初投稿です。
プリンセスプリキュアが残すところあと数話という現実が受け入れがたく、SSを書いてみました。
アニメ本編の時系列で言えば、24話後~27話直前のあたりのお話です。
きららとトワが夏祭りに行くまでに、実はこんな事があったかも? と考え書いてみました。
拙い文章ですが、読んでいただけたら嬉しいです。
追記(15年12月16日)
前編、読みにくいと思われる箇所を書き直しました。
分かりにくい描写、読みにくい文章等ございましたら、ご指摘頂けると嬉しいです。
もどかしい距離(前編)
「――帰りのHRを始めます」
担任の先生が、教卓からクラスを見回した。
多くの生徒が叶えたい夢を抱いて入学してくる名門校、ノーブル学園。必然、夢に近付く為に部活動に励んでいる生徒も多く、放課後への期待感も、普通の学校とは熱の種類が違ってくる。なので、帰りのホームルームとなれば、その熱を解放する瞬間を一分一秒、焦れるような思いで担任の声に耳を傾ける生徒がほとんどだ。夏休みの迫った最近では、尚更だった。
が、きょうは少し雰囲気が異なる。
生徒一様、期待感はある。焦れる思いもある。
しかし、それが担任の言葉へこそ向けられていた。
――みんな、わっかりやすいなぁ、もう。
担任の話をいつもにも増して真剣に、けれどどこか落ち着きなく聞いているクラスメイトの様子を見て、きららは苦笑した。一番後ろの席からだと、みんなが〝おあずけ〟をくらっている様子が手にとるようにわかる。とはいえ、その気持ちはきららも同じだった。
というのも、きょう、今年から始まるある学校行事の正式発表がされるだろう、ともっぱらのウワサになっているのだ。
しかし、クラス中の期待を一身に集めている担任はなかなか本題を切り出さない。いつも通りにホームルームを進めていく。話が進むにつれ、いまかいまかと期待が高まっていく生徒たち。
「もう、先生も焦らすよねぇ」
コソ、と隣の席に座る友だちに耳打ちする。
「……焦らす? なんの事ですの?」
が、返って来たのは訝しげな声だった。思わず見れば、小首を傾げる赤毛の少女と目が合った。
「……あれ? ひょっとして気付いてない?」
「何のことです? それよりも、ダメですわよきらら。きちんと先生のお話を聞かないと」
こそ、と小声でささやくと、生真面目な友達は前に向き直ってしまう。
どうも、クラスの常ならぬ雰囲気にも気付いていないらしい。
そんな友だちの様子に、きららはふと思い至る事があった。
――ていうか、そもそもトワっちとあの話自体、したことあったっけ……?
まさか、とは思う。
学園中で話題になっているウワサを知らないなんて事、あるはずない。
――でも、トワっちならひょっとすると。
マイペース過ぎるこの友だちなら、あり得る。あり得てしまう。
そもそも、ホープキングダム出身の彼女なら、〝あの行事〟そのものを知らないなんて可能性もある。
「ね、トワっち。ひょっとしてさ――」
「さて、次が最後のお知らせね。と言っても、みんなもう、知ってるみたいだけど」
きららの声は、担任の言葉と小さくどよめくクラスメイトらにかき消された。
果たして、担任が告げる。
「今年から、ノーブル学園の夏祭りへの屋台参加が決まりました」
瞬間、クラスメイトから弾けんばかりの喝采が上がった。
「いよっ、待ってました!」「オレら、今年からノーブル学園入学で良かったー!」「やっぱ昼間だけじゃ寂しいもんな!」「これで祭り全力で楽しめるぜっ!」「あたし、綿あめやりたい! こう、グルグルーって!」「あたしもあたしも!」「花火の場所取りって出来んのかな!?」
焦らされていた分、喝采を上げるクラスメイト達。
彼らがここまで沸き立つわけは、この学園独特の夏祭り事情にあった。
8月の頭に開かれる夢ヶ浜の夏祭りは、時期的に実家に帰っていったクラスメイトと示し会わせて集まるのにはちょうどいいイベントだった。お祭りの時期に合わせて寮に戻って来るのは、もはやノーブル学園の恒例行事だ。
しかし、ここで校則がネックになる。
寮では原則、夜間の出歩きは禁止。理由が認められれば許可されるものの、学園側にも体面がある。夏祭りという遊びの為に許可は下しにくい。
そんなわけで、寮の狭い窓から花火を見上げるのもまた、ノーブル学園の恒例行事となっていた。
そんな生徒たちの為に考えられたのが、生徒の屋台参加だ。
その企図は、生徒たちへ屋台への参加を通して社会経験を積んでもらう事。同時に、生徒たちに夜間外出の許可を与える口実にもなる。
こうして、学園の校則と生徒の望みの折り合いがついて、いよいよ今年から夏祭りを遊び倒せるという訳だ。加えて、屋台の体験まで出来ると来れば、生徒たちが盛り上がらないわけがなかった。
が、ただひとり、そんなクラスメイトについていけていない生徒が居た。
「……ナツマツリ? 祭り……何かの祭事でしょうか?」
トワである。
ひとりだけタレ目をパチパチと瞬かせて大はしゃぎするクラスメイトを不思議そうに見ている。案の定な反応に、きららは苦笑しつつ口を開く。
「あー……トワっち? 夏祭りって言うのはね――」
「え? トワ様夏祭り行った事ないんですか!?」「楽しいよー」「あ、ひょっとして綿あめ食べた事無い?」「かき氷は?」「浴衣着てさ――」「今年は夜まで遊べるし――」「ね、トワちゃんはどんな屋台が――」「――で、花火がこうドカーンて上がって――」
しかし、トワの呟きを聞きつけた近くの席のクラスメイトがどっと押し寄せてきて、きららは弾き飛ばされてしまった。四方をクラスメイトに囲まれたトワは目をまん丸くしてきょときょとと首を巡らせる。
「すごいトワ様っぷり……」
その様子を、きららはちょっと唖然としながら見た。
トワが転校してきてから二週間ばかり、彼女はすっかりクラスの人気者となっていた。
普段の気品溢れる立ち居振る舞いと、ふと見せる世間知らずな天然ぷりというギャップが、クラスメイトの心を掴んだのだ。
お蔭でトワは、『憧れのお姫様にしてみんなの妹』という独特の地位を早くも築きつつある。何はともあれ、トワがクラスに馴染めてきららは内心ホッとしていた。
していた、のだが。
「あー……みんな。そろそろ席に戻らないと――」
「静かにっ! まだホームルームは終わってないですよ!」
いまは、そんなトワ様人気は間が悪い。
きららの忠告は間に合わず、先生から一喝が飛んだ。はしゃいでいた生徒らは我に返り、慌てて自分の席に戻っていく。
「ナツ、マツリ……?」
後には、きょとん、と小首を傾げるトワが残された。
■ ■ ■
「はい、コレ。頼まれてたヤツ」
いつもの顔ぶれ――はるかにみなみ、きらら、トワ、ゆい。それにアロマとパフもいっしょに夕食を食べ終えると、きららはトワに一冊の雑誌を差し出した。
「まぁ、コレが……!」
トワがしげしげと見る雑誌は、きららが毎月、ファッションの研究で買っているものだ。そして、最新の八月号の特集は『今年の浴衣はコレで決まり!』。表紙を飾るモデルも浴衣姿だ。
「なになにー? あ、カワイイ浴衣がいっぱいっ!」
「トワっちが浴衣見た事無いっていうからさ」
トワの手元を覗き込んできたはるかに説明する。
「そっかー、トワちゃん夏祭り初めてだもんね」
「実は私も……」
「え、みなみさんも!?」
「夏はお父様もお母様も忙しくて。連れて行ってもらう機会が無かったのよ。去年の夏も、海藤グループのイベントに参加していたから、こちらに帰って来る間が無かったし」
「確かに、海藤グループって海沿いのリゾート地とかいっぱい経営してますもんね。夏って言えば、一番忙しくなるのかも」
「なら、みなみさんもトワちゃんも夏祭りデビューですねっ!」
「えぇ、貴重な夏休みの体験ね」
「トワちゃんも楽しみだねっ! ……って、アレ?」
「これが浴衣……綺麗……」
はるかがトワを見ると、会話などそっちのけ、食い入るように雑誌を見ていた。
「あはは……トワっち、すっかり夢中になってる」
「え? なんですの?」
ようやくみんなの目線が自分に集まっている事に気付いて、トワが顔を上げた。そんな彼女に、きららは少し口を尖らせて言う。
「夢中になるのは良いけどさ、さっきみたいのは勘弁してよー」
「あ、あれは……つい」
「さっきって?」
はるかが尋ねると、きららが苦笑交じりに肩をすくめた。
「ホームルームの後で、クラスのみんながトワっちに夏祭りについて教えたんだけどね。トワっちったら、ポロッとわたくしの世界ではー、とか言い出しちゃうんだもん。もう冷や冷やしちゃったよ」
「あ、あれは浴衣というものが珍しかったもので、つい……」
「それと、盆踊りを教えてもらったときも、でしょ?」
「それも、ホープキングダムには無い文化だったんですもの」
「リンゴ飴は?」
「だって、りんごを丸ごと飴に漬けているんですよ?」
「綿あめ」
「雲みたいな飴なんて、想像出来て?」
「宇治金時かき氷」
「だ、だってなんだかあんみつに似ている気がして……もうっ、きょうのきららは意地悪ですわ」
終いには、トワはプイッと顔を背けてしまった。
普段は正にプリンセス然とした佇まいなのだが、最近は時おり、こうして子供じみた仕草を見せるようになった。トワが段々と自分たちに打ち解けてくれているのだと思うと嬉しくて、机を囲むはるかたちの顔も自然とほころぶ。
「なんなんですの、みんなまで」
「そう拗ねないで、トワ」
むくれるトワに、すかさずみなみがフォローを入れる。ナイスみなみん。きららが内心思ったのもつかの間、
「きららは、本当はトワに自分で夏祭りの事を教えたかったのよ。それをクラスのみんなに取られたから、ちょっと拗ねているのよ」
思わぬ反撃が来た。
「まぁ、そうなんですの?」
「ちょ、みなみん何言ってるの!? 意味わかんないし」
「きららちゃん、トワちゃんの事大好きだもんねっ!」
「はるはるまでー!」
「まぁまぁ、きららちゃん、落ち着いて。ね?」
「そう言いながらゆいゆいはスケッチブック開かないのっ! 何描く気!?」
きららがあたふたとみんなにあれやこれやと言い繕っている様をみてトワはコクン、と小さく頷くと、とりわけ澄ました風にして口を開いた。
「きららは素直じゃないのね。仕方ありません、みなみに免じて許して差し上げますわ」
「あー、もうっ! トワっちの意地悪っ!」
まるで立場が逆転してしまったふたりの様子に、みんなの笑い声が弾けた。
■ ■ ■
消灯時間が迫り、きららはトワといっしょに寮の部屋に戻った。後は寝るだけ、という段になって、ふと思い立つ事があった。二段ベッドの上から、ひょい、と身を乗り出すと、トワはまだ机に向かって、きららの渡した雑誌のページをめくっていた。しかし何故か、その横顔は憂いを帯びている。どこか引っ掛かりを覚えつつ、声をかけた。
「ね、トワっち」
「なんですの?」
「夏休み入ったらさ、どっかで予定合わせて街に行かない?」
「街に? どうしたんですの、急に」
「ほら、トワっち浴衣持ってないでしょ? だからいっしょに買いに行こうかなぁ、って。どう?」
きららが身を乗り出すと、トワは何故か顔を曇らせた。
「どしたの?」
「実は、わたくしも気になっていたのですが……やはり、浴衣というドレスコードを守らないと夏祭りには参加出来ませんの?」
「そんな事無いって。トワっち、夏祭りのイメージちょっとヘンだよ?」
神妙な口調で問われ、思わずきららは苦笑しながら言葉を続けた。
「でも、せっかくの夏祭りだし、楽しむなら全力で楽しまなきゃソンじゃない?」
「そう、ですわね。ただ……浴衣でなくても参加出来るのなら、わたくしは普段着ている服で構いませんわ」
「えー、なんでー?」
トワの予想外な言葉に、きららは思わず眉をハの字にしてしまう。
「もちろん、きららが誘ってくれたのは嬉しいですわ。けれど……」
「けれど?」
「きららもモデルの仕事が忙しいのでしょう? わざわざわたくしの買い物に付き合わせてしまっては申し訳ないですわ」
「そんな事ないって。任せて、スーパースタイリストのきらら様が、トワっちが最高に可愛くなれる浴衣探しちゃうからっ」
「ありがとう。でもそれを言うなら、以前、きららに選んでもらったあのワンピースで十分。あれ、すごく気に入っていますもの。夏祭りも、あの服で行くつもりですわ」
「そりゃあ、あの服もトワっちにめっちゃ似合ってるけどさ……」
「ほら、きららのセンスに間違いはないでしょう? さ、そろそろ寝ませんと。雑誌、ありがとうございました。机に置いときますわね」
トワは早口で言うや、下段のベッドに潜り込んでしまった。
「おやすみなさい、きらら」
「……うん。おやすみ」
なんだか釈然しないものを感じつつ、きららも横になった。目を閉じながら思う。
――いま、トワっちどんな顔してるんだろ?
二段ベッドの隔てる距離が、少しもどかしかった。
後編は、明日の同じ時間に投稿予定です。
前編を読んで気に入って頂けましたら、ぜひ最後までお付き合いください。