GO!プリンセスプリキュア短編集   作:仮名はるかな

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あけましておめでとうございます。

日がかなり空いてしまいましたが、新年から改めて更新です。
タイトル通り、アニメ本編では3話~4話の間のお話をイメージして書いてみました。
日を空けず、4回に分けて完結まで投稿していく予定です。
もしよろしければ、最後までお付き合いください。


3.5話 みなみの悩み!? 花が教えてくれたこと! 
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「みなみさまよ!」

「本当、相変わらずお美しい……!」

 

 ノーブル学園の廊下を小さなささやき声が飛び交う。その中心に居るのは、廊下を歩くひとりの女生徒だ。

 ただし、その少女を生徒と呼ぶには少し、違和感がある。

 確かに、周りの生徒と同じ制服を着ている。しかし、大人びて落ち着いた表情といい、歩いているだけで気品を感じさせる挙措といい、とても中学生のそれとは思えないのだ。

 少女の名前は、海藤みなみ。学園で知らぬものなど居ない有名人だ。

 一年生のときから生徒会長を務め、学園を影に表に支えてきた勤勉で誠実な人柄。加えて、そんな内面の美しさをそのまま写し取ったような容姿。人目を惹くのも当然と言えた。学園に入って一、二年目となる生徒らは、さすがに彼女の姿を目にする度に色めき立つようなことはもうなくなったが、まだ学園に来て一か月程度の新入生となれば話はまた別だった。今も、一年生の教室の並びでは学園のプリンセスの姿にみな足を止めていた。

 彼ら彼女らの視線をそよと受け流して、みなみはひとつの教室の前で足を止めて、中に居る女子生徒を呼び止めた。

 

「ごきげんよう。このクラスの体育委員の方は居るかしら?」

「ご、ごごごご、ごごきげんよう。少々……お待ちください」

 

 突然学園の有名人に話しかけられた彼女はわたわたと教室を見渡して、一人のクラスメイトを呼んだ。呼ばれた男子生徒はみなみの顔を見るや用件を察した様子で、慌ててみなみのもとへ駆け寄ってくる。

 

「ごきげんよう。あなたがこのクラスの体育委員ね?」

「ご、ごきげんよう。あの、球技大会の種目希望アンケートですよね? す、すみません。まだ集計が終わってなくて……」

「期限はきのうまでよ? いつまでに提出できるかしら」

「きょ、きょうの昼休みには必ずっ!」

「わかったわ。それなら昼休み、生徒会室まで直接持ってきてちょうだい」

「はい、わかりましたっ!」

「次からは期限を守るようにね。この球技大会に関しては、体育委員のあなたがクラスの代表なんだから、その自覚をしっかりと持つように」

「は、はいっ! 気をつけますっ!」

 

 きびきびと体育委員に告げて、踵を返す。そのまま一年生の教室の並びを立ち去ろうとして、ふと、窓の向こうから耳慣れた声が聞こえてきた。

 

「アン、ドゥ、トロワ。アン、ドゥ、トロワ」

 

 溌剌とした声に目を向けてみれば、中庭でひとりの少女がバレエのステップを踏んでいた。

 クセっ毛の髪の毛に、花が咲くみたいに爛漫とした笑顔。まだ拙くも、日に日に上達しているステップ。もはや、みなみにとって見慣れた姿だった。

 案の定の姿に、思わず頬が緩んで口を開きかける。

 

「春野さ――」

「はるかちゃーん。そろそろ教室戻らないと。ホームルーム始まっちゃうよー」

 

 が、呼びかけは別の柔らかい声に遮られた。窓枠の外側から、メガネにお下げの少女が姿を見せる。

 

「あ、いっけなーい。ゆいちゃん、呼びに来てくれてありがとう」

「はるかちゃんったら、夢中になるとすぐ時間忘れちゃうんだから。気をつけないとダメだよ?」

「えへへ……ごめんね」

 

 ふたりはすぐに並んで、下駄箱の方へと歩いて行ってしまった。

 結局、声をかけそびれたみなみはそのまま何事も無かったかのように廊下を歩いて行った。

 一瞬、窓から視線を外すときに寂しげな表情を浮かべたが、本人ですらきっと、そのことに気付いていない。

 

■ ■ ■

 

「ナオト、球技大会のアンケート結果ってどうなってたっけ?」

「それならいま、会長に確認して貰ってますよ」

「あやか、ノーブルパーティーの記録係って映画部にお願いしちゃっていいんだよね?」

「そっちはみなみがやってくれて、引き受けて貰えるそうですわ。それより、裁縫部にお願いしてる貸しドレスの事ですけど――」

 

 ここ最近の生徒会は、日を追うごとに忙しくなっていく。

 生徒の自主性を重んじるノーブル学園では、学内の各行事の企画や運営も生徒が主体になって行う。そして、その取りまとめを行うのが生徒会だ。その為、球技大会とノーブルパーティという二大行事の準備を同時進行しなければならないこの時期、生徒会は多忙を極める。

 そんな多忙さを一手に担うのが、生徒会長であるみなみだ。

 体育委員会、学級委員会、オーケストラ部、料理部、裁縫部、映画部――二つの行事を合わせれば数十にも及ぶ参加、協力団体と連携を取りつつ、準備作業を一日単位のスケジュールで進行していく。大人でも目を回しそうな仕事量を、みなみは完璧にこなしていた。

 しかし、

 

「――なみ? みなみってば」

「……何かしら?」

「ほら、そろそろ会議の時間でしょ?」

「え? え、えぇ、そうだったわね」

 

 きょうのみなみは何処か精彩を欠いていた。

 みなみがハッと顔を上げると、ショートカットヘアの快活そうな少女の訝し気な顔があった。

 東せいら。みなみの幼なじみだ。

 みなみが首を巡らすと、長机に着いた他の役員もせいらと同じ様な顔でみなみの事を見ていた。

 

「ごめんなさい、少し考え事をしていて……」

「だいじょうぶ? やっぱり、もう少し私たちにも仕事を割り振ってくれても良かったんじゃなくて?」

 

 せいらに次いで声を上げたのはあやかだ。おっとりとした仕草で頬に手を当てて、黒目がちの瞳に気遣わしげな色を浮かべている。もう一人の幼なじみのそんな様子に、小さく笑みを返す。

 

「ありがとう。でも平気よ、これくらい」

「そう? なら良いけど……」

 

 なおも心配そうなあやかだったが、事実、みなみは自分の仕事量を少しも負担に思ってはいなかった。自分の能力を超える仕事量を抱えているつもりなどなく、どころか作業は順調そのもの、スケジュールを前倒しにしても良いと考えているくらいだった。

 それに、学園のみんながどうすれば笑顔になってくれるかを考える生徒会の仕事は、自分が目指している父や兄の在り方に通じるものがある。苦に思う事などまるでない。

 だから、自分がうわの空だった理由は別にある。

 その理由とは――

 

「さ、始めましょう。――小芝くん、板書をお願いね。きょうの議題は、ノーブルパーティの使用備品の確認についてよね」

 

 再び浮かびかけたひとりの少女の顔を頭から振り払うと、みなみは凛とした声で告げた。

 

■ ■ ■

 

 生徒会の会議が思ったより長引いてしまった。

 校則違反にならない程度の早足でみなみは急ぐ。向かう先は、バレエのレッスンルーム。会議の後、はるかにバレエのレッスンをする事になっていたのだ。

 

「アンドゥトロワ、アンドゥトロワ――」

 

 すでにはるかは練習を始めているらしく、レッスンルームに近付くと、明るい声が聞こえてきた。

 

「あ、海藤さんっ!」

 

 みなみが扉を開けると、パッと花が咲くようなはるかの笑顔に迎えられた。練習を止めると、クセっ毛を揺らしてみなみの方に駆け寄って来る。あどけない彼女の顔から目線を時計へ移すと、約束していた時間を十分ほど過ぎていた。

 

「ごめんなさい、遅くなってしまって」

「そんな! 謝らないでください。むしろ、わたしの方こそごめんなさい。海藤さん、生徒会のお仕事で忙しいのに練習に付き合って頂いちゃって……」

「いいえ、春野さんが謝る必要は無いわ。レッスンを見ると約束したのは私だもの。なのに、最近はなかなか時間が取れなくて……ごめんなさいね」

「いいんです。海藤さんこそ、無理しないでください」

「だいじょうぶよ」

 

 手をパタパタと振るはるかに笑ってみせた。それから一転、表情を引き締めた。

 

「それじゃあ、練習始めましょうか」

「はいっ!」

 

 はるかの気合のこもった声を合図に、練習が始まった。

 

「そこ、足をもっと高く上げて」

「は、はいっ!」

「指先が震えてる。姿勢を保って。ピタッと止める」

「は、はいぃぃいいっ!」

「次はそこからターンして――」

 

 はるかは四苦八苦しながらも、みなみのスパルタについて来てくれたが、四十分ほどのレッスンを終えると、床にへたり込んでしまった。

 

「うわぁ……疲れたぁー」

「お疲れさま。よくがんばったわね」

 

 みなみがミネラルウォーターのペットボトルを差し出すと、はるかはぴょこん、と立ち上がって受け取った。

 

「きょうもレッスン、ありがとうございましたっ! 海藤さんのお蔭で、バレエ、どんどん上手くなってると思いますっ! ……もちろん、海藤さんからしてみたらまだまだ全然でしょうけど……」

「そんな事は無いわ」

 

 恥ずかしそうにはにかむはるかに、みなみは優しく首を振ってみせた。

 

「春野さんは、この短期間でとてもよくやってるわ。正直、私も驚くくらいに上達してるもの」

「え? ほんとですか!?」

「えぇ、本当よ。だから、もっと自信を持ちなさい」

「そんな風に言ってもらえると嬉しいですけど……なんだか照れますね」

 

 えへへ、と顔を赤らめるはるかの仕草に、自然とみなみの顔もほころんだ。

 

「これからもよろしくお願いしますね、海藤さんっ!」

「任せて頂戴。ただ、しばらくはなかなか時間が取れないかもしれないけれど……」

「だいじょうぶです。海藤さんがわたしを応援してくれるみたいに、わたしも海藤さんの事、応援してますからっ!」

 

 はるかの言葉に、みなみは虚を突かれて目を瞬かせていたが、すぐに目を細めてはるかに笑みを返した。

 

「ええ、ありがとう」

 

 本当に、不思議な子だ。

 みなみは思う。

 彼女と話していると、ふとした瞬間に元気づけられる言葉が返って来る。けして強い言葉じゃない。そっと寄り添うような、背中を押すようなさりげない言葉だ。けれど、その一言で、自然と頑張ろうと思えてくる。

 そんな彼女の事を、もっと知りたいと思う。

 知りたいと思って、けれど、その一歩の踏み出し方がわからずに居た。

 




最後までお読みいただきありがとうございました。
早ければ今日中に更新致します。
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