一夏がIS学園に滞在して数日が過ぎた。
ラウラはあの日以降、殺気以外での行動をしなくなり、だいぶ大人しくなった。ルームメイトの簪とは後日対面し、仲良くなった。その過程で彼女の悩みとかを聞いている。
そして、もう一人。シャルロット・デュノアだ。
ラウラと同期に転入生して来た生徒で、フランスの代表候補生だった。
そのシャルロットとも行動をともにする回数が増え、今現在、鈴、箒、セシリアと共に屋上にいた。時刻は12時。昼食だ。
「一夏っていつも、メイド服を着ているね」
「ちょっと、事情があってね……」
シャルロットの質問に一夏は頬を掻きながら答える。
常時着用しているメイド服は束さんの指示によるもので、どこで見ているのか脱げば(夜以外)すぐにでもミサイルを打つとい言っているので脱がず、今でもこの服装なのだ。
「そう言えば、今月に行なわれる学年別トーナメントの形式が変わったの知っていた?」
「ああ、それね。確か、シングルからタッグになったんだけ?」
「そうそう」
学年別トーナメントがタッグになった理由は前回に起きた黒いISが原因だった。
今年は特に第三世代を所持している生徒が多数いると言うことで実戦経験を含めてタッグにすることになったのだ。
そんな話が盛り上がる。
「あれって、強制参加だから一夏も出るの?」
「いや、私は出られない」
鈴の質問に一夏は答える。
そして、もう一つこの学年別トーナメントでの優勝者に与えられる権限を話す。
「今回、学年別トーナメントで優勝すると私と戦う権限が与えられることになったのよ」
「はぁ!? どう言うことよ」
「理由は色々あるけど、そう言う事になったの」
「色々聞きたいことがありますが……」
以外な真実に鈴は驚き、セシリアはそれについて考え始めた。
シャルロットは何となくわかったのか、口には出さない。
◇
そんな、平和な日常が続き、学年別トーナメント当日になった。
ペアは鈴とセシリア、簪とシャルロットとまあ、予想通りのペアになる。しかし、箒は抽選で運悪く彼女と組む事に……
「ラウラ・ボーデヴィッヒ……」
そう、あの銀髪少女だ。
全てのペアが決まり、学年別トーナメントが始まった。
◇
IS学園はメインイベントである学年別トーナメント一色に染まっていた。
来賓客の中には各国政府機関関係者、研究所員、企業エージェント、その他諸々の顔ぶれが一堂に会している。
その中で場違いの来訪者にその人たちも驚いていた。
「……………」
DEM社業務執行取締役、アイザック・レイ・ペラム・ウェストコットが来ていたのだ。
ISとCR-ユニットは正直なところ仲の悪い関係にある。
CR-ユニットはISと違い情報の公開を行なっていない。加えてISにはない力を所持していることによりIS側は色んな手を使って確保を目論見るも失敗を続けていた。
しかし、そのCR-ユニットの実権を握っているDEM社業務行取締役本人がこの場に現れたのだ。
「……今日は何故このようなことを……」
ウェスコットの後ろにいた少女―――エレンは周りに聞こえない程の声で話す。
「なに、ちょっとした余興だよ。それに前例があるだろ?」
「鳶一折紙ですか……」
「彼女は逸材だよ。なら、この学園に彼女と同じ……それに準じる人材がいてもおかしくない」
ウェストコットは出場者の名簿をペラペラと捲る。
そして、第一試合の開始のアラームが鳴った。
◇
試合は順調に進む。その中でもっとも目を離せない生徒が一人いた。
ラウラ・ボーデヴィッヒだ。
全ての試合で一人。圧倒的に敵を倒し、勝ち進む。
その様子を見ていた簪ですら恐怖を感じていた。
そして、学年別トーナメント一年の部、決勝戦。
その様子を一夏は観客席ではなく、Aピットで見ていた。
「貴様らを倒して、あの女のもとまでいかせてもらうぞ」
ラウラは勝利宣言を口にする。
学年別トーナメントが始まる前に一夏はラウラにあることを約束していた。
“もし、学年別トーナメントで優勝できたら、相手してあげる”
その約束は全校生徒全ての教師が知っていた。
そして、その約束がもうじき果たされる。
「一夏のもとには行かせない!」
簪にとって一夏は光だった。
暗闇の中でしか過ごすことしか出来なかった自分に光を与えてくれた一夏に簪は応えてあげたい。
ただ、それのためにこの場まで勝ち進んだ。
「ふん。貴様らの事情など知らん。弱者は強者に喰われていろ」
試合開始まで後五秒。四、三、二、一―――試合開始のブザーが鳴る。
『叩きのめす!!』
簪とラウラの言葉が奇しくも重なる。
試合開始と同時に簪は
「ふん……」
ラウラが右手を突き出す。
簪は夢現を前の地面に突き刺し、そのまま、上へと飛ぶ。
そのラウラにできた一瞬の隙が勝敗を決めた。
◇
簪は試合が始まる前にラウラのIS、シュヴァルツェア・レーゲンの試合映像の解析を行っていた。それと平行して詳細データも調べていた。
『一番厄介なのはAIC』
『AICって確か……』
『うん。アクティブ・イナーシャル・キャンセラー。慣性停止能力』
『学年別トーナメントが個人戦でなくて良かったね』
シャルロットの言う通り、個人戦ではこのAICは最強クラスだろう。
しかし、タネが分かればこちのものだった。
試合は開始早々、簪のペアの方が優勢に立つことができた。先程の行動でラウラのAICを抜け、背後を取ったのだ。そこからは、連携をとる気のないラウラの独断行動があだとなり、一方的に攻められる。
「アンティーク風情がぁ!!」
思う様に進まないことにイラつきがますラウラ。
箒は単調だったため、シャルロットの誘導に誘われてしまい、あっけなく退場してしまい、一対二の状態が出来上がった。
「簪さん!」
「うん!」
ラウラの戦い方は一対多数に特化している。それはつまり、自分が複数の状態での戦いを想定していないということだった。なので箒を助けることは一切しなかった。
◇
「エレンはこの試合はどちらが勝つと思うかね?」
ウェストコットはエレンに問いかける。
この問いはお互いにラウラのAICの特性を知った上での質問だった。
「そうですね。銀髪の子でしょうか?」
「そうか……なら、私は水色の子を賭けよう」
以外な賭けだった。一対多数を得意とする相手にウェストコットは逆を賭けた。
「何故ですか?」
「なに……勘だよ」
エレンの質問にウェストコットは勘と答えると、会場が一気に沸く、試合の様子が一変したのだ。
◇
「腕にこだわる必要はない。ようは貴様の動きを止めれれば―――」
「忘れていた? それとも知らなかった? 私たちは―――
「!?」
慌ててラウラが視線を動かすが、もう遅かった。
零距離まで接近したシャルロットが、素早くショットガンを連続で叩き込む。次の瞬間、ラウラの大口径レールカノンは轟音と共に爆散した。
「っ……!」
AICの致命的な弱点。それは『停止させる対象物に意識を集中させていないと効果を維持できない』ことだった。
「この距離なら、外さない!!」
シャルロットが試合開始からずっと、盾の中に隠していた物があった。
盾の装甲が弾き飛び、それが姿を現す。
「『
ラウラの表情に焦りが見えた。
「ぐうううっ!!」
ラウラの腹部に、一撃が叩き込まれる。そこから連射。シールドエネルギーはごっそりと奪われ、勝敗が決した。
(負ける……のか……)
ラウラの奥底で何かがうごめく。
ラウラの憧れた千冬を変えた織斑一夏と言う存在を叩き潰す。ただそれだけの為にここまで来たのにあと一歩のところで届かない。
「嫌だ……私は……」
あんな奴のせいで千冬が変わってしまった。
それだけは、私が描いた千冬ではない。
そして、シュヴァルツェア・レーゲンに異変が起こった。
「私は……負けたくないぃぃぃ!!」
突如、ラウラの身体を引き裂かんばかりの絶叫を上げる。同時にシュヴァルツェア・レーゲンから激しい電撃が放れた。
「何!?」
簪、シャルロットは目を疑った。その視線の先では、ラウラが……そのISが変形していた。
否、変形などという生やさしい物ではない。装甲はドロドロに溶け、ラウラを飲み込んだ。そして、アリーナに緊急事態を知らせるアラームが鳴り響く。