉強になるってもんだ」

 

「 ヤロー…… ぬかしやがるぜ! 」

 

 

会話の最中も一角の剣戟が止む事はない。

攻め立てる左右に握った剣と鞘は、一角の内面をよく顕し熱く滾るようだった。

対して飄々と一角の斬撃を避け、或いは刀で受け止めるサラマ、刀と言ってもその長さは通常のものよりもやや短く、しかし脇差と呼ぶには少々長い代物、長さはフェルナンドの鉈状の斬魄刀に近いのだが、こちらは刀としての拵えがなされている為分類は小太刀になるだろう。

それを巧みに操る様は彼の大柄な身体つきには似合わぬ技巧に溢れ、ともすれば力押しになりがちな破面の中では少々毛色が違うものだった。

 

 

(随分とまぁ楽しそうに…… 判っちゃいたが、これはどう考えても戦って死ぬなら本望って類の御人らしい…… )

 

 

迫り来る一角の斬撃を避わしながらサラマは彼を分析する。

流石にそこまでの余裕が彼にあるとも思えないが、器用にそういう事をこなせるのがこのサラマという男、捌き避わしながら攻撃を繰り出す一角の表情や気配を観察し行き着いた結果は、まぁある意味わかりきったものだった。

そう、初めから判っていたのだ、この目の前の死神、斑目一角と名乗った死神は彼が着き従う男と似通った類の男だと。

戦いに生きる、戦いを求める、何かを得るための手段として戦いしか知らずその他を探す事をしない、他所に目を向けることを惜しみ戦いに没頭し埋没する類の男、それが目の前の男であると。

 

 

(割に合わない話だ。 来たくも無い戦場、戦う心算もないのに戦闘開始、極めつけにその相手はニイサン紛いの戦闘狂……か。まったくもって割には合わないねぇ…… )

 

 

どう考えてもサラマには貧乏くじだった今回の侵攻。

彼の言う通りこの場は彼にとって来たくは無かった戦場であるし、上手く戦闘から離脱を図ろうとしていたにも拘らず結局それも水の泡、おまけにその相手が主であるフェルナンドと同じ類の戦闘狂ともなれば、最早彼の不幸も極まりつつあると言えるだろう。

一角の横薙ぎの斬撃を飛び上がり彼の頭上を越える様にして避わしたサラマ、一角と距離を置いた彼は表情には出さず内心盛大な溜息を漏らす。

 

 

(それでもまぁ、こうなっちまったらなんやかんやで律儀に御仕事しちまう…… ってのが俺の悲しい性、ってやつかねぇ…… )

 

 

態度は余裕を崩さず、内心は嫌々ながらそれでもまぁ仕方が無いと己を納得させる自分に溜息を零すサラマ。

誰も彼もが自分を貫き通すことしか知らず、他人に合わせる事や間を取り持つ、或いは双方の妥協点を見出すなど自分以外の誰かを意識する事が出来ない破面という種族にあって、サラマのこういった性格は非常に稀有なものだろう。

それ故に彼は常に貧乏くじを引く羽目になるのだが、彼自身自分のこういった性格は厄介だと自覚しながらも、どこか仕方が無いと諦めている節もあるようだ。

 

他の戦場は彼等のそれとは違い破面側が未だ優勢、放って置いても決着はそう遠くは無いだろう。

だが順調に推移する戦況の中、サラマはその“ 順調 ”という言葉に激しい違和感と疑いを感じてもいた。

サラマに浮かんでいた考え、それはあの十刃二人が戦闘に勝利して後自分に加勢する保障(・・・・・・)はどこにもないのではという事。

ルピの方はその性格上相手をいたぶる事に快感を見出すため、ヤミーよりも決着に若干時間を要するだろうし、ヤミーはヤミーで目当ての敵が居る様子であるためそのまま他所に向かう可能性もある。

集団での戦闘に措いて、普通に考えれば味方に加勢する方が全うな筋道に思えるがしかし、破面相手にまっとうな筋道など期待するほうがおかしいのかもしれず、おそらく期待は淡く消えるからこそ期待であり、この二体の破面相手ならばそれは既に確信の意気に達するのだ。

 

 

(状況も状況、腹は括っといた方がイイ……か。割には合わないが…… 逃げて敗けるってのも格好がつかんでしょう。なら、割に合わなくてもここはサッサと終わらせて帰らせてもらうとしますか……ねぇ)

 

 

元々他力本願の帰来があるサラマ、とりあえず戦況を長引かせれば後はどうとでもなると思っていたが、よくよく考えればそれは間違いだと気がつくのに要した時間は彼らしからず思いの外長かった。

それは一重にこの戦闘が彼の自発的な行動の末ではない、ということに起因するのだろうが今は言及する時ではなく。

腹を括った様子のサラマは一角に正対したまま腰を今までよりも僅か落とし、肘を曲げたまま前に伸ばした腕を小太刀を握った右手を左手よりも若干上の位置で前に出し構える。

先程までと然程見た目が変わったわけではないサラマの構え、しかし振り返り彼の姿を見た一角は、口の端をニィと吊り上げた。

 

 

「何だァ? ようやくヤル気(・・・)になった、ってか?」

 

「……えぇ、まぁ。 御恥ずかしながら、どうやら時間稼いでも意味が無さそうだって事に今更ながら気が付きましてねぇ。仕方なく……ってやつですよ 」

 

「理由なんかどうでもいいぜ。 これでようやく楽しめそうだなァ、俺も…… お前もよォ!! 」

 

 

サラマの僅かな変化、しかしそれを敏感に感じ取った一角の嗅覚。

戦いの気配を嗅ぎ分ける本能的な才覚それが一角に告げているのだろう、これからがお前の求める命賭けの戦いになると。

ここからが一角そしてサラマにとっての本当の戦い、そして戦いの本来あるべき姿である殺し合いの始まり。

滾りを見せる一角とあくまで余裕の表情をつらぬくサラマの本当の戦いは今始まった。

 

 

 

 

 

 

――――――――――

 

 

 

 

 

 

「グッ……! くそッ……! 」

 

 

膝を付き倒れそうな身体を手に持った刀を突き立てる事で何とか堪える。

額から流れた血が眼に入り視界を奪うがそれでも敵から眼を離す事は出来ない、何故ならここは戦場であり彼はその渦中に居るのだ、敵から眼を離す事はそのまま死に繋がると言っても過言ではないだろう。

綾瀬川 弓親は死神そして、戦闘者としての矜持でもって今倒れる事だけは出来ないと必死にそれを堪え前を睨む。

彼の眼に映るのは小柄で黒髪、少年のような外見をした一見ひ弱そうな破面。

しかしそれは見た目だけの話し、その戦闘力は明らかに前回彼の目の前で友人である一角が倒した破面より上であり、何より自分相手に刀すら抜かずにいるのがいい証拠だと内心愚痴る。

 

 

「あれあれ~? ちょ~っと弾いた(・・・)位でもうそんなにボロボロな訳ぇ?勘弁してよ死神のおにーさん、ボクまだ刀も抜いてないんだけど~」

 

 

弓親の前方で肩をすくめるようにし、心底信じられないといった風でニヤリと笑う破面ルピ。

自分と相手の実力差をその手で確認したうえで相手を詰る様な言葉をぶつける彼、その一言で判るとおり相手を身体的、そして精神的にいたぶる事に快感を見出しているのは明らかだった。

 

 

「ッ! ちょっと弓親! 大丈夫!? 」

 

「へ、平気さ、この位なんて事……ない…… 」

 

「あんた全然平気そうには見えないわよ! 仕方ないわ、こうなったら二人同時に…… 」

 

 

膝を付いた弓親、その彼のすぐ傍に瞬歩で現われた乱菊は弓親に肩を貸そうと駆け寄るが、弓親は乱菊を片手で制するとほんの少しよろける様になりながらも立ち上がり、再びルピに向かって刀を構えた。

しかし立ち上がった弓親の状態は傍目から見ても悪く、表情は険しく息も浅い、それを見て取った乱菊は弓親一人では無理だと判断し共闘を申し出ようと再び彼に手を差伸べる。

一人で駄目ならば二人、死神の上位席官ともなれば如何に隊は違うと言っても即興の連携くらいはお手の物、強敵を前にしての乱菊のこの選択は至極全うなものだった。

 

 

「駄目だ!! 」

 

 

しかし乱菊の申し出は彼女がそれを言い終わるよりも早く遮られる。

乱菊の言葉を遮ったのはやや荒げられた弓親の声、視線はルピから外さずしかし乱菊に対して明らかな拒絶を孕んだ声を向けた弓親は、息を整えながらと声を荒げた事を謝ると、拒絶の真意を語り始めた。

 

 

「ごめん、乱菊さん 。 ……でも駄目だ。二対一は……美しくない(・・・・・)。 ……乱菊さん、僕は護廷十三隊十一番隊の…… 更木隊の席官なんだ。 だから…… 加勢は要らないッ」

 

「弓親…… 」

 

 

弓親の言葉は虚勢は自尊心によるものではなかった。

護廷十三隊十一番隊、護廷きっての戦闘部隊を自負する彼らにとって戦闘とはある種、神聖なもの。

どれだけ自分の命が危機に晒されようと、そしてどれだけ仲間の命が危機に晒されていようとも助ける事は、加勢することは彼ら十一番隊では許されない。

それは非情なのではなく誇りだから、戦いに生き戦いに死ぬ、そして誇りとはそれを本望だと言って死んでいく為に必要なのだ。

“ 美しい ”というものに人一倍の拘りを見せる弓親にとって、誇りを失った戦いはどうしようもなく美しさに欠け、故に彼は乱菊の申し出を断った。

 

全ては彼が十一番隊、更木隊の隊士であるという誇りの為。

 

 

「何かカッコよく決めてるとこ悪いけどさ~、キミ等の状況はまったく変ってないんだけど~。おにーさんそ~んなに早く死にたい訳ぇ? 命は粗末にしちゃいけないんだよ? ……ア・ごめ~ん、死神の命なんて元から粗末だから関係なかったね」

 

「あんたッ……! 」

 

「そんな怖い顔しないでよ死神のおねーさん。そんな怖い顔されたら僕、怖くて怖くて…… 笑いが止まらなく(・・・・・・・・)なりそうだよォ?プッ、ハハハハハハ! 」

 

 

弓親が見せた誇り、それにアッサリと泥を塗って見せたその笑い声の主。

嫌らしい流し目で見下し嘲うかのようなルピの態度と言動、傷を負った弓親の姿も乱菊の険しい表情もそれら全てルピにとっては快感をソソる要因でしかなく、故に笑いは止めど無くこみ上げる。

なんて滑稽なのだろう、なんて不様なのだろう、そしてなんて弱いのだろうと。

それを笑うなと言う方がどうかしている、それとも嘲る以外に何かするべき事があるのだろうかとすら思うルピ。

腹を抱えるようにして笑うその姿は何処までも無防備だったが、そうしていても自分が敗ける事はないという自信の裏返しにすら見える姿。

弓親、そして乱菊にとっては苦いものでしかないそれは屈辱にも似た感情を彼らに刻んでいた。

 

 

「くっ…… ッ!! なっ…… 何よ、この霊圧…… 」

 

「大きい、それに……重い…… 」

 

 

苦さを浮かべていた乱菊と弓親の表情が突然驚愕に染まる。

それは彼らを突如として襲った霊圧によるもの、正確には余波ではあったがそれでも霊圧の強大さを語るには充分なそれ。

余波でこれほどの重圧と、押し寄せた波は彼を戦慄させるに足るもので傷を負った弓親にとっては堪えるものだったろう。

 

 

「あれ? 何だよ、グリムジョーのヤツ“解放”しちゃったのか。アハハ! 誰が相手か知らないけど意外と必死じゃん、笑える~。 ……にしても少し辛そうだねぇ、死神のおにーさんとおねーさん?」

 

 

弓親等が感じた霊圧は当然この戦場に立つ者全てが感じ取っていた。

サラマと一角、ヤミーと冬獅郎、そしてルピ。

弓親達からすれば知らぬ霊圧の波であったそれもルピ達破面からすればある程度知っているもの、感触からそれがグリムジョーのものと判断した彼はこの程度の任務で解放を余儀なくされたのかと、ヤミーやサラマの眼を憚ることも無くグリムジョーを馬鹿にする。

相手は誰かは判らないが所詮は死神だろうし、強いといってもどうせ目の前の死神に毛が生えた程度だろうと決め付けたルピ、それは大きな間違いであるのだが今の彼にそれを知る術も無く。

そして何より彼の眼が捉えたのは余波を受けた際の死神の表情、僅かの戦慄とその後曇った彼等の表情をルピは見逃さなかった。

まるで先程よりも尚面白いものでも見つけたようにニヤリと笑い、弓親と乱菊へと一歩近付いたルピ、その瞳はこの後の出来事に胸躍らせるように怪しく輝く。

 

 

「ふ~ん。 今ので(・・・)そんな風なんだ…… じゃぁさぁ、アレが今みたいな余波じゃなくて……目の前で(・・・・)起ったら、どんな表情(カオ)を見せてくれるのかなぁ?」

 

 

怪しさを湛えた瞳、そして喜色に彩られた声、どうしようもない快感に打ち震えるようなルピの姿。

見てみたい見てみたいとせかす衝動を内にしながらそれでも急く事はなく、ゆっくりと真綿で首を絞めるように相手を苦しめる彼の言葉、そしてその言葉が意味しているところなど一つしか無い。

ルピが余った袖で隠れた手で斬魄刀を握り少しずつその鞘から刀身を引き抜いていく。

ゆっくりとゆっくりと、じらすようでしかし秒読みのようにゆっくりと。

 

 

「そいつを止めろ!! 松本! 綾瀬川!! 」

 

 

その動作に魅入られたかのように動けなくなっていた弓親と乱菊は、その声でハッと現実に引き戻された。

声の主は彼等がよく知る日番谷 冬獅郎のもの、ヤミーと戦っていた彼ではあるが先程の霊圧と弓親らの方向で高まる破面の霊圧を感じ取ると、それが何を指すのかを瞬時に判断し弓親らに叫ぶと共に自らも彼らの方へと急ぎ向かう。

だがしかし、そう易々とその場を離れさせてくれるほど彼が相手をしていた破面は優しくはなかった。

弓親と乱菊の下へと急ぐ冬獅郎の行く手を遮るようにして現われた巨漢の破面ヤミー、こちらもルピに負けずニヤリと笑いながら「逃がさねぇぞ、チビ助」と冬獅郎に立ちはだかる。

ヤミーに阻まれた冬獅郎は舌打ちを一つし、その姿を見た弓親と乱菊は冬獅郎の言葉通りルピの解放を止めるべく動こうとするがそれは遅きに失した。

 

 

「ざ~んねん。 お・そ・い・よ。 ……(くび)れ、『蔦嬢(トレパドーラ)』!」

 

 

言葉と共にニヤリと笑ったルピ、その笑みだけが弓親と乱菊の眼にはいやに焼きついていた……

 

 

 

 

 

――――――――――

 

 

 

 

 

(ッ! この霊圧…… いいぜェ、やっぱり只者じゃねぇのばかりだな、破面ってぇのはよォ!)

 

 

サラマと対峙した一角、彼が感じ取った霊圧は他の者達にもとどいたグリムジョーのそれだった。

ただの霊圧の余波であるにも拘らずはっきりと感じ取れる濃さと強さ、それだけで一角の口元はまた一段つり上がる。

一月前に戦ったエドラドという名の破面もそうであるしこうして感じている破面も強敵であると呼ぶに相応しく、そしてようやくやる気になった様子の目の前の破面もそれに列する事が出来る猛者であると一角は予感していた。

 

 

「そういえば戦う前に名乗るのが死神サンの流儀、でしたっけねぇ?なら一応名乗っておきますか…… 破面No.nada サラマ・R・アルゴス 」

 

「そうかい。 ならこれでお互い心置きなく戦えるってもんだ!!」

 

 

一角の叫びが始まりの合図だった。

サラマへと一直線に飛び出した一角、虚実などまったくなしに振り被られた刀は瞬間振り下ろされ、それを受けたサラマの刃との間に激しい火花を散らす。

その様はまさしく一気呵成、振るわれる刃には一層の殺気が乗り、先程にも増した勢いでサラマを攻め立てる。

しかしサラマも一角の勢いに圧される事なく冷静に右手の刀で一角の攻撃を防ぎ続けていた、一角の手数は何故か鞘による攻撃が減った事で少なくはなっていたが、サラマはサラマで先程まで避ける事に重きを置いた戦法を避けながらも刀で受ける方向に変えたため、傍目に状況の変化は少ない。

だがその変化は非情に大きいものなのだ、少なくともサラマが避ける事から受ける事に戦い方を変えた、という事は大きい。

 

 

「シッ! 」

 

 

一角の上段からの斬撃を逆手に持った小太刀で受けると、それを弾くのではなく尚踏み込んで圧したサラマ。

刀の刃同士が擦れ合い飛び散る火花、凌ぎを削っていた刃は根元での鍔迫り合いに変化し拮抗する。

その直後吐かれた短い気勢、それと共に動いたのはサラマの右腕だった。

今までよりも若干詰められた二人の間合い、僅かなものではあるがその僅かな間合いが戦いの趨勢を分ける。

気勢と共に最短距離を疾風のように奔ったのはサラマの掌底、その巨躯に見合わぬ速さ、そして見合った力の篭った一撃は、それらを幾分も落とす事無く一角の顔面目掛けて打ち込まれる。

 

 

「……なるほどなァ。 刀で受けて間合いを詰めたところを素手で仕留める……か。面白れぇ戦い方じゃねぇかよ、えぇ? 」

 

「……お互い様でしょう? その鞘…… 本来は防御用、って事ですかい…… 」

 

 

サラマが放った刹那の一撃、疾風の如き掌打が巻き起こした風が吹き抜けるがしかし、その一撃が一角に打ち込まれることは無かった。

寸前のところで割って入った彼の腕と鞘、逆手に握られたそれがしっかりとサラマの掌打を受け止め、一角の頭部を打ち抜くことを防いでいたのだ。

サラマの戦法は敵の攻撃を刀で捌き防ぎ、間合いを詰めたところで近接戦闘によって敵を討つ方法、先程まで避けていた攻撃を受けるようになったのは避けたままでは間合いが詰められないから、この標準的であるとは呼べない戦法は、しかし標準的でないが故に初見で防ぐには窮するものだろう。

だが一角はそれに反応し防いで見せた。

彼の戦い方も本来は刀による攻撃と鞘による防御からなるもの、先程までとは違い戦法を本来の戦い方に戻していた事、何より不意の一撃に反応して見せた一角の戦いへの嗅覚と才覚。

片方は鍔迫り合い、もう片方は鞘と掌の押し合い、近い間合いで止まりながら話す二人の様子は気軽なものにも見えるがその実小刻みに動く腕の筋肉は双方共に力による押し合いがなされている事を暗に感じさせる。

 

 

「そっちは刀が防御役か?白打の使い手なら潔く素手喧嘩(ステゴロ)でもしたらどうだよ」

 

「冗談やめてくださいよ。 刀相手に丸腰でなんて馬鹿げてるしそんなもんは狂気の沙汰だ…… それに無手で相手の刀受けるなんて事、誰だってやりたかないでしょう?」

 

「そうでもねぇさ。 それはそれで楽しそうだしなァ!!」

 

「ケケ。 こいつは…… 訊いた俺がバカでしたかねぇ!」

 

 

鍔迫り合いの刀と刀がガチガチと音を立てる最中、二人はニィと笑う。

一角は楽しさのあまりに、そしてサラマは普段通りの不敵さ故に。

交わしあう言葉はとても殺し合いの最中とは思えない気軽さを見せ、そこに武器と殺意さえなければ友人のそれとも取れるかのよう。

しかしそれはどもまでも幻で、彼ら二人が立つのは武器と殺意以外が介在しない戦場なのだ。

楽しさを滲ませる一角と、その一角を相手にまたもベェと舌を出し、本心を煙に巻くかのようなサラマ。

 

均衡を保っていた鍔迫り合いと掌と鞘の押し合いは会話の終わりと同時に破れ、両者共に弾かれるようにして再び距離をとる。

そして着地と同時に再び空を蹴ると瞬時に間合いを詰め、またしても二人の間で激しい攻防が始まった。

先の一連の攻防で相手がどういった戦い方をするかはおおよそ見当が付いた二人、そうなればそれに対する対策を講じつつしかしただ対策を講じるだけではいずれ守勢にまわるのは明白、互いに相手の先を読みつつあくまで攻勢は緩めないような戦い。

 

一角は右手の鞘でサラマの攻撃を防ぎつつ左手の刀でサラマを斬り伏せんとする。

激烈な打ち込みと並外れた体捌き、隊長、副隊長に次ぐ十一番隊三席の名に恥じる事のない実力者は、破面という存在を知って一月、あくなき戦いへの衝動によって確実に力を付けていた。

対するサラマは一角の猛烈な剣戟を右手の小太刀一本で器用にも防ぎながら避わし、刹那の間で掌打を主体とした打撃を繰り出す。

掌打そのものだけでなく掌が通過する周辺を根こそぎ削り取るような強烈な攻撃は、通常なら一撃で相手を倒せるであろう威力を有し、それは幾度も一角に襲い掛かる。

 

刃のぶつかる甲高い音と飛び散る火花、肉が斬れ或いは打たれる鈍い音、雄叫び、霊圧同士が鬩ぎ大気が啼く。

最初の激突から後、互い決め手に欠けながらそれでも少しずつ相手の身体を捉える攻撃はしかし決定打には程遠く、斬撃を繰り出す刀も掌打を打つ掌もまだその多くを血に染めてはいない。

 

 

「うぉらぁぁ!! 」

 

 

ぶつかり離れてを繰り返して既に数合、跳びあがり気合の叫びと共に上段から刀を叩きつける一角。

口の端から血が滲みながらも彼の顔には戦いを楽しみ満喫している笑みが浮かび、眼は見開かれそれにはサラマしか映されていない事だろう。

だが上段から叩きつけた刃はしかしサラマの小太刀によって防がれ、今までと同じように彼を斬り伏せるには至らない、サラマの方もそれは判っているのか大振りであったために出来た一角の隙を突いて掌を繰り出そうと構える。

 

だが今回の一角の攻撃はこれだけで終わらなかった。

 

防がれた自身の刀を見てニィと笑みを深めた一角、その笑みを見たサラマが訝しむよりも早く一角は左手の鞘をそのまま刀身の背に叩き付けたのだ。

今まで等分の力で均衡を保っていた一角の刀とサラマの小太刀、サラマは掌打での攻撃を主体とする戦法ゆえ、敵の攻撃と己の防御をある程度拮抗させ、敵を自身の攻撃範囲にとどめる、という調整を行っている。

しかし、その均衡を破壊する力が鞘から刀身へと移りサラマの小太刀を押しきらんとし、その衝撃は彼等を中心に放射状の突風を生んだ。

 

 

「ようやく|まとも(・・・)なのが入ったみてぇだな。だが今のでその程度かよ…… やっぱ硬ぇな、その鋼皮(イエロ)とかってのは」

 

「……ケッケケ。 硬い、って言いながら斬ってるんだから始末に終えないですねぇ…… 」

 

「硬いが斬れねぇ、と言った覚えは無ぇ。それに戦の傷だぜ? 誇りに思えよ 」

 

「嫌ですよ。 薄皮程度なら別ですが、それなりの手傷なんて誰が欲しがるもんですかい。俺は無傷の方が好みなもんで 」

 

 

大気を吹き飛ばしたような突風、一角とサラマの衝突が生んだ衝撃波、そんな一角の全霊の一撃をいかなサラマといえど片手だけで防げるはずもなく。

風と霊圧同士の衝突で生まれた煙状の濁った霊子が晴れ、見えたサラマの胸の辺りの死覇装は縦に切り裂かれ、そしてそこから赤い染みが広がっていった。

軽口を叩いてはいるが先に傷を負ったのはサラマ、直にでも戦えないという深い傷ではない、しかし戦況がどちらかに傾く兆しとしては充分な一撃が彼の身に刻まれ、僅かに血が滴る。

 

 

(……正直驚きですねぇ。 ……あの踏み込みから更に防御を捨てて鞘で強烈な打ち込み、倍掛けで鋼皮の硬度を上回る威力…… 下手打てば自分の方が危ないでしょうに…… いや、本当に怖いのは今のをしくじって死んでも構わない(・・・・)ってところか…… 甘く見てた心算は無かったですが、こいつはコッチももう少し真剣にやらなきゃマズそうだ…… )

 

 

表情はあくまでニヤリと余裕をつらぬき、しかし自身の現状は正確に把握したサラマ。

滴る血は徐々に上着を赤く染めていく、不用意だった訳ではないがしかし負ってしまった傷、そしてサラマが思うのは自分の失態よりも一角の力だった。

鞘による追撃、まったく想定していなかった訳ではないそれは、しかしあの場面ではものの見事に決まったといっていい。

あのタイミングで鞘を防御から攻撃に回す事は、一歩間違えれば防御が間に合わず、そのままサラマの掌打をもろに喰らう結果さえありえた事、その刹那を見切り一瞬の迷いもなく攻勢に転じた一角の才覚、それがサラマが負った傷の正体であり彼が舌を巻くもの。

戦いの中更に強くなるかのような一角、戦いを楽しみながら更に力を増していく彼を前に、サラマは会話の最中ベェと出していた舌を引っ込めた。

 

 

「さて、コッチばかりいいのを貰ってるんじゃ見栄えも悪い。 ……そろそろアンタにも一発、いいのを喰らってもらうとしますか……ねぇ」

 

「いいぜ、やってみせろよ。 そん時は倍にして返してやるぜぇ!!」

 

 

口調はあくまでもいつも通りに、しかしその眼だけがスッと細められる。

幾分真剣みを増したその顔は普段よりも精悍に見え、煙に巻かれたサラマの本性が垣間見えた気がした。

対する一角は激しさを増し、見開かれた眼は楽しくて仕方が無いというまるで童心に返ったかのよう。

彼にとって戦いとは勝つものではなく楽しむもの、それで死ぬなら本望であるし生き残ったならツイていただけ、単純ゆえに強い思考、余分なものが無いからその分突き詰められた戦いへの欲がサラマへと向けられる。

 

 

同時に強く空を蹴りそして同時に互いの距離を詰める二人。

激突までに掛かる時間は僅か、瞬きの間に互いの間合いへと侵入した二人は素早く攻防を開始した。

斬撃掌打の応酬、相手を完璧に捉えるに至らない攻防は呼吸すら許さぬ緊迫感の中続けられ、頬を掌が掠めようが刃が薄皮を切り裂こうが止まる事はない。

歯を剥き出しにしてニィと笑いながら戦う一角と冷たさにも似た静けさを纏うサラマ、今や対照的となった二人は反発しながら引かれる様に刃と掌の乱舞を演じる。

 

だがその乱舞は永遠には続かない。

 

僅かに鈍ったサラマの動き、傷は浅い、しかし傷の深さよりも傷を負っている、また負わせたという気勢の部分は別。

斬った方の気勢が自然と昂ぶるのと同じように、斬られた方の気勢は意識せずとも僅かに落ちる。

戦況、場の流れ、そういった目に見えないものがしかし、真剣勝負には確かに存在するのだ。

そしてそれを見逃すほど一角は甘くない。

ほんの一瞬遅れたサラマの掌打、打ち出しが遅れたそれは今この瞬間に措いては隙でしかなかった。

 

 

「ぅらぁぁあ!! 」

 

 

一意専心、ただサラマを斬るというそれだけが乗った刃、僅かな遅れ僅かな隙、戦いを決するのはいつの時もそんな極僅かなものであり、そして呆気なく訪れるもの。

迫る刃に小太刀は動かず、そのままでは今度こそ致命的な一撃を貰うであろうサラマ。

俯き表情は見えず、黒い髪が更にそれを覆い隠す、その奥にあるのは諦めの表情か或いは死への恐怖なのだろうか。

 

振り下ろされる一角の刀、それに今更反応するように動くサラマの身体だが時既に遅く小太刀の防御は間に合わず、相討ちを狙っての掌打も既に一角の身体には届かないだろう。

これは決着の瞬間、何をしても防げずどう足掻こうが届かぬのならば待っているのは決着なのだ。

 

 

そして宙に鮮血は飛び散った。

 

 

ポタリポタリと切先から遥か下の町へと滴る赤い雫、数瞬前とは打って変わっての静寂が包む戦場。

傷口からはドクドクと音を立てるかのように鮮血が流れ傷の深さを示し、それでも倒れないのは矜持かそれとも興奮が痛みを感じさせていないのか、至近距離に立っていた二人の内一人がその場を飛び退くように距離を置き、もう一人はその場に残り視線を落として斬られた脇から鳩尾の辺りを見ると距離をとった方に再び視線を戻してニヤリと笑った。

 

 

「……やるじゃねぇか、破面よォ(・・・・)

 

「言ったでしょう? いいのを喰らってもらう……ってね」

 

 

そう、斬られたのはサラマではなく一角。

血がべっとりと付いたのはサラマの小太刀の方であり、一角は左の脇から鳩尾の辺りをザックリと斬り裂かれていたのだ。

一角の視線をいつも通りの不敵な笑みで肩をすくめながら受け止めたサラマは、順手持ち替えた小太刀を一振りして血を落とすと再び逆手に持ち替えて構える。

のらりくらりとしたいつも通りの彼の態度、しかし彼にとって今、一角が生きている事は少々思惑からは外れていた。

 

 

「……と言っても、寸前で退かれたもんで真っ二つ…… とはいきませんでしたがねぇ 」

 

「よく言うぜ…… それに何が“ 刀を無手で受けたがるやつはいない ”だ。 俺の斬魄刀の刃をきっかりその左手で受け止めやがった(・・・・・・・・・・・)くせによォ」

 

 

サラマの予定ではここで決着は着いていた筈だった。

ありえない、出来るはずがない、そんなことをする筈が無いという凝った思考、それを打ち破る事で生まれる必殺の機会、それをもってしての決着がサラマの計だったのだ。

彼がフェルナンドに着き従うようになって嫌というほど味わったその感覚、そんな馬鹿な、という驚きが一瞬の硬直を生みそしてそれが必殺を生む。

 

 

 

「ケケ。 やりたくはない(・・・・・・・)とは言いましたが、それが出来ない(・・・・)と言った覚えは無いもんで……ね」

 

 

 

一角の指摘にニヤリと言った風で舌を出すサラマ。

先の一瞬でサラマが行ったのはそう難しい事ではない、今まで掌打を打っていた左手に霊子を集中させて刀身を掴み攻撃を止め、そのまま腕を引っ張り無理矢理腕を上げさせ体勢を崩し、がら空きになった胴へ右手の小太刀を叩き込んだのだ。

鉄甲掌(パルマ・プランチャ)と呼ばれ、本来は近接打撃に用いられる技を受けに利用した小太刀による一撃、今まで一度も攻め手として使わなかった小太刀をこのタイミングで攻めに転じさせる。

小太刀による受けと掌打、という戦闘スタイルを見せておきながらの攻防の転換。

更に刀を掴むなどありえない、そんなことをする筈がないという思考をそのまま切り裂くかのようなサラマの一閃、フェルナンド譲りの固定概念を崩すような一閃は、しかし一角を殺すには至らなかった。

 

 

「喰えないヤローだ。 ま、俺も普段同じ様な事(・・・・・)してなきゃ死んでたのは間違いねぇか。どうやら今日はツイてるらしい 」

 

「へぇ、道理で…… そりゃ是非ともその同じ様な事、ってのを見せてもらいたいですねぇ」

 

「頼むんじゃなくてお前の身体で確かめな! 俺もお前もまだ死ぬには時間が掛かる、なら…… もう少し楽しもうじゃねぇか! 延びろ! 『鬼灯丸(ほおずきまる)』ゥゥ!!」

 

 

そう、今一角が生きているのはサラマが仕損じたためでありそして仕損じた理由は、寸前で一角が身体を退いた為。

完全に避けきれはしなかったが、それでも戦闘不能に陥ることが回避されたのは一角にとってサラマの攻撃は、身体と思考を硬直させるには少しばかり足りなかったという事。

彼にとってそのサラマの動きは慣れ親しんだもの、か或いはどこかで見たことがあるのかは判らないが、それでも一角が普段から如何に異常な戦法を取っているかは窺い知れる。

 

斬られたというのにまったく怯む様子の無い一角、それどころか先にも増して滾るようなその姿はきっと彼の中にある理想像故なのか。

 

“負けを認めて死にたがるな、死んではじめて負けを認めろ、負けてそれでも生き延びたならそれはお前の運なのだ、その時はただ生きることだけを考えろ、足掻いて生き延びたその先で、お前を殺し損ねた奴を殺す事だけを考えろ”

 

一角に深く刻まれた記憶、決して消えることの無い鮮烈な記憶とそれを残した男の背中。

広く大きくそして高い、そんな男の背中こそ一角が目指し慕う男の背中。

その男は決して負けない、決して怯まない、斬られても斬られても決して倒れず嬉々として更なる戦いに身を投じる。

斑目 一角が唯一人目指しその人の下で戦って死ぬ事だけが自分の望だとすら言う男、その男のようにありたいという彼の想いが彼の中に更なる戦いへの熱を生み出していく。

 

斬魄刀の柄尻と鞘を叩き合わせそして叫ばれる刀の()、柄尻と鞘は境界を曖昧に混ざり合いそして生まれたのは一本の槍、穂先から石突までおおよそ七尺、一尺ほどの片刃の刀身と石突には赤い飾り布が付いた槍を大上段に構える一角は、まるで傷など無いかのように活き活きとした眼にギラつく闘志を浮かばせサラマを睨む。

 

 

(あ~あ、ありゃ完全に入って(・・・)ますねぇ…… 気を利かせて律儀に戦えば戦ったでこの様……か。あぁ、こういう手合はフェルナンドのニイサン当たりに任せて俺はのんびり観戦してたかったですねぇ、ホント…… )

 

 

顔には出さずとも内心とんでもない愚痴を零すサラマ。

今の攻防で駄目ならば最悪の場合解放すら視野に入れ始めた彼の苦悩は、今に始まった事ではないが哀愁を誘う。

だがそんなサラマの悲哀などまったくお構い無しに彼へと再び迫り来る一角。

その姿を見ながらサラマはまた一つ、小さな溜息を零すのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

それは人外の戦い

 

人ならざる化生

 

人の境界に立つ者

 

髑髏と獣

 

鬩げ相剋

 

 

 

 

 

 

 


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。