インフィニット・ア・ライブ/ステイナイト   作:ぬっく~

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第十三章 臨海学校

ウェストコットはカツカツと廊下に靴音を響かせながら、静かに息を吐いた。

先日に起きた独断行動を行なった鳶一折紙の処分の撤回を頼みに来ており、その要件を終え戻るところだった。ウェストコットの数歩あとを歩きながら、少女―――エレンが静かについて来る。

 

「しかし、未精製の魔術師(ウィザード)が〈ホワイト・リコリス〉を動かせるとはね。―――キリタニがあれでもトビイチオリガミの処分を撤回しないようであれば、彼女を我が社に迎え入れてもよかったかもしれないな。そういった意味では、彼が折れてくれたのは少し残念だよ」

 

アイザック・ウェストコットはDEM(デウス・エクス・マキナ)業務執行取締役(マネージング・ディレクター)。つまり、世界中の顕現装置(リアライザ)を牛耳っていると言っても過言ではない男である。

30年前、人類が手にした奇跡の技術。

空間を現実に再現する『魔術』の一端。

ISとは違い、一般には公開されていないものの、既に顕現装置(リアライザ)は各国の重要機関に配備されている。

ある意味、彼は束を超える化け物と言ってもいいかもしれない。

 

「丁寧に魔力処理を施せば、マナやアルテミシアや……それこそ、世界最強の魔術師(ウィザード)、エレン・メイザースさえ超える魔術師(ウィザード)になるかもしれない」

 

「……………」

 

ウェストコットが目を細めながら言うと、世界最強の魔術師(ウィザード)はしばらく押し黙る。

だが、エレンはすぐに、何かを思いだしたように声を上げてきた。

 

「そういえば、二つ程ご報告が」

 

言って、エレンは手にしていたファイルを開く。

 

「報告?」

 

「はい。―――」

 

関東近辺に連続で出現していた()()の話だった。

精霊―――30年前のユーラシア大陸から出現してきたことを始まりに、世界中で時々姿を現す存在。

精霊の出現には必ずしもある出来事が起り、世間では精霊のことは報道されてはいないが、現象を世間一般では“空間震”と呼ばれていた。

 

「どういうことだ、これは。精霊がハイスクールに通っているとでも言うのか?」

 

ファイルには三か月前に消息を絶った精霊―――識別名〈プリンセス〉が高校の制服に身を包んでいたのだ。

同時に見間違えるはずがないほどの同じ姿にウェストコットは眉をひそめながら言うと、エレンは話を続ける。

 

「今確信したよエレン。平和呆けはどんな痴呆よりも恐ろしい」

 

「至急、再調査を要請します」

 

「―――いや、待て」

 

だが、ウェストコットは手を広げてそんなエレンの動作を制止した。

 

「どうせお優しい自衛隊のお歴々に任せたところで、健康診断と変わらぬような検査をするくらいが限界だろう」

 

「では」

 

「―――ああ。こちらで独断にやらせていただくよ。その方が手っ取り早いし、確実だ」

 

「しかし」

 

エレンが言ってくるのを制止する。彼女の言いたいことはわかっていた。

 

「それで、もう一つの方は?」

 

「―――こちらです」

 

エレンは手にしていたファイルを差し出す。

 

「―――これは本当なのかね?」

 

「はい。識別パターンはどの精霊に当てはまらなかったことにより、新たな精霊と判断しました。霊力は僅かにしか感知されなかったため、誰なのかは分かりませんでした」

 

「? 複数いたということかね?」

 

「はい。感知された場所は―――IS学園です」

 

ウェストコットは鼓動を早めた心臓を制しながら、静かに口を開いた。

 

「〈プリンセス〉と並んでこの精霊もハイスクールに通っているというのか……」

 

「至急、調査するべきでしょうか?」

 

「いや……」

 

ウェストコットはファイルをパラパラと捲り―――唇の端を歪めた。

 

「グッドタイミングじゃないか。―――なあエレン、最近精霊を相手にしていなくて身体が鈍っているのではないかね?」

 

「……………」

 

言うと、エレンはぴくりと頬を動かした。

 

「この件は君に任せよう。―――エレン。エレン・ミラ・メイザース。世界に二人と並ぶ者のない、人類最強の魔術師(ウィザード)よ。君ならできるはずだ。たとえ相手が、世界を殺す()の悪逆の精霊であろうとも」

 

エレンは一拍おいてから答えてきた。

 

「もちろんです。相手が何者であろうと、私は負けません」

 

予想通り、期待通りの回答である。ウェストコットはくつくつと、愉快にそう笑った。

 

 

    ◇

 

 

同時刻、一夏は『白式』に起きた異変の調査のため、束の所に来ていた。

 

「う~ん。やっぱり、何回も調べてみたけど、異常どころか何も変わっていないよ」

 

「そうですか」

 

ラウラのVTシステムの一軒で『白式』の装甲に美しい光の膜が出現したのだ。

それと同時に右手には一本の剣が握られていた。

 

「また何かあったら、来てね♪ うんん。また何かやってきてね♪」

 

「やること前提ですか……」

 

相変わらずの反応に一夏はため息を吐く。

数日分のおやつを冷蔵庫にしまい、再びIS学園に戻った。

来週、IS学園では臨海学校があるのだ。そのため、生徒たちは臨海学校の準備のためにIS学園直通の駅にあるショッピングモールに買い物に行かなければならないのだ。

もちろん、一夏も例外ではないが、特に気にしてはいなかった。

束の元で暮らしていたから水着は既によういされていたのだ。

その準備も含めて今日は戻って来ていた。

 

    ◇

 

 

翌日。朝のSHRのことだった。

 

「皆さん。おはようございます」

 

今日も元気よく挨拶を交わす副担任の山田先生。

先日のことがあったにかかわらず、元気だったのだ。

 

「来週、臨海学校のことなんですが、場所が変更になりました」

 

『―――え?』

 

臨海学校まであと少し程しかないところで、行き先が変更になるなんて、聞いたことがない。

 

「ええと……行き先は、或美島(あるびとう)です」

 

山田先生がその名を発すると、クラスの半分くらいが「あー……」とうなるような声を上げ、もう半分が首を傾げた。

 

「或美島っていうと……確か伊豆の方だっけ?」

 

「近場になっただけじゃないですか」

 

にわかに騒がしくなったクラスを鎮めるように、織斑先生がパンパンと手を叩く。

クラスの面々は、「まあとりあえずいいか……」と総意の下、大人しく山田先生の指示に従った。

 

「細かい部分の説明は改訂版のしおりができてから行きますので、各自準備を進めてくださいね」

 

言って、SHRが終わった。

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