インフィニット・ア・ライブ/ステイナイト   作:ぬっく~

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第十四章 嵐のち晴れ

「臨海学校? 確かIS学園が所有する土地で行なわれるんだっけ?」

 

篠ノ之束は専用ラボ「吾輩は猫である(名前はまだ無い)」で、キーボードを打ちながら一夏の会話に応じた。

ウサミミ(束本人によると「箒ちゃん探知機」)が装着されたカチューシャをつけており、胸元が開いたデザインのエプロンドレスと独特のファッションセンスを持った女性である。1人でISの基礎理論を考案、実証し、全てのISのコアを造った自他共に認める「天才」科学者。ISを開発したことから政府の監視下に置かれていたが、3年前に突如行方をくらませ、世界で唯一コアの製造方法を知っている人物であるため、現在も各国から追われている女性だ。

 

「いいえ、急に目的地が変更になったわ。行き先は或美島」

 

濃紺と黒の中間色の色合いを持ったロングドレスの上に、やったらめったらフリルのついた純白のエプロン。ついでに頭部には、これまた可愛らしいフリルで飾られたヘッドドレスが着けられてた少女―――織斑一夏が束と同じくキーボードを打ちながらそう言葉を続けてくる。

 

「変更? こんな時期に? なんでまた」

 

「ええ。ひと月ほど前に、クロストラベルという会社が学校側に接触してきて、なんでも費用は全て会社が持ちという話らしい」

 

「はー、随分太っ腹ね。……でもいくら太っ腹とはいえ、そんな土壇場で行き先変えちゃうものかしらね。宿泊先とか決まってたんでしょ?」

 

「なんでも、予定していた宿が突然崩落し、利用できなくなっているらしい。そこにそんな申し出があったものだから、学校側としても飛びついたというわけよ」

 

「崩落?」

 

穏やかでない話だ。束は訝しげに眉をひそめた。

 

「ええ。まだ詳しくはわかってないけど、恐らく老朽化が原因だろうとういことらしい」

 

「ふうん……。ま、タイミングが良すぎる気がしないでもないけど……先方がそれでいいって言ってるんならいいんじゃないの?」

 

束は小さく肩をすくめながら言った。

織斑一夏は束の懐刀であると同時に、IS学園の生徒である。今回の臨海学校にも生徒として随伴する予定だった。

だが、一夏はふっと顔をうつむかせると、難しげにうなった。

 

「どうしたの?」

 

「……いいえ、思い過ごしであればいいですけど。どうやらこのクロストラベルという旅行会社―――もとを辿ると、DEMインダストリーの系列会社のようで」

 

「……………」

 

その名を聞いて、束は不審そうに顔を歪めた。

デウス・エクス・マキナ・インダストリー。英国に本社を構える世界有数の巨大企業であり、ISとは敵対する会社である。

 

「……きな臭いわね、どうも」

 

束はキーボードを打つのをやめて、眉の間に深いしわを刻んだ。

臨海学校に行くIS学園の面々の中には、各国の専用機持ちが含まれているのである。束にとってはどうでもよかったが、万が一一夏の身に何かがあったことを考えて準備をしておくに越したことはないだろう。

 

「臨海学校には束さんも用があるから、安心してちーちゃんと楽しんできなよ」

 

「ん、そうね」

 

言って、一夏と束の会話が終わる。

会話が終わると再び、束はキーボードを打ち始めた。

 

 

    ◇

 

 

7月6日、月曜日。飛行機に揺らされることおよそ3時間。一夏たちIS学園一年生一行は、太平洋に浮かぶ島に到着していた。

目的地である旅館前に到着するとIS学園一年生は整列する。

 

「それでは、ここが今日からお世話になる宿だ。全員、従業員の仕事を増やさないように注意しろ」

 

『よろしくお願いしまーす』

 

千冬の言葉の後に、全員で挨拶する。

或美島。伊豆諸島と小笠原諸島の中間あたりに位置する、総面積70平方キロメートルほどの島である。

30年前の連続空間震の際に島の北部が削り取られ、近年新たな観光地として再開発が成された。

完璧に区画整理の成された北部区は、他の再開発地域の例に漏れず、完璧な災害対策が施されている。また、空間震によって綺麗に削り取られた海岸は、その珍しさと美しさから、日本はもとより、海外からも多数の観光客を呼んでいるのだった。

 

「今日は自由時間だ。各自、荷物を置いた後は好きにしてよいぞ」

 

ちなみに初日は終日自由時間。女子一同は、はーいと返事をするとすぐさま旅館の中へと向かう。

そんな中、一夏は空を眺めていた。

 

「千冬姉……」

 

「ああ。……妙だな」

 

言って、千冬が空を眺める。

理由は単純。通常ではあれば考えられないような速度で。

空が、雲が、見えない腕に攪拌されたかのように、渦を巻いていったからだ。

 

 

    ◇

 

 

生徒全員が言葉を失った。

 

『……………』

 

つい先程まで綺麗に晴れ渡っていた空に、灰色の雲が渦を巻き始めていたのである。

そして段々と、驚くべき速さで、辺りの様子が様変わりしていく。

快晴は暗雲に。凪は烈風に。穏やかな水面は荒れ狂う大波に。

時間にして、恐らく1分と経つまい。

そんな僅かな間に、一夏たちのいる世界の景色は、一変してしまった。

地鳴りのような風音が周囲から鳴り響き、辺りに生えた木々はばさばさと揺らす。大型の台風もかくやと言う程の暴風である。近くのゴミ箱が転げでもしたのだろう、空き缶や新聞紙が視界の中を横切っていった。

 

「こりゃあ、ダメだね……」

 

天気予報では、臨海学校中の三日間は全て快晴であったはずだった。無論それが100%的中するだなんて一夏たち生徒は思っていないが、いくらなんでもこれは異常過ぎた。

 

(……クロエ聞こえる?)

 

しかし、返って来るは雑音だけだった。

一夏はもう一度、掛けるが結果は同じ雑音しか返ってこない。

 

(妨害電波!? 束さんお手製の高度な電波通信を遮断をするなんて……)

 

ここまで出来るのは思い当たる限り、一つしかなかった。

 

(やはり、DEMが関与している)

 

同じくして千冬の元にも異変を知らせるため、真耶がこのことを話していた。

 

(織斑先生。通信関連が全て遮断されています)

 

(なに。外部との通信が出来ないのか?)

 

(はい。完全に遮断されています)

 

千冬は手を顎に置き、眉の間に深いしわを刻んだ。

 

(千冬姉。これって……)

 

(一夏、束には通信はできるか?)

 

一夏は首を横に振った。

 

(駄目。こっちも完全に遮断されている)

 

(……………)

 

千冬もこれには驚いていた。

束の専用の電波すら遮断させていることに。

 

(IS同士の通信は可能だったけど、盗聴の恐れがあるから可能限り使わないでおくわ)

 

(ああ。その方がいいだろう)

 

「……あれ、なんか、空が晴れてきていない?」

 

と、窓際にいた生徒が、不意にそんな言葉を発した。わらわらと諦めて部屋に戻ろとした生徒たちが窓の方に群がり、空を見上げ始める。

 

「……一体、この島で何が起こっているんだ」

 

嵐は一瞬にして消え、快晴に戻った。

そんな疑問は結局分かることなかった。

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