BLEACH El fuego no se apaga.   作:更夜

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BLEACH El fuego no se apaga.85

 

 

 

 

 

一瞬の黒い閃光、その直後大地は揺れた。

圧倒的という言葉が何処までも似合いの力の奔流は、大地に降注ぎ、そして焼き払う。

大地に根付く木々や草花、街並、そこに確かにあった営みの証をあまりにも容易く。

唯の人間にとってそれらは何の前触れも無く訪れた天災に他ならずしかし、それは天災ではなくそして人災ですらない。

そう、言うなれば“ 悪意 ”だろうか、天の災いでも人の過ちでもないそれは、人の形をした人ならざる化物の手から放たれた悪意。

他の命など顧みることを知らず、ただ己の欲望と衝動に従い敵を殺さんとする悪意の光り、降注いだその名を『黒虚閃(セロ・オスキュラス)』、十刃が解放状態でのみ放つ事が出来る最上級の虚閃。

 

それを至近距離で受け、今まさに空から地上へと墜落するように落ちていく一護、卍解のコートは無残に破れ顕となった肌には熱傷を刻まれた彼。

墜落の直後纏わりつくようだった濁った霊子の白い煙を置き去りにして落ちるその姿に、先程までの溢れるような力強さは感じられず、重力に身を任せるようにして力なく落下していく。

 

そしてその顔に最早、虚の仮面は欠片も残っていなかった。

 

頭を下にしたまま落下していく一護は、受身すらまともに取る事無く街の一角へと墜落した。

激突音と僅かに立ち上った砂煙、意識があるのか無いのか定かではないが、その眼はどこか虚ろ。

先程まで漲るその力の全てを発していた身体は今や見る影も無く、それら全てを根こそぎ持っていかれてしまったかのような、そんな彼の姿をして先程グリムジョーが放った攻撃、黒虚閃の威力を如実に語る様ですらあった。

 

最早指一本動かせない、そんな様相すら感じさせる一護の痛々しい姿。

根本的な力の差、種族の差かそれとも戦いに対する捉え方の差、挑む心構えの差かはたまた時の運か天命か、それら全てをもってしても戦いの過程を語る事に意味は無く、ただ純然とした結果だけが今現実として広がる。

突きつけるように、或いは見せ付けるかのように。

 

そして何より非情なのは、この現実が未だ終わりではない(・・・・・・・)という事だろう。

墜落し力なく倒れるような一護の近くに舞い降りた人影。

荒々しさを感じさせる長い水浅葱色の髪を僅かに靡かせ、獰猛な瞳で倒れ伏す一護を見下ろすその人影グリムジョー・ジャガージャック、そう彼にとって今倒れ伏す一護の姿は終わりには、決着にはまだ程遠い。

何故なら彼は、一護は未だ生きているのだから。

グリムジョーにとって戦いの終結、決着とは須らく敵対者の命を奪う事、過去数度の例外を除いてその他全て、数え切れない戦いを越えてきた彼の決着の光景は、自らの爪と牙を敵の血で濡らす事だけなのだ。

 

一歩一歩一護へと近付くグリムジョー、その歩みに淀みはなくまるで無警戒とも取れるような歩みは、一重に彼の絶大な自信によるもの。

例えここで一護が突如として起き上がり、全力で彼に斬りかかったとしても彼に驚きは欠片も無く、完全に迎え撃ち凌駕する事が出来そして己が勝利するであろうという自らへの絶大なる自負。

己を疑わない事こそが強固な精神を創り上げ、揺れない精神はグリムジョーに更なる力を与えるのだ。

一護へと近付くグリムジョーは遂に一護のすぐ傍、あと一歩で倒れる一護の頭蓋すら踏み砕くことが出来る距離にまで近づいた。

そこに至りグリムジョーは一度立ち止まると、数瞬の間黙ってただ一護を見下ろし、そして次の瞬間倒れる一護の腹部を強かに蹴り上げた(・・・・・・・・)

 

何の遠慮も無く、そして何の感情も浮かべずにただ、瓦礫諸共一護を蹴り上げそして蹴り飛ばしたグリムジョー。

それに何の抵抗も、まして防御も無く蹴り飛ばされた一護の身体は数十メートルを容易に飛び、まるで水切りをする小石のように二、三度跳ねると道路の真ん中でうつ伏せになって止まった。

あまりに痛々しいその光景、何の抵抗も見せず自分の領域に踏み込ませた敵を慈悲の欠片もなく蹴り飛ばしたグリムジョー、これが虚、これが破面、慈悲などというものを求めるほうが間違っている、とでも言わんばかりの無慈悲なる一撃。

 

だがグリムジョーの一撃を受けても尚一護は目覚める気配は無く、それを見届けたグリムジョーは小さく舌打ちをすると再び一護へと無遠慮に近付き、またしても強烈な蹴りを見舞う。

再び蹴り飛ばされた一護の身体は、力無くなすがままの状態で飛ばされ地面へと激突して跳ねると、今度はまるで磔にされたかのようにマンションのコンクリートで出来た壁に激突して止まった。

壁はいとも容易く崩れその瓦礫に僅か埋まるようにして止まった一護、それでも目覚める事がない彼の前にグリムジョーは飛び上がりそして見下ろすようにして空に立つと、しゃがみ込んで一護に顔を近づけた。

 

 

「どうした? まさか本当にアレで終いか? 死神ィ…… そんな筈は無ぇよなぁ? こんだけ蹴り飛ばしても意識は戻らねぇクセに、握った刀だけは放さねぇ(・・・・・・・・・・・)んだ。当然まだやる心算なんだろう? 」

 

 

黒虚閃を受けて尚、力無く大地へと墜落して尚、強かに蹴られ地を跳ね削り激突して尚、一護の手に握られた刀。

意識など無くしたままでそれでも強く強く握られていた一護の手、その手に握られた誰よりも近しい彼の理解者。

グリムジョーが見落とさなかったたった一点の意思、まだ折れていない、発露を見ていないのみでまだこの男の意思は折れていないと、それを知らせるに充分だった刀、握られた戦う意思(・・・・)

 

グリムジョーにとってこのまま一護を殺す事はあまりにも容易い、だがそれでは面白くない。

ウルキオラの言を借りればこれは無駄であり、彼が先の現世侵攻に措いて一護を“殺し損ねた”一因と言えるだろう。

しかし、だからといってグリムジョーにウルキオラの言う通り動いてやる義理は無いのだ、今のグリムジョーにとって一護はただの獲物ではない、一護は彼と、フェルナンドと同じ眼で彼を見据え、その意思を彼に向けた存在。

彼にとって我慢ならないその眼、そしてその眼を向けた者への完膚なきまでの勝利が、グリムジョーの中では必要なのだ。

幾度でも立ち上がり限界を超えた力で挑み来る敵、それでも自分がその全てを凌駕して勝つ、グリムジョーの中ではそれでこそ証明される絶対的な力の存在があり、故にこのまま一護の命を奪う事を彼はしない。

例えここで一護を取り逃がし、もう一度ウルキオラに殺し損ねたと言われようとも、グリムジョーには一護を完璧な状態で完膚なきまでに倒す理由が出来てしまったのだ。

 

故に彼は今、どんな手段をもってしても一護の力を引き出そうとしていた。

 

 

「……どうしてか判るか? どうしてテメェが刀を放さねぇのかが。 ……それはテメェは刀を放さなかった(・・・・・・)んじゃ無ぇ、放せなかった(・・・・・・)んだ。お前は戦いたがってる。 いや、戦う事しか出来ねぇ(・・・・・・・・・)。テメェの意思を通す手段を戦い以外に知らねぇテメェは、一生その刀を手放せやし無ぇ。護るなんてのは“口実”だろう? 何かを護ると言ってれば、戦いに事欠く事は無ぇからなぁ…… それとも何か? テメェはその力全部と引き替えに誰かを護れるとしたら、アッサリそいつを手放せるってのか?」

 

 

一護の手にしっかりと握られた戦いの意思、それを指してグリムジョーは言う、お前はそれを手放せないと。

自分という存在を、その意志を通す手段をそれを持って戦う以外に知らないお前はそれを一生手放せないと。

護りたい、そんなものは口実に過ぎず全ては戦いの意思を、刀を振るい戦いの渦の中に一生その身を置いていたいだけなのだろうと。

お前は俺と同じ、戦いを取ったら何一つ残らない存在で、何一つ残らないが故にお前は戦いによって全てを構成され故に戦いの道具である刀を、自分以外の誰かを切り殺す為だけの武器を手放せないのだと。

そう、グリムジョーは呼び起こそうとしているのだ、意思、理性という箍が働かないからこそ今ここで、強烈で強固な黒崎一護という精神が押さえつけ御しているであろう“戦いの本能”というものを。

 

 

「そんなもんはあり得ねぇ! そんな馬鹿げた話はなぁ!テメェの力も俺の力も、 全ては自分の為だけ(・・・・・・)のもんだ!誰かの為にだぁ? 笑わせやがる! 自分で自分を護れないやつは死ねばいい!自分の為に敵を殺せない奴は殺されればいい!弱いやつは皆その弱さのせいで死ねばいい!虚圏も現世も尸魂界も何処だろうとこれは変らねぇ!!」

 

 

一護の頭を鷲掴みにして引き寄せ、その虚ろな眼を睨みつけるようにして叫ぶグリムジョー。

叫び呼びかけるのは黒崎一護であって黒崎一護ではないもの、グリムジョー・ジャガージャックがその身のうちに荒ぶる獣を住まわせるのと同じように一護にもまたそれがいるという彼なりの直感。

それが何なのかは今は関係ない、今はただ直感したそれに向かって彼は叫ぶのだ、戦え、殺せ、壊せと、己のかたちに従えと。

ただの黒崎一護ではもうつまらない、普通の、死神代行としての黒崎一護では呆気なさ過ぎるとさえ言いたげなグリムムジョー。

まだあるのだろうと、まだまだ何かあるのだろうと、それをみせろ、みせてみろ、それを壊してこそ、それを凌駕してこそ俺の勝利でありお前の死だと彼は叫んでいるのだ。

 

 

「 それだけが真理だ! 殺される前に殺せ!邪魔な奴は殺して殺して殺しつくして進み続ける!己の生きた証はそれ以外には存在しねぇ!テメェも同じだ死神ィ。 邪魔な奴は殺すしかねぇ、俺をここで殺さねぇ限りテメェは前に進めねぇ!!テメェは敵を斬る事でしか進ねぇ! 敵を殺すことでしか自分を通せねぇ根っからの戦闘狂なんだよ!この俺と…… 俺ら破面と同じなぁ!! 」

 

 

狂気に満ちた叫び、一方的でありしかし彼にとって紛れも無い真実の在り様。

グリムジョー・ジャガージャックという破面の根幹を成す戦いへの欲求と勝者の理論が、虚ろな一護に突きつけられる。

その在り様に何一つ恥じる事は無く、その道に何一つ疑いは無く、誰に後ろ指指されるものでもないそれは、故に真理であるとするグリムジョーの叫びは、一護の奥底に無遠慮に入り込み大音量で響き渡るのだ。

 

殺戮こそがお前の本当の在り様、俺と同じようにと。

 

 

 

 

 

「うっさいねんボケ。 さっさとその手ェ…… 放さんかいっ!」

 

 

 

 

 

言葉よりも先に振り下ろされたのは刃、警告ではなく腕を斬り飛ばすためのその一撃は寸前で避わされた。

支えを失った一護の身体は再び投げ出されるように瓦礫に倒れ、今まさに腕を斬られようとしていたグリムジョーはその場を飛退き、その二人の間に立つのは金髪オカッパの男、平子真子。

一護と同じ虚化を使う無法の集団、仮面の軍勢(ヴァイザード)のリーダー、二人の間に割って入った真子はいつも通りのやや猫背な姿勢ででチラと一護の姿を見た後、その視線をグリムジョーへと向けた。

そしてその後を追うようにして現われたのは、先程まで真子と共に戦いを見守っていた朽木ルキア、彼女は真子とは違いグリムジョーに目もくれず傷ついた友を眼にすると彼の名を叫びすぐさま駆け寄り、傷や意識の有無を確認する。

グリムジョーの方はといえば、突然の乱入者が現われたというのに慌てた様子も驚いた様子もなく、寧ろ小さく笑うと不敵な笑みを浮かべ、彼と一護、そしてルキアの間に立つ真子を見据えていた。

 

 

「俺の仲間をまぁ随分と好き勝手いてこましてくれたのぉ、破面」

 

「仲間だぁ? ならテメェはそのガキが“護りたい”とかぬかしてる奴の一人、ってことか…… 」

 

「ハン! そんなもん知らんわ。 にしても…… 俺の刀なんぞその鋼皮(イエロ)っちゅう外皮で防げんねやろ?それをビビッたみたいに避けるやなんて…… アンタ、ホンマは見掛け倒しの臆病者ちゃうか?正直ちょっと幻滅やで 」

 

 

普段のやる気の無い様な半眼ではなく幾分険を顕にし、グリムジョーをねめつける様な真子の威嚇を込めた視線と、低い声をしかしグリムジョーは不敵な笑みを浮かべたまま軽がると受け止めていた。

その様子を見てかグリムジョーの言葉を受けてか真子は普段のように相手を煙に巻くような言葉で返すが、その中に相手の神経を逆なでする様な言葉を織り交ぜたのは怒りからか或いは冷静な思考からかは判らない。

ただ言える事はこの言葉は今の研ぎ澄まされたグリムジョーにあまり効果をもたらさなかった、という事だけだろう。

 

 

「安い挑発だな、あァ? 余裕が無ぇのが透けて見えるぜ…… だがまぁいい…… 」

 

 

見え透いている、グリムジョーのその言葉に真子は内心舌打ちをした。

彼にとってこの戦闘介入は本意ではなかった、成長した一護の実力と前回までの敵の戦力を鑑みれば、今回はギリギリだが一護に歩があると踏んでいた真子、だからこそ彼は一護が戦場に赴くことを許したのだ。

そしてその予想通り、戦局は一護の優位に進み敵が帰刃(レスレクシオン)した後もある意味、五分の戦いを繰り広げていた。

だがしかし、真子にも見誤っていた事はあったのだ。

一つは敵の戦闘力、帰刃による戦闘力の上昇は倍掛けどころか二乗にすら思えるほどであり、なにより真子にとって誤算だったのは一護、如何に彼の強さが心の強さに起因しその想いが護ることであるとしても、それに囚われるあまり戦闘に集中しきれないなど考えもしなかったのだ。

結果一護は敵の常軌を逸した一撃によって討たれ、真子はこの戦闘に介入せざるを得なくなった。

 

正直なところ真子にとってこの戦闘、勝ち目が無い戦いではない。

先程の挑発も敵が乗ってくれば儲けもの程度で、それ自体が重要な因子ではないのだろう。

戦って勝つ事が出来る、その勝算が充分見出せるだけの“切り札”が真子には存在しているのだ。

だがしかし、それには重大な問題点がある。

それはこの戦いで“切り札”を使ってしまうという事は、彼にとって悲願とも言うべきものの達成の可能性を限りなくゼロにしかねないという事。

この戦いは決してこの場この時だけのものではなく、この戦いは尸魂界そして虚圏側も当然感知するところであり、ここでその切り札を切ってしまえばそれはもう切り札たり得ないもの(・・・・・・・・・・)に成り下がってしまう。

だがここで一護を失う事もまた彼の悲願成就にとって大きすぎる痛手でもあるのだ、優先順位などつけようが無い問題、グリムジョーを前にした真子には今それが圧し掛かっていた。

 

 

(チッ! どうしたかてコッチはジリ貧かい。ラブ達には連絡取ったが…… いくら虚化したかて、足手纏い抱えて逃げ切らせてくれるほど敵も甘ぁ無い。せめて一護のヤツだけでも動ければ別やが無いもんねだりや…… クソッ! 見せたなかった(・・・・・・・)が晒すより他ないんかい……!)

 

 

どう考えたところで現状、真子を囲む状況は袋小路だった。

自分一人だけならば何とかなる、援軍も既に呼んであるし虚化すれば到着までの時間は充分稼げる、だが後ろにいる二人を護りながらとなれば状況は激変するといえた。

正直死神の少女がどうなろうと真子の知ったことではない、だが見捨てた事を一護に知られれば今後の不興を買う事は間違いない、いやそれで済めば御の字でありほぼ間違いなく彼は真子の下を去るだろう。

そうなってしまえば彼の悲願は水泡に帰す、それは避けねばならない以上真子は一護、そしてルキアを護らねばならないのだ、グリムジョーを敵に回したこの状況で。

事ここに至って真子は一護を生かすため自分の“切り札”の使用を覚悟していた、正直こんなところでそれを見せる心算は毛頭なかったが、背に腹は変えられない、そんな考えが過ぎった直後前方に立つグリムジョーから一段と濃い殺気が噴き出した。

 

 

 

「まぁいい、いや好都合か? テメェとその死神の女、両方揃って目の前で殺して(・・・・・・・)やれば…… そのガキも目ェ覚ますだろうが!! 」

 

 

 

やはりとも言うべき状況、グリムジョーの意識は真子には欠片も向いておらず、その全てはどうやって一護を目覚めさせ戦うかに集約されていた。

そして真子とルキアは彼にとって生贄、目の前で胴を裂き、(はらわた)を引きずり出しその血を浴びせ掛ければ、幾らなんでも目を覚ますだろうと、護りたい、大切だと言っていた者を目の前で殺してやれば目を覚ますと、黒崎一護にとってもっとも残酷であろう光景を見せ付けることで、彼を覚醒させるのだと宣言するグリムジョーの言葉。

要は目覚めさえすればいいのだ、グリムジョーにとって重要なのは一護が目覚め、その手に握った刀で自らに斬りかかって来るという結果、その目覚めが怒りであれ悲しみであれなんであれ関係など無い、重要な結果さえもたらされれば彼はそれでいいのだ。

自らの欲望、それを満たすという忠実な欲求に従えればそれで。

 

結果、目的の為に手段は選ばない、そんな至極当然な選択が真子とルキアを窮地に立たせていた。

 

 

 

 

 

 

 

「そこまでだ。 グリムジョー…… 」

 

 

 

 

 

 

その声が静かに響くその時までは。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「クソッ! クソッ! クソクソクソクソクソォ!!何なんだよお前はぁぁ!! 」

 

 

苦々しげな叫びか木霊していた。

叫び声の主は破面No.7 第7十刃(セプティマ・エスパーダ)ルピ・アンテノール。

小柄で幼く、か弱くすら見える少年のような姿の彼に今やその面影は無い。

それは彼が自らの斬魄刀、『蔦嬢(トレパドーラ)』を解放し帰刃したために姿形が変わっている、という為でもあるのだがそれ以上にか弱い少年の様相を失わせているのは、その憤怒に染まった鬼の如き形相のせいだろう。

蔦嬢、上半身を覆う鎧とその背に形成された大きな円盤から生える八本の触手による全包囲攻撃、または一対多での戦闘に真価を発揮するルピの本当の姿と能力、触手自体の能力も多彩であり、使い方次第では一人で戦場を易々と掌握できるほどの力を秘めたそれを発動しているというのに、ルピの顔は圧倒的力に酔う愉悦の表情ではなく、苦さと怒りに染まったものになっていた。

 

 

「いや~。 何なんだ、と言われましても…… さっきも言った通りアタシは通りすがりのしがない駄菓子屋の店主ッスよ」

 

 

憤怒、恥辱、そして憎悪に燃えるようなルピの言葉に答えるのは随分とあっけらかんとした声。

目元が隠れるほど深く被った縦縞の帽子、癖のある金髪に若干の無精ひげ、服装は甚平と黒い羽織に下駄という至ってラフな格好の声の主は浦原(うらはら)喜助(きすけ)、彼の言う通り現世に措いては駄菓子屋の店主であり、また霊的商品を非合法に扱う闇商人、そして過去には護廷十三隊十二番隊隊長及び同技術開発局初代局長、という仰々しい肩書きを持っていた男である。

 

一護とグリムジョーが戦う戦場と、街を挟んで反対側で戦っていた冬獅郎達先遣隊、その戦闘が始まると同時に浦原は現場へと急行し、死神側が劣勢と見ると即座に戦闘へ介入した。

死神側の戦況は冬獅郎、一角がこう着状態、しかし乱菊と弓親は解放したであろう破面の触手に囚われそれに締め上げられており、急を要する状態であったため、浦原は彼ら二人を締め上げる触手を斬り飛ばし、そのまま下の林に落下させると触手を操る破面ルピの前に立った。

冬獅郎が相手をしていた破面ヤミーは、浦原の姿を見つけると彼に向かって襲い掛かろうと迫ったが、先程の意趣返しなのか冬獅郎が「行かさねぇよ、デカブツ」とヤミーと浦原の間に立ち塞がった。

そして戦場は冬獅郎対ヤミー、一角対サラマ、そして浦原対ルピと様相を変え、そして現在に至ったのだ。

 

ルピの激昂する様子に対し浦原はまったく動じる様子もなく、あまつさえ戦闘中であるというのに何とも飄々とした立ち振る舞いのまま。

敵を前にし緊張の様子を見せないのはくぐってきた修羅場の多さか、それとも別の理由からか、しかしそれがなんであれ彼の立ち振る舞いの悉くが、ルピの神経を逆なでしているのだけは間違いないだろう。

 

 

「ふざけるな! クソッ! こんなの認めないぞ!このボクがこんな…… こんなぁぁああ!! 」

 

 

常の余裕、上から見下ろし敵を卑下する事を至上とするルピの姿からは想像できない粗野な姿。

彼の叫びと共に背中でうねりを見せていた触手の先端から無数の棘が生え、それらが数本前方の浦原目掛けて押し飛ばされる。

一直線ではなくそして一方向からでもなく、空を高速で這うようにして幾度も曲がりながら勢いを欠片も殺す事無く押し飛ばされる触手は、しかし浦原の身体に到達するよりも先にその先端が突如として弾き飛んだ。

 

 

「クソッ! 何で! こんなっ何なんだよ!! 」

 

 

憎々しげにその場で地団駄を踏むルピ、背に控える触手はその全ての先端が無残に千切れ或いは弾けた傷を晒し、彼の怒りと憎悪に呼応するようにワナワナと震えていた。

 

 

「言ったでしょう? アナタの攻撃はもう分析済み(・・・・)なんですよ。攻撃時の予備動作、触手の可動範囲、攻撃パターンの組み合わせにその優先順位。ま、他にも色々ありますが…… それだけわかっていればアナタの触手が進む先に罠を仕掛けることくらい、そう難しい事じゃぁない(・・・・・・・・・・・)…… 」

 

 

ただただ目の前の出来事を否定する事しかしないルピに対し、浦原は淡々と事実だけを告げる。

既にお前の攻撃は見切っていると、攻撃に入る動作も入った後の触手が動ける範囲も、それら触手が取れる攻撃の経路とその組み合わせもそしてルピがその組み合わせのどれを優先的に選択し仕掛けてくるのかも全て。

そしてそれが判るからこそルピの攻撃する先に、予め罠を張る事はそう難しいことではないと浦原は語るのだ。

幾ら敵の予備動作が判るといってもそこから無数にある攻撃の選択肢を瞬時に判断し、攻撃到達以前に罠を張る事がどれだけ常軌を逸した才を必要とするのか、そしてそれを何の苦もなくやってのける浦原喜助の実力。

最早ルピは浦原の掌の上、どう足掻こうがそこから逃れることなど出来はしないのだ。

 

 

「クソッ! クソッ! ボクは十刃(エスパーダ)だぞ!十刃であるこのボクが、こんな死神崩れみたいな奴にいいようにッ……!認めない! 認めないぞこんなの! 」

 

 

高い自尊心は現実を否定する事でしか己を保つことは出来ないのか、圧倒的不利、圧倒的劣勢に立たされてもなおルピはその現実を打破するのではなく、ありえないと否定する事に注力し続ける。

自分は強い、自分は搾取する者、自分は相手を苦しめる側であり決して相手の届かぬ高みから見下ろす存在。

自らをそう理解していたルピにとって、この状況は予想も想像もしたことが無いもので、何より自分が優れていると信じて疑わない彼にとってもしこの場で自らの劣勢を認めてしまう事は即ち、存在意義の否定に他ならなかったのだろう。

故に認めない、自分が明らかに負けている事も、そしてその否定は確実に近付く自らの死に向けられているという事も。

 

 

「十刃? おかしいッスね…… アタシの情報では現在空座町に十刃クラスの霊圧は“二つ”だけだ。日番谷隊長が相手をしているアノ人と、黒崎さんと戦ってるもう一人。前回の侵攻時に感知した霊圧にも十刃クラスは二体確認してますが…… その内一人は今回も来ている様ッスが、もう一人は“アナタじゃぁ無い” し、アナタより前回のもう一人の破面の方が比べるまでも無く“強力な霊圧”の筈ッス」

 

「ッ!! 」

 

 

浦原が投げかけた疑問符は、それだけでルピが今まで感じていた全ての憤怒と憎悪を上回るほどの激流を生じさせた。

今回の侵攻に参加した十刃の数は三体、グリムジョー、ヤミー、そしてルピ。

しかし浦原が告げた尸魂界側の情報であろうそれは十刃の数を二体としていると、更にご丁寧にも浦原はその反応の持ち主としてヤミーとグリムジョーを指してみせたのだ。

挙句先の侵攻に触れ、侵攻時に確認した霊圧のうちグリムジョーを除いたもう一つと比べても、即ちルピがその座を奪う前に第7十刃の座についていた彼、フェルナンド・アルディエンデと比べても彼の方が余程強力な霊圧だったはずだと。

そのデータを元に浦原が下した結論は直接ではないにしろ彼の言葉を聞くに明らか、そして浦原が言外に言わんとしているもの、自らの劣勢も危機も何もかもを認めようとしないルピに突きつけられた、あまりに鋭い言葉の刃は貫いたのだ、ルピの胸を。

 

お前が十刃というのは辻褄が合わない、という浦原の意思を存分に乗せて。

 

 

「ぉお前ェェエエエ!!! 」

 

 

地の底から響くような怨嗟の叫びを上げるのはルピ。

彼の自尊心、高く高く聳え積み上げられたそれを根幹から打ち崩すような浦原の言葉は、彼から理性を容易に吹き飛ばした。

自分は十刃である、虚圏でも最高位の力の象徴である、それに自分が選ばれることは当然で前に座っていたものなどは所詮何処の馬の骨とも知れない愚物であり、まぐれで勝ち取った位に過ぎないと。

だが自分は違う、自分は実力を認められ十刃の座に座ったのだ、それは決してまぐれでもなんでもなく実力、自分の力は十刃に相応しくそして劣っている筈など無い、いや劣るなどという表現すら間違いなのだ、自分は優れているのだ、他の誰よりも。

ルピがおそらく一生捨てることが出来ない勝者の思考、それを否定されたことへの怒りとそれを否定したのが死神崩れの素性もわからぬ者だったという事への憎しみ、渦巻くそれはルピに清浄な判断能力を失わせ戦いの機微も策もなくただただ突撃だけを選択させた。

触手も何も無い、化物の本能が憎しみを乗せ敵を切り裂くのはいつだって自らの爪以外ないと、そんな事を思わせるように腕を振り上げて浦原に迫るルピ、しかしそれは浦原相手にあまりに稚拙でしかない。

決着は最早容易に想像できた、それは逆転の光景などではなくただ物事が順当に進んだ結末をおいて他になく、それは即ち破面ルピ・アンテノールの決定的な敗北、即ち死をもって他無いもの。

裏腹の目がスッと細くなり、構えた刀が僅かに動いたのは、彼がこの機を逃す心算がない事を伺わせる。

 

 

だが後一歩、後一歩でルピが浦原の必殺の間合いに入るという寸前の場面で事態は急変する。

 

 

突如として降注いだ閃光、それはまるで光の柱のようですらあった。

薄い黄色の光の柱は浦原の周りの戦場に計三本、それらはすべて破面達の頭上からまるで彼等を包むようにして降注いだのだ。

 

 

「これは……反膜(ネガシオン)……!?まさかっ! 」

 

 

浦原が呟いたその言葉こそこの戦場に降注いだ光の柱の名。

『反膜』、本来大虚(メノス)が同族を助けるときに使用するとされるそれは、一度降注げば最後光に包まれた者と外界を完全に遮断隔絶し、相互の干渉を不可能とする代物。

そしてこうなってしまえば如何に浦原といえど一切の手出しは不可能となってしまうのだ。

 

 

「ぐぁぁあ!! クソッ! 何だよこれっ! なっ反膜……だって!?ふざけるな! ボクはまだ帰らないぞ! まだアイツを殺してないじゃないか!まだボクが勝ってない! 殺してやる! 今ここで!!まだだ! クソッ出せよ!! ここから出せ!!ボクは負けない! 負けるはずがないんだッ!!クソォォォォォオオオオ!!! 」

 

 

降注いだ反膜はルピの身体を瞬時に覆ったが、反膜の範囲から外にあった彼の触手は反膜と外界の境界線でその全てを切断されていた。

同時に全ての触手を切り落されたルピは苦しみの叫びを上げるが、自分の状況を飲み込むと虚圏への帰還を良しとせず、自らの幾許の芽もない勝利に執着するように叫び声を上げる。

自分はまだ負けていない、戦えば勝てるのだという根拠のない自身はしかし光の先にある虚圏の闇に吸い込まれるようにして消えていく。

ルピにとってこの突然の撤退劇は幸運だったのはそれとも不運だったのか、命は永らえしかし命よりも彼にとって価値があるだろう己が自尊心はズタズタに切り裂かれたまま、これを幸運と呼ぶか不運と呼ぶか、今の彼にはそれすら無為なものなのかもしれない。

 

対して浦原はこの撤退劇に己の手痛い失敗を感じていた。

突然の侵攻、そして突然の撤退、敵が何時攻めてくるのかは予想も出来ないが、引き際があまりにも呆気なさ過ぎる(・・・・・・・)と。

こちらの戦力を削いだわけでもなく、かといって特別彼等が何かをしたわけでもない、まるで何の目的も無い粗野な侵攻と撤退は散発的なものを思わせるがしかし、浦原はその奥に何か怜悧なものを感じていたのだ。

荒ぶる獣たち、その向こうに見え隠れする冷たく無機質な理性、そして状況はもしかすれば全てその理性の持ち主によって動かされていたのではないかと。

 

 

(彼等が何もしない事(・・・・・・)、それが今回の侵攻の意味…… そして侵攻はあくまで“目的”ではなく“手段”ということッスか。だとしたらまずいッスね、おそらくはもう…… )

 

 

敵が去り先程までの戦いが嘘だったのではないかと思えるほどの静寂を取り戻した戦場、そこで浦原は一人、どうか自分のこの考えが誤りであって欲しいと、だがおそらくそれが間違いでないと知りながら願うのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「お? どうやらここまで、ってやつですかねぇ。いや~残念残念 」

 

 

薄い黄色の光に包まれながらそう呟いたのは、黒髪に巨躯の破面サラマ・R・アルゴス。

裏を読むまでもなく本心ではないと判る言葉を吐きながら、両手を挙げてヤレヤレといった風で首を振る彼、纏う白い死覇装は所々破けており、死神との戦闘の激しさが伺えた。

対して今までサラマと戦っていた死神 斑目(まだらめ)一角(いっかく)は、始解した自らの斬魄刀『鬼灯丸(ほおずきまる)』を構えたままジッとサラマを見据えていたが、彼へのこれ以上の手出しが不可能と判断するとその構えを解き、ペッと口に溜まった血を吐き出す。

その表情は明らかにまだまだ戦いたかったという感情を映し、しかし彼の死覇装はサラマ以上にボロボロで血に染まっている事を見れば、引き際としては僥倖だったと他人は言うだろう。

 

 

「ったく、こっからが楽しいとこだってのによォ。せっかくてめぇも“ノッてきた”ってのに勝敗も何も無いんじゃ生殺しもいいとこだぜ。なァ、てめぇもうそう思うだろう? サラマ・R・アルゴスよォ」

 

「冗談。 こっちはキッチリお仕事しただけですからねぇ。本音を言わせて貰えばそのお仕事だって嫌々なんだ、これ以上アンタの相手は割に合わないんですよ、割りに……ね」

 

 

鬼灯丸を首の後ろを通して背負うようにし、両手をからませる様にして担いだ一角。

少しずつ上昇するサラマを見上げるようにしてもっと戦いを楽しみたかったと告げる彼を見下ろしながら、サラマはやはりベェと舌を出して首を振ってお断りだと返した。

今の今までも命の取り合いは取り合いだったが、これ以上進めばそれはもう後戻り出来ない程の領域に達してしまうと。

そんなものは全力でお断りだと言わんばかりのサラマの態度は、“生きたがり”を信条とする実に彼らしいものだった。

対してどちらかと言えばフェルナンドと同じ“死にたがり”の部類に入る一角は、こんな中途半端な結末はどうにも不完全燃焼だといった様子ではあった。

 

 

「チッ! てめぇが解放の一つでもしてりゃ、こっちだっておさまりがついたかもしれねぇってのに。その薄ら笑いのまま結局解放しやがらねぇ…… ふざけた野郎だぜ 」

 

「解放? それこそ冗談じゃない。 俺のはアンタみたいなの相手じゃ不向き(・・・)なもんでねぇ。 ……けどまぁ、アンタがもう少し本気(・・・・・・)を見せてたら、もしかすればしてたかもしれません……し、それでも、してなかったもしれませんけど……ねぇ」

 

「ッ! 本当にどこまでもふざけた野郎だ、てめぇは…… 」

 

「ケケ。 褒め言葉、ということで受けときましょうかねぇ」

 

 

恨み節、という訳ではないのだろうがせめてサラマに解放もさせられなかった事が悔いだと言う一角。

敵が力をまだ残している、というのは存外彼の自尊心を傷つけるものだったのかもしれないが、そんな一角の言葉にサラマは例えどんな状況でも解放する心算はなかったと答えた。

それは彼なりの判断基準や解放した彼の能力ゆえの部分からなのだろう、無闇矢鱈と解放すれば勝てるという思考をサラマは持ち合わせていない、そもそも戦いに対して消極的な彼が派手な戦闘など望む筈も無いのだ。

 

だがしかし、それでもと付け加えたサラマの言葉は一角を大いに驚かせた。

まるで一角の秘密を知っているかのようなサラマの言葉、先の侵攻で彼が見せた更なる力『卍解』を指したかの様なそれは、サラマという破面の不可思議さをまた一つ彼の中で深めるものとなった。

先遣隊の面々、そして尸魂界側に露見する事は幸いにも無かった一角の卍解、しかし破面側はそれを確認しているのか或いはサラマがこの僅かな戦いで感じ取ったのか、普通に考えればまず間違いなく前者であるのだが、それでも後者の可能性を捨てきれ無い様な感覚、その不可思議で底の知れない人物像はまるで霞みか煙の如く。

 

そして最後にまた舌をベェと出して、解放したかしないかなんて結局判りはしないと煙に巻いたサラマの姿が消え、一角は口元にニィと笑みを浮かべる。

破面という存在、サラマだけではなく破面達個々の強さ、そして力のみでないその奥底の深さ、それを思い彼は笑ったのだ。

これから先の戦いに、敵に事欠くことは無く、心置きなく戦いを楽しめるであろう戦場に思いを馳せて。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「そこまでだ。 グリムジョー…… 」

 

 

一護とルキアを背にした真子と、戦いの高揚と漲る殺気を全面に押し出したグリムジョー。

両者が睨み合う戦場に響いたのはさほど大きくも無い声、感情の起伏や鷹揚といったものを排したまるで機械の様に無機質なその声は、グリムジョーの背後に突如として現われた。

 

 

「ウルキオラ…… テメェ、何の心算だ 」

 

 

グリムジョーの背後に突如として現われた人物、角の生えた兜のような仮面の名残を左の頭部に残し、痩身で病的なまでに白い肌をした青年の名はウルキオラ・シファー。

グリムジョーと同じ十刃でありそしてグリムジョーよりも上の第4十刃(クアトロ・エスパーダ)を冠する彼、ギロリといった風で振り返り彼を睨みつけるグリムジョーの視線を正面から受け止めても一切の感情の起伏を示さない緑色の双瞳は、まるで硝子球なのではないかと思えるほど感情を何も映していなかった。

 

 

「何の心算……か…… お前こそ何の心算(・・・・)だ?グリムジョー 」

 

「あァ? 何だと? 」

 

 

殺気をまったく収める事なくウルキオラを睨みつけるグリムジョー、彼からしてみればウルキオラの登場は戦いに水を差したに等しく、せっかく敵の全力を引き出す為の生贄まで御誂え向きに揃った、というのに邪魔をする心算か、という意を視線に込め隠すことも無くぶつけている。

邪魔をするな、口を挟むな手を出すな、俺の獲物俺の戦場全ては俺だけのものだ、誰にも渡しはしないと。

 

だがウルキオラにとってそれは何処までも瑣末な事、グリムジョーの猛りも戦いもその意味も全ては瑣末、彼の、そして彼の主たる男の望みに比べればどんなことも瑣末なのだ。

 

 

「現世での解放は想定内ではあったが、まさかこんな塵相手に黒虚閃を使うとはな…… 見ろ、貴様の黒虚閃で一帯の霊的均衡は崩れ、空間も歪みかかっている。此処が重霊地であったから耐えられたものの、もしそうでなければ空間諸共何もかも消し飛んでいた筈だ」

 

「それがどうした? 周りがどうなろうと俺の知ったことじゃねぇな」

 

 

ウルキオラの口をついて出た言葉はどれもが紛れもない真実だった。

現世における霊的均衡、魂魄の総量であり霊子の濃淡であり気脈の流れや空間の安定率、それらの均衡が大きく崩れる事はそれだけで世界に大きな歪を生み、容易な修正など出来ないそれは結果崩壊を招くのだ、全てを呑み込んで無に還るという結果を。

グリムジョーの放った黒虚閃、それは魂魄を容易に消滅させ霊子を逆巻く嵐のように掻き乱し、そして空間すら歪ませる悪意の波濤。

現世という霊的なものを受け入れる器として脆弱な場所でそんなものを使えば歪を生むのは必定、ウルキオラの言う通りこの空座町が霊的特異点である重霊地であり、それ故に霊的ものを集めまた受け入れる事が出来る土地であったからこそこうして今も尚空間を保ててはいるが、もしそうでなかったらこの場所はとっくに消え去っていたことだろうと。

感情も何も感じさせないウルキオラの言葉だからこそ感じる、それが出任せではない真実だという感覚、しかしグリムジョーにとってはそれこそ瑣末な事、この場所がどうなろうと関係は無い、彼にとって重要なのは敵と定めた一護の全力を凌駕し破壊し殺すことなのだから。

 

 

「馬鹿が…… この場所は藍染様が御所望の重霊地、そしてこの場に住む魂魄は藍染様の目的の為の贄だ。本来人間如き塵がいくら死のうが知った事ではないが、ここに住む塵は最早藍染様のものと同義。故にお前が徒に殺す事など許されない…… もっとも、魂魄の方は死神の術で護られていたようだがな」

 

 

瞳を閉じため息をつくような仕草のウルキオラ、彼が今日始めて見せた感情らしい感情は呆れ。

お前の闘争、お前の欲望、そんなものについて自分は語っているのではないと、この場所は盟主たる藍染惣右介の望む土地、そしてそこに住まう魂魄もまた彼にとって重要な生贄なのだ、主が望んだが故にこの土地は既に彼のものであり彼のものである生贄の人間を、臣下である自分達が殺していい道理がどこにあると。

そしてウルキオラは彼を睨むグリムジョーを前に更に言葉を続ける。

 

 

「今回の侵攻、目的は既に達したが、お前のおかげで今後の計画も随分と予定を狂わされた(・・・・・・・・)。目標は確保したがそれも計画上最低限での事、お前が霊子と空間の安定を乱した事、それを予期できなかった事は俺にとってこれ以上無い失策だ…… やってくれたな 」

 

 

閉じた瞳を開けグリムジョーの視線を正面から受けてたったウルキオラ、何も映さない様な瞳に浮かぶ僅かな苛立ちはグリムジョーに向けられたものかそれとも自分へのものか、彼が決してグリムジョーを低く見積もった訳ではないのだろう、彼の予想し得なかった出来事が起ったのはそれだけグリムジョーの、そして一護の力が彼の予想を上回っていたという事。

結果ウルキオラの言う計画は彼の想定の中で最低限の水準の達成に留まり、彼に苛立ちという感情を僅かでも表に浮かばせるほどの起伏を残していた。

 

 

「めずらしいなぁ、ウルキオラ。 だがテメェの計画がどうなろうと俺には何の関係も無ぇ。俺はあの死神のガキを殺すぜ? アイツは俺をあの眼(・・・)で見た、だから殺す!殺す理由にこれ以上のもんは存在しねぇ! 」

 

「聞こえなかったか? 俺は目的は既に達した、と言った筈だ。これ以上の戦闘は必要ない、藍染様もそれを望まれない以上ここが引き際だ」

 

「テメェこそ聞こえなかったかウルキオラ? 俺は、そんなもん関係ねぇって言ってんだよ!」

 

 

だがそのウルキオラの苛立ちも計画も何もかも、今のグリムジョーには関係のない事。

元々彼はウルキオラの計画など知らされていない、それは余計な情報の漏洩をウルキオラが避けたためなのだが、例えそれを知っていたとしてもグリムジョーは止まらないだろう。

誰かの大いなる目標など彼にとって何の価値も持たない、彼にとって価値があるのは自らが戦いの王へと至る道であり、その為に数多経ていく戦いだけ、それに比べればウルキオラの計画も藍染の野望も価値など無いのだ。

価値とは全てただ一人感じる個人だけが持つもの、そしてこの場に措いてもっともグリムジョーに価値があるのは自らをフェルナンドと同じ眼で見た一護を殺す事をおいて他にはなく、それの達成を邪魔するのならば容赦はしないと彼の眼はウルキオラに告げていた。

 

グリムジョー、ウルキオラそして全ての破面に言える事は、彼らは全て歩み寄ることをしないという事。

通すべきは己の価値観、それがぶつかれば双方歩み寄り妥協点を探すのではなく片方を完膚なきまでに排除するという思考。

故にこの場でこの二人の意見が対立を見るのは当然の結果といえた、知ったことか、関係ない、そんな言葉を吼えるグリムジョーをどこまでも機械的に考え冷たい瞳で見据えるウルキオラ、両方の意を通す事などはじめから出来るはずもなく、後はどちらが主導権を握るかの話に全ては集約されていく。

 

 

「チッ! やはり馬鹿の考えは俺には理解できん。 ……だが藍染様はそれすら見通しておいでだ、選べグリムジョー…… ここで俺と退くか、永遠をこの檻の中で(・・・・・・)過ごすか、お前の道は一つだ」

 

「ッ! そいつは…… 」

 

 

獣の性を抑える事無く敵を引き千切ることを望むグリムジョー、そんな彼の姿にウルキオラはまたしても僅かに呆れの感情を浮かべる。

機械的ですらあるウルキオラからしてみれば、ただ本能のままに戦いを望むかのようなグリムジョーの姿は理解に苦しむ以前に理解不能なのかもしれない、彼が合理的であればあるほどグリムジョーのような者達を理解する事など出来はしないのだろう。

 

だが彼等の主は違う。

 

ウルキオラが片方の手をポケットから手を出し、握った手をグリムジョーにむけて開いてみせる。

それを見たグリムジョーの顔に浮かぶのは驚きの表情、ウルキオラの掌、そこにあったのは小指の先程の小さな匪、淡く光を放つそれの名は『連反膜の匪(カハ・ネガシオン・アタール)』、虚圏で藍染惣右介のみが所有し連続した閉次元に対象を捕らえ幽閉するというもの。

藍染は明言を避けてはいたがこれは十刃用に造られた牢獄であり、その堅牢さはかつての第2十刃(ゼグンダ・エスパーダ) “暴君” ネロ・マリグノ・クリーメンの力をもってしても、自力での脱出が不可能だった事からも判るだろう。

脱出不可能な永遠の牢獄、藍染は今回の侵攻にあたり密かにウルキオラへこの連反膜の匪を与えていた。

それはウルキオラの力に信が無い訳ではなく、十刃同士の戦闘で無用な戦力低下を避ける為と十刃の暴走を防ぐ為、ネロというかつて虚夜宮を席巻した暴力の象徴すら封じ込めた匪の力は、その存在を見せ付けるだけで心理的に絶大な威力を発揮する。

 

 

「テメェ…… この俺を脅す心算かッ…… 」

 

脅しではない(・・・・・・)。 お前が今、あの塵にもう一度牙を剥けば俺は即座にこれを使う。躊躇いなど微塵もある筈が無い 」

 

 

眼を見れば判る、ウルキオラの眼を見れば彼の言葉が脅しなどではない事がはっきりと。

彼の瞳には躊躇いも後悔も何も浮かんでいないのだ、あるのはただ景色を映すような緑の硝子球、それに一護へ襲い掛かるグリムジョーの姿が映れば彼は即座にその匪を開きグリムジョーを永遠の牢獄に幽閉するだろう。

ウルキオラの揺れを見せない瞳と、藍染の持つ絶対的な匪、もはやそれは交渉などではない命令であり主導権はウルキオラによって握られていた。

ギリと歯軋りをするようなグリムジョー、彼にとって匪は恐れるべきものではない、真に恐れるべきは匪に囚われ王への道を鎖される事と“彼”との戦いを奪われる事。

天秤は揺れどちらにも傾き鬩ぎあう、今この場での衝動に従うか否か、そのどちらもを取る事ができない事は如何に猛るグリムジョーでも理解しているだろう、後は選択だけ、戦いと本能が下す選択だけなのだ。

 

 

「答えろグリムジョー。 退くか、退かないのかどちら…… ほぅ、思った以上に頑丈な塵だ…… 」

 

 

二者択一の選択を迫るウルキオラ、しかし彼の眼に映ったのは意外な光景だった。

それはグリムジョーの後ろに見える金髪の男でも女の死神でもなく、先程までピクリとも動かなかった一人の青年。

ウルキオラの言葉に振り返り視線を戻したグリムジョーの眼に映ったのは、俯き加減ではあるが確かにその足で立つ死神代行の青年黒崎 一護の姿だった。

 

その姿にグリムジョーの中の天秤は一息に傾く、先が、未来がどうしたというのだと。

今、目の前の敵をこの牙にかけず爪にかけず、ただ退く事に一体何の意味があるのだと、敵は立ってきた、自分の言葉に反応し己の本性を曝け出すために、ならばそれを噛み砕かずに退く事は、破壊せずに退く事はグリムジョー・ジャガージャックの王の道に反するのだと。

ニィと口角を上げ牙を晒すグリムジョー、その瞳には爛々とした輝きが溢れこれから一護が見せるだろう本能と根源の力を嬉々として待っている。

さぁ見せろ、見せてみろ、お前の本当の姿、奥底に眠る根源的な破壊衝動、戦うことしか出来ない戦闘狂としての本当の姿をと。

 

 

だが、そのグリムジョーの期待と高揚は、すぐさま冷や水をかけられた様に冷めてしまった。

 

 

激しく上下する肩、僅かに震える足は立っている事がやっとであると語り、時折咳き込めばそれと共に血が吐かれる。

だが何よりも眼だった、その眼は先程までと変わらない眼、そう先程と何一つ変わらない(・・・・・・・・)その眼こそ、グリムジョーを急激に醒めさせたのだ。

本能、衝動、そういったものに身を任せた者にみられる特有の熱が無い、狂気も無くなにより圧倒的に殺意のない眼、それは明らかに人の眼(・・・)でありグリムジョーたちと同じ外れたモノの眼(・・・・・・・)ではなかった。

 

グリムジョーの黒虚閃を受け意識を失い戻ってきた一護は人としての彼として戻ってきた、囁くもう一人の自分を抑え、本能と衝動の熱を振りきり、相棒たる斬魄刀の力を借り、人間黒崎一護として。

深くに落ちる事は簡単な事、ただ身を任せ落ちるに任せればいい楽な道、しかし落ちかかりそれを止めて這い上がることの難しさ、そしてそれを成し遂げた強さ、黒崎一護の強さの証明がそこには見えた気がした。

だがそれだけでは事態は好転しない、身体は満身創痍という言葉が生易しく聞こえるほど疲弊し、しかし敵は十刃二体、とてもではないが今の一護には太刀打ちどころか一撃浴びせられるのかすら怪しいだろう。

 

それでも黒崎一護は諦めない、絶望の淵に立ちながらそれでも。

息はどれ程整えようとしても無駄に終わり、眼は霞み手足の感覚は殆ど無いがそれでも、前を向く事をやめない彼は人としてとても強い人間なのだろう。

 

 

「 テメェ…… 何だ? その腑抜けた眼(・・・・・)は…… チッ! 興醒めだ…… こんなただの人間(・・・・・)殺しても何の意味も無ぇ。そのまま野垂れ死ぬのが似合いだぜ…… クソがっ」

 

 

しかしそれはあくまで人間としての強さ、グリムジョーが求めるのは人を外れた先にある力であり、今の一護は彼からすれば殺す意味すらない存在に成り下がっていた。

大きく舌打ちしたグリムジョーは瞬時に帰刃を解き再刀剣化すると、それを鞘に収める。

無防備に晒された背中にはしかし眼に見える苛立ちがまるで陽炎のように揺れ、何者も寄せ付けない。

興が醒めたというにはあまりに熱を持ったままのその背中、その熱は彼にとっては苛立ちであるのと同時にどこか落胆にも似た感情だったのかもしれない。

歩み出し乱暴にその拳を眼前の空に叩きつけるグリムジョー、すると空は口を開けるように裂け、彼は現われた解空(デス・コレール)の闇へと終ぞ振り返る事無く溶けるように消えていった。

 

その場に残された一護、ルキアそして真子とウルキオラは数秒の間睨み合うが、不意にウルキオラは振り返りグリムジョーが残した解空の闇へ向かって歩き出す。

それを止める者はこの場にはいなかった、力の差によって、疲弊した自らの肉体によって、そして巡らせた思惑によって。

ただ三人の視線だけがウルキオラを追い、彼の背に注がれる。

悔しさが、情けなさが、そして安堵と安堵した自らへの嫌悪が入り混じった視線、形容しがたい感情が混じった視線をウルキオラはその背で弾き飛ばして歩く。

 

そして解空の中へと足を踏み入れたウルキオラは不意に一護達に向かって振り返る。

彼の視線の先にあるのはボロボロになった一人の青年、服は破け身体は傷だらけ、息は浅く早く血色も良くないまさしく死に体の青年黒崎 一護。

明らかに立っていられる今の状況が理に叶わないその青年の姿、視界に収めたウルキオラですら彼が立っていられる合理的な理由は導き出すことは出来なかった。

だがしかし、ウルキオラの視線を受けた一護の眼だけは、グリムジョーが殺す価値すらないと断じたただの人間の眼だけはその傷だらけの身体とは不釣合いなほど力に満ちているようにも見えていた。

 

 

「その霊圧…… どうやら虚化とやらを完全に習得したらしい…… だが所詮はその程度。 人間の域を出ない(・・・・・・・・)貴様では、俺達の前に立ちはだかる事すら許されない…… そして“太陽”は最早俺達の掌中、貴様等に残されたのはただ、明けない夜に怯える事だけだ…… 」

 

 

如何に力に満ちようとも、如何に人の限界に近付こうとも、所詮は人。

人というものの限界、くびきから逃れる事など出来はしないと、そしてその中で如何に足掻いたところで無駄な事だと宣言するウルキオラ。

言葉すら返すことが出来ない一護を見据えただ淡々と語られるそれは絶望的なまでの力の差、今一護がこうして生きていることすらある種の奇跡に近いと思えてしまうほどの力の差をウルキオラは語る。

彼の言葉に誇張や脚色といったものは一切含まれない、彼という何一つ持たない虚無を通して語られる言葉は全てがありのままの事実、何も持たないからこそ全てをありのままに受け入れ伝える、それがウルキオラなのだ。

 

ただ一言を言い終え踵を返したウルキオラ、最後の意味深な言葉を問いただす前にその場に再び倒れた一護。

駆け寄る真子と必死に彼の名を呼ぶルキアの声も最早ウルキオラには届かない、それは解空が閉じたからではなく彼にとって瑣末な事だから、敵の生死など瑣末な事、何故ならそれは早いか遅いかの違いでしかなく、結局彼らは諸共に滅ぼされるのだ、藍染惣右介、そしてその剣たる十刃に。

 

解空の闇を歩くウルキオラ、自分以外何もない暗闇を歩きながら彼の頭を僅か過ぎったのは、つい先程まで自分を見据えていた青年の瞳。

あれは一体なんだったのか、傷だらけの身体に絞っても出ないほど疲弊した霊圧、手に握った刀すら振り上げること叶わないだろう人間の青年、しかしその眼だけは、瞳だけは輝きを失ってはいなかったと。

理解できない、そんな思いだけがウルキオラにはあった、あの状況そしてあの状態で一体何が出来たというのだと。

あの眼は何一つ諦めていない者の眼だった、あの状況で何故諦めないのか、何故絶望しないのか、敵を甘く見ている訳でも自らを過大評価しているわけでもないだろうに一体何故……と。

 

 

(あの眼…… 自らの圧倒的不利を感じながら何故…… あの状況で勝てると? 愚かな…… やはりあの塵も“こころ”等という幻想に囚われる人間の一匹に過ぎないのだ。自らを騙し、現実から眼を背け空虚な幻想を映し出す、それが“こころ”だというのなら、そんなものに塵芥の価値もありはしない)

 

 

そしてウルキオラが出した結論、一護の眼に見えた力の理由、そのいずる場所は人間が騙る“こころ”によるものだと。

自らを騙し、幻想を映し、叶わぬと知りながらも勝利を幻視するが故に諦める事をしない、彼にとって今や人が持つもっとも唾棄すべき愚かなる思想こそがこころなのだ。

冷静で合理的な判断を鈍らせ意思と希望的観測に全てを委ねる愚かしさ、勝てるから戦うのではなく勝ちたいから戦うという感情論、それをもたらす“こころ”という愚かしい存在、そしてそんな愚かしさに気がつかない人間の愚劣さ。

ウルキオラにとってまったく理解の外であるそれらが一護の眼に宿って見えた力の正体であるならば、それには何の価値もないとウルキオラは断ずるのだ、所詮“こころ”などという不確かな存在では、現実に確固として存在する力の壁など越えられはしないと。

 

結論に達したウルキオラはそれ以上こころについて考える事はしなかった。

やるべき事、考えるべき事はそれこそ山のようにあったのだ、計画は大幅な修正を必要とするだろう、目標も本来は自らの意思で恭順の意を示させる予定だったが、その為の策はグリムジョーの行動予測を見誤り使う事は出来なくなった。

薬漬けにしてしまう手もあったが、それは特異な能力を劣化喪失させる恐れが大きくあるため取るべきではなく、かといってただ放置する訳にも行かないだろうと。

 

そうして思考を巡らせるうちに、ウルキオラの頭の中から先程の“瑣末な出来事”は端へと追いやられ消えていく。

しかし、ウルキオラ自身ですら気がつかないほど小さな“しこり”は残っていた、それは彼の頭の中ではなく胸の奥底、靄がかかったように、あるいは何かがこびり付いたように、本人すら気がつかないそれが発露するのはまだ、もう少し先のことだった……

 

 

 

 

 

 

 

 

囚われた太陽

 

舞うは花弁

 

王の指にて

 

手折るは易し

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


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